亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(46)「秋の旅」~豊潤に薫る読後感/「雪の子」

2019年が明けました。
今年は萩尾先生のデビュー50周年という記念すべき年ですね!


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萩尾先生、50周年おめでとうございます!
沢山の素晴らしい作品を生み出してくださってありがとうございます。
同じ時代に生きて新作を読むことができて本当に幸せです。
どうぞこれからもお身体を大切に末長く創作を続けてくださいますように!


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…と、片隅からお祝いを申し上げます。
さてさて、1969-73年作品の感想シリーズ、今回は「秋の旅」。
別冊少女コミック』1971年10月号に掲載された、文学の薫り漂う24ページの短編です。


ラストまで詳しく書いていますのでネタバレNGの方はご遠慮くださいませ。記事の最後に作品が収録されている本をご紹介しています。

 

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(『萩尾望都作品集4 セーラ・ヒルの聖夜』1995年 小学館より。下も同)


物語は主人公ヨハンのモノローグから始まります。
初期作品はモノローグで始まるものが多いのですが、この「秋の旅」は特に印象的です。


「……その家は小さな池の ほとりに建っていた
ぼくは はっきり おぼえている

母は少し神経質で よく こごとを言った
手のよごれや 食事の作法や

ぼくや弟たちの姿が見えないと
母は心配して いくども呼んだ
ひどくとおる高い声だった

父は大きな人で よく母と夕暮れに
よりそって 池のほとりを歩いていた

――ぼくは いくつだったろう?
六つか もっと小さかった」


1ページ目はこのモノローグとともにヨハンの断片的な記憶の風景が1コマずつ現れ、最後にヨハンがアップになって汽車に乗っているとわかる。
これだけでもう物語の世界に引き込まれてしまいます。


そしてこのページはすべて横長のコマ。
萩尾先生は横長のコマを積み重ねる手法をよく使われていて、その効果として読者の目線が左右に広がる、上から順に読んでいくので読者がリズムをとりやすく時間の経過を意識する、などを挙げられています。
1ページ目で引き込まれてしまうのは、この横長のコマの積み重ね効果もあるのでしょう。


さて、田舎町の小さな駅に降り立ったヨハンが訪ねようとしているのは小説家モリッツ・クラインの家。
ヨハンはクラインの小説のファンで敬愛する作家に一目会いたいとやってきたのですが、実は他にも理由がありました。


クラインはヨハンと2人の弟の父なのです。
ヨハンが7歳の時に家族を捨て、それきり会っていません。
今は再婚して妻の連れ子のルイーゼと3人で暮らしています。


ヨハンが訪ねた時、クラインはちょうど庭でバラの世話をしていました。
突然の対面に緊張して言葉が出ないヨハン。
クラインは優しく接してくれますが、ヨハンの表情がふと翳ります。
きっと彼は、クラインに会えばすぐに息子だとわかってもらえるのではないかと淡い期待を抱いていたのでしょう。


けれどクラインはヨハンをルイーゼのボーイフレンドと勘違いしたまま乗馬に出かけ、ヨハンは同い年のルイーゼと話すうちに自分がクラインの息子であると知られてしまいます。
そして2人の会話から、クラインに対するヨハンの気持ちが少しずつ読者にわかってくるのです。


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クラインは家を出た翌年にルイーゼの母と再婚しました。
ということは出て行った時にはすでにルイーゼの母と出会っていたのかもしれません。
ヨハンの母はそれ以来ずっとノイローゼで入院しています。
そんな母が可哀想でヨハンはクラインを憎んでいました。
何もかも父が悪いのだと。


でもある時、クラインの小説を読んでヨハンは心を打たれます。
恨んでいた父の作品を読む気になったのはヨハン自身が言うように心の半分で父を呼んでいたからでしょうし、父に似て純粋に文学が好きだったからでもあるでしょう。
ヨハンはルイーゼに言います。


「……あの人だって……
ぼくよりずっと たくさんの時間を生きて
たくさんの悲しみに会ったはずなのに

あの人は
……なんてあたたかい
……なんて澄んだ言葉で
語りかけるものを かくんだろう

……かなわない……
……とても大きな人だ」


「その人は かつて
ぼくの父だった人だろうけど
今はちがう
ぼくの夢……
…ぼくの敬愛する作家
モリッツ・クラインだ」


作品から受けた感動がクラインへの敬愛に変わり、今ではヨハンの夢になっている。
彼の夢とは何でしょう?


馬車に乗せてくれた人にヨハンは言っています。
「先生に一目でも会うことが――ずっとぼくの夢だったんです」と。
初めてクラインの小説を読んで感動した時、彼は自分が抱いている父のイメージとのギャップに困惑しただろうと思います。
家族を不幸にしたひどい父親と、人を感動させる温かい小説を書く作家、どちらが本当の姿なのだろうと。
そしてそれを自分の目で確かめたくなったのではないでしょうか。


もしクラインが作品から感じられる通り大きな心をもった人だったら、自分は何のわだかまりもなく敬愛できるようになる。
だから、そんな人であってほしい。
「クラインに会いたい」という夢は単に憧れの作家に会うというだけでなく、そういう願望を含んでいたのではないかなと思います。


ヨハンはルイーゼに「きみのお父さんて作家として ほんとうにすばらしい人だ」と言いましたが、この時はあくまで「作家として」素晴らしいとしか言えなかったのですよね。
けれど、もしクラインを心から尊敬できたら別の夢にも向かうことができる。
それは「いつか自分もこういう作品を書ける作家になりたい」という夢ではないでしょうか。


クラインの作品は母に対するヨハンの見方も変えたようです。
以前はただ可哀想だと思うばかりだったのが、今は「…母さんが不幸なのは だれも愛してないからだ 考えすぎるんだよ」と客観視できるようになっている。
父が出て行ったのは母にも原因があると考えるようになったのかもしれません。


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ヨハンの話を聞いてルイーゼは申し訳ない気持ちになり、クラインに会っていってほしいと頼みますが、ヨハンは待たずに帰ります。
間もなく帰ってきたクラインは事情を聞き、馬を駆って駅へと急ぐ。
このあたりは縦に見せるコマ割りで、とても緊迫感があります。


