亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(59)「モードリン」「花嫁をひろった男」~映画みたいなサスペンス

1969-73年作品、今回はサスペンス2編です。
まずは私が特に好きなこちらから!


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「モードリン」

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(『萩尾望都作品集2 塔のある家』1995年 小学館より。以下同)


こちらは『週刊少女コミック』1971年29号に掲載された40ページの作品です。
タイトルの「モードリン」は主人公の名前。
もうすぐ12歳になる少女です。


ある嵐の夜、眠れなくて部屋を出たモードリンは暗がりの中で叔父ウイルの姿を見かけます。
ウイルは階段の下を気にしていたようでした。
モードリンが下りて行くと、そこには庭師のクレーじいやが倒れていました。


けれど誰にも言わずベッドに戻ったモードリン。
翌朝、母からクレーじいやが階段から落ちて亡くなったと聞かされます。


モードリンは知っていました。
クレーじいやは本当はウイルに殺されたのだと。
でも誰にも言わない。
なぜならウイルが大好きだから。
秘密を共有していることが楽しかったから。


そうして半年ほど過ぎた頃、父の友人ブライスが家に滞在するようになり、事態は変わり始めるのでした――。


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私はこの作品を読むたびに上質なサスペンス映画を観たような気持ちになります。
1ページ目はモードリンのモノローグで始まるのですが、ここからもう作品の世界にグッと引き込まれるのです。

 

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「それが
クレーじいやでも
マーサばあやでも
運転手のベンでも
―――だれでもいい


たいせつなのはね
あたしが
知っているということなの
すてきな
ウイルおじさん

そうよ


だれにも
言いやしないわ
こっそりしまっておく


でもね
ウイルおじさん


知っているのよ
三月の あの
嵐の夜のこと
あたし――モードリンは
見たのよ」


大人びた少女の顔とモノローグ、いびつなインテリア。
惹きつけられる導入ですよね。
読者は最初からウイルが犯人だとわかって読み進めることになるのです。


ブライスの登場まで物語は動かず、主にモードリンの心の声が続きます。
大人びているけれど実はまだ背伸びしているだけの子ども。
全編を通して、その危うさがスリリングです。


映画的だと感じるのは独特のカメラアングルも理由の1つだと思います。
例えばこちらはブライスが、クレーじいやの死と同時に大時計が止まった話を聞く場面。

 

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ブライスは作家なのですが探偵のようですね。
1コマ目のブライスの顔の次にコーヒーと煙草の吸いさしを置いて時間の経過を表す。
大時計をアップから徐々に引いて下から見上げる人間を映す。


そしてこちらはラスト近くのモードリンとウイルの会話の場面。

 

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この時2人は向き合うように座っているのですが、モードリンが逆さに描かれていて緊迫感が増しています。
普通の漫画には、なかなかない表現ですよね。


また、この作品に限った話ではありませんが、周りの大人達の描写がリアルなことや建物・家具などが本物らしく見えることも映画を思わせる一因かもしれません。


私がこの作品を初めて読んだのは中学生の時でしたが、読みながらとてもドキドキしたのを覚えています。


最後に初期特有のローマ字の書込みをオマケに。


「〈裏話〉
この作品は69年の春に構成したものなのだ」

「そうして2年前の下絵にペンを入れると ひどくおかしな感じがする」


作品の発表は71年ですが『萩尾望都作品集』収録の最終ページには「69年5月」とあります。


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「花嫁をひろった男」

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「花嫁をひろった男」は『週刊少女コミック』1971年春の増刊号に掲載された32ページの作品です。
ストーリーは――


ある朝、オスカーが出勤途中に占い付きの体重計(こんな面白い物があるのでしょうか?)に乗ると、その日の運勢は「たいへんラッキーな ひろいものをします」。
でもそんな拾い物などないまま夜になり帰路につくと、車の前に突然ウエディングドレス姿の女の子が!


花嫁はキャンディ・18歳。
その日の午後、教会で結婚式を挙げたばかり。
ところが花婿はハネムーン先のホテルで毒入り紅茶を飲んで死亡。
しかも過去に2回結婚していて、毎回12時間以内に花婿が死んでいるという話。


オスカーの父である刑事はキャンディに殺人の容疑をかけ、キャンディの弁護士は精神鑑定を受けさせようとします。
キャンディはラッキーな拾い物のはずと、無罪を立証するために結婚式を挙げるオスカー。
はたしてオスカーは12時間以上生きていられるのか――!?


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シリアスな「モードリン」と違って、こちらはコミカルでおしゃれなサスペンス映画風。


オスカーは「トーマの心臓」のオスカーと顔も名前も同じです。
初期作品には同じ顔のキャラクターがちょいちょい出てきますが、オスカーという名前で登場したのはこれが初めて。
今度オスカーの変遷というのも辿ってみたいなと思っています。


そう言えばこの作品にはローマ字で「ユリスモール バイ(ハン)」「トーマ シューベ(ル)」と書かれているコマがあるんです。
トーマの心臓」「11月のギムナジウム」を(先生曰く)あてどなく描いていらした頃だったのでしょう。

 

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(ローマ字の左上部分に YURISUMOULU  BAI/TOMA  SYUBE)


キャンディは、あっけらかんとした明るさが魅力的。
初期にはこういう前向きなヒロインがよく登場します。

 

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サスペンスとして面白くコメディとしても楽しい「花嫁をひろった男」。
夫のことを「ハズ」と言うのが当時はおしゃれに聞こえました。
ネタバレになってしまうので画像は載せられませんが、私はラストの3コマが洒脱で好きです。


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記事内の作品はこちらで読めます

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「モードリン」「花嫁をひろった男」ともに

ルルとミミ (小学館文庫 はA 44)

ルルとミミ (小学館文庫 はA 44)