亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(55)松屋銀座「デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展」に行ってきました

今年は萩尾先生のデビュー50周年。
大規模な原画展を開いてほしいなあと願っていたところ、嬉しいことに実現しました。
「デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展」。
タイトルを見るとポーだけかなと思いますが、「トーマの心臓」をはじめとする他の作品の原画も出展とのこと。
その第1弾が7月25日(木)から8月6日(火)まで松屋銀座にて開催されました。

 

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チラシ表裏


私は7月29日(月)の昼と30日(火)の夜に行ってきました。
両日ともかなり混んでいて人の流れが途切れることがありません。
男性も女性もオールドファンから若い方まで年齢層が幅広くて、特に30日は平日の夕方以降だったので勤め帰りと思われる方の姿が目立ちました。


29日に撮影した会場入口の写真です。
お花が正面に置ききれなくて横の方までずっと続いていました。

 

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会場に入ると右側の壁に「ポーの一族によせて」と題された萩尾先生のメッセージが掛けられていました。
ポーシリーズを再開しての先生のコメントはすでに色々なところで読んでいましたが、このメッセージには改めてジーンとしてしまいました。
後半をメモしてきたのでご紹介します(図録には載っていません)。


「あるときふと、物語の扉を開けたら、エドガーとアランが『ああ、やっと来たね?』と振り向いてくれました。
驚きました。
ずっと待っていてくれたのです。
(中略)
彼らには話したいことがたくさんあるらしく、おしゃべりが止みません。
彼らが待っていた時間を埋めるべく、今後もエドガーとアランの物語を描いていこうと思います。
彼らの内緒話や夢の告白に、耳を傾けながら。」


先生、彼らだけでなくファンはみんな待っていましたよ。


メッセージの左、つまり入口の正面には白いカーテンが掛かっています。
このカーテンが「ポーの一族」の世界への素敵な導入になっていました。


カーテンの中央にフランス窓のシルエットが浮かんでいて、床にその影が伸びています。
観音開きの窓は片方が少し開いています。
突然、風の音。
木の葉(花びら?)が舞うシルエット。
揺れるカーテン。
窓が開く音。
床に伸びた窓の影に人影が重なって、カーテンにこの絵 ↓ が映し出されます。

 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション6 ポーの一族Ⅰ』2007年 小学館より。以下同)


これに続く絵が1コマずつ映され「きみもおいでよ」のあたりで床の人影が消える。
そして、この絵 ↓ を最後に

 

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風の線と舞う木の葉が映されて消えるのです。


「これから『ポーの一族』の世界に入りますよ」という気分が高まったところでカーテン前を左へ進むと、いよいよ展示会場です。


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 Ⅰ 『ポーの一族』の世界
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ここは旧作のゾーンで新作は別のゾーンになります。
チラシにポーだけで200点以上と書かれていましたが、本当にすごい数の原画で圧倒されるほどでした。
印象的な絵はほとんどあったのではないでしょうか。


原画は作品の発表順、ページ順に並んでいて、各作品のはじめに解説のプレートがあります。
また、原画は黒いパネルの上に展示されていたのですが、ところどころ黒パネルに白抜きでポーの絵が描かれていて、とても効果的でした。


混んでいても少し待っていれば空いた時に絵の真ん前に立って鑑賞できたので、「あの絵を見られなかった~」という残念なことはありませんでした。
むしろ「まだ先があるから、あまりゆっくりしてはいられない」という気持ち。
とにかく1972年の「1ページ劇場」から始まって「エディス」まで原画を間近で沢山見られて感動でした。


特に注目したのが「メリーベルと銀のばら」。
この作品は第1話の扉に全4話と書かれているのに、発表されたのはなぜか3話でした。
そして単行本にする時に原稿を切り貼りして大幅に加筆されたのです。
例えば、こちらの絵は

 

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単行本では1ページ全体の大きな絵ですが、掲載誌ではこの部分だけでした。

 

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ですので原画をよく見ると、シーラと男爵の顔の周囲だけ貼り付けられているのがわかります。
「メリーベルと銀のばら」はこのような切り貼りが多いので、今後別の会場に行かれる方はそこに注目して見ると興味深いのではないでしょうか。
なお、他の作品にも切り貼りはありました。


今回の原画展には予告カットも出品されていて、とても嬉しかったです。
『プレミアムエディション』に掲載された絵はすべて出ていたようです。
予告カットはパネルではなくガラスケースに陳列されていました。
思わず食い入るように見てしまいましたが、余白に先生の手書きで編集さんに向けて作品のあらすじやアオリが書かれていたのが面白かったです。
中には「等寸大でお願いします」というのもありました。
「縮小しないでください」という意味なのでしょう。


ポーの一族」の予告カットのメモでは、アランの名前が「アラン・トワイニング(本編ではトワイライト)」になっていました。
「グレンスミスの日記」の予告は掲載誌で「グレン・スミス」になっていたので誤植かなと勝手に思っていたのですが、先生のメモも「グレン・スミスの日記」「グレン・スミス・ロングバート」であることを発見!
濡れ衣でした。どうもすみません。


ポーのゾーンには庄司みづほさんという方が制作された大きな人物相関図もありました。
旧作の登場人物の名前と特徴が書かれ、それぞれの関係性が示されています。
更に作品中の印象的な言葉や、1974年の「1ページ劇場」の文言、「クック・ロビン」「Aはアップル・パイ」の原詩まで!
大変な労作ですが、残念ながら図録には載っていません。
これから行かれる方は会場でしっかりご覧くださいね。


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 Ⅱ 宝塚歌劇の世界
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宝塚で上演された「ポーの一族」を紹介するゾーンです。
衣装のみ撮影可だったので写真を撮ってきました。
このゾーンについては次の記事でレポートしたいと思います。


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 Ⅲ 『トーマの心臓』の世界
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トーマの心臓」のみならず、関連する「11月のギムナジウム」「湖畔にて」「訪問者」「残酷な神が支配する」をまとめたゾーンです。


