亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(39)「ユニコーン Vol. 2 ホフマンの舟歌(バルカロール)後編」

今回も激しくネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪

 

ユニコーン」も第3回。ベネチアでのサンタルチアコンサートの続きです。
今号も盛り沢山の内容でした。
回を追うごとにどんどん話が広がってきて、感想も「一体何から書いたらいいの!?」という状態に。
そしてどんどん長くなる(汗)


でも、まずは一言言わせてください。
今号はアランの絵がどのコマもきれいで、ものすご~く嬉しいです!
中でも一番好きなのが、こちらの扉絵。エドガーも素敵です♪

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小学館『flowers』2018年9月号より)


エドガーは普通にエドガーなんですが、アランが柚香アランに見えてしまうのは私の目のせい?
まあ、それは置いといて。
ピアノに向かうエドガーとピアノに寄りかかるアランが、キーの高さの話をしている。
何気ないポーズや表情がとても自然で穏やかで、何だか久々に2人きりの平和な日常風景を見るような気がして、しみじみ嬉しくなってしまいました。


画面上部の音符と光は前ページから次ページの見開きまで流れるように続いていて、ジュリエッタの心と重なり合っていますよね。
逃げ出したいほど緊張していたジュリエッタがバルカロールの調べに誘われて部屋を覗くと、ネコとオオカミの仮面の少年達が歌っている。
ジュリエッタの目にそれはきっと、ホッとできる光景に映ったことでしょう。
そして思わず歌い出す。
前ページの寄せては返す波が扉絵と繋がって消え、心がどんどん明るくなっていく。
見事だなあと思います。


でもエドガー達はどうしてバルカロールを歌っていたのでしょう?
前号のラストでエドガーが仮面をつけて「ウッフッフ」と笑っていたので、私はジュリエッタの緊張をほぐそうと計画したのかなと思ったのですが、読み返してみたらエドガーはジュリエッタに会っていませんでした。
サルヴァトーレとバルカロールの話をして、ちょうどピアノと楽譜もあるし、時間潰しに歌ってみようとアランを誘ったのかな。


アランがエドガーより高い声を出せるというのは新事実でしたね。
いや、何となくそんなイメージはありましたけど。
エドガーもエルゼリに「あなたはテノールね いい声だわ」と言われていましたが、アランの方がもっと高いんですね。


4ページ目の2人が並んで立っているコマでは、エドガーの方がかなり背が高い…と言うよりアランの方が低くなっていて、あれれ?っていう感じです。
旧作でも「春の夢」でもほぼ同じ背格好だったのに、前号のラストでアランの方が若干低くなってるかなあと思ったら、いきなりこの身長差。
新シリーズのアランはピュア&イノセント路線なので小柄な方がイメージに合うからかな。
でも次にはまた元に戻っているかも。

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(同 P. 82より)


さて、この後の物語には3つの山があります。


エドガーがルチオ一族の始祖と対面する
アランが「ダイモン」の本名を知る
サルヴァトーレとエステルの愛が蘇る


ここからは、これらの感想を順番に書いていきたいと思います。


・* 1.エドガーがルチオ一族の始祖と対面する *・


始祖の名はシスター ベルナドット。
男ばかりのルチオ一族の始祖が女性なのも驚きなら、紀元前から生きていて大老ポーと関わりがあったことにも驚きです!


2人はギリシャの出身で、ベルナドットは巫女、大老ポーは神官。
国が滅び、ナポリやローマに逃れて神殿の神職に就くもローマ皇帝キリスト教を国教としたため追われ、ポーは北へ逃れるがルチオはベネチアに留まった――。
そういえば大老ポーは「春の夢」で「オットマーはナポリギリシャ系の別の一族だ」と言い、「メリーベルと銀のばら」では「わたしたちはローマの灯を見 フィレンツェの水を渡り ともに咲けるばらを追った」と言っていましたっけ。


ルチオの起源を知ることはポーの起源を知ることにもなって面白いのですが、まだわからないこともあります。
例えばエドガーとベルナドットはこんな会話を交わしています。


「ルチオは… “眠れない一族” から派生した…?」

「そうだ 我が家系の病の変異が もとらしいからな
…発病した者を選んで仲間に加えている…」


えーと、つまりベルナドットはオットマー家の “眠れない病” の変異によってヴァンピールになった…ということ?
いや、“眠れない病” は男性だけがかかる病気で、ベルナドットは女性だから発病しないはず。
もしや実は男だったとか? 今も見た目、男っぽいし。
いやそっちじゃなくて、ベルナドットの変化と病とを切り離して考えるべき?


そして大老ポーは同じ病だったとは思えませんが、どうして変化したのでしょうか。
まさか神話の領域にまで踏み込んで、“アポロン神の為せる業” なんてことはないですよねえ?
あっ、でも大老エナジーはローレル(月桂樹)の花の香り。
月桂樹はアポロン神の霊木だそうですが…えっ、まさか!?


2人以外にも変化した巫女や神官がいるのか、それぞれの一族は根本で繋がっているのかなど、謎は今後解明されていくのでしょうか。
それとも謎のままにしておかれるのでしょうか。


ルチオ一族は20~25人で、古代の予言書などの管理をしているそうで。
前号でサルヴァトーレが「リド島のボロい修道院に生息してる」と言っていましたが、そこを根城に皆で古書の整理をしているのでしょうか。
とすると、ベネチアやチェスターにあるホテルのスタッフは普通の人間?
支配人クラスが一族か、一族に通じた人間なんですかね?


