亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

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(63)「11月のギムナジウム」~もうひとつの「トーマの心臓」

今月は少々出遅れてしまいました。
もし何度か来てくださった方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。


さて、1969-73年作品シリーズ、今回は最近「トーマの心臓」関連の記事が続いたこともあり「11月のギムナジウム」の感想を書いてみたいと思います。

 

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左からフリーデル、オスカー、トーマ、エーリク、(多分)アンテ
(『萩尾望都パーフェクトセレクション2 トーマの心臓Ⅱ』2007年 小学館より。以下同)


「11月のギムナジウム」は『別冊少女コミック』1971年11月号に掲載された45ページの作品で、萩尾先生の最初期の作品の中では最も有名かもしれません。
それだけに思い入れのある方も多いのではないでしょうか。


皆様もご存じのように、この作品には「トーマの心臓」と同じキャラクターが登場しますが、2つは別の物語です。
そのあたりの事情を先生が『萩尾望都パーフェクトセレクション2 トーマの心臓Ⅱ』に書いておられるので、一部引用させて頂きます。


「実は、趣味で『トーマの心臓』をたらたらとあてどなく描いているうちに、(そのころ仕事もあまり無くヒマでしたので、あてどなく描く話は何作かありました。うちの一つです。)違う枝葉がのびるように、するすると『11月のギムナジウム』という別の話が浮かんでしまいました。
それで、こちらを先に発表いたしました。
短篇なので、当時としては発表しやすかったのです。
キャラが同じなのは、そういう事情なのです。」


ここから先はストーリーを詳しく書いていますのでネタバレNGの方はご遠慮くださいませ。記事の最後に作品が収録されている本をご紹介しています。


・・・・・・・・・・・・


物語は11月の第1火曜日にエーリクがヒュールリンギムナジウムに転入してくるところから始まります。
両親の不和が原因で成績も生活態度も悪くなり、前の学校を退学になったのでした。
転入早々に遭遇したのは、自分とそっくりな少年・トーマ。
しかしエーリクを見たトーマは笑い出し、エーリクはトーマを平手打ちしてしまいます――。


私が「11月のギムナジウム」を読んで最も感じた「トーマの心臓」との違いは、何と言っても「トーマの心臓」では物語の冒頭で死んでしまうトーマが生きて動いていることでした。
この作品はフリーデルやオスカーを含めた少年達の群像劇で主人公はエーリクのように見えますが、私はむしろトーマが主人公のように感じます。


リーデルはトーマを「おとなしくてきれい」な「ギムナジウムのアイドル」で「ポーカーフェイス」、「あんなに なにを考えているかわからない子もいないな…だれに対しても人あたりがよすぎる分だけナゾだね」と評しています。
このあたりは「トーマの心臓」と共通したイメージですが、こちらでは授業を計画的にエスケープしたりオスカーをきっぱりと拒んだりして、幻ではなく生きて意思をもった少年だと実感します。


実は双子のトーマとエーリク。
エーリクと同じ名前だった父は2人が生まれる前に、まだ15歳で亡くなりました。
すでに他の人と結婚していた母は、長く家を空けていた夫に自分達の子だと偽ってエーリクを育て、一方のトーマは父の実家に引き取られました。
亡き父を兄、祖父母を両親、父の姉妹を姉として。


「…ぼくの命は…とじこもっている
…秘密は…封印された つぼの中…」


家族に愛情をもって育てられたトーマ。
けれど父が残した手紙などから秘密を知っていきます。


でも彼は誰にも言いませんでした。
きっと言ってはいけないと思っていたのでしょう。
家族が自分のためを思って秘密にしているのだから、その愛情に応えるために気づかないふりをしなければならないと。
それが無意識に体に染みついて、学校で「ポーカーフェイス」と言われる子になったのかもしれません。


でも心の中は苦しかったはず。
もし生き別れになった兄弟がいることも知っていたのなら自分の気持ちをわかってくれるのではないかと思っただろうし、母のもとにいる兄弟が羨ましかったかもしれません。
エーリクに初めて会った時、その名前と亡き父ゆずりの巻き毛からすぐに兄弟だとわかったものの、気持ちは複雑だったのではないでしょうか。
笑ったのは運命のいたずらに対してだったのかな、という気がします。


草地でエーリクと2人きりになった時、トーマはエーリクに握手を求めますが拒否されます。
もしこの時エーリクが応じていたら、トーマはどんなにか救われただろうと思います。


だけどエーリクにしてみれば、第一印象が最悪だった相手。
それにオスカーに仕返しさせたと思っているし、泣き顔まで見られたのですから握手なんてするわけがありません。
トーマもエーリクが何も知らない様子なので、まだ話す時期ではないと思ったのでしょう。


