亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

*ポー復活で舞い戻ってきたファンがゆっくり綴ります。ネタバレご了承ください

(12)この作品は、いつ頃のお話?~②「ピカデリー7時」

 

「ピカデリー7時」の年代を考えるには、1つ大きなヒントがあります。
第2シリーズ開始に先立ち『別冊少女コミック』1974年12月号に「ポーの伝説によせて」と題された「1ページ劇場」が掲載されましたが、その中に次の1文があるのです。


「戦争のすこしまえ ロンドンで殺人事件が起こりましたが 死体が見つかりませんでした」


この戦争が何を指すのかがわかれば、おおよその年代が推測できそうです。
イギリスで戦争というからには2つの大戦のどちらかでしょうから、このようになるでしょう。


第1次世界大戦(1914~18)の少し前→1910年頃?
第2次世界大戦(1939~45)の少し前→1930年代中頃?


「ホームズの帽子」が1934年のロンドンを舞台にしているので、それと比較もしながら、手がかりになりそうなものを見ていきましょう。


①アランの髪
「ピカデリー7時」のアランの髪は、センター分けでウェーブのかかった前期のスタイルです。
「ホームズの帽子」では後期の横分けサラサラヘアになっていますから、それより早い時期のように見えます。


②室内の照明
作品中、室内の照明に電気は使われていません。
代わりにポリスター卿の家には複数のランプが置かれ、ラッドの部屋では壁に蝋燭立てが取り付けられています。
調べてみるとイギリスに電気が登場したのは1880年代ですが、設備に高額の費用がかかるため家庭に入れられるのは富裕層に限られていたようです。
また、発電機ごとに出力が異なっていたので電気導入の進捗が遅れ、一般家庭に広く普及したのは1930年代に全国高圧送電線網ができて全国一律の電気供給が始まってから。
それまでは蝋燭、オイルランプ、ガスが使われていたそうです。
「ホームズの帽子」では室内に電気スタンドやシャンデリアが描かれていますし、クレイバスが消えた直後にパッと部屋の灯りをつけていますから、電気が引かれていることが明らかです。
それに比べると「ピカデリー7時」はもっと早い時代、1930年より前と言えそうです。


③馬車とタクシー
エドガーとアランの登場シーンで、2人はタクシーに乗っています。
そしてその傍を辻馬車(乗合馬車)も走っています。
イギリスで現代のマイカーや都市バスの代わりとして馬車が活躍したのは20世紀初頭まで。
また、タクシーが増加したのも20世紀に入ってからだそうです。
つまり両方が混在している時代は20世紀初頭ということになります。


ここまでで「第2次世界大戦(1939~45)の少し前」という可能性はほぼなくなり、「第1次世界大戦(1914~18)の少し前」の線が濃厚になりました。
続けてファッションにも注目してみましょう。


④シルクハット
エドガー達の登場シーンでは、往来の紳士達がシルクハットを被っています。
シルクハットは長いあいだ男性のフォーマルな帽子でしたが、1910年代にはすたれて山高帽やカンカン帽に変わったようです。
この作品では紳士が皆一様にシルクハットを被っていますから、1900年代頃かな、という気がします。


⑤女性のファッション
リリアとメイド(フリーダ)は2人とも足首まで隠れるロングスカートをはいています。
第1次世界大戦が始まると動きやすいようにスカート丈も短くなったので、この長さは戦前のものと言えます。
リリアの服は、レースやフリルが多用された優美なデザイン、詰まったネックライン、ウエストのサッシュ(飾り帯)と、1900年代の特徴が見られます。
装飾的でツバの広い帽子も、この時代の流行です。


このようにファッションから、どうやら1900年代と考えてよさそうです。


「戦争のすこし前」の「すこし」にこだわると1900年代後半かなと思えるのですが、馬車とタクシーが混在する時期が20世紀初頭ということと次の「はるかな国の花や小鳥」との兼ね合いで、ひとまず1900年代前半としてみます。


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仮説

「ピカデリー7時」=1900年代前半頃

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(初投稿日:2017. 4. 4)