更にルチオ一族は15世紀から連絡係を通じてバチカンと取引しているという衝撃の事実!
Vol. 1でファルカが「ダイモン」のことを「バチカンからも人間からも仲間からも嫌われてる」と言っていて、なんでバチカンが出てくるんだろう?と思っていたのですが、ここに繋がったわけですね。


連絡係は60歳で交代し、望めばルチオ一族に加わることができる。
じゃあ望まなかった者はどうなるのか。
加わらない選択をしたペペ神父がずっと泣き続けているので思わず物騒なことを想像してしまいましたが、30年も秘密を守り続けてきたのですから危害を加えられることなく平穏な余生を送れますよね、きっと。


ペペ神父の涙は、不老不死となった元連絡係の旧友・ガロ神父と再会して、懐かしさと同時に畏怖の念に打たれたからかな、と思います。
一族に加わるかどうか多分直前まで逡巡していたのだろうと思うのですが、ガロ神父の変わらない姿を目の当たりにして、この人は本当にもう人間ではなくなってしまったのだと実感し、わが身に置き換えて自分は限りある生を全うしようと決断したのではないでしょうか。


新しい連絡係になるであろうアマティ神父が、今後の物語にどんな影響を及ぼすのかにも注目したいです。

 

ベルナドットがエドガーを呼び出したのは、エドガーが子どもでありながら200年も生きている希少な存在なので一度会ってみたかったからでしょうか。
大老ポーの直系だから、というのも理由かもしれません。
でもルチオ一族に引き取ってもいいと言うのは、私には単なる親切心とは思えません。
エドガーが去った後で「……あの方は…来た?」と聞いていますが、「あの方」とは大老ポー?
エドガーとの会話の中では普通に「大老」と呼んでいたので別の誰かかもしれないですね。
もしかすると、その相手こそが大老やベルナドットを変化させた者、ということはないでしょうか。


それにしてもベルナドットと対峙するエドガーは、いかにもエドガーらしかったですね!
初対面の威圧的な相手にも堂々として、はじめこそ自分を「私」と言って(エドガーが「私」と言うのを初めて聞いた気がします)敬語を使ったけれど、すぐに普通の言葉遣いに戻って言うべきことを言う。
「神父が悪魔の手の内に落ちる…」と言う時の表情なんて実に決まっています。
今号はクールでカッコいいエドガーと素直で可愛いアラン、対照的な個性が際立っていますね。


・* 2.アランが「ダイモン」の本名を知る *・


コンサートの最後に「ダイモン」とジュリエッタが歌うバルカロール。
私もYouTubeで聴きましたが、とても甘美な歌でした。


「愛しいあなたを腕にだきしめて
船出の時は来た
月は昇り
願うものは永遠の愛
麗しき愛 愛の夜よ」


歌声が流れる中、ヴァンピールとなった息子・ダンとの別れを惜しむ母、涙を流し続けるペペ神父。
それぞれに歌は特別な意味をもって聴こえたことでしょう。


ダンの母はコンサートのたびに招待されているのでしょうね。
ミックが一緒でしたが、ダンは仮面をつけているからバレません。
ブランカは仮面をつけていない!と一瞬焦りましたが、ダンの母はダンから話を聞いているはずだし、ミックはブランカが死んだと思い込んでいる上に髪が白くなっているので「似てる人だなあ」と思うくらいなんでしょうね。


ミックが「パパに叱られます」と言っているということは、ミックの父のドナルドはまだ発病していない様子。
でも、そろそろ危ない年代ですよね。ルチオ一族、1名増員か。


アランはバルカロールに感動し、「ダイモン」とジュリエッタに「ステキだった…ぼく……こんな美しい歌を聞いたのは…生まれて初めてだよ」と素直な感想を伝えます。
前号でスネて「美しい音楽なんかキライだ」と言っていたのを思い出すと何だか微笑ましいです。
そしてアランが次に贈った賛辞は「ダイモン」の心を動かしました。


「ぼくね この美しい歌は
波も聞いて
海も聞いて
風も聞いてて
世界の遠くまで響いていくと思うよ…」


きっと「ダイモン」は歌が兄に届いたと言ってもらえたようで嬉しかったのではないでしょうか。
そして秘密の名前を教えてあげると言ってアランの額に手を当てる。
エドガーがアランを見つけた時、アランはぼうっとしていて額が角のように光っている――。


タイトルの「ユニコーン」のヒントがやっと出てきましたね!
この時アランは「ダイモン」からエナジーを授かったのでしょうか。
エドガーは少し焦っているように見えますが大丈夫なのでしょうか。
ラストのコマでアランの寝顔を見守るエドガーの表情から察すると心配するほどのことはないのかな。


「ダイモン」は名前を言葉にして言ったのか。
言ったとすればアランは朦朧としているけれど、その名を覚えているのか。
言わなかったのなら、そのユニコーンの角のような光こそが名前の象徴なのか。


いずれにしてもアラン再生の鍵になってくるのでしょうね。
一部始終を見ていたジュリエッタもまた、何か関わってくるのでしょうか?


2016年に「ダイモン」はエドガーに、一緒に来れば本名を教えてやると言いました。
それは多分エドガーにもアランと同じことをするという意味ですよね。
…やっぱり色々心配になってきました。


・* 3.サルヴァトーレとエステルの愛が蘇る *・


かつてエステルがコンサートに招かれてバルカロールを歌っていた頃、サルヴァトーレは彼女を心から愛していた。
深く愛するがゆえに彼女の手を取ることができず、ずっと想いを胸の内に秘めてきた。


エステルもサルヴァトーレを愛していたけれど自分からは言い出せず、やがて諦めて他の人と結婚した。
それでもサルヴァトーレを忘れることができなかったから、バルカロールの「ジュリエッタ」の名を娘に付けたのでしょう。
サルヴァトーレと33年ぶりに会い、彼の本当の気持ちを知るとともに全く年をとっていなくても本人だと確信して、狼狽しながらも激しい恋心を思い出す。


「愛しいあなたを腕にだきしめて」
「願うものは永遠の愛」


この歌に嵐のように揺さぶられて、蘇った愛はどこへ向かうのでしょうか。
2人の――というよりもサルヴァトーレの熱情的な行動は、「ダイモン」の思惑通りに事が運んでいるということですよね。
エステルがサルヴァトーレを追いかけて階段を駆け下りていく姿が心に残りましたが、これからどうなるのか、こちらも心配です。


◆◆・*・◆◆・*・◆◆


ラストページは1人ゴンドラに乗る「ダイモン」。
アランのネコの仮面を手にしています。
アランが朦朧として落としたものを持ってきたのでしょうか。


「ダイモン」の謎は依然として謎のままです。
上に書いたファルカのセリフ「バチカンからも人間からも仲間からも嫌われてる」。
これに引っかかるのですが、バチカンとはこれから何かトラブルがありそうですね。
わざわざ「人間」と言っているのは特定の人間を指していると思うのですが、それは誰?