そして雨の中、エーリクのふりをして母の顔を見に行くトーマ。
初めての母のキス。
でもエーリクではないと言えない。
雨に打たれながら街灯の下で嗚咽する姿が切ないです。


肺炎になり、家族への最期の言葉は「ごめんよ」でした。
「ありがとう」ではなく「ごめんよ」。
それは死んでしまうことに対してでしょうか。
それとも自分の存在そのものに、だったのでしょうか。


・・・・・・・・・・・・


この作品はトーマ以外の少年達もしっかり描かれています。


エーリクは「トーマの心臓」ほどには甘えん坊ではありませんが、直情的で意外と素直で可愛い。
転入してきた時、エーリクは自分の出生の秘密を何も知りませんでした。
そしてすべてを知った時、トーマはもうこの世にいませんでした。


トーマが死の床で自分の名前を呼んでいた。
1人で抱えるには重過ぎる秘密をずっと胸に秘めていた、双子の兄弟が…。


「なぜ言わなかったんだろう
なぜそれを ぼくにもくれなかった
なぜ一人で しまっていたんだ!
なぜ一人で ママに会いに来たんだ!」

「草地での…
あの一瞬だけが…
二人だけの世界だった
――トーマ…」


きっとエーリクはトーマの家を訪れて、生前の彼の様子をもっと知ることができるでしょう。
そしてその心を感じながら、この先ずっと生きていくことになるのかなと思います。


・・・・・・・・・・・・


オスカーは不良っぽいですが、トーマの訃報を聞いて1人で温室(?)で追悼しているところが温かいし、やっぱりかっこいい。
リーデルは親切で友人思いで、サイフリートの事件前のユーリはきっとこんな委員長だったんだろうなと思います。
ローマ字で「トーマの心臓 ユリスモール」と書かれているコマがあるので、ご紹介。
隣のコマには「ページが足りない!」と書かれています。

 

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右のコマ/“TOMA NO SINZOU”YURISUMOURU
左下のコマ/PEZI GA TARINAYI !


他に、扉絵の右から2人目の子は、フリーデルのセリフの中に「アンテ」という名前が出てくるので多分アンテなのでしょう。
また、「小鳥の巣」のテオに似た子もチラッと登場しています。

 

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絵の面で私が特に印象に残ったのは、2つ上の画像のすぐ下にある、こちらのコマでした。
たった1コマでセリフも全くないのに、これだけでトーマが重篤だと表現してしまっていて、すごいと思いました。

 

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冒頭のコマの、雨の中の堅牢な校舎と門に佇むエーリックのシルエットは、何度か出てくる雨の場面やラストシーンとリンクしているように感じます。

 

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それからフリーデルがトーマとエーリクの出生について語る場面で、2人の父の姿が繰り返し何度も描かれているのも映像的で好きです。


・・・・・・・・・・・・


私は詳しくないのですが、少女漫画には今では「ギムナジウムもの」というジャンルが確立しているそうですね。
この作品は、その先駆けと呼べるのでしょうか。


寄宿学校という閉じられた世界での1か月の物語。


晩秋の冷たい雨と木枯しの音

教室のざわめき

生徒達が歩き走る靴音

日常的な小さな騒ぎや悪ふざけ

好奇心と憧れ

人けのない週末

やり場のない苛立ち

微熱をもった孤独

傷ついて流す ひそやかな涙…


――「11月のギムナジウム」からは思春期の少年達の息遣いが聞こえてくるようです。


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この作品はこちらで読めます

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11月のギムナジウム (1) (小学館文庫)

11月のギムナジウム (1) (小学館文庫)

  • 作者:萩尾 望都
  • 発売日: 1995/11/17
  • メディア: 文庫
 

 

 

(62)オスカーの系譜を辿ってみました

トーマの心臓」のオスカーと言えば、ハンサムでカッコよくて頭もよくて機転がきいて統率力があって、しかも優しくて頼りになって…(以下エンドレス)
とにかく魅力的なお方ですね。

 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション2 トーマの心臓Ⅱ』2007年 小学館より)


「トーマ」にオスカー・ライザーとして登場するまでに色々な作品に出演していたことは皆様よくご存じの通り。
そこで今回は「トーマ」に至るまでの系譜を辿ってみたいと思います。


その前に、まずは「オスカーにモデルはいるのか?」という話から。
萩尾望都作品目録」様の2015年4月17日付のニュースに萩尾先生の言葉がありますので引用させて頂きます。
スタジオライフ創立30周年記念DVDに収められているメモリアルトークの中で、「オスカー・ライザーのモデルになった人はいらっしゃるんでしょうか」という問いに、こう答えられています。


