亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(71)『萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界~女子美での講義より~』

先日、ビジネス社より『萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界~女子美での講義より~』が刊行されました。

 

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カバーイラストは「エディス」後編扉絵より
背の部分にもエドガーが!


女子美術大学教授の内山博子先生による「あとがき」によれば、萩尾先生は内山先生に請われて2011年に同大学メディア表現領域の客員教授に就任され、年に2回特別講義を行っているそうです。
特別講義は萩尾先生のお話の時とゲストを招いて対談の時とがあり、内山先生も司会として同席されています。


この本は過去の講義から次の5回分を採録したものです。


第1章 宇宙飛行士・山崎直子さんとの対談

第2章 トランスジェンダーのキャラクターは、どこから生まれてくるのか

第3章 美術史家・中野京子さんとの対談

第4章 萩尾望都さんへ10の質問

第5章 シンガーソングライター・イルカさんとの対談


ここからは章ごとに見出しを挙げて、感想を交えながら簡単に内容をご紹介していきます。


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第1章 ★彡
宇宙飛行士・山崎直子さんとの対談
~宇宙・女性・漫画~
2014年7月21日
44ページ
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「11人いる!」の試験は実際の宇宙飛行士の試験にもある!

宇宙服にもお国柄がある!?

宇宙空間で生命は生まれるのか? 火星を舞台にした「スター・レッド

宇宙観光をして宇宙ホテルに泊まる時代が来る

宇宙飛行士・山崎さんの宇宙での実体験

人類が火星に住む日は来るか?

ISSの中で宇宙飛行士は何をしている?

身近になる宇宙空間

女性が仕事をすることについて

女性漫画家の活躍する場が少年雑誌にも広がる

宇宙では女性らしさが有利に働く場面もある!?

会場からの質問コーナー


SF好きの萩尾先生は本物の宇宙飛行士の方との対談に興奮を隠せないご様子。


前半は「11人いる!」と「スター・レッド」に絡めて山崎さんがご自身の興味深い体験を沢山話してくださっています。


萩尾ファン的に驚いたのは、宇宙飛行士の選抜試験で大型バス1台分位の空間に最終候補の8人が閉じ込められて1週間ほど過ごしたというエピソード。
まさに「11人いる!」ですね。
その試験はその時が初めてだったそうですが、もしかしてこの作品をヒントに考えられた?


また、山崎さんの「宇宙はSFのほうが先行していて、私たち現実が追いかけているようなところがあります」という言葉が印象的でした。


後半は「女性」がテーマ。


萩尾先生が「女の人のほうが感情を汲み取る部分が広いのかなと思いますが…(中略)…一概には言えないですね」とおっしゃり、そこからチームで仕事をする時はコミュニケーションで運営していくのが一番長続きするのではないか、という話になったのが面白かったです。


最後に会場からの質問コーナー。


個人的に興味深かったのは萩尾先生への「最先端のSF的世界と古代世界が入り交じった作品をよく描かれていますが、両者の関係性は?」という趣旨の質問でした。
先生のお答えを一部引用させて頂くと


「実は私の描くSFと古代には決められたパターンがあって、この今発展している人間文明は、いつか息づまるという危機感があるんですね。その危機を乗り越えるためには、一回、原始に回帰しないといけないんじゃないか。古代の精霊の力が、それを救ってくれるんじゃないかというイマジネーションがあるんです。」


ということです。


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第2章 ★彡
トランスジェンダーのキャラクターは、どこから生まれてくるのか
2018年11月26日
38ページ
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かわいい少女漫画から男子ばかりの「11月のギムナジウム」へ

無意識の抑圧を 作品を描くことで意識

「11人いる!」は男ばかりの中に両性具有が1人

SF小説「蟻に習いて」に触発された「マージナル」

女性は命を育むために闘争心が薄く 男性は妊娠しないから物が欲しくなる

“伝わらない感情”を描きたかった「A-A´」

クローンをはじめて取り上げた作品

女性らしいしぐさがなくて描きやすかった「X+Y」

BLが人気なのは純粋な恋愛が描かれるから

会場からの質問コーナー


萩尾先生の作品にはトランスジェンダーを扱ったものが多いですが、きっかけになったのは「11月のギムナジウム」(1971年)だそうです。
描くのがとても楽だったので理由を考えたところ、無意識のうちに「女はこうしなさい」という抑圧を受けていたのだと気づいた。
だから男子生徒が描きやすかったのだろうと思い、それからトランスジェンダーの話を描くようになったということです。


お話は「11人いる!」「マージナル」「A-A´」「X+Y」から多方面に広がっています。
個人的に印象深かったことを挙げてみます。


女性は命を育む子宮があるために、男性ほどには戦争に対する意欲や闘争心がないのではないか。


男性は妊娠しないので、それをカバーするために色々な物が必要なのではないか。宗教も最初は男性のためにつくられた。それは子宮がないので存在の不安さが神様を欲したのではないか。


萩尾先生の「男子校を描いていると楽なのは、世間に期待される女のふりをしなくてもすむことが、根底にあるんじゃないか」という発言に対して、「人間としての解放じゃないでしょうか」と内山先生。ハッとしました。


会場から「初期は可愛い女の子が活躍する短編を描かれていますが当時のお気持ちは?」という質問があり、「少女を描くのも、私の憧れの部分ですごい好きなんです。こんな子になりたいけれど、自分はなれないような女の子を描くのが非常に好き(以下略)」と答えられていました。私は初期の短編の女の子が好きなので嬉しかったです。


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第3章 ★彡
美術史家・中野京子さんとの対談
~美術と漫画 歴史と漫画~
2015年11月30日
46ページ
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意味を知って見ると 絵画の見方が変わる

