亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(4)エドガーの気持ち③

「はるかな国の花や小鳥」の年代設定ははっきり示されていませんが、「小鳥の巣」の中でエドガーが “あの幸福な婦人(レディ)” とエルゼリを回想していることから、「はるかな国の花や小鳥」が先、「小鳥の巣」が後の話だということがわかります。


「小鳥の巣」は1959年のお話です。
舞台は西ドイツの全寮制ギムナジウム


もともと学校に来ることに気が進まなかったアランは、勝手な行動をとります。
グロフ先生の懐中時計の蓋の内側に、メリーベルに似た娘の写真が付いているのを見て時計を盗み、それをエドガーに厳しく咎められて不満を爆発させました。


「そうとも
きみはメリーベルを愛してる
愛してる 愛してる 愛してる
それぐらい最初っからちゃんと知ってる
でも沼のなかまでは手が出せないだろ!
ほかのことばかり考えてる!
学校にくるの
最初っから気にくわなかったんだ!
リーベルだってロビン・カーだって
どうでもいいじゃないか
ぼくのことだけ考えてくれなけりゃいやだ!」


エドガーは独白します。


「どうしてメリーベルをほうっておける?
もう ひとつに とけこんでいるんだよ
ぼくとメリーベルは二人して
きみを愛してるよ
それでなぜいけない?
なぜ ここにこうしているってことが
答えにはならない?
なぜ だまってきみのそばに
いるだけでは」


この「ぼくとメリーベルは二人してきみを愛してる」という言葉は、1本のバラを手折って「あなたの愛 あなたの妹の愛」と言ったエルゼリの言葉と呼応しているように聞こえます。
この頃にはもう、エドガーの愛とメリーベルの愛は同化していたのでしょう。


・・・・・・・・・・・・

 

さらにその後、アランがキリアンたちにペーパーナイフで心臓を刺されそうになってエドガーに助けられ、「ぼくが散ってしまっても きみは泣きもしないんだろ」と言った時には、エドガーは蒼ざめた顔で平手打ちします。
私にはその顔が「泣くに決まってるじゃないか! ぼくの気持ちがわからないのか」という心の叫びを映しているように見えます。
そして「ぼくのそばから はなれるな!」という一言には、「もう二度とぼくに、こんな恐ろしい思いをさせないでくれ」という気持ちが込められているように感じるのです。

 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション6 ポーの一族Ⅰ』2007年 小学館より)


このようにエドガーの気持ちは微妙に変わっていったのではないでしょうか。
次では再びアランの気持ちに戻ります。


(初投稿日:2016. 12. 14)