汽車のデッキにヨハンが立ち、汽車が動き始めた時、クラインが追いつきます。
「ヨハン!」と叫ぶクライン。
見つめ返すヨハン。
両手を大きく広げるクライン。
1ページ目と同じように横長のコマが続いてヨハンの顔とクラインの顔、そしてヨハンの記憶の中の風景が積み重なっていき、ヨハンのモノローグがかぶさる。
そのモノローグは冒頭と似ているけれど少しずつ違っていて、最後はこの言葉で終わります。


「父は大きな人で
ぼくたちは いつも
肩ぐるまを ねだった

高い背」


その時ヨハンの脳裏に忘れていた情景が浮かんでくる。
それは自分や弟と戯れる父と、それを見ている母のシルエット。


今、目の前で両手を広げている父は、その幸福な記憶と重なって「おいで。抱き上げて肩車してあげよう」と言っているように見えたことでしょう。
ヨハンは何も言えなかったけれど、父はこんなに優しい目をしていたのだと思い出したのではないでしょうか。


父の姿が遠くに見えなくなってから心の中で「ありがとう」を繰り返し、涙が頬を伝う。
この「ありがとう」は、こんな気持ちだったのかもしれません。


一緒に暮らしていた頃、慈しんでくれてありがとう
出て行ったのは仕方なかったんだね
追ってきてくれてありがとう
受け入れてくれてありがとう
ルイーゼは他人の気持ちがわかる優しい子だね
きっとあなたがそんな人だからだ
だから、あなたの作品は温かいんだ
素晴らしい作品をありがとう
ぼくに夢をくれてありがとう…

 

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ラストページ。最後の余白が余韻となって沁みてきます


汽車を見送るクラインの後ろ姿も印象的で、私は父子がいつか再び交わる日が来るような気がします。
それはヨハンが作家になってからかもしれないし、もっと早くかもしれません。
そして2人とも、この日の出来事をモチーフに小説を書くのではないかと想像しています。


最後まで読んでもう一度扉絵を見返すと、寄り添う家族のシルエットがラストの戯れているシルエットの続きのように見えました。
「秋の旅」とはヨハンの心の旅でもあるのですね。
心に沁みる言葉と絵に加えて声や音やバラの香りや秋の光までも感じられて、まるで1篇の文学作品を読んだような、あるいは1本の映画を観たような、そんな読後感に包まれます。


ところでポーシリーズや「塔のある家」ではバラの花が重要なモチーフになっていますが、この作品でもクライン家の庭にバラが咲き乱れていて、もしかすると当時の萩尾先生にとってバラはヨーロッパへの憧れの象徴だったのかなと思ったりしました。


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 他にもあります 文芸作品

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「雪の子」もまた文学や映画の薫りのする作品です。
こちらは「秋の旅」より少し早く『別冊少女コミック』1971年3月号に掲載されました。

 

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(『萩尾望都作品集1 ビアンカ』1995年 小学館より。下も同)


ブロージーは本家の跡取り息子・エミールの遊び相手として屋敷に招かれます。
屋敷には同年代の親族の少年数人も呼び寄せられていました。


エミールは雪のように白い肌をした美しい少年でしたが、集まった少年たちを拒絶します。
他の子達は気難しいエミールを嫌いますが、心優しいブロージーはエミールの美しさに惹かれていきます。


そんなブロージーにエミールは秘密を打ち明けるのでした…


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この作品の最大の魅力は中性的で独自の美学をもったエミールというキャラクターでしょう。
その言葉はブロージーを戸惑わせ、更に魅了していきます。


「ぼくが少年から おとなになるってことは 罪悪なんだ」
「ぼくは自分が一番美しい時に死ぬつもりだ」
「……ぼくは ぼく以上に だれも愛してない」
「…もうじき幕がおりるよ 観客はだまされたままでね おもしろいと思わない……?」

 

エミールが美学を貫くラストは衝撃的で、静かに雪の降り積もる白い世界が鮮やかに浮かび上がってきます。
ポーシリーズに通じる「大人になれない子ども」や、後のSF作品の両性具有者を思わせるキャラクターが描かれているところにも注目したいです。


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「雪の子」の1ページ目も「秋の旅」と同じく横長のコマが積み重ねられています。
まず霧の中に少女の顔のアップがあり、それがだんだん遠のいて、入れ替わりに少年がだんだんアップになってくるというプロローグです。

 

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上の「秋の旅」の中で横長のコマの積み重ね効果について萩尾先生の言葉をご紹介しましたが、先生はこうもおっしゃっています。


「横長効果は同じキャラクターを二つ出すと、例えば手前からこちら側に迫ってくる感じ、逆だったら、こちらにいたのが遠ざかる感じ。距離感がすごく出しやすい。相手がいる場合には、それをちょっとよけると、今度は二人の立ち位置がわかりやすくなる。そのリズムがおもしろくてよく使っている。」

(「萩尾望都作品目録」様の2018年8月15日の記事「高崎での萩尾望都先生と浦沢直樹先生の対談レポート」より引用させて頂きました。レポートはこちらです ↓)

高崎での萩尾望都先生と浦沢直樹先生の対談レポート - ニュース:萩尾望都作品目録


このページの絵を見ると、まさにこういうことか!とよくわかりますね。


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記事内の作品はこちらで読めます

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「秋の旅」

 

11月のギムナジウム (小学館文庫)

11月のギムナジウム (小学館文庫)

 

 

萩尾望都-愛の宝石- (フラワーコミックス)

萩尾望都-愛の宝石- (フラワーコミックス)

 

 

「雪の子」

 

アメリカン・パイ (秋田文庫)

アメリカン・パイ (秋田文庫)

 

 

 

(45)「塔のある家」~妖精を信じていた頃/「千本めのピン」

 萩尾先生のデビュー直後の1969年から73年までの作品の中から私が特に好きな作品の感想を書くシリーズ(?)、1作目は「塔のある家」。
『週刊少女コミック』71年12号に掲載された31ページのファンタジックなおとぎ話です。

 

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(『萩尾望都作品集2 塔のある家』1995年 小学館より。下も同)

 

「塔のある家」は、こんなお話です。
ラストまで詳しく書いていますのでネタバレNGの方はご遠慮くださいませ。記事の最後に作品が収録されている本をご紹介しています。)


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イギリスのリトルリーズ村。
春、幼いマチルダが両親と一緒に引っ越してきます。
新しい家にはお城のような塔がありました。