阿修羅像の眉に惚れて描いた「百億の昼と千億の夜

美しい自画像にこめられたヴァン・ダイクの意図

初の歴史もの「王妃マルゴ」が誕生したきっかけ

絵画を見るとファッションの流行がわかる

興味深いスコットランド女王メアリ・スチュアートの人物像

世界一不幸な王妃ゾフィア・ドロテア

歴史は繰り返す? ゾフィアのひ孫のマチルデ

会場からの質問コーナー


美術史家の中野京子さんとの対談では「百億の昼と千億の夜」「王妃マルゴ」から芸術・歴史・宗教・ファッションの話が縦横無尽に語られていて、お2人とも博識なので大変読み応えがあります。


個人的に面白かったのは最初の方の芸術とお金の話。


中野さんが「日本人は芸術をビジネスにするというと非常に嫌がります。でも、芸術家だって霞を食べては生きていけません。『売れなくてもいい』と言うのは、それはまったくプロではなく、アマチュアです。プロになろうと思うなら、戦略は必要。(中略)今の日本はそういうことを言った瞬間に、『汚れている』というような思われ方をしますが、これは間違いだと思います」と力説。


萩尾先生は「時々、お金のためにこの仕事をやっているんでしょと聞かれることがあるんですが……。お金は欲しいよ、でもこの仕事が好きだから続けているのよという、その兼ね合いがなかなかわかってもらえなくて、戸惑うことがあります」と。


どちらも実感がこもっていて、その通りだなあと思いました。


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第4章 ★彡
萩尾望都さんへ10の質問
2016年7月17日
30ページ
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資料を調べ上げて緻密な舞台設定ができあがる

トーマの遺書の一文が変更されたのはなぜ?

どういったタイミングで新しい作品が生まれるのか?

長年、描くのを迷っていた「ポーの一族」の続編

「春の夢」はシューベルトの「冬の旅」がヒントに

ソビエトで交通事故に遭い死生観が劇的に変化

NHK「漫勉」の撮影秘話

会場からの質問コーナー


この回は事前にホームページで質問を募り、その中から選んだ10問を内山先生が萩尾先生にお聞きするというスタイルでした。
質問は次の通りです。


①発想の源はどこにあるのか。例えば「銀の三角」の創作のきっかけは?

②「トーマの心臓」の頃は外国の資料が少なかったが、どのように情報収集したのか

③「トーマの心臓」のトーマの遺書の最終行が変更されたのはなぜか

④「トーマの心臓」に関係する作品を今後発表する予定はあるか

⑤漫画のアイデアを常に100位持っていると本で読んだが、作品として発表する順番はどのように決めるのか

⑥萩尾先生が原作を提供した波多野裕先生の「天使かもしれない」について

⑦「ポーの一族」の続編「春の夢」を描いたきっかけは?

⑧「春の夢」にバラがなかったのはなぜか。「エディス」の後、エドガーはアランの後を追ったと捉えていたのだが?

⑨先生の死生観をお聞かせください

⑩3つの質問

ユニコーンの夢」はスクリーントーンを使っていないのか

「AWAY」の一紀は「11人いる!」のフロルとキャラクターが似ているのではないか

猫ちゃんはお元気ですか


バラエティーに富んだ質問ですね。
その中で「トーマの心臓」関係が3つもあります。


トーマの遺書の「そうしてぼくはずっと生きている 彼の目の上に」の「目の上に生きる」とは「思い出として生きる」という意味だそうです。
これを聞けたのが個人的に一番嬉しい。


また、萩尾先生に漫画のアイデアが常時100位あるというのも驚きだったのですが、美内すずえ先生はかつて(今も?)500位あるとおっしゃったとか。
す、すごい!


ポーの一族」のキリアンのその後については先生ご自身もよくわからないとのこと。
でも、この講義からすでに数年たっているので何かアイデアが浮かんでいるかも。
先生、ひとつよろしくお願いいたします!


質問の答えから発展してNHK「漫勉」の撮影話もあり、面白かったです。


会場からの質問に答えて、様々なジャンルの表現の中で「漫画に特に優位性があるのは、キャラクターとその心情描写じゃないでしょうか」という言葉に深く納得しました。


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第5章 ★彡
シンガーソングライター・イルカさんとの対談
~好きなことを一生やり続ける力~
2016年12月19日
30ページ
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思い出深い「トーマの心臓」 その理由とは!?

ビートルズに胸を熱くした少女時代

萩尾望都の子ども時代

女子美への入学がその後の人生を変える

漫画を描くことを認めない両親との葛藤

第一線で走り続けて女性の社会進出をリアルに実感

世界の若者に支持される日本のカルチャー

還暦を過ぎて着物作家に


イルカさんは女子美術大学のご出身で、萩尾先生と同時期に客員教授に就任されたそうです。


お2人はほぼ同い年とのことで、子ども時代から青春時代のお話が写真と共に楽しく語られています。
家庭環境が真逆なのが面白い。
最後は現在のお話になりました。


お2人はこの時が初対面だったそうですが、何だかお友達同士の会話のようで、本の中でこの章が一番リラックスした雰囲気です。


★彡★彡★彡


女子美の講義が書籍化されないかなと思っていたので、こうして読めたのは嬉しかったです。
他の回もまとめて頂けるといいですね。
聴講を楽しみにしている方も多いと思いますので、早くコロナが収束して再び特別講義が行われる日が来るよう願っています。


★彡★彡★彡


私も一度だけ聴講しました。
その時のレポートです。よろしければどうぞ。

(54)2019年7月の女子美術大学特別講演に行ってきました - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界 ~女子美での講義より~

萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界 ~女子美での講義より~

  • 作者:萩尾 望都
  • 発売日: 2020/08/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

(70)「秘密の花園 Vol. 5」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


さあ、「秘密の花園 Vol. 5」です。
いやいや、今回も驚きの展開でしたよね~!
まさかブラザー・ガブリエルがエドガーに食われるとは。


感想に行く前に扉絵をどうぞ ♪

 