トーマの心臓」だけでも枚数が多くて感激でした。
個人的に好きな絵はいくらでもあるのですが、「それぞれの思いは胸の奥に秘められる――」というオスカーのモノローグのページと、ユーリの「神さま 神さま 御手はあまりに遠い」「いつも いつも 生徒たちの背にぼくは 虹色に淡い天使の羽を見ていた」のページの原画を見られたのが特に嬉しかったです。


プレゼントで読者の手に渡っていた8枚の扉絵も拝めました。
退色したものもありましたが、持ち主の方々が半世紀近く大切に保管されていたことがよくわかりました。


他にも一部にペン入れされた習作や、オスカーの未発表イラストなどが興味深かったです。
「11月のギムナジウム」から「残酷な神が支配する」まで連続して見られて、これらすべてが繋がって1つの世界なのだと感じることができました。


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 Ⅳ 萩尾望都の世界――50年の軌跡をたどる――
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50年間の主要作品が並ぶゾーンです。
最初がデビュー前の高校生に時に描かれた「闇の中」なのが、すごい!
展示されていた作品は次のとおりです。


「闇の中」
「ルルとミミ」
「ケーキケーキケーキ」
「精霊狩り」
「週刊少女コミック広告」
「キャベツ畑の遺産相続人」
「とってもしあわせモトちゃん ジョニーウォーカーくんのバラのものがたり」
「この娘うります!」
「11人いる!」
「ゴールデンライラック
スター・レッド
「メッシュ」
銀の三角
「A-A′」
「4/4カトルカース」
「X+Y」
「半神」
「マージナル」
イグアナの娘
バルバラ異界
スフィンクス
「なのはな」
王妃マルゴ
ポーの一族 新シリーズ」
「バラのロンド」(描き下ろし「ポーの一族」イラスト)


作品によって少ないもので1枚、多くて6枚ほどでした。
ずらーっと並んでいる絵を見ていくと絵柄や色彩の変遷が楽しいですし、本当に多彩な作品を生み出してこられたんだなあと思いました。
個人的には、大好きな「この娘うります!」第1話の1ページ目と見開き扉のカラー原画がとても嬉しかったです。


途中のガラスケースの中に波津彬子先生が所蔵されている原画が特別公開されていました。
波津先生と実姉の故・花郁悠紀子先生が萩尾先生より贈呈されたものだそうです(花郁先生は萩尾先生のアシスタントをなさっていました)。
この会場のみの公開だそうですが図録には収載されています。
大変貴重なものを見せて頂きました。


また、仕事場を再現したコーナーには道具や服飾関係の参考書籍などが置かれていて、『芸術新潮』に載っていたランプトンの写真もありました。


出口の近くでは萩尾先生のインタビュー映像が流れていました。
図録にインタビューが掲載されているのですが、そのダイジェスト版です。
やはり文字だけよりは映像の方が先生の雰囲気が伝わってきて、いいですね。


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会場を出ると物販コーナー。
色々なグッズがありました。
私は図録の他にクリアファイルや栞、一筆箋などを買いました。
いつも実用的な文具しか買わない現実派なもので…。
と言っても、もったいなくてすぐには使えないんですけどね。
前にくじで当たったレターセットの便箋なんて、カラーコピーして使っている位ですから。
今回は「小鳥の巣」のクリアファイルが欲しかったのですが、早々に売り切れていたので代わりに同じ絵のポストカードを買ってしまいました。


図録は正式には「公式記念BOOK」で、とても上質なものです。

 

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展示されている原画がすべて掲載されている訳ではないのですが、美しくて凝った作りです。
会場で流れていたインタビューも全文収録。
聞き手は『私の少女マンガ講義』(2018年 新潮社)でも聞き手を務め、構成・執筆をされた矢内裕子さんです。
他に100問100答や作品年表も載っています。


そして図録には嬉しい別冊付録も。
これがまるっと1冊、先生のクロッキー帳なんですよ!

 

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芸術新潮』にクロッキー帳が数ページ載っていて大喜びしましたが、こちらはクロッキー帳そのもので「ポーの一族」13ページ、「トーマの心臓」10ページ、「とってもしあわせモトちゃん」「11月のギムナジウム」「11人いる!」各1ページ、その他4ページもあるんです。
嬉しい~ ♪


この図録は展覧会の公式サイトでも購入できます。
送料がかかってしまいますが、展覧会まで待ちきれない方は一足先に買って楽しまれてはいかがでしょうか。


という訳で、見応えたっぷりの「ポーの一族展」。
私は2日とも物販を含めて3時間もいました。
それでも、もっと観ていたかった!


次の開催は12月4日(水)~16日(月)阪急うめだ本店です。
関西圏の方、お楽しみに!
そして来年の春は川崎市市民ミュージアム
また行きます!
その後もSF原画展のように全国を巡回してほしいですね。


~2019. 9. 14 追記~


大阪の前に名古屋での開催が決定しました ♪
9月30日(月)~10月17日(木)名古屋パルコ南館です。
もうすぐですね。
お近くの方はぜひ!


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「Ⅱ 宝塚歌劇の世界」ゾーンのレポートはこちらです。

(56)「ポーの一族展」の「宝塚歌劇の世界」ゾーン - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

~2019. 12. 25 追記~


来春予定されていた川崎市市民ミュージアムでの展覧会は台風の被害により延期されました。
今のところ開催時期は未定とのことです。
スケジュールをチェックできる「ポーの一族展」公式サイトはこちら。

デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展 公式サイト:朝日新聞デジタル


図録が一般書店でも買えるようになりました。
付録のポストカード(「秘密の花園 Vol. 1」扉絵)は付いていないそうですが、他は会場で販売されているものと同じです。

 

『ポーの一族』と萩尾望都の世界【普及版】 (原画集・イラストブック)

『ポーの一族』と萩尾望都の世界【普及版】 (原画集・イラストブック)

 

 

 

(54)2019年7月の女子美術大学特別講演に行ってきました

女子美術大学では毎年7月にオープンキャンパスの一環として同大学の客員教授である萩尾先生の特別講演を行っています。
今年も7月15日(海の日)に開催されましたので、私も友人と一緒に初めて聴講してきました。
会場は東高円寺の杉並キャンパス。
予定時間は15時から16時までの1時間です。

 