そして「ダイモン」が語りかける兄は「ダイモン」にとってとても大切な存在のようですが、どこでどうしているのでしょう? もう死んでいるのでしょうか?
全くの見当違いかもしれませんが、私は「もしかして?」と思うものが2つあるのです。


1つは「春の夢」でファルカがエドガーに「目」を教える時に「手を放すな 迷子になるぞ 以前行方不明になったヤツもいた」と言っていた、その「行方不明になったヤツ」ではないか?
「ダイモン」はファルカの「親」なので、多分「目」を使えるだろうと思います。
一緒に移動していた時に手を放してしまったのかも。
もしくは大老ポーによって「目」の中に閉じ込められたとか。


もう1つは「ユニコーン」Vol. 1でやはりファルカが、長く眠って目覚めた時は名前を呼ぶ声が聞こえるから自分を忘れず見失わずにすむけれど、「見失ったヤツを知ってる」と言っていました。
その「見失ったヤツ」ではないか?
ユニコーン」では名前がキーワードのようですし。
ルチオ一族も目覚めた時に名前を呼んで落ち着かせるために母親や妻が付き添っているんですものね。


まあ、あくまで可能性の話ですので、違ったら笑ってください。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


さてさて、こんなに話が広がって謎だらけなのに春までお休みなんて長いですね。
でも続きをあれこれ想像しながら気長に待つことにしましょう。
次の舞台はいつどこになるのでしょうか。
いったん2016年に戻るのか、コンサートの後日談が描かれるのか、全然違う年代と場所に飛ぶのか。


記事(11)に最近追記したことですが、私は『flowers』2017年3月号の年表で「すきとおった銀の髪」の年代が従来と変わって、わざわざ「著者に確認」と注まで付いているのが気になっています。
もしかしたら1800年前後の話が描かれる?
ユニコーン」ではなく別のエピソードかもしれませんけど。


今月号には来年の萩尾先生デビュー50周年企画のお知らせも載っていましたね。
50周年には絶対に大々的な記念企画があるはず!と秘かに期待していたのですが、その第1弾です。
ポーの一族」のプレミアム本も「11人いる!」のムック本も魅力ですね ♪
私が前から騒いでいる画集やフレーズ集も出してもらいたいし、大規模な原画展をぜひ開催してほしい~!
と思ったら、今月号のアンケート葉書に企画の希望を書けるようになっていますね。
皆様、書いて出しましょう ♪

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


「すきとおった銀の髪」の年代にご興味のある方はこちらもどうぞ。

(11)この作品は、いつ頃のお話?~①「すきとおった銀の髪」 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

記事(11)に追記しました

「(11)この作品は、いつ頃のお話?~①『すきとおった銀の髪』」に年代についての情報を追記しました。
マニアックすぎる話にご興味のある方はどうぞ。

(11)この作品は、いつ頃のお話?~①「すきとおった銀の髪」 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

(38)「ユニコーン Vol. 2 ホフマンの舟歌(バルカロール)前編」

前回に引き続き思い切りネタバレしております。バラさないで!という方は作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪


ユニコーン Vol. 2」の舞台は Vol. 1の2016年ミュンヘンから58年遡り、1958年2月のベネチア
ヴァンピール仲間が集まったサンタルチアコンサートです。
これには意表を突かれました。
コンサートの話題はVol. 1に出てきたので、いずれ回想場面として描かれるだろうとは思っていましたが、いきなりここに飛ぶとは!
さすがは常に良い意味で読者を裏切ってくださる萩尾先生です。


コンサートはルチオの一族の主催で数百年前から開かれているといいます。
今のホストは「春の夢」でダンを仲間に加えたサルヴァトーレ。
他の一族も招待されています。


では今回も登場人物ごとに感想を書いてみます。


・* 1.エドガーとアラン *・


1958年の話なのでアランも登場。
今回、私にとって特に大きなトピックは次の2つでした。


1.アランは狩りをしないとわかった
前々からそうじゃないかと思っていましたが、本人の口から「ぼくも狩りなんかしないよ エドガーからもらうんだ」と聞けて、はっきりしました。
この時ブランカがいつもファルカに血をもらっていることを恥ずかしそうにしているので、エドガーは「…きみは狩りなんかしなくていいよ その分 人間らしいんだ」と慰めます。
私はもしかしたらエドガーとアランの間にも、かつてこれに似たやりとりがあったかもしれないなと想像してみました。
アランにしろブランカにしろ、エドガーは自分にとって大事な相手には人間に近いままでいてもらいたいんですよね。
リーベルにも自分の血だけを与えていたのだろうと思います。


2.ついにロビン・カーの名前が出た!
もう嬉しいの一言です。この時をどんなに待っていたことか!
ファルカが子どもをほしがっているので「ファルカにロビン・カーをやったら?」と言うアラン。
そこから始まる2人の会話で、ロビンが彼らを天使と信じた理由もわかります。
最後の言葉は少し悲しく聞こえました。


「成長すればサンタ・クロースも信じなくなる
子供の魔法は いつか…消えるんだ」

「魔法は消えても ぼくらは消えないけどね」


青い文字がエドガーの言葉です。
この時(1958年)エドガーは、ロビンはもう天使を信じていないだろうと考えていたようですね。
それでも翌年(1959年)「小鳥の巣」で迎えに行ったのは、ファルカのためだったのでしょうか。
でも、この会話の前年(1957年)にロビンは天使を待ち続けたまま死んでしまっているわけですが…。
こうしてロビンの名前が出たので、迎えに行く話にまで繋がることを期待したいです。