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小学館『flowers』2020年11月号より。以下同)


2人がそれぞれ蝶のように、あるいは2人で1匹の蝶のように見えます。
Vol. 2 でも背景にこのようなモチーフがありましたが神秘的で素敵ですね。


さて、物語はエドガーを中心に急展開。
今回は大きく3つに分けて感想を書いていきたいと思います。


1 エドガー自身のこと
2 エドガーとブラザー・ガブリエル
3 エドガーとアーサー


・* 1 エドガー自身のこと *・


前回カウスリップのワインを初めて飲んで体質に合わず、危機に陥ったエドガー。
バンパネラとしての自分自身についても一族についても知らないことが多く、男爵夫妻と一緒だった頃は守られていたのだと実感します。


ポーツネル一家の絵が嬉しい。
シーラが若くて可愛いです。
旧シリーズでは大人っぽかったけど20歳ですもんね。


エドガーがそれまで飲んだことのないカウスリップのワインを飲んだのは、館の人間達の中に長く1人でいたから。


「だからアランが必要だ
アランがいたらもっと用心した」

「人間の中に長くいるのは危険だ
つい人間のやることに染まってしまう
…気をつけないと…!」


このモノローグ、ハッとさせられました。


エドガーにとってアランが精神的に何ものにも代え難いほど大切で必要な存在だということはわかっていましたが、アランを守るために自然と慎重になれるから傍にいてほしいという側面もあったんですね。


それで今更ながら気づいたのですが、旧シリーズのエドガーは男爵達と一緒にいた間はずっと「人間に戻りたい」と願い続け運命を呪って孤独だったけれど、アランと2人になってからは違うんですよね。
いつもメリーベルのことを考えていても、自分の運命を呪っている感じはあまりしない。


それは「人間に戻りたい」と思わなくなった訳ではなく、男爵夫妻が自分とメリーベルを守ってくれたようにこれからは自分がアランを守らなくてはという使命感の方が強くて、バンパネラとして生きざるを得なくなったからではないでしょうか。


アランを仲間にした時点で無意識にでも運命を受け入れていたのかもしれません。
だからこそアランには自分にない人間らしさを求めるのかも。


それからこれはエドガー自身のことではないのですが、今月号には「(アランが)目覚めた時は飢えているだろう 食事を用意しておかないといけない…」というモノローグもありました。


前から思っていたんですが、長い眠りから覚める時ってどんな状態なんでしょうね?
変化した直後は本能的に血を求めて人間を襲ったりしますけど、あんな感じになるのかな。


・* 2 エドガーとブラザー・ガブリエル *・


アランが眠っている小屋に入ろうとしたためにエドガーの餌食になってしまったブラザー・ガブリエル。
やっぱりポーではなくて人間だったみたいですね。


この展開にもびっくりでしたが、もっと衝撃だったのはブラザーのエナジーを奪うと同時に、ブラザーのメリッサとの記憶がエドガーの中に入ってきたこと。
こんなことがあるんだ~!


エドガーは「……こんなに生々しく… 記憶が入りこんで来たのは はじめてだ」と焦っていて、記憶が入り込むこと自体が初めてなのか、入り込むことはあったけどここまで生々しいのが初めてなのか、はっきりわからないのですが。


どちらにしても、なぜ今回に限って?
ブラザーのメリッサへの想いがあまりにも強かったから?
それとも、もしやブラザーが普通の人間ではなかったから?


ブラザーの記憶はメリッサが亡くなる前日から発見されるまで。
メリッサは同じ服を着ているので、ブラザーとの会話からあまり時間を置かずに亡くなったようですね。
この断片的な記憶の合間に何があったのか、とても気になるところです。


更にブラザーのエナジーと共に「夢」まで吸い込んでしまったらしいエドガーの枕元に現れた、メリッサの霊。
「ひとつだけ お願い」とは一体何なのか?
気になりますね~。


ところで先ほどブラザーがポーではなくて人間だったようだと書きましたが、まだ 100% そうとは言い切れない気がします。
だって謎が多いから。
どうしてエドガーの中に記憶が入り込んだのかということ以外にも、


なぜフィレンツェで死んだと思われていたのか。
なぜ15年ぶりに館を訪れたのか。
メリッサの話をしている時に言い淀んだことは何だったのか。
それはメリッサの死と関係があるのか。


これらの謎が先々どんなピースとなって物語に嵌め込まれることになるのか楽しみです。


今回、画商のホルバインも「ブラザーがフィレンツェで亡くなったとグロリアに聞いた」と証言したわけですが、グロリアがなぜそう言ったのか、エドガーの容赦ない一言が面白かったですね。
で、ブラザーがお香でお清めをしながら「少年のそういう無邪気さこそ邪悪なものだ」と仕返しみたいに言うのが可笑しい。


この時ブラザーが清めていたのは幽霊の魂ですよね?
それがメリッサの霊だとブラザーは知っていたのかな。


・* 3 エドガーとアーサー *・


今号でエドガーとアーサーの心の距離は、ぐっと近づいたような気がします。


アーサーの体調が悪い時やブラザーを偲んでいる時にエドガーが寄り添い、アーサーは幼少期の思い出を語ったりエドガーの言葉に慰められたりする。
心が落ち着いていく。


ブラザーの遺品の『カンタベリー物語』を前にエドガーがアーサーを支えている場面は、2人の心が通じ合っていて胸に沁みてきます。


エドガーも危険だということを忘れて人間の心を取り戻したよう。
アランに「やっぱり人間のところに長くいるのはよくない…どんどん人間に……ひかれてしまう…」と語りかける姿が少し切ないです。