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定員250名の教室は満席でした。
開始予定時刻の少し前に萩尾先生が内山博子教授とともに登壇。
内山先生は『芸術新潮』7月号で萩尾先生にインタビューなさっていた方で、この講演ではいつも司会進行を務めておられます。
お2人は気心の知れた間柄だけに、とてもなごやかな雰囲気の中で始まりました。


今回は告知の時にテーマが書かれていなかったので何の話をされるのかなと思っていたら、タイムリーな話題でした。


大英博物館マンガ展
②『芸術新潮』7月号
③質問コーナー


講演はスクリーンに映し出された写真を見ながらお話しするスタイルで進められました。
それではメモを基にレポートを書いてみたいと思います。
先生方と質問者の方の言葉は正確なものではなくニュアンスですのでご了承ください。
文中の P は写真です。


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 ①大英博物館マンガ展

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ロンドンの大英博物館では5月23日から8月26日まで大規模なマンガ展を開催中で、萩尾先生の原画も出展されています。
オープニングの前に先生が現地を訪れた際の話を聴かせてくださいました。


P:博物館前のお着物姿の萩尾先生
レセプションの時に撮った写真だそうです。


P:会場エントランスの『不思議の国のアリス』のパネル
イギリスでは「マンガは子どものもの」という意識が強いので、大人にも親しみを持ってもらうためにアリスを入口にしたそうです。
最初はイギリス人にマンガの読み方をレクチャーするコーナー。


P:「ZONE 1」の看板
会場は6つのゾーンに分かれていて、その1つ目の看板。
「The art of Manga マンガという芸術」と題されたゾーンで、内山先生が「この言葉が素晴らしい!」とおっしゃっていました。


展覧会ではマンガの前史として浮世絵も展示。
萩尾先生も浮世絵から影響を受けたそうで、2枚の絵が紹介されました。


P:葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 

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P:同「冨嶽三十六景 尾州不二見原」

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中学の美術の教科書に載っていて、特に構図がすごいと思ったそうです。
「木の描き方も現在とは違う」とも。


再びマンガ展の話。


P:『flowers』2018年7月号(小学館)表紙 ↓ のタペストリ 

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会場では天井から沢山のタペストリーが吊り下がっていて、この絵はキュレーターのニコルさんがとても気に入ったので選ばれました。
原画ではなく雑誌の表紙を使ったのは、イギリス人に日本のマンガ雑誌とはこういうものだと紹介したかったから。


P:「ポーの一族」の原画展示風景
ポーの原画を展示したのはイギリスが舞台なので。
そもそもイギリスを舞台にしたのは、妖精や怪物が登場するイギリスのファンタジーが好きだったから。
ポーシリーズを描き始めた時はまだイギリスに行ったことがなくて、初めて行った時には石の文化だと感じたそうです。
その後、5か月の語学留学もなさいました。


イギリスつながりでダーウィンの話。


P:「進化論のガラパゴス」数ページ分
私はまだ読んだことがないのですが「進化論のガラパゴス」は2007年に発表されたコミック旅行記です。
松井今朝子さんのお誘いでガラパゴスに行ったらとても面白かったのでダーウィンのことを調べたとか。
旅先でのお話を少し聴かせてくださいました。


P:「柳の木」の原画展示風景
P:「柳の木」全ページ
マンガ展では「柳の木」が全ページ展示されました。
そこでこの講演でも全ページが映し出され、先生が1コマずつ解説してくださいました。
この作品の執筆の動機は「知り合いの知り合いが子どもの頃にお母さんを亡くして、お母さんを許せないでいる、という話を聞いて親子を和解させたかったから」。
最初に思いついてから「3年寝かせていました」と。


P:ジャパン・ハウス(外務省の対外発信拠点)のコミック売場
もちろん萩尾作品も並んでいました。
ここではコミック以外にも工芸品などさまざまな日本製品が販売されていますが、先生曰く「一番売れるのはサランラップ(笑)。日本のラップは優秀なんですって」。
ここで行われたトークイベントに先生も出席されました。


P:日本藝術研究所
P:「半神」全ページ
ニコルさんはこの研究所の所長で、ここでワークショップが開かれました。
ワークショップで「半神」が取り上げられたので講演でも全ページが映し出され、先生が解説してくださいました。
先生はもともと双子が好きで「双子は鏡の裏表のようなもの、相反するものではないかと思って描いた。双子は神秘的で対比に良い」とのこと。
作品のラストについて「主人公は妹を憎んでいたけれど愛していた。でも、その兼ね合いがわからない。そんな時は泣くしかない」。


この後で「愛と憎しみをそれぞれずっと掘り下げていくと、根っこのところには同じ川が流れている。愛と憎しみの根は同じ」とおっしゃっていました。
それがとても印象的で、「柳の木」でも息子はお母さんを恨みながらも愛していたんだな、同じことなんだなあと思いました。


ジャパン・ハウスだったか日本藝術研究所だったかで、「柳の木」について参加者から「お母さんはなぜ傘をさしているのか、なぜ同じ服なのか」という質問がありました。
マンガを読み慣れていればわかることなのですが説明するのが大変そうだったので、「それは男の子の家のアルバムにあるお母さんの姿だから」と答えられたそうです。
最初にその写真を出そうかと思ったけどネタバレになるのでやめたとのことでした。


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 ②『芸術新潮』7月号

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P:表紙 

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(2019年 新潮社)


内山先生が「この本を買われた方は?」と呼びかけると、ほとんどの人が手を挙げました。
表紙の絵ですが、実は「ユニコーン」の連載が決まって(再開の時でしょうか?)時間があったので、カラー予告用に何枚か描いていた中の1枚なのだそうです。
『flowers』の編集の方に「この絵を『芸術新潮』にあげてもいいですか」と聞いたら「うーん」と渋い顔をされたけど了承してもらえたとか。
しかも「今日は新潮社も小学館も来てる(笑)」と。


P:p. 28~33 アトリエ訪問

 

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P. 29と31に写っている上の胸像はウィーンで購入した皇帝の像で、絵を描く時の参考にしているそうです。

 

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P. 31で先生の後ろにある小さな写真。
3人の人物が並んで立っていますが、これはポーの新作用の参考に。
多分、「ポーの一族」展のために描き下ろされた、こちらの絵のことだと思います。