チルダは塔の中で3人の妖精と出会います。
3人はマチルダが妖精を信じてくれたことを喜び、マーティと呼んで友達になります。
チルダは庭師の息子のトーマスに頼んでバラの苗を3本買ってきてもらい、垣根のそばに植えて妖精達の名前を付けます。
そして妖精達やトーマスと楽しい日々を過ごしていました。


けれどトーマスは両親が亡くなり、おばに引き取られていきました。
さらにマチルダが11歳の時、胸を患っていた優しい母が亡くなってしまいます。
その葬儀の後でマチルダは父から自分が養女であることを聞かされますが、同時に両親の深い愛情を感じるのでした。


次第に塔へ行かなくなるマチルダ
妖精達は別れを悲しみます。


「とうとう さよならする日が来たんだね
さいころの おとぎ話と」
「さよなら さよなら
小さなマーティ……
あんたは もう
あたしたちの声や姿を
感じることができない……」


母の死から4年後に父も事故で亡くなりました。
その悲しみを癒してくれたのは中学時代の上級生・ディック。
2人は結婚間近と噂されましたがディックが心変わりし、村にいるのが辛くなったマチルダは何かを求めて都会に出ます。
いつかマチルダが自分達を思い出せるように――。
妖精達は願いを込めて、荷造り中のトランクに入れる本の中に、ひとかけらの光を閉じ込めるのでした。


3年後、マチルダ洋品店で働いていましたが、何も見つけることができないまま都会の暮らしに疲れていました。
そんなある日、戸棚の中の1冊の本が目に留まります。
それは持って来たことさえ忘れていた、小さい頃に母が読んでくれたお話の本――妖精達が光を閉じ込めた本でした。


「――三月の精たちは
ドアをたたく音を聞くと
たちまちバラの香りに姿をかえて――」


本を開くと懐かしい母の声と共に故郷の思い出が甦り、マチルダはリトルリーズ村に帰ります。
けれど塔のある家は、つい最近人手に渡ったと言われます。
それでも家を見に行くと、春まだ浅いというのにバラが次々と咲いて満開に!
妖精達が奇跡を起こしたのです。


妖精を信じていた日々を思い出したマチルダの前にトーマスが現れます。
トーマスはおばの遺産をはたいて家を買ったのでした。
2人は結婚し、やがて娘が生まれます。
妖精達は幼い娘がいつか塔の階段を上がってくる日を心待ちにするのでした。


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この作品で私が一番好きな場面は、何といってもマチルダが本を開いて故郷を思い出し、家に帰ってくるところです。
言葉に心を揺さぶられるのです。


「バラのかきね
木いちごのしげり
村の細道
 古い友だち
 初めての恋
そして西日のさす塔のある家

どんなに たいせつな
なつかしいものが
あそこにあったか……
わたしの ふるさと」
(マチルダ


「まあ 夢じゃない!
たしかに あたしたちの小さなマーティ!

マーティ! マーティが

マーティがリトルリーズの村に帰って来た!」
(妖精達)


私は大人になって漫画から遠ざかり、2016年のポーシリーズ復活をきっかけに舞い戻ってきたのですが、その2年位前になぜか無性にこの作品を読みたくなって読んだことがありました。
萩尾漫画熱が再燃した後でポーの次位に読んだのも、この「塔のある家」です(実は「トーマの心臓」とどちらが先だったか忘れてしまいました)。


恥ずかしながら告白します。
復活後に読んだ時、この場面で私、号泣しました。
そして気づいたのです。
自分もマチルダと同じだということに。


私にとって妖精の光が閉じ込められた本は「ポーの一族」。
40年ぶりのシリーズ再開で久しぶりに手に取って読んでみたら、そこには懐かしく豊かな世界が広がっていて、夢中で読んでいた頃の幸せな時間が思い出されて。
しかもその世界は子どもの頃に感じていたよりも、もっともっと味わい深く輝いていて。
自分は長い時間をかけてここに――萩尾ワールドに――帰ってきたのだなあと感慨にふけったのでした。


私のようにポー復活で戻ってきた方は多いと思いますが、みんなマチルダと同じなのかもしれません。


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絵で特に好きなのは、冒頭の一家が馬車でやってくる場面です。
妖精が住んでいそうな家と馬車が1つの大きなコマに収められていて、ファンタジックな物語が始まる予感がします。
また、他と違う技法で雰囲気を高めている絵も印象に残ります。
例えば都会の街並みを斜め上のアングルから描いたコマは、粗いタッチで重苦しい雰囲気。
ラスト近くのトーマスがマチルダにプロポーズする場面は、まずバックがベタのコマがあり、次のコマで風景が点描になっているからでしょう、時が一瞬止まったように見えて感動してしまいました。

 

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馬車でやってきた一家

 

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プロポーズの場面


それに、この作品はバラがとても効果的に使われているなあと思います。
どうしてマチルダがバラの苗を植えて妖精達の名前を付けたのかということは語られていないのですが、後の方を読むと、母に読んでもらったお話の一節から思いついたのだろうなと想像できます。
後にその一節を目にしたことでバラを植えた記憶が甦り、故郷を思い出す。
それだけでなくバラの花は母が亡くなった時もディックと幸せな日々を送っていた時も、そしてラストシーンでも描かれていて、読者はマチルダに向ける妖精達の優しい眼差しと、いくたびもめぐる季節を感じられるのです。


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ラストシーンで幼い娘に「妖精はいるの?」と聞かれてマチルダは答えます。


「ええ――いるのよ」
「幸せや望みと同じように
信じさえすれば
どこにでも いるものなのよ」


私はこのセリフもとても好きで、もしかしたら萩尾先生はこれを一番言いたかったのかな、と思います。
少女時代に「赤毛のアン」などモンゴメリ少女小説を愛読されていたそうですが、私も好きで読んでいて、「塔のある家」にはモンゴメリの物語世界に通じるものを感じます。


両親の愛に包まれて妖精を信じていた女の子が現実と向き合いながら成長し、別れを告げたはずの故郷で過ごした日々が、かけがえのないものだったことに気づく。
そして妖精も幸せも、本当はすぐ近くにいるということにも。


「塔のある家」は大人になるほどに愛おしくなる作品です。

 

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 他にもあります おとぎ話

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私の好きなおとぎ話をもう1つ。
1973年の『週刊少女コミックお正月増刊フラワーコミック』に掲載された「千本めのピン」です。