エドガーがアーサーに「迷惑ならアランをつれて出ていきます」と言ったのは、これ以上アーサーに惹かれるのが怖かったからでしょうか。
でもアーサーの方もエドガーに惹かれていて、まだ手放したくない。


いずれアーサーは自らの意志で一族に加わることになるのかな、という気がします。


・*・・*・


その他にはブラザーが探していた「天国の庭」。
エドガーはアーサーに、それはメリッサのいた中庭だったのだろうと言いました。
ブラザーは最期に帰って来られたのだから可哀想ではないのだと。


秘密の花園」というタイトルには、アランが秘かに眠る花園、アーサーとドミニクが幼い頃に遊んだ思い出の庭という意味があるのかなと思っていたのですが、ブラザーの秘めた想いという意味も込められているのかもしれません。


最後に、今号で私が一番好きだった絵はこちらの小さなコマ ↓
何だかすごく「『ポーの一族』を読んでるぞ」っていう気がするんですよ。
わかって頂けます?

 

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・*・・*・


4枚目のランプトンの絵の制作が始まろうとするところで連載は休止。
続きは来年の春だそうです。
また待ち遠しい日々が始まりますね。


でも11月10日頃に Vol. 5 までを収めたフラワーコミックススペシャルが発売!
これにはショート番外編も収録されるんでしょうね。
今思えばショート番外編は、「秘密の花園」でアランがほとんど眠っているのでアランファンに向けたサービスだったのかも。
先生、お心遣いありがとうございます。


それに先立って10月28日頃に発売される『flowers』12月号には、コミックスに掛け替えられるカバーと栞が綴じ込み付録で付いてくるそうですよ ♪

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(69)「秘密の花園 Vol. 4」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


秘密の花園 Vol. 4」、いやぁ今回も面白かったですね~ ♪
予告通りの新展開!


今回の話はアーサーが3枚目のランプトンの絵を制作中なので1888年10月15日から11月5日までの間の出来事になると思います。
始めにいつものように扉絵からどうぞ。

 

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小学館『flowers』2020年10月号より。下も同)


わ ♪ 何だか「小鳥の巣」みたい~!って思わず興奮したのは私だけ?
2人の少年らしいしなやかな肢体、制服を思わせるリボンタイ付きの黒い服、アランのサラサラの髪。
しかも天使までいる!
エンジェールカミング アイムヒア!


…はい、わかってます。
この絵はブラザー・ガブリエルが探している「天国の庭」ですね。


では、この人の話から参りましょう。


・*・・*・


新キャラのブラザー・ガブリエルは、アーサーが13歳で寄宿学校に入るまでラテン語やフェンシングを教えていた修道士。
その後も館に引き留められてアーサーの祖母グロリアや母メリッサの相談相手になり、アーサーが18歳で大学に行く年にフィレンツェに帰った。
同行して1年間フィレンツェを旅行したグロリアの話では、そこで亡くなり立派な葬式が営まれたという。


そんな人が実は生きていて15年ぶりに館に現れた!
これまで世界を旅していたと言いますが…


この人いったい何者なんですかね!?
人間?
それとも予告にあったポーの村からの使者?


死んだと思われていたのに生きていたとか、地上の「天国の庭」を探して旅しているとか、「ポーなんじゃないの?」と思わせるフシが多いですよね。
それに人間なら、なぜ15年ぶりに突然帰って来たのかわからない。
旅のついでに寄ったのかもしれないけど何の説明もないし。


でも、もしポーの村からの使者だとしたら、エドガーを見てあんな驚き方をするかな?というところが引っかかります。
エドガーを投げ飛ばした時の反応も人間っぽい。
一方で、フィレンツェ出身の修道士ということでルチオか?とも思えたり。


まあ、その正体はいずれわかるでしょうが、ともかく面白いキャラですよね。
修道士だけど即物的で、マルコと張り合うのが可笑しいし、エドガーを「少年」と呼び続けるのも面白い。
もしポーなら今までいなかったタイプです。


そしてブラザーはメリッサに思いを寄せていたんですね。
「優しい方」と崇拝して。


メリッサのことをエドガーと話していた時、「私も…あの方に強く生きてほしかったんだ だから…」と言った後で話をごまかし、エドガーが「なんだか はぐらかされたような…」と怪訝な顔をしていますが、本当は何を言おうとしたんでしょうか。


これは完全な私の妄想なので本気にしないで読み流して頂きたいのですが…。


もしやブラザーはポーの一族で、メリッサを仲間にして一緒に旅をしたかったのでは?
苦しみから解き放してあげたい気持ちもあっただろうし。
でもメリッサが拒否したので、正体を知られた以上は生かしておけず自殺に見せかけて殺したとか。


うーん、違うだろうな…。


ところでブラザーの「地上の天国の庭」で思い出したのは、バリー=ダイモンの「地下の天国」。
それぞれに大切な場所ですが実に真逆ですね。


・*・・*・


メリッサは Vol. 3 ではかなり厳しい人、キツイ人という印象でしたが、ずいぶんイメージが変わりましたね。


息子のアーサーが5歳の時にロンドンで馬車の事故に遭い半死半生の状態になってから一緒にレスターに移り、ロンドンとレスターを行き来する生活。
ロンドンでは準男爵の妻として頑張っていたのに、夫の口から別家庭の存在を告げられ離婚を切り出されるとは。


きっと元々はブラザーの言うように優しく献身的な女性なんでしょうけど、息子まで誰かに取られると思えば、そりゃヒステリックにもなろうというものです。


夫のグローブ氏は今号で初登場。


結婚直後から浮気していたというのは当時の貴族としてありそうだとしても、息子が事故で「いずれ死ぬ」と宣告されたらあっさり諦め、レスターに移った後は一度も会わないなんて冷たすぎませんか?