今号ではこの2つ以外にも2人の絡みが楽しいです。
特にエドガーが冗談を言うなんて!
しかも本人はそんなつもりがなく淡々と言っているから余計に面白い。
つまらないことを言ったアランを座ったまま押さえ込んだりしているし。
「春の夢」も含めて新シリーズでは2人とも、のびのびしていますよね。
旧作の彼らはもっとお行儀のいい感じで、その世界に浸っていた世代としては「え? エドガーとアランってこんなキャラだっけ?」って面食らったりもするのですが、少年らしいし微笑ましくて私は好きです。


ちょっと話がそれますが、今春出版された『私の少女マンガ講義』(萩尾望都:著 矢内裕子:構成・執筆 新潮社)に「春の夢」連載終了後の萩尾先生へのインタビューが載っています。
P. 207で先生はエドガーとアランについて、こう語っておられます。


「不思議なんですけど、自分の中に部屋があって、そのドアを開けたら、エドガーやアランがいた。私がドアを開けなかっただけで、ずっと彼らはそこで生きていた、というような。」

「私が見ていなくても『勝手にやってたから』みたいな感じ。」


先生が40年ドアを開けずにいた間に彼らが勝手にやっていた結果が、生き生きとした今の姿なのだろうなと思います。


さて、今回のラストシーンでは謝肉祭の仮面をつける2人。
エドガーがオオカミ、アランがネコでイメージに合っていますね。
特に新シリーズのアランはネコみたいだし。
「喰いに行くの?」と聞くアランに「まさか ウッフッフ」とエドガー。
この笑い、何か企んでいるのでしょうか?


・* 2.「ダイモン(悪魔)」 *・


前号の「ダイモン」は得体のしれない人物でしたが、今号は私にはとても魅力的に見えました。
1ページから次の扉絵にかけては「ダイモン」が兄に語りかけるモノローグになっていて、引き込まれてしまいました。

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小学館『flowers』2018年8月号より扉絵)


「ダイモン」の兄とは何者なのか。ヴァンピール? 生きているのか死んでいるのか?
「ホフマンの舟歌(バルカロール)」は兄との思い出の歌なのか。
大老ポーを恨む理由に兄が関わっているのか。
「ダイモン」の過去にとても興味をそそられます。


前の記事で私は、誰も知らない「ダイモン」の本名をアランが知っていたことが物語の鍵になるのではないかと書きました。
今号1ページ目の「ダイモン」のモノローグに「兄さんがいなくなってからオレの名を呼んでくれる者は誰もいない」という言葉があります。
「ダイモン」がアランに本名を明かしたのはアランを余程気に入ったからに違いなく、その理由にも兄が絡んでいるのでしょうか。
今号では人間っぽいアランが気になったようですが、次号で本名を教える場面が描かれると思うので楽しみです。
でも名前そのものは、ぼかされてしまうかもしれませんね。
はっ まさかそれが「ユニコーン」なんてことは…!?(いや、似合わないし違うから!)


また、前の記事に「ダイモン」はコンサートに呼ばれていないのに勝手に来たのかと書きましたが、ちゃんと招待されていたのですね。失礼しました。
でも前に参加した時はサルヴァトーレに好印象を与えていたようですが、今回本性を現しました。
サルヴァトーレを利用して何をするつもりなのか。
そしてそれは大老ポーを殺すことと、どう繋がるのか。
今のところ私には全く先が読めません。


ところで前号で「ダイモン」がシルバーに「ずいぶんと久しぶりに会ったのに よくわかったなァ」と言い、シルバーが「…おまえの においは変わらない…!」と返していましたね。
ということは「ダイモン」の外見はシルバーが前に会った時と全然違っていたのですよね?
これは何を意味するのでしょうか。


さらに「ダイモン」はタイミングよくカフェに現れたり、エドガーがアランを蘇らせようとしていたことやブランカ一家がナチスに迫害されたことを知っていたりします。
まるで皆の動向を把握しているかのようですが、なぜわかるのでしょうか。
カフェの時計を進ませたことと併せて、この2つも覚えておきたい謎です。


・* 3.ファルカとブランカ *・


今号はブランカも元気な姿を見せてくれました。
エドガーとアランがブランカに会うのは終戦の時(1945年)にパリで会って以来――つまり「春の夢」のラストでパリに行って以来ということですね。(※下に追記があります)
私はブランカが意識を失っている間にヴァンピールにされてしまったのでエドガーやファルカを恨んでいるのではないかと心配だったのですが、そんなことはなくてホッとしました。


ファルカとブランカが仲良さそうなのも嬉しかったです。
ファルカはブランカを気遣っているし、ブランカはファルカを信頼し、「ダイモン」の出現に怯える彼を守ろうとする(ブランカは「ダイモン」と初対面で恐ろしさを知らないのですが)。
お互いに良いパートナーなんですね。


「春の夢」のブランカは辛い環境の中で弟を守るため、決して泣くまいと張り詰めて生きていました。
でも今はファルカに「すぐ泣く」と言われるし、「涙なんざ弱者のグチだぜ!」と言う「ダイモン」に「涙は…祈りよ」「泣けないって かわいそうだわ」と言えるまでに変わっています。
素直に涙を流せるようになり、強さと可愛らしさを併せもった今の姿こそ本来のブランカなのだろうなと思います。


でも2016年にファルカと一緒にエドガーに会いに来られなかったのは、どうしてなのでしょう? 気になっています。


・* 4.ルチオの一族 *・


今号はサルヴァトーレとダンが登場。
ダンはブランカに「オットマーおじ様」と呼ばれていますが、ダン・オットマーという名前です。
私はてっきりサルヴァトーレの名字もオットマーだとばかり思っていたのですが、サルヴァトーレ・ルチオなんですね。
前に「オットマー家の…先祖…です」と名乗っていましたけど、本家と分家の関係なんでしょうか?


サルヴァトーレは普段は「ボロい修道院に生息してる」そうです。
これって修道士に化けているってことでしょうかね?
それとも修道院の墓地に隠れ棲んでいるとか?