「顔はですね、若い頃のポール・マッカートニーが好きだったんですよ。
眉のつり上がり具合がすごく良くて、ポール・マッカートニー
それから顔を半分隠すあたりは、サイボーグ009から来てるんじゃないかと。
ちょっと拗ねてるところは、ジェームス・ディーンとかのアメリカ映画の青春群像の中から来ているんじゃないかと。」


(引用元はこちらです。他にもユーリのモデルやタイトルの意味などをお話しされていますので「トーマ」ファンの方はぜひどうぞ ↓)

スタジオライフ「トーマの心臓」DVDに収録された対談に萩尾先生が出演されています。 - ニュース:萩尾望都作品目録


ああ~、ポール・マッカートニーに009にジェームス・ディーンですか!
なるほど納得です。


では、そういう感じのキャラクターを古い作品から順に探していきましょう。
萩尾望都作品集』(1995年 小学館)の各作品の最後に書かれている年月を基にします。
画像も『萩尾望都作品集』から使わせて頂いています。


①「ケーキ ケーキ ケーキ」(1970年5月)クレマン

 

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異論のある方もいらっしゃるかもしれませんが、私はこのクレマンがオスカーの原型じゃないかと思うんですよ。
ヒロインの邪魔をする憎まれ役ではありますが、自信家のところが「11月のギムナジウム」のオスカーっぽい。
何よりも髪と、つり上がった眉がオスカーでしょ?
オスカーの癖である髪をかき上げる仕草も、ちゃんとしてるんですよ。ほらね。

 

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②「雪の子」(1971年1月)エミールの親族の少年

 

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一番右の少年です。
名前はないのですが顔が完全にオスカーですよね。
この4人はエミールの遊び相手として集められた親族で、全員エミールを嫌っているという役どころ。
1人ひとりの個性までは描かれていません。


③「ジェニファの恋のお相手は」(1971年1月)ロンリー

 

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ヒロインの相手役。
ロンリーはプレイボーイですが、魂がアリスおばあちゃんと入れ替わったジェニファを本気で好きになります。
女の子と遊んでいても本物のジェニファと数学の1席を争うほどの頭のよさや、モテるところ、優しいところがオスカーらしい感じです。


④「花嫁をひろった男」(1971年3月)オスカー

 

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ついにオスカーという名前になりました!
しかも主役!
花嫁姿のキャンディをハイウェイで拾って連れて帰り、事件に巻き込まれます。
コメディータッチの作品なのでコミカルな面もあり、お人好しですが、頼れる男でカッコいいです。


⑤「11月のギムナジウム」(1971年9月)オスカー

 

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言わずと知れた「トーマ」の姉妹編。
なので「トーマ」のオスカーと顔は同じですが性格はもっと不良っぽい感じです。
トーマと同じクラスにいたいために1年落第したという噂あり。
同級生より1つ年上で大人っぽいところは「トーマ」のオスカーと共通しています。


⑥「3月ウサギが集団で」(1972年1月)一垣一丸

 

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(2コマ目は理科の高尾先生です)


これも異論があるかもしれませんが…。
なんせ日本人だし。
でも顔がオスカーっぽいでしょ?
IQ160と言われる天才肌で、ちょっとクレイジー
話を大きく動かす面白い存在です。


⑦「みんなでお茶を」(1974年2月)助手A

 

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「精霊狩り」シリーズの3作目。
「トーマ」連載開始の直前だけに、何だか「トーマ」のオスカーがバイト出演してるみたいですね。
下から萩尾先生が「メガネかけろオスカー 今回はわき役なんだ カッコつけるな!」と言っています。
この作品では考古学の博士の助手で、知的でクールな印象。
チョイ役の割には出番が多いです。


-・-・-・-・-・-


さて、この後はいよいよ「トーマ」が始まり、オスカー・ライザーとして登場します。
それまでこんなに沢山の作品に出ているのを見ると先生のオスカー愛がよくわかりますよね。
役柄も性格もさまざまですが共通しているのは、ハンサム、クール、頭が切れるということでしょうか(例外もありますが)。


「トーマ」で魅力が爆発して人気キャラクターの地位を確立したオスカー。
その後登場したのは関連作品だけのようです。
せっかくなので、その姿もご覧ください。


①「湖畔にて~エーリク 十四と半分の年の夏~」

 

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(『ストロベリーフィールズ』1976年 新書館より)


「トーマ」最終回後の夏休みのエピソード。
少し大人っぽく、たくましくなっています。


②「訪問者」

 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション2 トーマの心臓Ⅱ』2007年 小学館より)


シュロッターベッツに転入するまでの物語。
小さいオスカーがひたすら健気です。


なお、漫画ではありませんが、スタジオライフ創立30周年を記念して先生がイラストを描き下ろされ、その一部が上でご紹介したDVDのパッケージに使われているそうです。
引用元の記事内に画像があります(あのマフラーをしています)。


