亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(74)Eテレ「100分 de 萩尾望都」

1月2日にNHK Eテレ「100分 de 名著」のスペシャル版として「100分 de 萩尾望都」が放送されました。
ご覧になった方も多いことでしょう。


萩尾漫画を愛する4人のゲストがそれぞれ作品を選び、その魅力を全員で分析するという企画で、ゲストの考察の後に萩尾先生のコメントもVTRで流れ、とても見応えのある番組でした。


進行役はカズレーザーさんと安部みちこアナウンサー。
ゲストの方々と選ばれた作品は次のとおりです。


小谷真理さん(SF・ファンタジー評論家):「トーマの心臓
ヤマザキマリさん(漫画家):「半神」「イグアナの娘
中条省平さん(フランス文学者):「バルバラ異界
夢枕獏さん(作家):「ポーの一族


この記事では番組中のキーワードを柱にして内容を簡単にご紹介したいと思います。
もし間違いにお気づきになりましたら、ご指摘頂けますと幸いです。


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第1章
性別を越境する少女漫画
トーマの心臓

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トーマの心臓」を選ばれた小谷さんは、まずこの作品を「文学そのもの」「難解だが、そのわからなさ自体が魅力的」と評されました。
私も全面的に同意です。


そして4つのポイントから魅力が論じられていきました。


①少年が主人公


「少女に非ず 少女的でない何者か」


小谷さんによれば当時の少女漫画の主人公といえば女の子で、少女読者が自分を投影するものでした。
でも女の子が全く登場しないギムナジウムという世界で少年が主人公だと、読者は日常的に縛られている「女の子らしさ」から解放されて自由を感じられました。
つまり、少女でも少年でもない曖昧な存在として自分を投影できたということです。


ヤマザキさんも共感され、「トーマの心臓」で描かれている少年を「実際とは違う『女性が創った少年』という、ある意味新しいカテゴリの人種」と表現されました。


②14歳の意味


「14歳という美しいファンタジーを生み出した」


これは獏さん(本来なら夢枕さんとお呼びすべきですが、皆さんに倣い親しみを込めてこう呼ばせて頂きます)が力説されました。
「13歳では幼い。15歳では少し色気づいてくる。そんな香りが漂わないのが14歳」とのこと。


萩尾先生も以前、「13歳だと少し子どもっぽく、15歳だともう大人になることを考えなくてはならない。14歳がちょうどいい」という風に話されていました。


③トーマの心の意味


「エロス(性愛)ではなくアガペー(自己犠牲的愛)の話」

「神から人間への愛 自己犠牲的な愛」

「罪人でありながら救世主でもあるトーマ」


萩尾先生が以前おっしゃっていましたが、タイトルの「トーマの心臓」とは「トーマの心」という意味だそうです。


小谷さん曰く


トーマと同じ顔をしたエーリクに「ぼくの翼をあげる」と言われた時、ユーリはトーマの死の意味を知る。
それは「あなたがどんな罪を犯していても、自分が身代わりになります」という心。


トーマの心臓」はキリスト教におけるアガペー――神から人間への自己犠牲的な愛の話。
トーマは死んだも同然のユーリを生かすために自分の命を差し出すという、救世主がなすべきことをした。


けれどキリスト教で自殺は大罪。
ユーリはまた、トーマの中に罪人と救世主が共存していることにも気づく。


ラストでユーリが神学校に進むことについてヤマザキさんが「トーマの自己犠牲を請け負ったという解釈になるのか」とおっしゃり、小谷さんは「トーマの愛に生きると決意したのでは」と返されていました。


④「トーマの心臓」=SF


ギムナジウムはSF的異世界

異世界をつくることで現実を相対化できる」

「ユーリの罪が救われることが現実の女性たちの救いになる」


④はSF・ファンタジー評論家の小谷さんならではの発想で驚いたのですが、この作品のギムナジウムは「生臭さのない美しい少女漫画的なギムナジウム」であり、現実にはない異世界だからSFとして読めるのだそうです。
なるほど!
先ほど①でヤマザキさんが言われた「実際とは違う『女性が創った少年』」とも繋がりますね。


小谷さんは、ユーリのような体験をした女性は現実の話からは目を背けたくなるけれど異世界の話としてなら読むことができて、ユーリが救われることで自分も救われるのではないか、とも話されました。


この後、萩尾先生のコメントが流れました。


①で小谷さんとヤマザキさんが言われたように、先生ご自身も少年だと非常に描きやすく、「少年の自由」に目覚めた。
そして「女の子は女の子らしくしないといけない」と自分で枷をはめていたことに気づいたそうです。