 

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(『萩尾望都作品集1 ビアンカ』1995年 小学館より)

 

こちらはわずか7ページの小品で、コマを割らず見開きに文章と絵が描かれています。
お姫様の1000本のピンのうち1本がなくなってしまい、困ったお姫様は捜し回るのですが見つからなくて…
最後は王子様の登場でハッピーエンド。


「塔のある家」と違って現実感のない、夢々しいおとぎ話です。
お話だけでなく絵もとても可愛い!
お姫様はメリーベルみたいだし、王子様は髪が長いけどエーリクにちょっと似てるかな。


萩尾先生がこんなメルヘンチックな作品を描かれていたなんて少し意外かもしれませんが、理屈抜きで童話の世界を楽しめます。

 

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記事内の作品はこちらで読めます

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「塔のある家」 

11月のギムナジウム (小学館文庫)

11月のギムナジウム (小学館文庫)

 

 

「千本めのピン」 

10月の少女たち (小学館文庫 はA 45)

10月の少女たち (小学館文庫 はA 45)

 

   

(44)初期作品の魅力

今回のテーマは「初期作品の魅力」。
だけど1969年のデビュー以来コンスタントに作品を発表され続け、来年には画業50周年を迎えようとしておられる萩尾先生の作品群のどこまでを初期と呼ぶのか?という話ですよね。
70年代の作品をひとまとめに初期と括ってもいいのかもしれませんが、それではあまりにも数が多過ぎるので、この記事では73年までの最初期の作品を取り上げてみたいと思います。


手元にある図録『デビュー40周年記念 萩尾望都原画展』(2009年 「萩尾望都原画展」実行委員会/トラフィックプロモーション:発行・販売)に年表が載っているので作品名と掲載誌を下に書き写してみます。
掲載誌の次に私が独断で分けたジャンルを加えました。
ちょっと強引なところもあり、SFとファンタジーの境目が曖昧だったりしていますが、ご容赦ください(汗)


ジャンルの文字は次のように色分けしています。

赤:ラブストーリー オレンジ:コメディ・ギャグ 緑:文芸 青:SF・ファンタジー 黒:その他


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【1969年】

1 「ルルとミミ」なかよし夏休み増刊号 コメディ

2 「すてきな魔法」なかよし9月号増刊 ラブストーリー


【1970年】

3 「クールキャット」なかよし2月号 コメディ

4 「爆発会社」別冊なかよし 虹色のマリ特集号 コメディ ラブストーリー

5 「ビアンカ」週刊少女フレンド増刊 サインはV!特集号第7集 文学

6 「ケーキ ケーキ ケーキ」なかよし9~10月号別冊付録 青春物語


【1971年】

7 「ポーチで少女が小犬と」COM 1月号 SF

8 「ベルとマイクのお話」週刊少女コミック3・4合併号 ラブストーリー

9 「雪の子」別冊少女コミック3月号 文学

10 「塔のある家」週刊少女コミック12号 おとぎ話 ファンタジー

11 「花嫁をひろった男」週刊少女コミック春の増刊号 サスペンス コメディ ラブストーリー

12 「ジェニファの恋のお相手は」なかよし4月号 コメディ ラブストーリー

13 「かたっぽのふるぐつ」なかよし4月号増刊 社会派 学園物

14 「かわいそうなママ」別冊少女コミック5月号 文学 サスペンス

15 「精霊狩り」(精霊狩りシリーズ)別冊少女コミック7月号 SF コメディ

16 「モードリン」週刊少女コミック29号 サスペンス

17 「小夜の縫うゆかた」週刊少女コミック夏の増刊号 少女の日常

18 「ケネスおじさんとふたご」別冊少女コミック9月号 コメディ 西部劇

19 「もうひとつの恋」週刊少女コミック39号 コメディ

20 「10月の少女たち」COM 10月号 オムニバス形式ラブストーリー

21 「秋の旅」別冊少女コミック10月号 文学

22 「白き森 白き少年の笛」週刊少女コミック45号 文学 ファンタジー

23 「11月のギムナジウム別冊少女コミック11月号 文学 学園物

24 「白い鳥になった少女」別冊少女コミック12月号 アンデルセン童話

25 「セーラ・ヒルの聖夜」週刊少女コミック冬の増刊号 文学


【1972年】

26 「あそび玉」別冊少女コミック1月号 SF

27 「みつくにの娘」週刊少女コミックお正月増刊フラワーコミック 日本の民話

28 「毛糸玉にじゃれないで」週刊少女コミック2号 少女の日常

29 「すきとおった銀の髪」(ポーシリーズ)別冊少女コミック3月号 ファンタジー

30 「ごめんあそばせ!」週刊少女コミック12号 コメディ 学園物

31 「ドアの中のわたしの息子」(精霊狩りシリーズ)別冊少女コミック4月号 SF コメディ

32 「3月ウサギが集団で」週刊少女コミック16号 コメディ 学園物

33 「妖精の子もり」別冊少女コミック5月号 ラブストーリー

34 「6月の声」別冊少女コミック6月号 SF

35 「ママレードちゃん」週刊少女コミック23号 ラブストーリー

36 「ポーの村」(ポーシリーズ)別冊少女コミック7月号 ファンタジー

37 「グレンスミスの日記」(ポーシリーズ)別冊少女コミック8月号 ファンタジー

38 「ポーの一族」(ポーシリーズ)別冊少女コミック9~12月号 ファンタジー

39 「とってもしあわせモトちゃん」別冊少女コミック・週刊少女コミック・ちゃお・おひさま ~76年まで不定期掲載 ギャグ

40 「ミーア」週刊少女コミック35号 コメディ ラブストーリー


【1973年】

41 「メリーベルと銀のばら」(ポーシリーズ)別冊少女コミック1~3月号 ファンタジー

42 「千本めのピン」週刊少女コミックお正月増刊フラワーコミック おとぎ話

43 「小鳥の巣」(ポーシリーズ)別冊少女コミック4~7月号 ファンタジー

44 「キャベツ畑の遺産相続人」週刊少女コミック15号 ファンタジー コメディ

45 「オーマイ ケセィラ セラ」週刊少女コミック21号 ラブストーリー コメディ


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なんと5年間で45作品も!
71年に急に数が増えているのは講談社でボツになった原稿が小学館の雑誌に掲載されたからで、描かれた順番と発表された順番は同じではありません。