また、先生のお好きなビーズにまつわるコミック・エッセイ集『夢見るビーズ物語』(2009年 ポプラ社)にもイラストがあります。


絵はすっかり変わりましたが、先生にとってオスカーは今でも愛着のあるキャラクターの1人なのでしょうね。


-・-・-・-・-・-


過去に書いた「訪問者」の感想です。もしご興味がありましたらどうぞ。

(22)オスカーの涙 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

(61)「トーマの心臓」イラスト集②

トーマの心臓」連載時のイラスト集の続きです。
時系列で並べていますので前半をご覧になっていない方はこちらからどうぞ。

(60)「トーマの心臓」イラスト集① - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


特に記載のない限り出版元は小学館です。
古い雑誌のコピーの画像ですのでコンディションは良くありません。どうぞご了承ください。
このイラスト集はファンの方に個人的に楽しんで頂きたいと思って作りました。萩尾先生ならびに出版元様より削除のご要請がありました場合は速やかに削除いたします。

 


『週刊少女コミック』1974年36号(連載第17回)

 

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裏写りしていて申し訳ないのですが、あらすじと主な登場人物紹介です。


「ユリスモールに、我が身の愛だけを告げてトーマは自殺した―その後、シュロッターベッツ高等中学(ギムナジウム)がむかえた転入生は、ぐうぜんにも、自殺したトーマとそっくりの顔のまき毛の少年。
彼、エーリクは、はねっかえりで、短気で、マザ・コン。
たちまち、ル・ベベ(あかんぼう)という愛称(ニックネーム)をちょうだいした。


――表向き学校一の秀才と評されるユーリ(ユリスモール)は、内心全くおだやかではない。
おりにつけ、トーマの影はエーリクと重なり、死をもってまで、少年(トーマ)がユーリに示した愛をうけ入れることはさらにできず、倒錯した思考の中で、ユーリはエーリクに殺意をもってつめよったりする。


いっさいを理解しているオスカーは、エーリクを町につれだしたりして、極力、ユーリとエーリクのしょうとつをさけさせようとする。
そんなオスカーに、エーリクは好感をもち、ユーリに対する悪感情を率直にぶつける。


めぐる日びの中で、とつぜん、エーリクは、母親の死を告げる手紙を受け取った。」


ページ全体の画像もどうぞ。

 

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『週刊少女コミック』1974年40号(連載第21回)

 

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「今までのお話」です。
物語としては、この回から第2部なんですね!


「結局、この日からストーリーは第二部にはいる。
ユーリ委員長を愛していたトーマ・ヴェルナーの自殺、そして、追いうちをかけるように現われた、トーマそっくりの転入生、エーリク!


罪人であるがゆえに、自分にとって、愛すること、愛されることは、許されないのだと信じていたユーリは、結局、トーマに心を開くことはなかった。
しかし、エーリクの姿は、トーマと重なり、それはたえず彼の背後から自分の愛をうけ入れてくれるようにと、ユーリのとざした心の扉をたたくのである。


ユーリは、エーリクを憎み、殺意すら持ったが、エーリクの愛していた母親が急死して、彼の悲しみの行き場がないときに、同情が先に走り、ユーリは、彼をなぐさめる。
ユーリの知られざる一面を見た思いで、エーリクは、彼に好感を持ち、やがては、せつなる恋に変わっていくのであるが……


トーマすら死なせたユーリに、エーリクの心が通じるかどうか、舞台は、また、学校に戻り、さまざまの人間もようの中、展開していく。」


全体の画像です。

 

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『週刊少女コミック』1974年42号(連載第23回)

 

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「少コミまんが家ホットジョッキー」の「おしゃべりコーナー」。
読者からの質問に答えてキャラクターの誕生日が書かれています。


 エーリク 19XX年1月1日
 トーマ  19XX年4月27日
 オスカー 19XX年2月14日
 ユーリ  19XX年12月6日


これらの日付はアシスタントさん方の誕生日と聞いたことがあるのですが、そうなのでしょうか?
詳しい方にご教示頂きたいです。


~2020. 2. 8 追記~


みっしさんより、トーマ、オスカー、ユーリの誕生日が萩尾先生のお仲間のお誕生日だとご教示頂きました。
みっしさん、どうもありがとうございました!!
残るエーリクの誕生日は『別冊少女コミック』に載っていたプロフィールから城章子先生(現・萩尾先生のマネージャー)のお誕生日とわかりました。
まとめると次のようになります。


 エーリク 1月1日=城章子先生
 トーマ  4月27日=伊東愛子先生
 オスカー 2月14日=木原敏江先生
 ユーリ  12月6日=佐藤史生先生

 

ちなみに萩尾先生のお誕生日5月12日はエドガーの誕生日です。
その理由について「自分と同じ日なら忘れないから」とおっしゃるのを前にどこかで読んだ記憶があります。
(昨年12月の阪急うめだ本店ポーの一族展」に合わせて行われた講演会でも、そうおっしゃっていたそうです。)

 


『週刊少女コミック』1974年45号(連載第26回)

 

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綴じ込み付録の「少コミにんき者シール」です。

 


『週刊少女コミック』1974年46号(連載第27回)

 

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連載中、唯一のフルカラー扉です!
高橋亮子先生の「つらいぜ!ボクちゃん」との合同扉でした。


そして掲載誌では、なんと扉の裏面もカラーページでした!!