はじめから情が薄かったのかなと思います。
アーサーが父を殺して自分も死のうと考えたのも、わかる気がしますね。


今回アーサーが顔に傷を負った理由が明らかになりましたが、想像以上にひどい状態だったようで驚きました。
おまけに父親に見捨てられるし、小さい頃は弱くて泣き虫だったのもわかります。
ブラザーに鍛えられて回復できて本当によかった。


・*・・*・


さてさて、エドガーの話もしないと!


3枚目のランプトンの絵で読んでいた本は『カンタベリー物語』だったんですね。


面白かったのはブラザーにいきなり投げられて身軽に着地するところ。
私はこのエドガー ↓ が可愛くて好きです。

 

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でもそれよりも大事件が!
アーサーの神経の薬としてマルコが作ったカウスリップのワインを飲んで、まさかの中毒症状に!


個人差があるのかもしれませんがバンパネラの体質に合わない飲食物があること自体驚きでしたし、エナジーが減って命に関わるなんて本当にびっくりでした。


私は最初、誰かがグラスに何か入れたのかなと思ったのですが、エドガーが何に弱いか人間が知るはずはないし第一動機がないし、ブラザーがエドガーを殺す目的で来たとは思えないし、偶発事故なんですよね?
想定外にパトリシアの祖母を殺す結果になりましたが、このことが何か問題を引き起こすのでしょうか。


ちなみにカウスリップは薬用にも食用にも使われるハーブで、花から作ったシロップを発酵させてワインにするそうです。


・*・・*・


そのほか次号以降に関係しそうなことのメモ。


切り裂きジャック


1888年8月末から11月にかけてロンドンで発生した娼婦ばかりを狙った連続猟奇殺人事件。
この「秘密の花園」が1888年9月から89年春頃までの話になると思われるので、時期的にドンピシャです。
現在も未解決なのでパトリシアの夫が関わっていることはないでしょうが、面白い一致ですよね。


でもパトリシアの夫の顔の引っかき傷はどうしたんだろう?
女性かネコにやられたのかな。


クエントン館の幽霊


メリッサの死後に館に出るようになったという幽霊。
絵ではメリッサのような女性の姿をしています。
マルコ以外の使用人が館に住まなくなった理由がわかって、なるほどでした。


画商のホルベイン氏からの手紙


毎年この時季に届くらしい手紙。
どのように物語と関わってくるのでしょうか。


・*・・*・


秘密の花園」も次回で Vol. 5。
「春の夢」が連載6回、「ユニコーン」が5回だったことを考えると、そろそろ終盤に差しかかってくるのでしょうか。
でも、まだまだ読んでいたい~!
萩尾先生、一気にまとめなくて結構ですので1回でも長く続けて頂きたいです!


なんて思っていたら、小学館のサイトにフラワーコミックス『秘密の花園 1』が11月10日発売という告知が出ました。
これって Vol. 5 か 6 までを第1巻として、続きの第2巻も出るということですよね?
わ~、長編になるのかな ♪


言い換えれば Vol. 5 か 6 で一旦休止になるのかもしれませんが…。
とにかく次回も楽しみです!

 

 

(68)「秘密の花園 Vol. 3」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


前回アーサーの協力のもと、眠り続けるアランを無事に秘密の小部屋に寝かせたエドガー。
翌日、パトリシアが兄と一緒にアーサーを訪ねて来て…というところからの「秘密の花園 Vol. 3」です。


扉絵はこちら!

 

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小学館『flowers』2020年9月号より。下も同)


妖しい夜の森をさまようエドガーとアラン。
実は私、幼少期から蛾が苦手でして、背景は極力見ないようにしています(笑)
エドガーの服は前号から引き続き今号でも着ているアーサーが子どもの頃の服ですね。
アランもジャケットがお揃い。
半分眠りながら手を引かれていますが、扉絵だけでも目が開いててよかった。


Vol. 3では主にアーサーとパトリシア、アーサーとドミニクの関係が語られました。
そこで始めにこの2つを簡単にまとめたいと思います。


・* アーサーとパトリシア *・


アーサーとパトリシアは同い年のまたいとこで、祖母同士が姉妹であるとわかりました。
親族の名前が多くて混乱してきたので、ちょっと整理してみます。


【アーサーのクエントン家(準男爵家)】


グレース(曾祖母)

チャールズという息子を1831年コレラで亡くす

1850年頃、チャールズの顔に似せてランプトンの模写を描かせる


グロリア(祖母/Vol. 1 ではグローリア)

チャールズの妹。アリスと姉妹

庭のバラ園に手を入れた人


メリッサ(母)

グロリアと共にバラ園に丹精を込める

夫のグローブ氏に愛人がいることが発覚して離婚。1年後に自殺

グローブ氏は離婚後ロンドンに住む


アーサー

13歳からロンドンの寄宿学校に入る

パトリシアが16歳で結婚するまで帰省の折に会う。将来はプロポーズしようと思っていた

在学中に両親が離婚

1年後に母が自殺。当時17歳(Vol. 1 では18歳)

1879年ケンブリッジ大学を卒業後ロンドンで偶然パトリシアに会い、小犬のダ・カーポとフォルテを引き取る

1888年9月、館を訪ねて来たパトリシアと9年ぶりに再会


【パトリシアのバンクス家(メリッサから「農民」と言われる家)】


アリス(祖母)

アーサーの祖母の姉妹

孫のパトリシアが16歳の時、夫のバンクス氏と共にクエントン家にアーサーとパトリシアの縁談を持って行くがメリッサに拒絶される。このことはアーサーもパトリシアも知らなかった


パメラ(母)