「ダイモン」は5年前、つまり1953年にもコンサートに来たと言っています。
「春の夢」のラストでダンの母がベニスに行ったとありますが、時期的に見て同じコンサートに招待されたのかもしれません。


・* 5.新キャラ *・


初登場のフランス人、エステルと娘のジュリエッタ、そしてエステルの兄の娘カルメン
エステルはダンの母と似ていて、一瞬同一人物かと思ってしまいました。
かつてエステルがサルヴァトーレに見初められ、そのためにジュリエッタカルメンともどもヴァンピールの群れの中に放り込まれる羽目になってしまったのは不運としか言えませんね。
ジュリエッタカルメンが無事にフランスに帰れるよう祈ります。


ところで、巻き毛で内気なジュリエッタとストレートの黒髪で活発なカルメン、どこかで見たような気がするなあと思ったら「一週間」のカレンとジューンみたいじゃありませんか?
名前も似ているし(ジュリエッタカルメンはオペラから採られたのでしょうが)、いとこ同士というところも同じですね。


もう1組、忘れてはいけない初登場キャラが「タバタバとマリマリ」(byエドガー)ことタバサとマリサ。
やせている方がタバサで、黒髪のちょっとコロンとしている方がマリサです。
2人はアーサーがエドガーとアランを心配して付けた、旅のお供。
まあ確かに少年だけでロンドンからベネチアまで旅すれば、あちこちで呼び止められて面倒そうなのでカムフラージュの意味もあるのでしょうが、この2人、とにかく頼りない。
そもそもアーサーとはどういう関係なんでしょうね?
私は人間だと思うのですが友人はポーだと言っています。どっち?

 

でも、どうも私には彼女達が単なるチョイ役で終わる気がしないのですよ。
「春の夢」のゴールドが最終話でクロエを逃がしてエナジーを吸い取られたように、何らかの役目を負っているのではないかと。
例えば観光中に迷子になってエドガー達の行動に支障をきたすとか。
コンサートに潜り込んで想定外のことをやらかすとか。
あくまで予感ですが、さてどうなるでしょうか?


◆◆・*・◆◆・*・◆◆


このほか気づいたこと&気になったこと。


ロンドンでアランが「なんで こんな寒いときにベネチアなんて行くんだよ!」と文句を言っていますよね。
私はバンパネラは暑さ寒さに影響されないと思っていたのです。
なにしろ「息をしているふり…脈のあるふり…鏡に映るふり ドアに指をはさまれたら痛がるふり…」をしている人達ですから。
味覚がある位だから暑さ寒さも感じるだろうけど、それによって体調が左右されることはなく、服は単に周囲の人間に合わせて選んでいるだけなのかな、と。
でもアランやメリーベルのような虚弱体質のバンパネラは、寒いのも苦手なのでしょうかね?
だけどアラン、2月のロンドンよりはベネチアの方がずっと暖かいはずですよ。
もしかして単純に家から出たくなかっただけ?


自分で狩りができないブランカエドガーはバラを勧めています。
バラはポー以外のヴァンピールのエナジー補給にも有効らしいですね。


もう1つ小さなことですが、コンサートでアランはちゃんと好きなデザインの靴を履いていますね。


◆◆・*・◆◆・*・◆◆


さて、次回は後編ですので今回の続きが描かれるはず。
ただ予告のアオリが「アランと共にあるために…エドガーがした選択とは…」となっていて、もしかして2016年の話と同時進行したりするのでしょうか?
前回の Vol. 1を読んだ時、「ユニコーン」はアラン再生の話と、ヴァンピール界全体を巻き込む大老ポーvs.「ダイモン」の話が絡み合いながら進んでいくのかなと思ったのですが、まだわかりませんね。
次号は7月27日(金)ごろ発売で、普段より1日早く読めます。嬉しい。楽しみです!


◆◆・*・◆◆・*・◆◆


記事内でふれた『私の少女マンガ講義』はこちらです。
萩尾先生が2009年にイタリアで行った「戦後少女マンガ史」の講演をベースに、インタビューがたっぷり収録されています。
先生によって語られる少女マンガ史や創作にまつわる話が興味深く、読み応えのある1冊です。 

私の少女マンガ講義

私の少女マンガ講義

 

 

~2019. 10. 8 追記~


上で「エドガーとアランがブランカに会うのは終戦の時(1945年)にパリで会って以来――つまり『春の夢』のラストでパリに行って以来ということです」と書いたのですが、フラワーコミックススペシャル版を読んで2つの出来事は別々だったことがわかりました。


「春の夢」のラストで2人がパリに向かったのは1944年で、その時はブランカに会ったかどうかわかりません。
でも翌年彼らはまたパリに行って会っていたのでした。

 

 

記事(25)に画像を追加しました

「(25)『ポーの一族』イラスト集~綴じ込み付録②」に画像を2点追加しました。

『週刊少女コミック』1975年32号
  アランの暑中見舞
『週刊少女コミック』1975年51号
  エドガーのクリスマスカード

どちらも素敵ですのでぜひご覧くださいませ。記事の最後にあります。

(25)「ポーの一族」イラスト集~綴じ込み付録② - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

(37)「ユニコーン Vol. 1 わたしに触れるな」

このブログはネタバレを前提にしておりますが、こちらの記事は特にネタバレだらけですのでご注意ください。


待ちに待った「ポーの一族」の新作がついに連載開始となりました。
地元の書店にいそいそと『flowers』7月号を買いに出かけた私。
朝一番で入手した友人から「表紙がヤバイ!」とメールをもらっていたのですが、店頭で見た瞬間クラッとしました。本当にヤバイ…!

 

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家に持ち帰ってからも表紙を眺めてうっとり。
エドガー単独の絵だろうと勝手に思っていたので、まずはアランも一緒で嬉しい。
皆様きっと感じていらっしゃると思いますが、宝塚、入ってますよね。
美しい色彩に「そうそう、やっぱりエドガーはブルー・ピンク・シルバー系、アランはイエローベースのグリーンにオレンジ・ゴールド系のイメージよね」などと喜んだり、ジャケットの大胆な柄に「もしかして東洋が舞台になるのか?」と思ったり。
ジャケットも一見お揃いのようでいて、よく見るとエドガーはオーソドックスなシングル、アランはデザイン性のあるダブルだし、シャツやリボンタイもそれぞれに似合うものを着ていて心憎いです。
表紙絵を存分に堪能してページをめくると、扉絵がまた素敵!