ではここからは私が個人的に初期作品のココが魅力!と思うポイントを挙げてみます。


1 幅広いジャンル

年表を見て頂ければわかるように、とにかくジャンルが幅広い!
ラブストーリーありコメディありサスペンスあり、文学の薫り高い作品があるかと思えば本格的なSFファンタジーも。
しかも同じジャンルでも作品ごとに味わいが違うんです。


2 みずみずしい少女達

ジャンルが幅広いだけにヒロインのタイプも様々です。
まず印象的なのは明るく前向きで行動的な少女達。
「爆発会社」のディビーはスターになって世界征服するのが夢。
「ごめんあそばせ!」のエマはハイスクールのクラブを渡り歩いて男の子たちを翻弄。
少しタイプは違いますが「ケーキ ケーキ ケーキ」のカナはパティシエになる夢に向かって一直線。


少女漫画の王道、恋に胸をときめかせる女の子ももちろん登場します。
初恋に戸惑う「ベルとマイクのお話」のベルやママレードちゃん」のジョー。
「ミーア」のトレミィは手違いからサマーキャンプの男子部屋に入れられ「オーマイ ケセィラ セラ」のセィラはプレイガールを気取りつつファーストキスを奪った年下の男の子が気になる。
「10月の少女たち」は3つの短編からなるオムニバス形式の作品です。
キスに興味津々のトウラ、突然居候し始めた男子に反発しながらも惹かれる真知子、恋人にプロポーズされて揺れるフライシー。
ヒロインの年齢が少しずつ上がり、その年頃の女の子らしいドキドキが描かれます。


日本を舞台にした等身大のヒロインも。
受験勉強に疲れて悩む「毛糸玉にじゃれないで」の、むつき。
夏休みの宿題のゆかたを縫いながら亡き母の思い出をたどる「小夜の縫うゆかた」の小夜。


タイプは違ってもヒロインは皆、みずみずしい少女です。
初期作品では少女の小さな心の揺れが丁寧にすくい上げられています。

 

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「爆発会社」ディビー
(記事内の画像はすべて小学館萩尾望都作品集』より)

 

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「ミーア」トレミィ

 

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「毛糸玉にじゃれないで」むつき


3 少女漫画なのに少年が主人公

今では少女漫画の主人公が少年なのは普通になっていますが、70年頃の主人公は少女と相場が決まっていました。
そんな中、萩尾先生ら女性作家の方々が少年を主人公にした作品を次々に発表して読者の心をとらえ、常識を変えていかれたのです。


萩尾作品の少年主人公で最初に世に出たのは71年の「かたっぽのふるぐつ」のシロウとユウかなと思います。
これは当時深刻だった公害問題をテーマにした作品です。
その前に「雪の子」のエミールと「花嫁をひろった男」のオスカーがいますが、エミールは少年のふりをした少女だしオスカーは青年なのでちょっと違うかな、と。
でも少年にこだわらず男性の主人公ならオスカーが初ということになりますね。


「かたっぽのふるぐつ」の後は「かわいそうなママ」「秋の旅」などが続き、ついにギムナジウムを舞台に少年達の心を繊細に表現した「11月のギムナジウムが登場!
そして72年にはポーシリーズが始まりエドガーとアランが姿を現します。


「少女漫画で主役を張り始めた少年達」という視点で読むのも面白いです。

 

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「かたっぽのふるぐつ」シロウ(右)とユウ(左)
吹出しに「 」が付いているのは劇のセリフを練習しているからです


4 異端者の存在

先生は自分自身が感じる違和感から物語が生まれるとおっしゃっています。
萩尾漫画には周囲になじめなくて息苦しかったり孤独だったりする人々がよく登場しますが、そういう異端者はデビュー直後の作品からすでに現れています。


SFファンタジーのジャンルではポーシリーズを筆頭に精霊狩りシリーズの精霊達「あそび玉」の超能力を持った少年ティモシー、他の人間と感じ方が違うために異端視される「ポーチで少女が小犬と」の少女。
文芸作品ではビアンカの心を閉ざして森で踊る少女ビアンカや、「雪の子」の少年のふりをして生きるエミールらもまた異端者と言えるかもしれません。


私達読者が萩尾漫画に惹かれる理由の1つは、こうした異端の人々の心に共感を覚えるからではないでしょうか。
初期作品を読み直すと改めてそう感じます。

 

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「ポーチで少女が小犬と」より


5 学園ドラマ

この当時は先生の中にもまだ学生気分の名残があったようで学校を舞台にした作品を沢山描かれています。
シリアスなものもありますが明るく楽しい作品が多く、「3月ウサギが集団で」などは極め付き!
学園ドラマが楽しめるのも初期作品ならではです。

 

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「3月ウサギが集団で」より


6 軽快なテンポ

キャラクターが元気だとセリフも動きもテンポがよくて軽快です。
先生お得意のミュージカル仕立ての場面も楽しい ♪
もちろん読者の目線を意識してコマ割りなどを緻密に計算されているからこそですが、読んでいてとても小気味よいです。


7 リアルな外国の描写

70年頃はインターネットはもちろん家庭用ビデオもないし資料も限られていたので、外国を舞台にした漫画は風景や建物などが適当に描写されていました。
けれど萩尾漫画は風景・建物だけでなくインテリアや小物まで、まるで洋画を見るように本物らしく見えました。
リアリティーのある絵にも注目です。


8 手描きの楽しさ

初期作品はあちこちに手描きの模様や文字が溢れています。
絵の面ではスクリーントーンの種類が少なかったことも理由だと思いますが、服や布の柄や背景に細かい模様が描き込まれていて温かみを感じます。
文字では先生の独り言のような言葉がローマ字で書かれていたり、本の表紙にご自分の好きな本のタイトルや作家名が書かれていたり。
それを読むのもとても楽しいです。

 

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「セーラ・ヒルの聖夜」より(下の2つも同)
背景も服の柄も手描きです

 

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右のコマ/壁の貼紙に「S. 24  5. 12 生まれ」とご自身の生年月日が。服の柄も手描き
左上のコマ/貼紙にローマ字で「これは去年の作品なのだ ホント!!」
本の背表紙に「ボディ」「アルジャーノン」。もう1つもSF小説のタイトルだと思うのですがわかりません。どなたかおわかりになる方、お願いします!