 

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(「バラのロンド」ポストカード)


P:p. 36~45 クロッキー
「顔を描くとセリフやシーンが思い浮かぶので忘れないよう書き留める」
「大きいクロッキー帳は手を大きく動かせるのでアイデアが浮かぶ」
などとおっしゃっていました。


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  ③質問コーナー

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大勢の方が手を挙げる中から内山先生が指名されました。


Q1:「まんがABC」が再録される予定はないのでしょうか?
A1:調子が悪い時に描いたので単行本から外してもらっています。
私が生きているうちはイヤです。


そ、そんな~~! このお答え、この日一番の衝撃でした。
「まんがABC」は『別冊少女コミック』1974年6月号に発表された24ページの作品です。
アルファベット順のキーワードからマンガの描き方を手ほどきする内容で、先生のこだわりが詰まっていて読み応えがあります。
どうして再録されないのだろうと思っていましたが、先生ご自身の希望だったとは!
更に「A・アップから始まるけどUPなので間違っている。最初からツッコミどころで…(笑)」と。
先生、そんなこと誰も気にしませんよ!
でもきっと他にも読んでほしくない理由があるのでしょうね。残念です。


ちなみに、これとは別に『別冊少女コミック』1977年1月号から1979年3月号まで連載された「萩尾望都のまんがABC」という、より実践的な作品もあって、こちらは一部が『萩尾望都――愛の宝石――』(2012年 小学館)に再録されています。


Q2:ダニエル・T・マックスの『眠れない一族』という本は「バルバラ異界」や「ユニコーン」の構想に影響しているのでしょうか?
A2:その本はとても面白く読みました。
「春の夢」の「眠れない病」は影響を受けています。


Q3:影響を受けた人は?
A3:大勢いますが、やはり手塚治虫先生が一番大きいです。
構成やテーマの深さなどが素晴らしいです。


Q4:芸術新潮』の「年代別に見る画風の変遷」がとても興味深いのですが、年代ごとのカラーのようなものはありますか?
A4:時代背景には自然と影響を受けます。
若い時は画面がホットだったのが30代になると画面が静かになった。
古くなったと思ってデッサンの勉強をし直しました。


Q5:原画展の作品選びには、こだわりがあるのでしょうか?
「これは出したくない」というものも、あったりしますか。
A5:作品の選定は主催者にお任せしています。


Q6:「小鳥の巣」のカラー扉 ↓ の色彩が自分には衝撃的でした。
なぜこの色にしたのでしょうか? 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション6 ポーの一族Ⅰ』2007年 小学館より)

 

A6:覚えていませんが、若かったから単純な理由でバーッと塗ったんでしょう。
(内山先生が「勢いで?」)そう、勢いで。
色を決めるのは今も苦手で、赤青黄とか信号みたいに塗っちゃう。
あ、これも赤青黄だった(笑)。


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最後に内山先生が「この写真をぜひお見せしたい」とのことで、大英博物館での萩尾先生とピカチュウのツーショット写真が。
この後すぐに先生方は退出され、講演は驚くほど定刻通りに終わりました。
内山先生は時間がオーバーしないように気にされていて、萩尾先生を気遣っていらしたのかなと思いました。


私は萩尾先生のお姿を拝見するのが初めてだったのですが、それまで映像で見ていた通りの穏やかで物腰やわらかくユーモアに溢れた方でした。
とても楽しく充実した1時間で、機会があればまた聴講したいと思っています。


記事内でふれた『芸術新潮』の内容にご興味のある方は、よろしければこちらもどうぞ。

(53)『芸術新潮』2019年7月号 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


来月は「ポーの一族」展のレポートの予定です。

 

 

(53)『芸術新潮』2019年7月号

毎月10日頃までの更新を(一応)目指しているこのブログですが、今月はすっかり遅くなってしまいました。


もうご覧になった方も多いと思いますが現在発売中の『芸術新潮』7月号(新潮社)は萩尾先生の特集です。
「画業50周年記念 大特集萩尾望都 少女マンガの神が語る、作画のひみつ」と銘打って90ページにも及ぶ大特集!
しかも美術雑誌だけに図版もレイアウトも、とても美しいんです。
表紙がこちら。

 

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なんと嬉しい描き下ろし!
表紙なので文字が被っていますが、中にも同じ絵が掲載されていて、じっくり鑑賞できます。
バラのアーチの下に佇むエドガーとアラン。
エドガーの腰に大きな鍵が…と思ったら、タイトルは「バラの門の番人」というのでした。


この絵を見ていると「これが今のエドガーとアランなんだなあ」と、しみじみ思います。
ユニコーン」でも感じていましたが今はアランの方が若干背が低いんですね(昔は同じ位でした)。
似たように見える服や靴にもそれぞれの個性が出ているし、体型は旧作の絵に近くなってきたけれどポージングは新しい。
昔と同じではないものの、よく知っている彼らがここにいて、改めて心の中で「おかえり」と呟きました。


表紙をめくると特集の目次。
1ページ全体に「春の夢」連載再開時のカラー予告だったエドガーの絵が使われています。
この絵は「春の夢」の単行本にも収められていないので嬉しい。


特集は次のような構成になっています。


巻頭グラフ
第1章 アトリエ訪問
第2章 クロッキー帳はイメージの宝石箱
第3章 特別インタビュー
第4章 年代別に見る画風の変遷
第5章 タイプ別キャラクター名鑑
第6章 抄録『斎王夢語』
「Mangaマンガ」展レポート


それでは順を追ってご紹介していきます。


★彡巻頭グラフ(12ページ)


ポーの一族」「トーマの心臓」「王妃マルゴ」などの美しいイラストの数々。
この本はすべての図版にタイトルや出典、制作年、サイズ、コメントが付いています。
さすが美術雑誌!