 

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「さよなら――ぼくは行くよ
さよなら――ぼくは行くよ
それできみには
すべてが残されたことになる
そうして何も
失われるものはないんだ


いったろう
きみを愛してるって


いっただろう
きみを愛してるって」


これを発見した時は本当に驚きました。
フラワーコミックスもパーフェクトセレクションもこのカラーページは未収録で、掲載誌になかったこちらの絵 ↓ に差し替えられているからです。

 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション2 トーマの心臓Ⅱ』より。下も同)


カラー原稿をモノクロ印刷してもよかったのに、なぜ差し替えられたのでしょうね?
もしかしてトーマのモノローグをここに入れたくなかったからでしょうか。
最終回には、これとほぼ同じトーマのモノローグが出てきます。

 

 

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カラーページの時点ではユーリはトーマの心がまだわかっていなかったけれど、最終回ではもうわかっていたので受け止め方が違うのですよね。
もしかすると先生は、このモノローグを物語の最後にもってくる方が効果的と考えてカラーページを削除されたのかな、という気がします。
でも実はもっと単純な理由かもしれないし、本当のところをお聞きしてみたいですね。

 


『週刊少女コミック』1974年48号(連載第29回)

 

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予告カットです。
20号の表紙カットの一部を流用しています。

 


『週刊少女コミック』1974年49号(連載第30回)

 

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表紙カットです。

 

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同じ号の「主な登場人物」です。
全体の画像はこちら。
欄外に「今までのお話」が書かれています。

 

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「トーマの自殺後、転入してきたエーリクの愛の告白に、ユーリは悩む。
バッカスは、彼(ユーリ)の胸の傷について、オスカーに尋ねた。
彼(オスカー)は静かに話しだした。
ユーリの胸の傷は、サイフリートたちにリンチされ、ついたものだと。
なぜ彼(ユーリ)はリンチされたのか!?
二人の話を聞いてしまった彼(ユーリ)は、怒り叫んだ……オスカー、君は知っていたんだ!」

 


別冊少女コミック』1974年12月号

 

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別冊少女コミック』に載った『少コミ』の広告です。
本編からの流用かなと思って探したのですが見つからなかったので、予告用に描かれたのかもしれません。

 


『週刊少女コミック』1975年9号

 

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フラワーコミックス1巻の広告です。
「この娘うります!」第4回の本編内に挿入されました。

 


『週刊少女コミック』1975年14号

 

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フラワーコミックス2巻・3巻の広告です。
「この娘うります!」第9回の本編内に挿入されました。
3巻単独のこのような広告はありませんでした。
発売された頃に先生が『週刊少女コミック』に作品を発表されていなかったからだろうと思います。

 


『テレビランド増刊イラストアルバム⑥萩尾望都の世界』1978年 徳間書店

 

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予告カット風のイラストですが私は他で見たことがありません。
どこかで発表されたことがあるのか不明です。

 


ポーの一族展」図録(公式記念BOOK)


p. 82、83に、ここに画像を載せていない絵が2点掲載されています。
1つはユーリの予告カット、もう1つはオスカーの未発表イラストです。
ユーリの予告カットは他で見たことがありません。
オスカーの未発表イラストは絵のタッチからして、かなり早い時期に描かれたようです。
図録は現在、一般書店で購入できます。

 

『ポーの一族』と萩尾望都の世界【普及版】 (原画集・イラストブック)

『ポーの一族』と萩尾望都の世界【普及版】 (原画集・イラストブック)

 

 

 

(60)「トーマの心臓」イラスト集①

遅ればせながら明けましておめでとうございます。
今月は新年のごあいさつ代わりに(?)「トーマの心臓」連載時のイラスト集をお届けいたします。
時系列で並べて前半・後半に分けました。
どうぞお楽しみください ♪


特に記載のない限り出版元は小学館です。
古い雑誌のコピーの画像ですのでコンディションは良くありません。どうぞご了承ください。
このイラスト集はファンの方に個人的に楽しんで頂きたいと思って作りました。萩尾先生ならびに出版元様より削除のご要請がありました場合は速やかに削除いたします。

 