 

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背表紙に自作のタイトルがずらり。他に「ハインライン」「アシモフ」「ヴォークト」など


・・・・・・・・・・・・

 

ここまで初期作品の魅力を思いつくままに挙げてみました。
次回から私が特に好きな1969-73年作品の感想を書いていきたいと思います。
萩尾ファンの皆様の中にはデビュー直後の作品を読んだことがない方もいらっしゃると思うのですが、大変僭越ながら、もし「読んでみたい」と思うきっかけになってくれればとても嬉しいです。

 

 

(43)「ポーの一族」イラスト集~その他

ポーの一族」イラスト集も最後となりました。
これまでのカテゴリーに収まらなかったイラストをまとめてご紹介いたします。


特に記載のない限り出版元は小学館です。
ほとんどが古い雑誌のコピーの画像ですのでコンディションが良くないものもあります。どうぞご了承ください。
このイラスト集は旧作のレアなイラストをご紹介してファンの方にポーの世界をより楽しんで頂きたいという思いで作りました。萩尾先生ならびに小学館様より削除のご要請がありました場合は速やかに削除いたします。

 


フラワーコミックス広告


『週刊少女コミック』1974年24号

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ポーの一族」は1974年に小学館フラワーコミックスの第1弾として全3巻が刊行され、全国の書店で品切れが続出するほどの大ヒットとなりました。
その発売を告知するピンナップで、発売日は1巻5月20日ごろ、2巻6月20日ごろ、3巻7月20日ごろと書かれています。
右の大きな絵は「ポーの一族」第2話の合同扉ですが、左に90度傾けた状態になっています。
小さい絵は右から「ポーの一族」第1話予告カット、「メリーベルと銀のばら」第1話予告カット、「小鳥の巣」第4話予告カットです。


『週刊少女コミック』1974年 夏の増刊号

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全3巻発売後の広告です。
右のエドガーだけタッチが違うので2つの絵を合成しているのかもしれません。
左上のエドガーがエーリクに似ているのは「トーマの心臓」の連載中だったからでしょう。
先生は「トーマ」完結後にポーシリーズを再開した時、エドガーがエーリクに似てしまって困ったとおっしゃっていました。
この広告にもそれが表れているようです。


『週刊少女コミック』1974年41号

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エドガーは上の絵と同じです。
リーベルの絵と合成されているようです。


ポーの一族」第2巻

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私が持っている昭和50年(1975)4月10日発行の初版第5刷に載っている広告です。
ちなみに定価は320円(消費税はまだありませんでした)で、第1刷は昭和49年(1974)7月1日発行となっています。
この広告が次の版にも載っていたかどうかはわかりません。
最近発売された復刻版には載っていないそうです。

 


『週刊少女コミック』1973年45号
「イラストCM 素顔大公開!」(2019. 4. 20 追加)

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作家さん方のページの1コーナーです。
イラストはバイオリンを弾く先生とエドガーで「思うはエドガーのことばかり」と書かれています。
イラストの右は自己紹介になっています。

 


『週刊少女コミック』1976年13号
14号予告カット

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『週刊少女コミック』1976年14号は萩尾先生の小学館漫画賞受賞記念特大号でした。
そのカラー予告で、円の中にエドガーが描かれています。
14号は短編「花と光の中」が掲載され、表紙の絵も萩尾先生(画像の少女の絵。実際の表紙も先生の彩色は顔部分のみです)。
記事(26)でご紹介しているエドガーとメリーベルのデラックスポスターが綴じ込み付録で付いていて、裏面が「追跡取材 萩尾望都の素顔初公開!!」と題された先生の紹介記事になっていました。

 


別冊少女コミック』1976年8月号
ポーの一族特別企画 少年たちは今どこに!?」

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5ページのポー特集の中の1ページです。
ポーの一族」のラストの印象的な1枚絵を中心に主要キャラクターがコラージュされています。
特集は先生と羽仁未央さん(当時12歳)の対談が3ページ。
他に先生が書かれたと思われる「ポーの一族」年表や、「吸血鬼とポーの一族」という解説、先生の近況などが載っていました。

 


別冊少女コミック』1976年11月号
「お帰りなさいモトセンセー」

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作家さん方の近況ページの1コーナーです。
この年、先生は「エディス」執筆後にヨーロッパを旅行されたので、こういうタイトルが付いています。
画像が不鮮明で申し訳ないのですが、右側がポーの3コマ漫画になっています。


旅行から太って帰ってきたら…
先生「タダイマー」
 ↓
「なんでアランを殺したの」と手紙の山……
 ↓
ごめんなさい
赤いバラ十本買ってきて おそいお通夜
先生「アレ アンタダレ?」
エドガー「ダレデショ」

 

小さく描かれたエドガーが可愛いですね。
当時、私はこれを見て「エドガーは生きているけどアランはやっぱり死んでしまったんだなあ」と諦めの心境になったのでした。
今、あの時の自分に「40年後にアランがきっと復活するよ」と教えてやりたいです。
翌月の12月号には「続・11人いる!」が掲載されたので、3コマ漫画の左はその予告を兼ねています。

 

 
『週刊少女コミック増刊フラワーデラックス』1976年8月刊


表紙

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増刊号の表紙です。とても美しいですね!
ポーの一族・イラスト&メルヘン大特集」で、この表紙の裏面から「ポーの一族」のイラストが続き、構想メモの画像が1ページあります。
他に「ポーの村」「グレンスミスの日記」「1ページ劇場 1971年12月10日のひとりごと」の再録、「とってもしあわせモトちゃん」と童話「泣きむしクラウン」の描き下ろしを収録。
「泣きむしクラウン」は現在、『銀の船と青い海』文庫版(2015年 河出書房新社)で読むことができます。


エドガー/発表前のエドガーとメリーベル(未発表)

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エドガー単独の絵は、記事(24)でご紹介している『別冊少女コミック』1973年10月号の綴じ込み付録のしおりに使われています。
しおりの絵は部分的でしたが、こうして全体を見るとエドガーの心の葛藤が表現されているのを感じます。


円の中は発表前のエドガーとメリーベル
リーベルは巻き毛ではありませんね。
構想メモでは巻き毛なので、それよりも早い段階で描かれたものなのでしょう。
エドガーの方は作品とほぼ変わらないので、先生の中で最初からはっきりしたイメージがあったのだなあと思います。


