亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

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(54)2019年7月の女子美術大学特別講演に行ってきました

女子美術大学では毎年7月にオープンキャンパスの一環として同大学の客員教授である萩尾先生の特別講演を行っています。
今年も7月15日(海の日)に開催されましたので、私も友人と一緒に初めて聴講してきました。
会場は東高円寺の杉並キャンパス。
予定時間は15時から16時までの1時間です。

 

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定員250名の教室は満席でした。
開始予定時刻の少し前に萩尾先生が内山博子教授とともに登壇。
内山先生は『芸術新潮』7月号で萩尾先生にインタビューなさっていた方で、この講演ではいつも司会進行を務めておられます。
お2人は気心の知れた間柄だけに、とてもなごやかな雰囲気の中で始まりました。


今回は告知の時にテーマが書かれていなかったので何の話をされるのかなと思っていたら、タイムリーな話題でした。


大英博物館マンガ展
②『芸術新潮』7月号
③質問コーナー


講演はスクリーンに映し出された写真を見ながらお話しするスタイルで進められました。
それではメモを基にレポートを書いてみたいと思います。
先生方と質問者の方の言葉は正確なものではなくニュアンスですのでご了承ください。
文中の P は写真です。


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 ①大英博物館マンガ展

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ロンドンの大英博物館では5月23日から8月26日まで大規模なマンガ展を開催中で、萩尾先生の原画も出展されています。
オープニングの前に先生が現地を訪れた際の話を聴かせてくださいました。


P:博物館前のお着物姿の萩尾先生
レセプションの時に撮った写真だそうです。


P:会場エントランスの『不思議の国のアリス』のパネル
イギリスでは「マンガは子どものもの」という意識が強いので、大人にも親しみを持ってもらうためにアリスを入口にしたそうです。
最初はイギリス人にマンガの読み方をレクチャーするコーナー。


P:「ZONE 1」の看板
会場は6つのゾーンに分かれていて、その1つ目の看板。
「The art of Manga マンガという芸術」と題されたゾーンで、内山先生が「この言葉が素晴らしい!」とおっしゃっていました。


展覧会ではマンガの前史として浮世絵も展示。
萩尾先生も浮世絵から影響を受けたそうで、2枚の絵が紹介されました。


P:葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 

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P:同「冨嶽三十六景 尾州不二見原」

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(モノクロで、しかも不完全で申し訳ありません。
そのうちちゃんとしたカラー画像を入手できたら入れ替えます。)

 

中学の美術の教科書に載っていて、特に構図がすごいと思ったそうです。
「木の描き方も現在とは違う」とも。


再びマンガ展の話。


P:『flowers』2018年7月号(小学館)表紙 ↓ のタペストリ 

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会場では天井から沢山のタペストリーが吊り下がっていて、この絵はキュレーターのニコルさんがとても気に入ったので選ばれました。
原画ではなく雑誌の表紙を使ったのは、イギリス人に日本のマンガ雑誌とはこういうものだと紹介したかったから。


P:「ポーの一族」の原画展示風景
ポーの原画を展示したのはイギリスが舞台なので。
そもそもイギリスを舞台にしたのは、妖精や怪物が登場するイギリスのファンタジーが好きだったから。
ポーシリーズを描き始めた時はまだイギリスに行ったことがなくて、初めて行った時には石の文化だと感じたそうです。
その後、5か月の語学留学もなさいました。


イギリスつながりでダーウィンの話。


P:「進化論のガラパゴス」数ページ分
私はまだ読んだことがないのですが「進化論のガラパゴス」は2007年に発表されたコミック旅行記です。
松井今朝子さんのお誘いでガラパゴスに行ったらとても面白かったのでダーウィンのことを調べたとか。
旅先でのお話を少し聴かせてくださいました。


P:「柳の木」の原画展示風景
P:「柳の木」全ページ
マンガ展では「柳の木」が全ページ展示されました。
そこでこの講演でも全ページが映し出され、先生が1コマずつ解説してくださいました。
この作品の執筆の動機は「知り合いの知り合いが子どもの頃にお母さんを亡くして、お母さんを許せないでいる、という話を聞いて親子を和解させたかったから」。
最初に思いついてから「3年寝かせていました」と。


P:ジャパン・ハウス(外務省の対外発信拠点)のコミック売場
もちろん萩尾作品も並んでいました。
ここではコミック以外にも工芸品などさまざまな日本製品が販売されていますが、先生曰く「一番売れるのはサランラップ(笑)。日本のラップは優秀なんですって」。
ここで行われたトークイベントに先生も出席されました。


P:日本藝術研究所
P:「半神」全ページ
ニコルさんはこの研究所の所長で、ここでワークショップが開かれました。
ワークショップで「半神」が取り上げられたので講演でも全ページが映し出され、先生が解説してくださいました。
先生はもともと双子が好きで「双子は鏡の裏表のようなもの、相反するものではないかと思って描いた。双子は神秘的で対比に良い」とのこと。
作品のラストについて「主人公は妹を憎んでいたけれど愛していた。でも、その兼ね合いがわからない。そんな時は泣くしかない」。