 

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エドガーとファルカだけじゃない。アランもいる! ブランカもいる!
楽しそうに楽器を演奏する姿はブランカの一家を思い出させます。
みんなの幸せそうな顔に、こちらまで幸せな気分になりました。


扉絵も堪能した後は物語の世界へ。
今回は登場人物ごとに感想を書いてみます。


1.エドガー


物語の舞台は2016年のミュンヘン
エドガーとファルカが40年ぶりに会うところから始まります。
旧作の最終エピソード「エディス」で1976年にエドガーとアランの行方がわからなくなってから、アーサー(クエントン卿=ランプトンの絵を描いた人)達とともにずっと捜していたファルカ。
まるで私達読者のようにエドガーが生きていたことに歓喜し、今までどうしていたのかと尋ねます。
エドガーの話は驚くべきものでした。


ファルカに教わった「目」を使って「グールの丘」に移動したらしいこと
コマドリの声で目覚め、誰かが呼ぶ声で自分を取り戻したこと
そこは昔、大老ポーに血を授けられた館の地下の洞窟だったこと
自分が「グール」のような怪物に変化していたこと
小さく炭化したアランを抱きしめ続けていたこと
ずっと「グール」のままでいいと思っていたけれど、アランの囁きのようなものが聞こえるようになってアーサーの元へ行ったこと
アーサーが元の姿に戻す手助けをしてくれたこと、指先がまだ戻っていないこと


そう、エドガーはほぼ40年間ずっと地下の洞窟にいたのです。
アランを抱きしめながら。


「エディス」でアランが炎に包まれた時、「もう明日へは行かない」と心の中で言っていたエドガー。
その時の喪失感と、これから永遠の時を1人で生きていかなければならないという絶望はこれほどまでに深いものだったのかと、私は改めて思い知りました。
リーベルを失った時も同じ喪失感を味わったけれど、まだアランがいたから明日へ行けたのですね。


エディスを浴槽に運んだことを、よく覚えていないとエドガーは言います。
あの時、無我夢中で「目」を使って炎の中からアランを救い出し、エディスをバスルームに運んでから再び「目」を使って「グールの丘」に移動したということでしょうか(先にエディスを運んでから炎の中に飛び込んだのでは間に合いそうにないので)。


長い眠りから目覚めさせてくれたのはコマドリの声。
コマドリはイギリスではポピュラーな小鳥だそうですが、ポーシリーズでコマドリと言えばロビン・カーなので、ロビンが目覚めを運んできてくれたようで嬉しくなりました。
それから聞こえてきた、エドガーの名を呼ぶ声。
それは誰の声だったのでしょう? 私はアランの声だと思いたいです。


気づくとエドガーは「グール」のような怪物に変化していた。
ファルカの言葉によれば「ひどく弱ると…ひからびて…小さくなってしまう時があるよな…そして そのまま消えたり…」ということですが…
うーん、あまり想像したくないんですが、「春の夢」でクロエやゴールドが気を吸い取られて干からびていた、あんな感じ?
いや、きっと全然違う姿形の怪物ですよね?
できれば見たくないけど、萩尾先生、しっかり描写してくださるかも。
「春の夢」でもバンパネラの本性を現した姿をリアルに表現なさいましたから。


エドガーを元の姿に戻す手助けをしたのはアーサーということですが、どういう風にしたのでしょうね?
グール化したポーを元に戻すって、時々あることなのでしょうか。


エドガーは大事そうに抱えたカバンを示して「アランは ここにいるよ」とファルカに言います。
「アランを もとにもどしてほしい そのために会いにきたんだ」と。
ファルカに「それはもうアランじゃない」と言われても「アランだ!」と譲らない。
「アランは ぼくより人間っぽくてピュアだった」「無垢(イノセント)なものがほしい」とも。
この時の思いつめたような表情、必死の形相には胸がつぶれる思いがします。


「春の夢」でエドガーは言っていました。
「アランの感情は ぼくよりずっと人間に近い」「アランがいないと ぼくは幽霊になってしまう」。
この言葉を聞いたからこそ、40年間抱きしめ続けた気持ちや、アランはまだいる、再生させたいという強い願いが響いてきます。
「春の夢」には他にも人物や設定など「ユニコーン」に繋がる情報がぎっしり詰まっていて、本作の序章となる重要な作品だったのだなと思いました。

 

ここで「ユニコーン」のモノクロ予告を思い出してみると、エドガーが持っていたカバンはとても大切な物だったのですね(前の記事(36)に画像があります)。

(36)ユニコーンを待ちながら - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

「春の夢」最終話の扉絵(同上)のカバンと外見はそっくりでも、同じ物ではなかったわけです。
それから靴。前の記事で2つの絵の靴のデザインが違うと書きましたが、「ユニコーン」の予告の方はアランの好きなデザインだったのですね。
では外見がそっくりなカバンを選んだのも、アランの好きなデザインだったからでしょうか。
何だか泣けてきます…。
こういうディテールにも深い意味があったとは、さすが萩尾先生!