コメントも専門誌ならではの着眼点で面白いのですが、中には完全にファン目線のものも。
例えば「春の夢」Vol. 2 の扉絵のコメントには「ちらりと覗くエドガーとアランの細い足首に萌える」と書かれていて、思わず笑っちゃいました。


巻頭グラフの中で個人的に一番心を惹かれたのは「トーマの心臓」の最終ページの原画です。
雑誌には載らない周囲の余白まで印刷されていて、ホワイトや修正跡も鮮明に出ているんです。
大好きな一枚絵なので本当に嬉しい。


★彡第1章 アトリエ訪問(6ページ)


表紙のイラストを制作中の先生を撮影しています。
広いアトリエですが資料に埋もれて絵を描くスペースが思いのほか狭いのにびっくりしました。
「筆の持ち方がユニーク」と手をアップにしているのが面白い。
使っている画材の写真もあって、絵を描く人は興味深いだろうなと思います。


★彡第2章 クロッキー帳はイメージの宝石箱(10ページ)


特集で私が一番興味深かったのは、この章です。
なんとクロッキー帳がそのまま印刷されている!
先生によると


「まずはクロッキーブックを持って、思いつくままに、プロットやセリフを書いていきます。」
「ある程度かたちが見えて、地図ができあがってから、ネームを起こします。」


その言葉通りクロッキー帳には構想中のキャラクターのスケッチや名前、断片的なセリフ、ストーリー構成、調べ物などがびっしり書き込まれています。
ほぼそのまま作品に使われたセリフもあれば、使われなかったアイデアも。
ポーの一族」で私が気になったのは


「クリフォード医師、写らない男爵――帰り道のあとをつける」
カスター先生宅に招かれた男爵が鏡に映らないことにクリフォードが気づいて、帰りに後をつけるということでしょうね。
この後は、どんな展開を考えておられたのでしょうか。


バンパネラのイキはゼリーのように やわらかい――」
なんか、なまめかしい…。


そして
「火の塔の……アランの死」
あああ、こんな最初から決まっていたなんて…。


クロッキー帳はだいたい月に1冊使われるので今では膨大な量になっているそうです。
他にももっと沢山見せて頂きたいです。


★彡第3章 特別インタビュー(図版ページを含めて22ページ)


女子美術大学の内山博子先生によるインタビュー。
萩尾先生とは旧知の間柄だけあって、5つのテーマに沿って、さまざまなお話を引き出してくださっています。
特に印象に残ったことを拾ってみます。


先生がインスパイアされた絵画や仏像が作品との関連性とともに紹介されているのが面白い。
今度は作品に出てくる音楽の解説も読みたいです。


創作のプロセスの話で出た言葉
「まず、表現したい気持ちや物語が、映像のように頭の中にザーッと浮かぶんです。」
「表情を描くのはとても難しい。(中略)イメージした表情がうまく指先から表れてくれるのがベスト。頭で考えるというより、指先で考えているような感じです。」


好きなモチーフは植物、風、光、窓、階段。
王妃マルゴ」では場面ごとにバラの種類にもこだわって描き分けている。
風と光は画面の演出に。
窓は「内と外との境界」を象徴するものとして、よく使う。


主人公の暗い気持ちや過去の出来事を表したい時は、背景をスミベタにすることが多いかもしれない。


ポーのキャラクターの話
内山先生「作品に描かれていない間、つまり何もドラマが起きていない時、エドガーたちは、どんなふうに過ごしているのでしょう。」
萩尾先生「アランの日常は『一週間』という短篇で描いたことがあります。エドガーは何をしているんでしょうね。本を読んだり、音楽を聴いたり? 吸血鬼だから食事は必要ないはずですが、白いエプロンをつけて目玉焼きなどを作っているようなイメージもありますね(笑)。」
内山先生「それ、番外篇でどうですか?」
萩尾先生「いいですね、日常生活篇(笑)。」
これ、読みたいです!! ぜひ描いてください!!


絵柄の変化について
「絵も一種の『生もの』ですから、実った時が旬だと思うんです。
時が経てば季節も変わるし、土壌も変わる。
同じものを植えたつもりでも、違う花が咲いたりする。
言い換えれば、今の時代にしか描けないものがあるんです。」
この記事のはじめに表紙のエドガーとアランのことを少し書きましたが、今の時代だからこそ、あの2人なんですね。


スマホタブレットで読むことを前提とした作品が増えてきたことについて
「過去の短篇を縦読みに構成し直してみたら、それはそれで面白くなるかもしれないとも思うんです。」
読者の目線を意識したコマ割りを大切にされてきた萩尾先生が、この言葉!
変化を恐れず新しいものに興味を持ち続けることが、ずっと第一線で活躍されている秘訣なのかなと思いました。


★彡第4章 年代別に見る画風の変遷(12ページ)


「図書の家」さんの構成・文による章で、これもとても面白かったです。
70年代、80年代、90年代、2000年代以降と、図版を豊富に使って画風の変遷を解説してくれています。


描写は次第に変化して写実的になり、表現は二次元から映像的に、更に舞台劇のような視覚効果へと進化。
現在は一部にデジタル処理も。


絵柄、ペンタッチ、画面構成といった絵の面だけでなくテーマの変遷も論じていて、とても読み応えがありました。
もっと詳しく多角的に見ていくと1冊の本ができるのではないでしょうか。


★彡第5章 タイプ別キャラクター名鑑(6ページ)


萩尾望都作品目録」の管理人・永井祐子さんの選と文によるキャラクター名鑑。
これがまた楽しいです!
「少年」「大人の男」「両性具有」「少女」「番外編」にカテゴライズして、それぞれをタイプ別に分類し、代表的なキャラクターを数人ずつ紹介するというスタイルです。


例えば私が好きなキャラクターなら、アランは「ちょっとわがままマイペース」タイプで、このタイプは「やや身勝手で周囲を振りまわしつつ、救いも与える重要な役まわり。」うんうん。
ユーリは「生真面目な努力家」タイプで「実直でしっかり者だが不器用な面も。友人たちに愛され、支えられている。」なるほど。


1つひとつのタイプの説明文に愛を感じます。
ちなみにエドガーは「孤高の美少年」として1人だけ別格扱い。
さまざまなタイプがあって面白く、キャラクターやカットのセレクトもさすがです。


★彡第6章 抄録『斎王夢語』(4ページ)


1994年に新潮社から刊行された『斎王夢語』が復刊されるとのことで、その告知を兼ねたページ。
これは萩尾先生が伊勢神宮式年遷宮を記念する舞台用に執筆された戯曲だそうです。