『週刊少女コミック増刊フラワーコミック』1974年春の号

 

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「『トーマの心臓』(仮題)
週刊少女コミック19号(4月12日発売)より新連載!
ご期待ください
●萩尾先生の新しい世界が始まる…」


「3月ウサギが集団で」の扉裏に掲載された新連載予告で、タイトルが「仮題」とされています。
この予告の上部分はエドガーのピンナップになっていました。
ページ全体の画像は記事「(24)『ポーの一族』イラスト集~綴じ込み付録①」でご覧頂けます。

 

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同じ増刊号に載った予告カットです。
こちらは「仮題」とは書かれていませんね。

 


『週刊少女コミック』1974年18号

 

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連載開始の前号に掲載された1ページ予告です。
文は


萩尾望都先生はじめての週刊誌れんさい!!

トーマの心臓

思春期の少年の微妙な心の動きを描いて
週刊少女コミック19号(4月12日発売)より堂どう登場

自殺した少年トーマの置き手紙をみたユーリは、ギョッとした。
トーマへの冷たい仕打ちにもかかわらず、ユーリを愛していたトーマは、自分で死ぬことによってユーリの中に生きようとしていたなんて…。
そんなある日、ユーリの前に現われた転校生エーリクは…」

 

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こちらも前号に載った予告で、1ページの3分の2ほどのスペースが使われています。
絵は1ページ予告の一部に別のカットを組み合わせたものです。
文は


「注目の新れんさい ついに実現!

トーマの心臓

とざされた少年の“心”の世界を、詩情豊かに描く、堂どうの大長編力作!
あなたの心にそっと忍びこむ………」


当初は「大長編」になる予定だったんですよね。
それがまさか、先生と編集部の間であのような攻防になるとは…。
このあたりの事情はエッセイ「しなやかに、したたかに」に綴られています。
(『思い出を切りぬくとき』文庫版 2009年 河出書房新社所収)

 


『週刊少女コミック』1974年19号(連載第1回(全33回))

 

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記念すべき連載初回の表紙カットです。
約9×6センチの大きめサイズです。

 


『週刊少女コミック』1974年20号(連載第2回)

 

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連載第2回の表紙カット。
細部まで丁寧に描き込まれた美しい絵なのですが、サイズが約3.3センチ四方と小さくて残念でした。

 


『週刊少女コミック』1974年21号(連載第3回)

 

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綴じ込み付録の「れんさい記念ピンナップ トーマは生きている」。
少し見えにくいのですが左下にトーマの詩の一節が書かれています。


「人は二度死ぬという
まず 自己の死
そして後
友人に忘れ去られることの死
 ――トーマの心臓から――」


昨年銀座で開催された「ポーの一族展」で、ユーリ、オスカー、エーリクが描かれた横長の未発表イラストが展示され、図録p. 162 に収載されています(展示は銀座会場のみ)。
波津彬子先生のお姉様の故・花郁悠紀子先生が萩尾先生から贈呈されたもので、波津先生の次のようなコメントが付いています。


花郁悠紀子は1年間ほど萩尾望都先生のアシスタントをしておりました。
トーマの心臓』を描かれていた頃です。
『週刊少女コミック』の口絵用に描かれたものです。
これは伝え聞きですが、描いたあとで編集部から『遠景の入った絵にしてくれ』と言われて描き直したため、この絵は使わなくなったそうです。」


図録の絵がボツになって上の絵が新たに描かれたのでしょう。

 


『週刊少女コミック』1974年24号(連載第6回)

 

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トーマの心臓」は開始当初の読者アンケートの結果が悪かったので、第6回からテコ入れのために扉絵の原画が読者にプレゼントされました。
その告知です。


トーマの心臓 原画プレゼント 毎週1名


トーマの心臓』のとびらの原画を連載の続くかぎり毎週毎週あなたにプレゼント!
トーマの心臓』の感想をはがきにかいて送ってね。


その他 応募者の中から抽選で毎週50名にモーサマのサイン入り絵ハガキプレゼント!」


こうして扉絵の原画は幸運な読者の方々の手に渡り、所在がわかったもののうち7枚が「ポーの一族展」にて特別公開されました(図録には6枚のみ掲載)。
サイン入り絵葉書は絵柄が3種類あり、絵は印刷でサインだけ直筆だったそうです。

 

この告知は「トーマの心臓」の本編内に挿入されました。
裏写りが激しくて申し訳ないのですがページ全体の画像もどうぞ。
お手持ちのコミックスの同じページと見比べると面白いですよ。

 

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『週刊少女コミック』1974年25・26合併号(連載第7回)

 

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同じく原画プレゼントの告知です。
薄くて読みにくくてすみません。


トーマの心臓に おてがみだして表紙原画もらおう!!