2.アラン


今回エドガーに「…焼けたワラを抱きしめてるのかと思ってたら その塊が…アランだった」「見る? ほとんど炭だよ」と表現されているアラン。
一体どんな状態なのか…?
カバンの中を見るのが怖いのですが、いずれ目にすることになるのでしょうね。早ければ次回にも。
でも私としてはチリになって完全に消えたわけではなく、実体が残っていただけで救われたような気分です。


アランの囁きのようなものが聞こえるようになったのは、エドガーが長い間抱きしめていたからなのでしょう。
エドガーは自分の名を呼ぶ声を聞いて自分が誰なのか思い出したと言います。
それならアランもエドガーの呼びかけに自分が誰か思い出してくれるのでしょうか。


3.「バリー/ダイモン」


初登場の「バリー」はヴァンピール界の嫌われ者。
「バリー」の他に「ダイモン(悪魔)」などいくつもの名前を持ち、「疫病神」「怪物」などと呼ばれています。


驚くべきことに大老ポーに血を授けられてヴァンピールとなり、ポーの村を追放された、元ポーの一族
しかもファルカをヴァンピールにした「親」。
ん? ということはファルカも元をたどればポーの一族
ヴァンピール界って意外とルーツは繋がっているのでしょうか。


「バリー」はポーの村を追放されたのは、皆が自分を怖がったからだと言います。
そして大老ポーを殺すことが生きがいだと。
もしかするとクロエと手を組んでいるのかも。


そんな「バリー」は、エドガーがアランを蘇らせるために何をしたか知っている、とも言います。
エドガーは何をしたのか?
更に「バリー」はアランを再生させる方法を知っているようです。
「アランを取りもどせるなら ぼくは悪魔とだって契約する」と「バリー」に付いて行くエドガー。


この「バリー」、信用できないのは誰の目にも明らか。
果たしてどういう魂胆なのか?
ポーの村の者達は、なぜ彼を恐れたのか?


「バリー」はカフェの時計の針を一斉に進ませて見せましたが、時間を支配できるのか。
「一緒に来たら本名を教えてやる」とエドガーに言いますが、誰も知らないその本名をアランは知っていた。
そしてエドガーは指先がまだ元に戻っていない――。
どうもこのあたりが今後の鍵になるような気がします。


4.ヴァンピール達


今号にはファルカ、アーサー、シルバーが登場し、ブランカが元気でいることもわかって嬉しいです。
シルバーは味のあるキャラクターとなって再登場で、今後の活躍(?)が楽しみ。


アーサーについては、私は「エディス」後のエドガーは彼と一緒にいるのではないかと思っていたので、当たらずといえども遠からずというところでしょうか。
アーサーとファルカが火事で焼けたエディスの家を見に行った回想場面では、「ああ、あの時から話が続いているんだなあ」と感動してしまいました。
エディスが生きていれば2016年には54歳。登場はないのでしょうか。

 

ところで1958年(「小鳥の巣」の前年)2月に仲間が集まったという、ベニスでのサンタルチアコンサート。
「春の夢」でヴァンピール同士が助け合っているというのを読んで、ヴァンピール界にも互助会みたいなものがあるのかと思いましたが、親睦会もやっているんですかね?
それともコンサートを装った情報交換会?
扉絵の合奏する4人は、この時のイメージではないでしょうか。
嫌われ者の「バリー」も参加したというのは、招待されていないのに勝手に来たのかも。
コンサートはオットマー家が所有するサンタルチア・ホテルで開かれたのかなと思うので、ブランカはダンおじさんと会ったのかもしれません。
お互いにヴァンピールになったと知った時は驚愕だったでしょうね。


・*・・*・


今号はマリエン広場のカフェが舞台になっていました。
広場には有名な仕掛け時計があり、カフェの店内にも時計がいっぱい。
ポーシリーズに欠かせない時計ですが、この「ユニコーン」では特に重要な役割を持つのかもしれません。
それにしてもヴァンピール界の話をカフェであんなに大声で話して大丈夫だったのでしょうか。
英語で話していたとしても、観光地なので英語がわかる人は大勢いたと思うんですが…。
ウェイトレスさん達のリアクションには笑っちゃいましたけど。


タイトルの「ユニコーン」の意味は、まだわかりません。
当てずっぽうですが、もしかすると宝塚で一族の紋章にユニコーンがあしらわれていたのと関係あるかもしれないと、私はちょっと思っています(DVD・ブルーレイをお持ちの方は、婚約式の場面で大老ポーの棺の紋章を確認できます。フィナーレのパレードで出演者が持っているシャンシャンも紋章をかたどったものです)。
つまりユニコーン=一族ですが、まあ99%違うでしょうね。


・*・・*・


前の記事に書きましたが、「ユニコーン」の予告が出て2016年の話だと知った当初、私は不安でいっぱいでした。
アランはもういないのだという悲しみを蒸し返されるのが怖かったからです。
でもその後、萩尾先生がエドガーとアランをとても愛していらっしゃることを思い出して、「先生がファンを悲しませるような作品を絶対に描くはずがない!」と明るい気持ちになりました。
そして「ユニコーン」か別のエピソードかはわからないものの、エドガーがアランを取り戻そうとする話があるのではないかと想像していたのです。


このVol. 1がまさにそんな展開になったことは嬉しい驚きですし、たとえアランが蘇らなくても(蘇ってくれると期待していますが)、先生はファンが納得できる結末を用意してくださるでしょう。
エドガーの時が1976年で止まっていたことを取っても、読者の気持ちを考えてくださっているなあと思います。
すっかり現代人になったエドガーがいきなり現れても戸惑ってしまいそうですが、これなら「エディス」の続きとしてすんなりと作品に入っていけますから。


最初に見た扉絵に話を戻すと、アオリに「全コミック界注目の最新作!!」と書かれています。
今作はまさしくコミック界の事件と言えるのではないでしょうか。
そして4人の背後には悪魔と死神が。
次回も波乱の展開になるのは必至ですが、希望のある結末を信じて楽しみたいと思います。

 

 

記事(34)に追記しました

「(34)『ポーの一族』イラスト集~予告・表紙・合同扉絵⑥」に「はるかな国の花や小鳥」が番外編とされていることについて追記しました。
マニアックな話にご興味のある方はどうぞ。

(34)「ポーの一族」イラスト集~予告・表紙・合同扉絵⑥ - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

(36)ユニコーンを待ちながら

いよいよ『flowers』2018年7月号から「ポーの一族」の新シリーズがスタートします。
先日発売された6月号に予告が載りました。
以来、私の周囲のファンは騒然としております。
だって、これですよ。これ!