5人の皇女(ひめみこ)が挿絵とともに紹介され、旧版のカバーイラストと口絵も掲載。
古代日本の人物の絵は珍しいので新鮮でした。


★彡「Mangaマンガ」展レポート(4ページ)


大英博物館で開催中の大規模な「Mangaマンガ」展には萩尾先生の原画も展示されています。
ゲストとして招かれた先生が、さまざまなイベントに出席された様子をレポートした記事。


写真が沢山あってわかりやすいです。
現在発売中の『flowers』8月号(小学館)に先生の「大英博物館マンガ展 探訪記」が掲載されているので、併せて読むと更に楽しめそうです。


★彡★彡★彡

 

他にも先生が語る「忘れがたき編集者(山本順也氏)との出会い」、年表、小野不由美さんの特別寄稿、海外版も含めた美しい装丁の書籍の紹介と盛り沢山。
全体として美しく読みやすく充実した特集でした。
特集以外のページは当然ながらほとんどが専門的な美術の記事です。
萩尾漫画は、もはやアートなんですね。

 

芸術新潮 2019年 07月号

芸術新潮 2019年 07月号

 

 

 

記事(21)に追記しました

ヨハンナスピリッツの正体についてコメントを頂きましたので追記しました。
「オスカーが注文したヨハンナスピリッツのパイって、どんなパイ?」と気になる方はぜひどうぞ!

(21)ヨハンナスピリッツのパイの謎 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

(52)「秘密の花園 Vol. 1」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪


それは『flowers』2019年7月号の発売日のこと。
「さあ、今日は『ユニコーン』の続きが読めるぞ~ ♪」と足取りも軽く書店に行って、表紙を見るなり目に飛び込んできた文字は


ポーの一族 秘密の花園
新章突入!


えっえっえ~っ?
ユニコーン」は前号で終わりだったの!?
予告にも「ユニコーン」って書いてありましたけど??


混乱しながら帰宅して本を開く。
多分、ほとんどの皆様は似たような状態だったのではないでしょうか。


1ページ目、雨の中を馬車で行くエドガーとアラン。
何となく「ペニー・レイン」を思わせるオープニング?
アランが「ねえ 馬 曳かせてよ エドガー」。
このセリフ、「一週間」にもあったよね。
ここはどこ? いつの話?
と思っていると


1888年9月1日 レスター郊外」


えっ、1888年と言ったらアランが仲間になってわずか9年後じゃないですか。
リデルをおばあ様の元に帰した直後頃。
わ~、そんな昔まで遡っちゃうんだ!


まだ混乱したままページをめくると、見開きの扉絵が。

 

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この扉絵、前号のモノクロ予告( ↓ )とよく似ていますね。

 

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はっきり違うのは、予告ではアランの目が閉じていたのが開いていること。
でもこのアランの表情、何だか人形みたいで生きているようにも死んでいるようにも見えます。


再び物語に戻ると、馬車が揺れて放り出されたアランが川の中に。
今度は「エヴァンズの遺書」を思い出してしまう。
どうなることかと思っているうちにアーサー登場!
ここでやっと気づきました。


1888年、レスター!
秘密の花園」ってエドガー達とアーサーの出会いの話なんだ!
アーサーがどうしてエドガーをモデルにランプトンの絵を描いたのか、どうして仲間に加わったのか、そのいきさつが語られようとしているんだ!


そう気づいてからは興奮してページをめくる手が止まらない(まあ、いつものことですけど)。
そしてアーサーがエドガーに絵のモデルになってくれるよう頼むところでラスト。
あああ、ここで休載か~!


・*・・*・


旧作をお読みの方はご存じのように、アーサーは「ランプトンは語る」で初登場した人物です。
本人が出てきたのではなく、エドガーを追うジョン・オービンによって語られました。
オービンの言葉を書き写してみます。


「アーサー・トマス・クエントン卿は
幼年時代の事故で左耳がなく
アゴにかけて裂傷がありました
そのため長く髪をのばしていた」

「彼は がんこで無口で
画商にも あいそなしで
親族も村人も そばによせず
結婚もせず
ずっと この館にひとりで住んでいた
年とった下男に身辺のせわをさせるほかは…」


アーサーはエドガーをモデルにして11枚のランプトンの絵を描きました。
1枚目の日付は1888年9月30日。
10枚目が1889年の春。
そして最後が1889年5月20日付の「ランプトンのいない部屋」というタイトルがついた無人の部屋の絵です。
オービンによると


「この後 クエントン卿は絵を描かず
3か月後の8月末に33歳でなくなっています
たくさん血をはいて
後年は病気だったらしい」


今号でエドガー達がアーサーの館に来たのが9月1日なので、1か月後に最初の絵が完成し、エドガーは(多分アランも)少なくとも翌年の春まで滞在することになるんですね。
約80年後の1966年にこの館で集会が開かれ、エドガーの放火によってシャーロッテが死んでしまう…と考えると感慨深いものがあります。


オービンが言っていた「年とった下男」というのがマルコなんでしょうね。
パトリシアがわざわざ「老けたこと…」なんて言っていますし。
他の使用人は別の場所に住んでいたのか…なるほど。
マルコはインド人なのかな。なかなか面白い人ですね。


アーサーがなぜエドガーをモデルにランプトンの絵を描いたのかは、ファンが前から知りたかったことの1つですよね。
その話が何の前触れもなく始まるなんて、嬉しい驚きとしか言えません。
アーサーは自宅にあった古いランプトンの模写を見て子ども時代の初めての友達の面影を重ね、友達に似ていたエドガーをモデルに自分なりのランプトンを描こうとしたんですね。
その子に会って許しを乞いたいけれど、もういない…。
アーサーが大けがを負った幼年時代の事故が、その子と関わっていそうな気がします。

 

・*・・*・


エドガーとアランに関する新事実も出てきましたね。


まずはアランの眠り病。
旧作にはなかったけれど、変化した直後からの病気のようです。
実は私、以前から、エドガーがモデルを務めている間アランはどうしていたんだろうと思っていたのです。
だってそんなに長い間放っておかれたら、絶対に拗ねて出て行きたがるに決まってますもん。


だから「春の夢」で眠り病が出てきた時、眠っていたのかなと思ったのですが、やっぱりそうでした。
このまま春までずっと眠り続けるのでしょうか。
扉絵のアランの表情が人形のようなのは眠り病を表しているのかな。


そして新たに名前が出てきたウィンクル氏。
2人の後見人の弁護士。
エドガーが後見人の存在を何度も口にしていましたが、ついに登場するようですね。
この人は名前に「ポ」がつかないけれどポーの一族なんでしょうか。
それとも人間の協力者?