エドガー(未発表)

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こちらも未発表ですが、絵のタッチから第2シリーズに入って描かれたのだろうと思います。
何もかも見通したような眼差しと、かすかな微笑。
端正で気品があり少し悩ましくもあって、これこそエドガーという感じがします。

 


ストロベリーフィールズ』1976年 新書館

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ストロベリーフィールズ』は丸ごと1冊萩尾先生の本で、「湖畔にて――エーリク14と半分の年の夏」が収録されているほか、イラストポエムやスケッチ、エッセイ、アルバムなど盛り沢山の内容です。
特にメインになっているのは40ページ以上に及ぶ先生と伊東杏里さんの対談で、画像は2つともその中に載っていたものです。
このイラストが描き下ろしなのか、前にどこかに発表されたものなのかは分からないのですが、小さく載っているだけなので描き下ろしではないような気がします。


対談の話題は多岐に亘っているのですが、タイムマシンの話が出た時に伊東さんが「…『ポーの一族』というのは、たとえば彼らにとって時間というものがないとすれば、彼らは時間を逆行することも可能なんだろうか。それはできないんだろうか」とおっしゃり、先生は「あら、おもしろいね。そこは考えたことがなかったです」と答えておられます。
そのアイデアが新作に取り入れられたら面白いですね。

 


ポーの一族」の旧作イラスト集はこれで最後です。
今後もし新しい画像を入手できましたら随時追加していきます。


イラスト集をまとめてご覧になりたい方は、画面トップの記事タイトルの下にある「イラスト集」というカテゴリー名をタップすると記事一覧が表示されます。
PCでご覧の方は画面右側のカテゴリー一覧からも同じように表示されます。
今すぐ記事一覧に飛びたい方はこちらからどうぞ。

イラスト集 カテゴリーの記事一覧 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

(42)「ポーの一族」イラスト集~「とってもしあわせモトちゃん」ゲスト出演

今回は「とってもしあわせモトちゃん」にエドガーとアランがゲスト出演した回をご紹介いたします。


特に記載のない限り出版元は小学館です。
ほとんどが古い雑誌のコピーの画像ですのでコンディションが良くないものもあります。どうぞご了承ください。
このイラスト集は旧作のレアなイラストをご紹介してファンの方にポーの世界をより楽しんで頂きたいという思いで作りました。萩尾先生ならびに小学館様より削除のご要請がありました場合は速やかに削除いたします。

 


「とってもしあわせモトちゃん」は1972年から1976年にかけて『週刊少女コミック』や『別冊少女コミック』などに不定期に掲載されたギャグ漫画です。
まずは主要キャラクターのご紹介から。

 

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(『週刊少女コミック』1974年2号より)


一番右の緑色のが主人公のモトちゃん。
隣でカップの縁に乗っているのがガールフレンドのレミちゃん。
左の男の子が友達のジョニーウォーカーくん。
その足元にいるのがジョニーくんの愛犬ナポレオンです。


モトちゃんとレミちゃんはカナダの森に住んでいるのですが正体は不明で、ジョニーくんはモトちゃんのことを「ベーキングパウダーをいれすぎたスポンジケーキみたいなの」と形容し、モトちゃんはレミちゃんを「ピンクのハート」と言っています。
2人とも空を飛べて人間や動物の言葉を話せます。
「とってもしあわせモトちゃん」はモトちゃん達が巻き起こすドタバタを描いた、楽しくてナンセンスでファンタジックな、どこか『クマのプーさん』や『PEANUTS』を思わせる作品です。

 


モトちゃんイギリスへ行く


ある日、ジョニー君のオモチャのグライダーを小鳥と思い込んで恋したモトちゃんは、本物のグライダーを追いかけてロンドンの近くまで飛んで行ってしまい、サンディちゃんの家に世話になります。
サンディちゃんのおばあちゃんは言います。


「わたしが子どものころは
なにも知らなかったので
いろんな夢のお話を信じました
としよりになると たくさんのことを知って
子どものころに信じてた夢が
なによりも真実だったことに気づくのです」


そして――

 

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(『萩尾望都作品集16 とってもしあわせモトちゃん』より。テキストも同。初出は『週刊少女コミック』1974年1号)


「そう――
――わすれないで――
おおきくなっても

ちいさなころに信じたこと
夢を語った やさしい人たち
むかしのメルヘン
むかしのともだち

かくれんぼの歌を
森の小道を――
――わすれないで――」


上の大ゴマの真中にいる3人がモトちゃん、サンディちゃん、おばあちゃん。
その右の方に視線を移すと…
おわかり頂けるでしょうか。
素描風のエドガーとアランがいます。


このコマには他にも萩尾漫画のキャラクターが描かれています。
エドガーとアランの下が「精霊狩り」シリーズのダーナ
その左の女性と女の子が「オーマイ ケセィラ セラ」のセィラとママ。
更にその上が「3月ウサギが集団で」の松本くんです。
余談ですが、私はこのコマを見るといつも「ホームズの帽子」でオービンさんが「イギリス この歌と伝説の宝庫――」と独白する場面を思い出します。


さて、モトちゃんはおばあちゃんの話を聞いてレミちゃんに会いたくなりますが、自分がどこから来たのかわかりません。
そこでサンディちゃんは新聞の「たずね人」に投書しようと手紙を書きますが、おばあちゃんがその手紙をテレビ番組の新曲募集に出してしまいます。
それがロックグループのザ・モルトの歌としてテレビで流れ、サンディちゃんは番組宛にせっせとリクエストの手紙を送ります。


そして――

 

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(同上。初出は『週刊少女コミック』1974年14号)


エドガーとアランがBBCテレビ局員になって登場です!
2人ともそれらしい格好をして、くわえ煙草。
エドガーの四角いサングラスが、やけに似合っているのがおかしいです。


2コマ目で右に座っている女性は萩尾先生の自画像です。
最後のコマでは後ろを向いてタイプを打っているので秘書かタイピストなのでしょう。


この後、ザ・モルトの歌は大ヒットしてレミちゃん達の耳にも届き、モトちゃんは無事にレミちゃんの元に帰れたのでした。
めでたしめでたし。

 


ジョニーウォーカーくんのバラのものがたり」


ジョニーウォーカーくんのバラのものがたり」は『別冊少女コミック増刊ちゃお』1973年11月号に掲載された8ページの短編です。
通常の「モトちゃん」は1ページに6コマですが、この作品は一般的なマンガのコマ割りです。
ここに何とエドガージュニアが登場!