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ポーの一族ユニコーン
連作形式でつむがれる、新たなる『ポーの一族』の世界。
2016年春、ファルカはミュンヘンで久しぶりに会うエドガーを待っていた――」


次の作品のタイトルは「ユニコーン」なのですね。
アオリは気になる言葉だらけです。


「連作形式」ということは、旧作のように作品ごとに時代や場所が異なる短編・中編からなるシリーズなのでしょう。
そしてシリーズ全体を通して1つの大きな物語が生まれるのでしょうか。
「新たなる『ポーの一族』の世界」と謳われているので「春の夢」より更に世界が広がりそうな予感がします。


一番の驚きは何と言っても「2016年春」ですよ。2016年春!
旧作の最終エピソード「エディス」が発表時と同じ1976年の話だったので、私は何となく、その後の話が描かれる可能性は低いのではないかと思っていたのです。
それが一気に現代に!
2016年といえば「春の夢」で40年ぶりにポーシリーズが再開された年ですが、萩尾先生の視点と重なる部分があるのでしょうか。
それとも社会的事件と関係が?

 

ミュンヘン」も気になりますね。
なぜドイツ? ブランカの故国だから?
ドイツと聞くと私はつい「小鳥の巣」を連想してしまうのですが、ひょっとしてキリアンやテオやルイスが登場したりするのか。
もしキリアンのその後が描かれていたら嬉しいですけど、どうでしょうね。


ファルカはなぜエドガーを待っているのでしょう。
ブランカは一緒ではないのでしょうか。
一緒でないならブランカに何かあったのか?


そしてタイトルの「ユニコーン」。
これにはどんな意味が込められているのでしょうか。
萩尾先生はユニコーンがお好きですよね。
ポーシリーズでは「ペニー・レイン」の中に「戦ったのはユニコーンとライオン」「ドラゴンよ ペガサスよ ユニコーンよ フォーンよ イカロスよ」というフレーズがあり、「はるかな国の花や小鳥」でエルゼリがエドガーを「わたしの青い目のユニコーン」と呼んでいます。


それより前の1974年にはファンタジックなSF作品「ユニコーンの夢」も発表されました。
その中でユニコーンは「幸福と戦いの白い神」「青い目の神がみ 柔らかい毛の神がみ」と言われています。
また「未来の夢を見るという」「春のユニコーンは少女に恋をするともいう けっして人にはなれないこの獣が少女だけの手にはやわらかく角をおしつける」のです。


エドガーは青い目と柔らかそうな巻き毛の持ち主。
じゃあユニコーンエドガー?
春のミュンヘンで少女に恋をする?
カラー予告のバラは恋の相手に渡す花束?
いやいや、違うだろうとは思いつつ妄想は膨らみます。
「1ページ劇場――ポーの伝説によせて――」の作品化されなかった一節「明るい五月に少女は 青い目の少年に プロポーズしました」を思い出しましたが、まさかこれとは関係ないでしょうねえ。


(「1ページ劇場」については別に記事を書いております。ご興味のある方はどうぞ。)

(19)「1ページ劇場――ポーの伝説によせて――」 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


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モノクロ予告の絵も気になる要素がいっぱいです。
まず全体的に「春の夢」最終話の扉絵 ↓ とよく似ていますよね。

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小学館『flowers』2017年7月号より)

 

特にエドガーは左手に持っている砂時計がバラに変わった以外は、ほぼ同じ。
それも違うのはベストの柄と靴のデザイン位で、右手に下げたトランクに至っては全く同じです。
ここまで似ているのには何か理由があるのではないかと思うのですが、それは何なのでしょう?
「春の夢」の旅の続きだということを表しているのでしょうか。
それならクロエやクロエが殺した研究者やルチオの一族が絡んでくるのでしょうか。


更に気になるのがアランです。
「春の夢」より可愛くなっていて嬉しいのですが、とても悲しそうな表情ですよね。
そもそも「この世ならぬ存在」のバンパネラにこの言い方は変ですが、まるで「この世のものではない」雰囲気ではありませんか。
しかもエドガーと2人揃って黒いスーツ姿で、何だか喪服みたいです。


アランは1976年に炎とともに消えてしまったので2016年には存在しません。
だから「ユニコーン」ではエドガーの思い出の中に登場するのだろうな、と思います。
でもそれってアランファンにとっては、せっかく「春の夢」で再会できて喜んでいたのに「消えてしまった」という事実を改めて突き付けられる、言うなればアランが2度死ぬのを目撃するようなもので、すごく残酷なんですよ。
想像するだけで今から辛い…。
はっ もしかして喪服って、そういうことですか?
だからエドガーの服は上の方だけ黒くないんですか?
エドガーが持っているバラって、アランへの献花ですか?
そうなんですか!? 萩尾先生~~~!!


すみません、つい取り乱しました。
一方でアオリの「新たなる『ポーの一族』の世界」とはどんな世界だろうと考えると、もしや消えたはずのアランに何かが?とも思ってしまいます。
実はエドガーがファルカ直伝の壁抜けの術で炎の中からアランを救っていたとか。
ファルカかファルカの仲間が空間だけでなく時間も移動できて、エドガーと一緒に過去のアランに会いに行くとか、そのまま現代に連れて帰ってくるとか。
こうなるともう完全にSFですが、この際アランに会えるなら何でもいい。
それに「春の夢」を読む限り、新しいポーシリーズに「ありえない」という言葉は存在しないような?


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ところで2016年のエドガーって、どんな感じなのでしょうね。
彼らは時代にうまく適応して生きているから現代社会にちゃんと溶け込んでいそうです。
もしエドガーがスマホを使いこなしていたとしても私は全く違和感がありません。
むしろ似合いそうだったりして。
でも「エディス」にもラジオは出てきてもテレビは出てこなかったので、パソコンやスマホが描かれることはないのかも。
現代は至る所にカメラや鏡があるし、バンパネラは常に気を張っていなければならなくて大変でしょうね。

 

予告だけで妄想が止まらない私。
でも萩尾先生は私ごときの想像など、はるかに超えてしまわれるでしょう。
何があっても驚かないぞという心の準備をしてユニコーンの訪れを待つことにいたします。
アランのために悲しい涙を流さなくてすみますようにと願いつつ。