この後で「愛と憎しみをそれぞれずっと掘り下げていくと、根っこのところには同じ川が流れている。愛と憎しみの根は同じ」とおっしゃっていました。
それがとても印象的で、「柳の木」でも息子はお母さんを恨みながらも愛していたんだな、同じことなんだなあと思いました。


ジャパン・ハウスだったか日本藝術研究所だったかで、「柳の木」について参加者から「お母さんはなぜ傘をさしているのか、なぜ同じ服なのか」という質問がありました。
マンガを読み慣れていればわかることなのですが説明するのが大変そうだったので、「それは男の子の家のアルバムにあるお母さんの姿だから」と答えられたそうです。
最初にその写真を出そうかと思ったけどネタバレになるのでやめたとのことでした。


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 ②『芸術新潮』7月号

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P:表紙 

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(2019年 新潮社)


内山先生が「この本を買われた方は?」と呼びかけると、ほとんどの人が手を挙げました。
表紙の絵ですが、実は「ユニコーン」の連載が決まって(再開の時でしょうか?)時間があったので、カラー予告用に何枚か描いていた中の1枚なのだそうです。
『flowers』の編集の方に「この絵を『芸術新潮』にあげてもいいですか」と聞いたら「うーん」と渋い顔をされたけど了承してもらえたとか。
しかも「今日は新潮社も小学館も来てる(笑)」と。


P:p. 28~33 アトリエ訪問

 

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P. 29と31に写っている上の胸像はウィーンで購入した皇帝の像で、絵を描く時の参考にしているそうです。

 

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P. 31で先生の後ろにある小さな写真。
3人の人物が並んで立っていますが、これはポーの新作用の参考に。
多分、「ポーの一族」展のために描き下ろされた、こちらの絵のことだと思います。

 

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(「バラのロンド」ポストカード)


P:p. 36~45 クロッキー
「顔を描くとセリフやシーンが思い浮かぶので忘れないよう書き留める」
「大きいクロッキー帳は手を大きく動かせるのでアイデアが浮かぶ」
などとおっしゃっていました。


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  ③質問コーナー

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大勢の方が手を挙げる中から内山先生が指名されました。


Q1:「まんがABC」が再録される予定はないのでしょうか?
A1:調子が悪い時に描いたので単行本から外してもらっています。
私が生きているうちはイヤです。


ガーン! このお答え、この日一番の衝撃でした。
「まんがABC」は『別冊少女コミック』1974年6月号に発表された24ページの作品です。
アルファベット順のキーワードからマンガの描き方を手ほどきする内容で、先生のこだわりが詰まっていて読み応えがあります。
どうして再録されないのだろうと思っていましたが、先生ご自身の希望だったとは!
更に「A・アップから始まるけどUPなので間違っている。最初からツッコミどころで…(笑)」と。
先生、そんなこと誰も気にしませんよ!
でもきっと他にも読んでほしくない理由があるのでしょうね。残念です。


ちなみに、これとは別に『別冊少女コミック』1977年1月号から1979年3月号まで連載された「萩尾望都のまんがABC」という、より実践的な作品もあって、こちらは一部が『萩尾望都――愛の宝石――』(2012年 小学館)に再録されています。


Q2:ダニエル・T・マックスの『眠れない一族』という本は「バルバラ異界」や「ユニコーン」の構想に影響しているのでしょうか?
A2:その本はとても面白く読みました。
「春の夢」の「眠れない病」は影響を受けています。


Q3:影響を受けた人は?
A3:大勢いますが、やはり手塚治虫先生が一番大きいです。
構成やテーマの深さなどが素晴らしいです。


Q4:芸術新潮』の「年代別に見る画風の変遷」がとても興味深いのですが、年代ごとのカラーのようなものはありますか?
A4:時代背景には自然と影響を受けます。
若い時は画面がホットだったのが30代になると画面が静かになった。
古くなったと思ってデッサンの勉強をし直しました。


Q5:原画展の作品選びには、こだわりがあるのでしょうか?
「これは出したくない」というものも、あったりしますか。
A5:作品の選定は主催者にお任せしています。


Q6:「小鳥の巣」のカラー扉 ↓ の色彩が自分には衝撃的でした。
なぜこの色にしたのでしょうか? 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション6 ポーの一族Ⅰ』2007年 小学館より)

 

A6:覚えていませんが、若かったから単純な理由でバーッと塗ったんでしょう。
(内山先生が「勢いで?」)そう、勢いで。
色を決めるのは今も苦手で、赤青黄とか信号みたいに塗っちゃう。
あ、これも赤青黄だった(笑)。


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最後に内山先生が「この写真をぜひお見せしたい」とのことで、大英博物館での萩尾先生とピカチュウのツーショット写真が。
この後すぐに先生方は退出され、講演は驚くほど定刻通りに終わりました。
内山先生は時間がオーバーしないように気にされていて、萩尾先生を気遣っていらしたのかなと思いました。


私は萩尾先生のお姿を拝見するのが初めてだったのですが、それまで映像で見ていた通りの穏やかで物腰やわらかくユーモアに溢れた方でした。
とても楽しく充実した1時間で、機会があればまた聴講したいと思っています。


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(53)『芸術新潮』2019年7月号 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


来月は「ポーの一族」展のレポートの予定です。