パトリシア

アーサーと同い年

パトリックという兄がいる

アーサーが好きだったが16歳で結婚しロンドンに住む

1879年にロンドンでアーサーに再会した時、子どもが2人いた


パトリシアは外見が華やかで美しいだけでなく、ドミニクの詩を笑って傷つけたことを後悔したり、小犬の貰い手を探して奔走したりと優しい人ですね。


・* アーサーとドミニク *・


ドミニクはクエントン家の庭師夫婦の息子でした。
年齢ははっきりわかりませんがアーサーと同じか少し下のように見えます。
吃音があり、読み書きが好きな優しい子。


アーサーは小さい頃、毎日のように庭でドミニクと遊んでいました。
一度ランプトンの絵を見せるために居間に連れて行き、母に説教されます。


ドミニクもまたパトリシアに恋していました。
アーサーが14歳の頃、ドミニクがパトリシアに捧げる詩を作ります。
それが気に入らないアーサーはパトリシアの前で読むようにけしかけ、結果的にドミニクをひどく傷つけてしまいます。


その後ドミニクは14歳で病気で亡くなり、アーサーはドミニクの母から形見のノートを譲り受けました。


・*・・*・


パトリシアとドミニクを通してアーサーの人物像も、より鮮明になってきました。


ドミニクと遊んでいた幼少期は弱くて泣き虫。
ビクトリア時代の話だし、お母さん厳しそうですもんね。
でも、それだけが理由じゃないような気もする。
顔に大けがを負った事故のことはまだ語られていませんが何があったのでしょうか。


13歳で寄宿学校に入ってからアーサーは変わっていきます。


「ぼくは弱く小さかった
子供時代を卒業するんだ」

「強い男になって
いずれパトリシアにプロポーズするんだ」

「ぼくは いずれ準男爵(バロネット)だ
…左耳はないけど…
館も土地もある!」


もうアーサーにとってドミニクは友達ではなく使用人の息子。
だからドミニクがパトリシアに恋すること自体が許せないし、ドミニクが泣いてもみっともないと思うだけ。
階級社会とはいえ、仲良しで親切にしてもらっていたのに。


パトリシアに対しては早いうちに「好き」と伝えておけば良かったのにな、と思いますが。
顔の傷がコンプレックスで言えなかったのでしょうか。


その後、父の愛人問題、両親の離婚、母の自殺。
大学時代は狂暴かつ非情で「鬼のアーサー」と呼ばれていたといいますが、容貌を恐れられたことに加えて好きだった女性の結婚や家族のゴタゴタで自暴自棄になっていたのかなと思います。
世の中に見捨てられたという気持ち?


卒業後、行き詰まって父を殺して自分も死のうとロンドンへ行き、パトリシアと偶然再会。
引き取った犬と暮らすうちに死ぬことを考えなくなった。


そして現在に至るようですが、まだ語られていないことが色々ありそうです。
事故のこともあるし、Vol. 1 でパトリシアがランプトンの絵を「思い出の絵」と言っていたのも気になります。


エドガーが絵のモデルを務めながらカウンセラーのように言葉を投げかけ、アーサーは自分の子ども時代と向き合っていきました。


ランプトンの絵は1枚ごとに少しずつ室内から外へ移動していき、10枚目は春の庭なんですよね。
アーサーがドミニクと遊んだ思い出の庭。
この絵を描き上げた時、アーサーは心に区切りをつけることが出来たのでしょうか。


そして11枚目の「ランプトンのいない部屋」。
この最後の絵はどのような状況で描かれたのでしょうか。


・*・・*・


さて、今回はアーサーの話だけで終わるのかと思われましたが、そうはいきませんでしたね。
最後にドーンと来ましたよ。


狩りをするエドガーを久しぶりに見た気がします。
あのマフラー、きっと自分で隠したんでしょうね。


それでふと疑問が湧いたのですが。
前の記事に「眠りの時季で眠っている間の意識はどうなっているのか」と書きましたが、眠っている間のエナジーはどうなのでしょうか。


エドガーは眠っているアランにせっせとバラを運んでいますし、狩りもアランのためですよね。
アランは“気”のヒフが薄いためにエナジーが漏れて眠ってしまうらしいので、放っておくとだんだん弱っていく。
だからエナジーを送り込まなければいけないし、エナジーが新鮮なほど早く回復する、と考えていいのかな。


もっとも「アランの“気”のヒフが薄い」というのは後にファルカが言ったことなので、この時のエドガーは知らないのですが。
それにポーの村で眠っている人々はアランとは少し事情が違うような気がするんですが、どうなんでしょう。


そして最後のコマでエドガーがアランに「少しずつ獲物がやってくるよ」と語りかける「獲物」とは誰のこと?
アーサーの親族?


切り裂きジャック」の話まで出てきて何だか血なまぐさくなってきたなあと思ったら、予告のアオリはこうでした(絵は8月号の表紙と同じです)。

 

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「眠り続けるアラン。
そして訪れる村からの使者。
エドガーの周囲で運命が回り続ける――!!
必見 新展開!!」


おおっ これは必見ですね!
皆様、猛暑やコロナなどで大変ですが続きを楽しみに元気に過ごしましょう~。

 

 

記事(21)に追記しました

ヨハンナスピリッツについてドイツ在住の方からコメントを頂きましたので追記しました。
結論は間違いではなかったようです。

(21)ヨハンナスピリッツのパイの謎
https://mimosaflower.hateblo.jp/entry/2017/11/03/135231

(67)「秘密の花園 Vol. 2」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


待ちに待った「秘密の花園」の連載が再開されましたね!
Vol. 1 から1年ちょっと。嬉しいですね~ ♪


では早速、恒例の『flowers』表紙と作品の扉絵からどうぞ。

 

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小学館『flowers』2020年8月号より。下も同)


表紙は棘もいとわずバラをかき抱くエドガー。
麗しい。そしてウエストが細い!
この華奢な腰と眉の形は、もう「ペニー・レイン」扉絵風の衣装を着た明日海さん…って、毎度どうもすみません。