はじめての週刊連載もードキドキ セッセセッセ

おもしろい? つまんない? 女学校のほうがすき?

だ だ だからハガキにあなたの感想かいて送ってね

あてさき 小学館 少女コミック トーマの心臓 表紙原画プレゼント係!!

毎週一名様に原画 50名様に絵ハガキ


時代が違うとはいえ、後世に残る名作なのに始めはこんなにご苦労されたとは驚きですよね。
ページ全体の画像もどうぞ。

 

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『週刊少女コミック』1974年28号(連載第9回)

 

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綴じ込み付録の「少女コミックにんきものロマンシール」です。
糊は付いていません。

 


『週刊少女コミック』1974年29号(連載第10回)

 

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トーマの心臓」と「11月のギムナジウム」の関係についての先生のコメント。
本編内に挿入されました。
右端の絵は逆さまの自画像です。


「読者のかたへ
1971年に発表した『11月のギムナジウム』と、この『トーマの心臓』のキャラクターが同一のため、2作品の間に関連があるのでは?という多数のお手紙をいただきましたが、ストーリーのうえでは全く関係ありません。
その当時はページの都合上、『11月……』のほうをかいたのですが、ストーリーは、『トーマ……』のほうが以前に構成されてました。
萩尾望都

 


『週刊少女コミック』1974年31号(連載第12回)

 

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本編の冒頭に挿入された、あらすじと主要登場人物紹介です。
文章は先生が書かれたのかなと思います。


「あらすじ
春まぢか、一通の遺書をユーリに残して、トーマは自殺!
彼(トーマ)の死はユーリの心に深く影を落とした。
ユーリの親友オスカーはマザ・コンの転入生エーリクを町へ連れだした。


エーリク
トーマの死後転入してきたトーマにうりふたつの少年


オスカー
ユーリの親友


トーマ
ユーリに愛を告げた手紙を残して自殺した少年


ユリスモール(ユーリ)
きまじめな委員長だが何か過去に秘密がありそう」

 

全体の画像はこちら。

 

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『週刊少女コミック』1974年32号(連載第13回)

 

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連載中、唯一の表紙です!
エーリクとオスカーに目を奪われますが、その下を見ると


「〈フラワーコミックス〉
ポーの一族①②③
サイン入り セットでプレゼント!!」


豪華なプレゼントですね。
この号には作家さんからの暑中見舞も載っていました。

 

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なぜかこのエーリクの絵は後に「ポーの一族 エディス中編」の予告カットに流用されました。
入稿が間に合わなくて先生が「これで代用してください」とおっしゃったのでしょうか?
それとも返却されずに編集部に保管されていた原稿が再利用されたとか?

 

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こちらも同じ32号。
毎週見開きで載っていた「少コミまんが家ホットジョッキー」の右ページです。
「にがお絵教室」が興味深いですね。
ポーの一族展」でも展示されましたが残念ながら図録には載っていません。


似顔絵の左の「表紙のおしゃべり」は表紙のイラストについての先生のコメントです。


「今週号の表紙、いつもと少し、違うでしょ。
そう、この表紙、まわりを切ればステキなピンナップになるのよ。
オスカーとエーリクを、あなたのおそばにってわけ。
たいせつにしてネ!
萩尾望都)」


更にその下の「近況報告」コーナーにも萩尾先生のコメントがあります。


「次週33号は、カラー増ページの『トーマの心臓』どうぞお楽しみにネ!(萩尾)」

 

 

トーマの心臓」イラスト集は後半に続きます。

(61)「トーマの心臓」イラスト集② - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

記事(21)に追記しました

ヨハンナスピリッツのパイの正体について新たなコメントを頂いたので追記しました。
これで一件落着?

(21)ヨハンナスピリッツのパイの謎 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

(59)「モードリン」「花嫁をひろった男」~映画みたいなサスペンス

1969-73年作品、今回はサスペンス2編です。
まずは私が特に好きなこちらから!


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「モードリン」

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(『萩尾望都作品集2 塔のある家』1995年 小学館より。以下同)


こちらは『週刊少女コミック』1971年29号に掲載された40ページの作品です。
タイトルの「モードリン」は主人公の名前。
もうすぐ12歳になる少女です。


ある嵐の夜、眠れなくて部屋を出たモードリンは暗がりの中で叔父ウイルの姿を見かけます。
ウイルは階段の下を気にしていたようでした。
モードリンが下りて行くと、そこには庭師のクレーじいやが倒れていました。


けれど誰にも言わずベッドに戻ったモードリン。
翌朝、母からクレーじいやが階段から落ちて亡くなったと聞かされます。


モードリンは知っていました。
クレーじいやは本当はウイルに殺されたのだと。
でも誰にも言わない。
なぜならウイルが大好きだから。
秘密を共有していることが楽しかったから。