 

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2頭身がたまらなく可愛いですねぇ。
でも名乗る場面では

 

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「永遠の時を生きるポーの一族のギャグタッチ
エロガー ポーチネロ」


で、

 

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エドガーが華麗にゲスト出演! ですが…


ジョニー「バンパネラって こんなもんだと思ってたけど」
エロガー「あっちはシニア(一世) こっちはジュニア(二世)」
モト  「バンパネラってなーに」
レミ  「悪霊っていってね…悪いことの もとみたいなものね いわば」
モト  「じゃ カゼのビールスみたいなの?」
レミ  「まァそんなとこね」
エロガー「あんまりだ!!」


ジュニアってどういうこと?って思いますが、そのあたりはあまり突っ込まないでおきましょう。
空腹なエロガーくんはジョニーくんが大切に育てたバラを持って逃走します(上の絵 ↑)。
でも可愛い女の子に弱かったので…という、最後はちょっと可哀想なお話です。


ところでエロガーくんが初登場するコマはこちら。

 

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空腹のあまり、ふらふらと歩いているところです。
宝塚の「ポーの一族」に、変化した直後のエドガーがふらふらしながらコヴェントガーデンをさまよう場面があります。
私はその場面を観ると、どうしてもこのエロガーくんを思い出してしまうんです。
だって、そっくりな黒いマント着てるし。
明日海エドガーファンの皆様、ごめんなさい~!


~~~~~~~~


「とってもしあわせモトちゃん」はこちらで読めます。
記事内でご紹介した絵のうち最初のカラーだけは入っていませんが、他は収録されています。
私はこの頃の萩尾先生の絵が可愛くて大好きで、読むとしあわせな気持ちになります。

 

 

 

記事(26)(33)(34)(35)に画像を追加しました

ポーの一族」イラスト集に画像を追加しました。ぜひご覧くださいませ ♪

 

シックなエドガーの年賀状です。記事の先頭にあります。

(26)「ポーの一族」イラスト集~綴じ込み付録③ - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

エヴァンズの遺書 前編」のモノクロ予告2点の完全バージョンです。

(33)「ポーの一族」イラスト集~予告・表紙・合同扉絵⑤ - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

「はるかな国の花や小鳥」の表紙カットの白背景バージョンです。

(34)「ポーの一族」イラスト集~予告・表紙・合同扉絵⑥ - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

「エディス 後編」の新しいモノクロ予告です。

(35)「ポーの一族」イラスト集~予告・表紙・合同扉絵⑦ - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

(41)「ポーの一族」イラスト集~「'76ポーの一族カレンダー」

続いては『別冊少女コミック増刊ちゃお』1976年1月号の付録だった「'76ポーの一族カレンダー」のイラストです。
保存されていた方から貴重な画像をご提供いただきました。
M様、どうもありがとうございました!


このカレンダーをめぐる顛末を書いております。よろしければどうぞ ♪

(8)幻のカレンダー - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


特に記載のない限り出版元は小学館です。
このイラスト集は旧作のレアなイラストをご紹介してファンの方にポーの世界をより楽しんで頂きたいという思いで作りました。萩尾先生ならびに小学館様より削除のご要請がありました場合は速やかに削除いたします。

 


カレンダー部分のイラスト


絵柄は4種類あります。続けてどうぞ!

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もう、どの絵もいつまでも眺めていたいくらい素敵ですね!
エドガーとメリーベルは上品で麗しく、おそらく原画はかなり小さいと思われるのですがレースやドレスが繊細で美しいです。
アランは普通の少年っぽくて可愛いし、ギムナジウムはまさに「ロマンチック映画の子役みたい」!


私はアランの抱えているパンがどうも気になるんですけど、これはやっぱり自分達でハチミツをつけて(エドガーはつけないかもしれないけど)食べるのでしょうか?
でも3本もあるから誰か人間のお客さんのためなのかも。
あ、エディスとピクニックにでも行くのかな。

 


星占い扉絵

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描かれているキャラクターは右上から時計回りに下のとおりです。
ポーシリーズ以外のキャラクターもいます。
名前の右の日付は公表されている誕生日で、他のキャラクターはそれぞれのイメージやデザイン上の都合で配置されているのではないかと思います。


1 牡牛座 TAURUS エドガー(5月12日)

2 双子座 GEMINI ルカとアロイス?

3 蟹座 CANCER アラン

4 獅子座 LEO ライオンと男の子

5 乙女座 VIRGO シーラ

6 天秤座 LIBRA 男爵

7 蠍座 SCORPIO ユーシス

8 射手座 SAGITTARIUS メリーベル

9 山羊座 CAPRICORN エーリク(1月1日)

10 水瓶座 AQUARIUS オスカー(2月14日)

11 魚座 PISCES キリアン

12 牡羊座 ARIES マチアス

 

双子座はルカとアロイスか、はっきりとはわかりません。
獅子座の子も誰なのか不明です。
もしかしてと思うのは1976年の『週刊少女コミック増刊フラワーデラックス』に萩尾先生の「ポーの一族」構想メモの写真が載っていて、その中ではマチアスがレオンハルト(レオ)という名前でエーリクに似た男の子になっているので、その子かもしれません。
ただ、双子座も獅子座も特定のキャラクターではないイメージ画の可能性もあります。


この絵は『萩尾望都対談集1970年代編 マンガのあなたSFのわたし』(2012年 河出書房新社)の表紙に使われています。
また、2015年に開催された『銀の船と青い海』出版記念原画展では、この絵を大きくプリントしたTシャツが販売されました。


残念ながら表紙の画像はご用意できなかったのですが、検索すれば見つかると思いますのでどうぞお試しくださいね。


からしつこく言い続けていますが、私はこのカレンダーをぜひ復刻してほしいのですよね。
来年1月発売の「ポーの一族」プレミアム本の付録にしてもらえたら最高なんですけど。
それか来年のカレンダーとしてブルームアベニュー(小学館少女まんが誌公式通販サイト)で販売してもらってもいい。
『flowers』のアンケート葉書にもしっかり書きました。
小学館様、どうぞよろしくお願いいたします!