扉絵はとてもインパクトがありますね。
赤いバラが表紙から続いています。
中世風のコスチュームで、まるで物語の一場面のよう。
紋章のようなものは何でしょうか。
この扉絵については他にも気になることがあるので後でまた書きます。


・*・・*・


それでは物語の感想を。


1ページ目はカラーで、眠るアランと、それを見守るエドガー。
アランの寝顔が幻想的な色合いで美しく、そこにエドガーの「夢を見てるの?」というセリフが被さって、私は何となく「バルバラ異界」を思い出してしまいました。
もっとも私は「バルバラ異界」をずいぶん前に1度読んだきりなので的外れだったら申し訳ないですが。


クエントン館に、エドガーからの手紙を受け取った後見人の弁護士・ウインクル氏が到着。
…と思いきや、現れたのはシルバーでした。


シルバー、活躍しますね~!
「春の夢」「ユニコーン」より顔がふっくらして若く見えるのは、エナジーを補給したばかりだったから?
それとも、もっと古い時代の話だからでしょうか。
この「バンパネラの見た目年齢問題」、私にはいまだに謎なんですよね。


今号ではシルバーの名字も判明しました。
シルバー・ピーターバラ


で、今度は「バンパネラの名前問題」なんですが、私は前に「一族の名前には『ポ』が付くんだよ」と教えてもらったんです。
ポーツネル、ポリスター、ポラスト。確かに。


でも儀式をしていない人はトワイライト、クエントンと「ポ」が付かないので、儀式の時に改名するのだろうか?なんて勝手に想像していたのですが。
ピーターバラも「ポ」が付かない。
じゃあイニシャルが「P」ならいいのかというと、おそらく一族と思われるウインクルは「P」すら付かない(ものすごくどうでもいいことですが、Vol. 1 ではウィンクルでした)。


そこで現時点での結論は


「一族の名前に特に決まりはない」


ということでいかがでしょうか。
これでもしウインクル氏のファーストネームがポールとかだったり実は人間だったりしたら、また頭を抱えそうですが…。


・*・・*・


さて、シルバーは族長のクロエからエドガーを説得してポーの村に連れて帰るよう言いつかって来たのでした。
エドガーは後見人がポーの村と通じていたことに大きなショックを受けます。
更に一族についてまだまだ知らないことや、自分の力だけではどうにもならないこともあると思い知らされます。


私が今号で一番印象に残ったのは、男爵夫妻とメリーベルを失った時の話を蒸し返されたエドガーが「ぼくの前で二度とその話をするな 妹の名を出すな!」と叫ぶ場面で、この頃はエドガーの心の傷はまだ生々しかったのだなと思いました。
シルバーと話しながらカーテンにくるまり、最後はカーテンを閉めて足を投げ出して座っている姿は、どうしていいかわからない小さな子どものように見えました。


でも考えてみれば男爵夫妻とメリーベルが突然消えてしまってからまだ9年しかたっていないのですよね。
120年以上も一緒に暮らしてきたのに。
エドガーにとって3人を失うことは天涯孤独の身になるということで、特にメリーベルの喪失は生きる意味をなくすことでもありました。


「ペニー・レイン」でアランの目覚めを今か今かと待っているエドガーは、そんな不安やさびしさ、心細さでいっぱいでしたし、幼いリデルを殺さなかったのもメリーベルを重ねたからかなと思います。


そしてアラン、リデルと共に旅を始めてからは子どもだけで生きる難しさに直面したことでしょう。
いくら世慣れているとはいえ、それまでの人生は男爵夫妻の庇護のもとにありました。
ずっと男爵に反発してきたけれど実際には守られていたこと、子どもでは不自由が多いことを痛感したのではないでしょうか。


ウインクル氏との関係はまだよくわかりませんが、エドガーにとって唯一信頼できる大人だったのではないかと思います。
その相手に裏切られて自分の甘さ、未熟さに気づき、シルバーの言葉が余計にこたえたのかもしれません。


でも、ここから先はいつもの冷静なエドガー。
やむをえずアーサーの助けを借りようと決めますが、慎重に事を進めます。


一方のアーサーも、エドガーの一族が普通の人間と比べて実に変わっていると聞いてエルフ一族を思い浮かべるところは、さすがイギリス人。
いや、こういう発想をすること自体が変わり者の証拠かもしれませんが。
これからアーサーがどのように一族の真実を知っていくのか、なぜ仲間に加わるのか、明かされるのが楽しみです。


・*・・*・


個人的に今号で一番興味深かったのは、新シリーズで新たにわかった一族の「眠り病」でした。
シルバーの話によれば「眠りの時季」は不意にやってきて長く続く。
だから安全に眠れる村が必要――。


この「眠り病」の正体はまだ謎ですが、単に眠くなるというだけではないですよね?
「春の夢」でアランが「眠りの時季」に入っている時、ファルカが言っていました。


「あんたは “気” のヒフが薄いんだよ
すぐシューシュー漏れちまう
また治してやるよ 安心しな」


そして1週間ほどかけて少しずつ “気” のヒフを塞いでくれたおかげでアランは元気になりました。
つまり “気” のヒフが薄いからエナジーが漏れて眠くなる、ということのようですね。
リーベルも半年、1年と眠ることがあったそうですが、きっとアランと同じ症状なのだろうと思います。
2人は体質的に似ていますし。


でも「春の夢」でエドガーは「…ポーの村にいる一族は…そのほとんどは…バラの世話をするほかは眠り続けているんだ…」と言っていました。
皆が皆、“気” のヒフが薄いのでしょうか?
そうでないならエナジーを無駄に消耗しないように本能的に眠くなるとか、別の原因があるのかも。