どちらにしても男爵が生きていた頃からの知り合いではないでしょうか。
私はリデルのおばあ様を捜し出したのも、このウィンクル氏じゃないかと思っています。
この人の登場によって、もしかしたらエドガー達の財源の謎も明かされるかもしれないですね。


それからアランの主治医もロンドンにいるという話ですが…
この人は本当にいるのかな?

 

・*・・*・


他に気になったこと&気に入ったこと。


「一週間」でアランが「ね 馬ひかせて」と言ってエドガーに「だめだ ヘタだもの」とニベもなく断られていますが、今号を読んで「本当にヘタじゃん」と思われた方が多いのではないでしょうか。


アランファンの1人として弁解したいのですが、アランは人間時代(9年前)には乗馬が得意でした。
今回は眠り病を発症していたのと、苦手な雨で暗かったせいだと思うんですよ。
暗いところでは目がよく見えないと前号にありましたからね。
でも「一週間」の時、エドガーの頭には今回のことが浮かんだんでしょう。


つまり言いたいのは、アランはトロいんじゃなくて体調に波があるんです~、元気な時は木登りや崖下りが得意だし水面に突き出た杭の上もヒョイヒョイ渡っちゃう敏捷な子ですよ~、ということなんです。


それからアランの髪形!
旧作ではこの時代はセンター分けでゆるいウェーブですよね。
今号も1ページ目と扉絵ではちゃんとセンター分けになっています。
その後は濡れていたり寝ていたりして、はっきりわからないコマが多いですが。
ウェーブじゃないのはちょっと残念だけど、こんな些細なことが嬉しいです。


アランの話が続きましたが、今号のエドガーで私が一番好きなのは、アーサーに「私もあなたを夜中に喰ったりしませんよ」と言うところ。
ちらっとバンパネラモードを感じさせるところがいいなあ、と。
「私」と言うのを聞くのはシスター・ベルナドットとの会話に続いて2回目です。


別の意味で好きなのは「赤の他人のエドガー・ポーツネルです」。
エドガー、新シリーズではマジメに面白いこと言うようになりましたよね。

 

・*・・*・

 

さて、続きが読めるのが来年の春だなんて待ち遠し過ぎますね。
これから何が起きるのでしょうか。
パトリシアも古い模写を「思い出の絵」と言っているので、絵と関わってくるのかな。
アーサーがポーになるきっかけを作るのかも。


「春の夢」「ユニコーン」「秘密の花園 Vol. 1」と新シリーズを読んできて、萩尾先生が旧作との整合性を保ちながら、隙間を縫うようにして全く新しい世界を巧みに創造されていることに感嘆するばかりです。
そして、「そうだったんだ!」という驚きと「どうなるんだろう?」というドキドキをリアルタイムで感じられることが本当に嬉しいです。


「エディス」後のエドガーとアラン、ポーの歴史、アーサーの話など、読者が知りたかったことを次々に描いてくださるのも嬉しい。
もしかしたら先生はファンの長年の疑問すべてに何らかの答えなりサジェスチョンなりを示してくださるのではないか、とさえ思ってしまいます。


もしそうならキリアンやエディスのその後もわかるのかも!
男爵がいつ頃ポーになったのか、老ハンナの館が村人に襲撃されてレダはどうなったのか、仲間同士でどうやって連絡を取り合うのか(「エヴァンズの遺書」の頃は集会があったようですが)、そんなことも知りたいな。


紀元前から21世紀までの長い歳月に亘るいくつものエピソードが1つに繋がる時、そこにはどんな物語が現れるのでしょうか。
先の先まで楽しみでなりません。
春よ早く来い!

 

 

 

記事(32)に追記しました

宝塚「ポーの一族」のブルーレイとライビュの演技の違いについて追記しました。
原作の「おぼえてるよ 魔法使い」と「だれにものを言ってるんだ え?」の場面の画像も載せました。
ご興味のある方はどうぞ。

(32)宝塚「ポーの一族」ライブビューイングを観てきました~原作ファンの初ライビュ - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

(51)「ユニコーン Vol. 4 カタコンベ」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪


ユニコーン Vol. 4」、今号は私にとって「やっぱりそうか!」と「こう来たか!」の回でした。
まずはいつものように扉絵からどうぞ!

 

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小学館『flowers』2019年6月号より)

 

なっ 何でしょうかっ このシュールな絵は!?
でも、どこかで見た覚えが…


と思ったら、ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」だとわかりました。
「快楽の園」は3枚のパネルからなる祭壇画です。
中央のパネルに「快楽の園」が、左に「エデンの園」が、そして右に「地獄」が描かれていて、この扉絵は「地獄」の一部がアレンジされています。


前の記事で私は「天国」と「地獄」が新しいキーワードになるかもしれないと書きましたが、さっそく出ましたね。


◆◆・*・◆◆・*・◆◆


さて、Vol. 2 では1958年にベニス(ベネチア)のコンサートでバリー=ダイモンと出会ったアラン。
Vol. 3 では1975年のロンドンで再会。
そしてこのVol. 4 の舞台は1963年のロンドン郊外。
ここでまたバリー=ダイモンと再会…と言うより時系列でいくとベニス以来、初めての再会です。


やっぱりそうでしたか!
実は後付けみたいになってしまうんですが、75年の2人のやり取りが58年のベニス以来にしては不自然な感じがしていまして。
そうしたら友人が、75年にアランがバリー=ダイモンを1度「バリー」と呼んでいることを指摘してくれて、58年の時点では「バリー」という名前を知らなかったはずなので間に1回は会っていたんじゃないかなと思っていたんです。


それにしても今回のバリー=ダイモンの登場の仕方、怖くないですか?
池のボートでうたた寝しているアランをいきなり覗き込むなんて。
しかもアランがベニスで付けていたネコの仮面を付けて!
これって、その仮面を5年間大切に持っていたということですよね。
まるっきりストーカーじゃないですか。


そんなバリー=ダイモンに対して警戒しながらも話し相手になるアラン、素直ですね。
でも、その素直さが裏目に出たようです。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


バリー=ダイモンに手を取られてアランが「移動」した先はローマのカタコンベ(地下墓地)。
そこはバリー=ダイモンが誰にも見せたことのない秘密の場所。
何百年もかけて1人で塔を造り続けている。
人骨と石を石膏で固め、蛍光塗料を加えた白いペンキを塗った塔を――。


やっぱり!
前号のモノクロ予告の人骨から何となく雰囲気は予想していたんです。
でも、こんな塔を造っているとは想像していませんでした。
こう来たか!