そうして半年ほど過ぎた頃、父の友人ブライスが家に滞在するようになり、事態は変わり始めるのでした――。


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私はこの作品を読むたびに上質なサスペンス映画を観たような気持ちになります。
1ページ目はモードリンのモノローグで始まるのですが、ここからもう作品の世界にグッと引き込まれるのです。

 

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「それが
クレーじいやでも
マーサばあやでも
運転手のベンでも
―――だれでもいい


たいせつなのはね
あたしが
知っているということなの
すてきな
ウイルおじさん

そうよ


だれにも
言いやしないわ
こっそりしまっておく


でもね
ウイルおじさん


知っているのよ
三月の あの
嵐の夜のこと
あたし――モードリンは
見たのよ」


大人びた少女の顔とモノローグ、いびつなインテリア。
惹きつけられる導入ですよね。
読者は最初からウイルが犯人だとわかって読み進めることになるのです。


ブライスの登場まで物語は動かず、主にモードリンの心の声が続きます。
大人びているけれど実はまだ背伸びしているだけの子ども。
全編を通して、その危うさがスリリングです。


映画的だと感じるのは独特のカメラアングルも理由の1つだと思います。
例えばこちらはブライスが、クレーじいやの死と同時に大時計が止まった話を聞く場面。

 

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ブライスは作家なのですが探偵のようですね。
1コマ目のブライスの顔の次にコーヒーと煙草の吸いさしを置いて時間の経過を表す。
大時計をアップから徐々に引いて下から見上げる人間を映す。


そしてこちらはラスト近くのモードリンとウイルの会話の場面。

 

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この時2人は向き合うように座っているのですが、モードリンが逆さに描かれていて緊迫感が増しています。
普通の漫画には、なかなかない表現ですよね。


また、この作品に限った話ではありませんが、周りの大人達の描写がリアルなことや建物・家具などが本物らしく見えることも映画を思わせる一因かもしれません。


私がこの作品を初めて読んだのは中学生の時でしたが、読みながらとてもドキドキしたのを覚えています。


最後に初期特有のローマ字の書込みをオマケに。


「〈裏話〉
この作品は69年の春に構成したものなのだ」

「そうして2年前の下絵にペンを入れると ひどくおかしな感じがする」


作品の発表は71年ですが『萩尾望都作品集』収録の最終ページには「69年5月」とあります。


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「花嫁をひろった男」

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「花嫁をひろった男」は『週刊少女コミック』1971年春の増刊号に掲載された32ページの作品です。
ストーリーは――


ある朝、オスカーが出勤途中に占い付きの体重計(こんな面白い物があるのでしょうか?)に乗ると、その日の運勢は「たいへんラッキーな ひろいものをします」。
でもそんな拾い物などないまま夜になり帰路につくと、車の前に突然ウエディングドレス姿の女の子が!


花嫁はキャンディ・18歳。
その日の午後、教会で結婚式を挙げたばかり。
ところが花婿はハネムーン先のホテルで毒入り紅茶を飲んで死亡。
しかも過去に2回結婚していて、毎回12時間以内に花婿が死んでいるという話。


オスカーの父である刑事はキャンディに殺人の容疑をかけ、キャンディの弁護士は精神鑑定を受けさせようとします。
キャンディはラッキーな拾い物のはずと、無罪を立証するために結婚式を挙げるオスカー。
はたしてオスカーは12時間以上生きていられるのか――!?


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シリアスな「モードリン」と違って、こちらはコミカルでおしゃれなサスペンス映画風。


オスカーは「トーマの心臓」のオスカーと顔も名前も同じです。
初期作品には同じ顔のキャラクターがちょいちょい出てきますが、オスカーという名前で登場したのはこれが初めて。
今度オスカーの変遷というのも辿ってみたいなと思っています。


そう言えばこの作品にはローマ字で「ユリスモール バイ(ハン)」「トーマ シューベ(ル)」と書かれているコマがあるんです。
トーマの心臓」「11月のギムナジウム」を(先生曰く)あてどなく描いていらした頃だったのでしょう。

 

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(ローマ字の左上部分に YURISUMOULU  BAI/TOMA  SYUBE)


キャンディは、あっけらかんとした明るさが魅力的。
初期にはこういう前向きなヒロインがよく登場します。

 

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サスペンスとして面白くコメディとしても楽しい「花嫁をひろった男」。
夫のことを「ハズ」と言うのが当時はおしゃれに聞こえました。
ネタバレになってしまうので画像は載せられませんが、私はラストの3コマが洒脱で好きです。


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記事内の作品はこちらで読めます

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「モードリン」「花嫁をひろった男」ともに

ルルとミミ (小学館文庫 はA 44)

ルルとミミ (小学館文庫 はA 44)