それと、眠っている間の意識はどうなっているのでしょうか。
今号の1ページ目のアランを見ていると、夢の中でどこかと交信しているのではないかとも思えるのですが…。


ポーの一族の「眠り病」がルチオ一族の「眠れない病」と対になっているのも面白いところ。
この2つには何か関連がありそうですよね。
どちらも新シリーズの鍵の1つだと思うので、これからも注目していきたいです。


ところで、突然ですがここで冒頭に載せた扉絵の話に戻りたいと思います。
実は私の妹が、この絵をグリムの「いばら姫」みたいだと申しまして。


「いばら姫」が「?」の方も、ペローの「眠れる森の美女」と言えばおわかりになるのではないでしょうか。
こちらを原作にしたディズニー映画もありますし。
ちょっと調べてみましたら、「いばら姫」も「眠れる森の美女」も出典は同じ昔話ですが細部に違いがあるそうです。


例えばペローとディズニーの「眠れる森の美女」では王子が必死にイバラを切り開いて(ディズニーでは竜とも戦う)城に入りますが、グリムの「いばら姫」では王子が来た時にちょうど100年の呪いが解けてイバラがひとりでに道を空けます。


また、グリム版とディズニー版では王女は王子のキスで目を覚ましてハッピーエンド。
これに対してペロー版では、ちょうど100年の時が過ぎたため王女は自分で目覚めます。
そして王子と結婚しますが、その後に怖~い続きが…。


どうしてこんな話を長々とするのかというと、「いばら姫」でも「眠れる森の美女」でもいいのですが、「王子がイバラを切り開き(障壁を乗り越え)、眠り続ける王女を目覚めさせる」という図式が、このポーの新シリーズに通じる気がするからなのです。


「眠りの時季」に入ったアランを守ろうと戦うエドガー。
1976年以来、炭のような状態で眠り続けているアランを何とか復活させようと必死なエドガー。


そう考えると今号の扉絵が新シリーズ全体を象徴しているように見えてきます。
襲いかかる赤いバラが、ポーの村でフォンティーンに絡みついているバラの根や咲き狂う花を思い起こさせますし、エドガーを連れ戻そうとするクロエの姿とも受け取れます。
もちろんこれは私の勝手な妄想で、萩尾先生はそんな意図で描かれたわけではないでしょう。
でも色々と想像するのは楽しいですね。


・*・・*・


そのほか気になったこと。


沢山ありますが、何と言っても驚いたのはこれ。


エドガーは軽い催眠術を使える!!


いやー、びっくりしましたね。
ポーの誰もが催眠術を使えるわけではないと思うのですが、大老の直系ゆえ?
1944年の時点で「目を使う=テレポートする」という大技も身につけているし、他にも隠された能力があるのかも。


私は最終的に大老エドガー vs. フォンティーン&バリー=ダイモンという大老とその直系同士によるバトルが繰り広げられるのではないかと思っているのですが、フォンティーンもバリー=ダイモンも不思議な(不気味な?)力を持っていそうなので、もし本当にバトルになったらすごいでしょうね。


次に気になるのは、犬のフォルテがアランが眠っている小部屋までついて来たこと。
あれほどマルコに外に出すなと言われていたのに。
これって何かの伏線ですかね?


フォルテは9年前にパトリシアがアーサーにあげた犬なんですよね。
9年前と言えばエドガーがアランを仲間にした年。
これは単なる偶然か?
更に犬と言えば、私は「ユニコーンVol. 3」でアランが犬に怯えていたのが今も引っかかっているんですよ。


まあ、ここまで来るとさすがに考えすぎかもしれませんが…。
ポーを読んでいると何でも伏線かと思えてしまって困ったものです。
でも先ほども書きましたが、こうやってあれこれ考えるのが楽しいんですけどね ♪


あっ、今回はエディスとロビン・カーに続いてリデルがチラッと出ましたね!
新シリーズに本人達が登場することはなさそうですが、こうして回想シーンで語られるだけでも嬉しいです(もし登場したらもっと嬉しいけど)。
他のキャラクターも出てくれるといいなあ。


絵の面では黒と白のコントラストが印象的なコマが多くて旧シリーズを思い出しました。
エドガーとシルバー、エドガーとアーサー、2人だけで話す場面が何ページも続きましたが、カーテンの花柄や庭のバラ、木立など背景に変化があって飽きさせないのがすごいなと思いました(偉そうですみません)。


そして私が独断で選んだ今月のエドガーのベストショットはこちら!

 

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夜の闇の中、ランプの灯りに照らし出された妖しく美しい顔。
セリフがまたエドガーらしくていいですよね。


さてさて、次回はドミニクという少年の話が語られるのでしょうか。
この子は庭師の息子なのかな。全然違う?
パトリシアとアーサーの関係も気になりますね。
ウインクル氏は登場するのか。
エドガーはアーサーに更なる秘密を告げるのか。
アランは?
シルバーは?


うーん、目が離せません!


・*・・*・


Vol. 1 の感想です。よろしければどうぞ。
(52)「秘密の花園 Vol. 1」
https://mimosaflower.hateblo.jp/entry/2019/06/09/160524

 

 

記事(30)(33)(35)に画像を追加しました

ポーの一族」イラスト集に画像の追加と追記をしました。
どうぞご覧くださいませ。


(30)予告・表紙・合同扉絵④
「小鳥の巣」第2話予告カット+完全バージョン(テオ)https://mimosaflower.hateblo.jp/entry/2018/03/02/153107


(33)予告・表紙・合同扉絵⑤
エヴァンズの遺書 前編」目次カット+完全バージョン(アーネスト)
https://mimosaflower.hateblo.jp/entry/2018/05/01/072723


(35)予告・表紙・合同扉絵⑦
「一週間」予告カット完全バージョン
「エディス 中編」予告カット完全バージョン
ブログに載せていないカットについての追記
https://mimosaflower.hateblo.jp/entry/2018/05/01/075718