骨を美しいと言うバリー=ダイモン。
人間のように裏切らず、文句を言わず、嘘もつかないと。
人間? そう言えばファルカがバリー=ダイモンは「バチカンからも人間からも仲間からも嫌われてる」と言っていましたが、誰のことでしょう?
その相手に余程苦い思いを味わわされたのでしょうか。


バリー=ダイモンにとって骨でできた美しい塔のあるカタコンベは、やすらげる「天国」。
でもアランにしてみれば「地獄」ですよね。
扉絵は、バリー=ダイモンの「天国」がアランの目にはああいうシュールな「地獄」に映るというイメージなのでしょうか。


75年に会った時にバリー=ダイモンが「オレはただ…あの…地下を見せようと…きみが面白がるだろうって思ったんだ オレの作った天国を」と言い、アランが「天国? 地獄だろっ」と言っていますが、これは行ったことがあるから出た言葉なんですね。


でもアランが嫌がることを知っているのに「きみが面白がるだろうって思ったんだ」って、ちょっと変?
それにアランは「エドガーに知らない人からモノをもらっちゃいけないって言われてるんだ」とも言っているし、もしかしたら2人は63年から75年の間にも会っていたのかな?

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


バリー=ダイモンは大老ポーを「敵」と呼んで、兄を助けるために自分は戦い続けるのだと語ります。
戦っては負け、干からびてカタコンベに放り込まれるが、100年ほどで回復し、また戦いを挑む。
それでも兄を助けるには敵を滅ぼすしかないし、絶対に平伏しないと。


けれどアランに不毛な戦いだと図星をさされると、姿を消してしまう。
ベニスでブランカに「泣けないって かわいそうだわ」と言われた時もそうでしたけど、言い返せないと逃げる人なんですね。


不気味なカタコンベに置き去りにされてアランは叫びます。


「ユニコ―――ン!!」


ついに出ました!
作品タイトルにしてバリー=ダイモンの本名が!
似合わないからまさかと思っていたけれど、やっぱりそうか!
異母兄フォンティーンが名付けた、フォンティーンだけが知る名前。
んー? そうすると一緒に暮らしていたローマ人の継母と異母姉妹(?)は「ユニコーン」という名を知らなかったんですよね?
なのに「本名」でいいのかな。


ま、何か事情があるのかもしれないので、それはひとまず置いといて。
ベニスでバリー=ダイモンは、やはり言葉にして名前を教えていたんですね。
で、すぐに忘れる暗示をかけていたのにアランは思い出した、と。
それはなぜ?
しかもバリー=ダイモンはその名で呼ばれると逆らえない。
それもなぜ?
もしかするとフォンティーンが、「ユニコーン」と呼ぶ相手に逆らえないように暗示をかけていたのか?
でもバリー=ダイモンはフォンティーンの行き過ぎた行動を止めようとしていたというから、違うかな。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


とりあえずアランが無事に戻ってこられて、よかったよかった。
けどバリー=ダイモンのアランに対する執着は気になりますね。
「友達になりたい」と再三言っていますが、単にアランを気に入ったから本気で友達になりたいのか、兄を助けるためにアラン(またはエドガー)を利用しようとして近づいているのか、よくわからないところがあります。


ベニスで名前を教えたのは、歌を褒められて嬉しかったのと気に入ったからのような気がするし。
ネコの仮面をずっと持っていたのも、純粋に会いたかったからのように思えるし。
でもやっぱり、すべて下心あってのことかもしれない。


前の記事で私は気に入った理由を「兄と同じ金髪の、ピュアでイノセントな同族だから?」と適当に書きましたが、「子どもだから」っていうのもありますよね、きっと。
兄を助けるには「子どものポー」が必要なんでしょうか。


そしてバリー=ダイモンは塔を造って何をしようとしているのか。
何かの儀式?
予想通り「目」を使って移動できるとわかりましたが、アランやエドガーの行動をどうやって把握するのか。
他にどんな能力があって、皆が彼を恐れるのか。
カフェの時計を進ませたのは時間を支配できるということなのか。
カラカラに干からびた状態から、どのようにして回復するのか――それがアラン再生に繋がるはず。
まだまだ謎だらけですね。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


今号は最後にやっとエドガー登場。
2人が修道院に住んでいるというのは初めてですね。
神父も同族?
ルチオに滞在先をお世話してもらったのでしょうか。


エドガーの秘密主義は前からわかっていましたけど、アランもエドガーに言わないことが結構あるんですね。
じゃあベニスでの一件も詳しく話していないのかもしれません。
2人のこの距離感、いいな。
「タマに ひとりでいるのは楽だ」で「一週間」を思い出しました。


今回はアランの出番が多くて絵もきれいで嬉しい私です。
個人的に一番嬉しかったのが、特に何ということのないこちらのコマ。

 

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「エディス」の頃の顔に似てるなあと思うんですよ。
旧作と似ている絵を見つけると喜んじゃうって、オールドファンの、さがですかね。


今月も予告がカラー・モノクロ共に描き下ろしで、それもとても嬉しいです!

 

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「運命の相手を求める、人ならざる者たちの想いは――」

 

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「永遠を生きるゆえに、切実なエドガーの想いは――!?」


ユニコーン」、まだまだ先は読めません。
次号も本当に楽しみです!