コメントの途中で、この作品を描くきっかけとなったフランス映画「寄宿舎~悲しみの天使」も紹介されました。


またスタジオでは、いわゆる「花の24年組」の功績についても語られました。


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第2章
家族という病
「半神」「イグアナの娘

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①「半神」


「強烈な『人間の実存』を問いかけてくる作品」

「自分が思っている自分と世間が見ている自分が一心同体になった存在」


ヤマザキさんは「半神」を「カフカのよう。奥行きがどこまでもある作品」と評されました。
自分に問いかけてくるものがある、とも。


そして大人になってから、これは双子の話ではなく、1人の人間の話と考えるようになったそうです。


人間の中には二面性があり、育つに従って世間(他者)から求められていない方を捨て、求められる姿になる。
本来あった自分を捨てていく。


ラストでユージーが鏡の中に亡くなった妹の姿を見て感じるのは一種の喪失感であり、「自分が求めていたのは本当にこれだったのだろうか」という想いではないか。


カズさんが「両親から見れば、美しい妹の肉体の中に姉の精神が宿っている。周囲にとっては姉が死んだことになっている」とコメント。


お2人の考察は私にとって目からウロコでした。


②「イグアナの娘


「何で ありのままの自分を愛してもらえないのか」


この作品では母娘問題とともに、ラストページの意味が特に話題になりました。

 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション9 半神 自選短編作品集』2008年 小学館より。下も同)


最後のモノローグ「どこかに 母の涙が凝(こご)っている」について、「凝っている」とはつまり苦しみが流れていない、浄化されていないのではないかという意見が出ました。


そして最後のコマの下の方に小さく描かれている、こちらの絵。

 

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これは何を表しているのだろう?というところで萩尾先生のVTRになり、お答えが。


小さな生き物はトカゲで、人間になりたかったお母さんの正体のイメージなのだそうです。
苦しみが流されたのはリカだけで、リカは「お母さんは無念のまま死んだだろうな」と思っている。
凝っていたのは「母の無念」とのことでした。


この後、VTRで精神科医斎藤環さんが「母娘問題のかなりの構造は、この作品が描き切っている印象が強い」などとコメントされました。


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第3章
夢と現実のパラレルワールド
バルバラ異界

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「時夫は夢の中で場所と時間を移動している」

ファシズム的な誘惑」

「生命の統一性の回復は危険」

「言葉を介してでなければ本当の人間にはなれない」


カズさんが「バルバラ異界」を萩尾漫画で「おそらく最も難解な作品」とおっしゃったのですが、私もずいぶん前に読んだ時、よく理解できませんでした。
しかもそれきり一度も読み返していなかったのでストーリーさえ忘れかけていて、この番組のおかげで「そんな話だったのか~!」と初めてわかりました。ありがたい。


この作品を選ばれた中条さんのお話を要約すると


人間の永遠の生命への欲望は、文学的なテーマというより人類の根源的な欲望で、萩尾さんはそれを問題にしている。


夢の中の火星は全ての生命が溶け合って1つになっている原初のユートピアだが、1つになることはカルト宗教的な匂いがして怖い。


個人を捨てて美しく快い全体になれば何も考えなくてよくなってしまう。それはファシズム的な誘惑であり、その危うさは現在のコロナ禍の社会と共通するものがある。


時夫とキリヤは本当の親子ではないが血縁を超えた絆があった。キリヤは死ぬが、その前に2人にコミュニケーションが芽生えた瞬間が一番美しい。


今は遺伝子が全てのように言われるが、萩尾さんは科学万能の決定論に警鐘を鳴らしている。


ラストの「キリヤ 青羽 子どもたち 未来はきみらを愛しているか?」という問いかけには「神のもたらす『運命』と人間の『自由意志』の葛藤」という人類文化史の大問題が埋め込まれている。


途中、萩尾漫画における父親像の話になり、萩尾先生が「残酷な神が支配する」のグレッグについて語られました。


残酷な神が支配する」を描く前は親や大人や社会が怖かったけれど、描きながらグレッグの内面を追いかけていくうちに怖さがなくなっていった。
描くことによって片づけることができて自分でも面白かった、とのことでした。


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第4章
人間ならざるものの孤独
ポーの一族
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「集団の中で違和感をもった子が どうやって世間と折り合いをつけていくか」

エドガー=究極のマイノリティー

「永遠に時間と空間を旅してゆく宿命」


獏さんにとって「ポーの一族」は、一言でいうと「読んだ人の魂が透きとおる」作品だそうです。


エドガーはバンパネラという異形のものの中でも変わり種の14歳。
つまりは究極のマイノリティー


不老不死でありながら万能ではない。
血を吸わなければ生きられないので人間社会と距離を置けないが、親密になることもできない。


1つの場所に長く留まれず、時間と空間を永遠に旅しなければならない。
こうした設定がすごい。


エドガーがアランを迎えに来るコマが話題に。

 

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(『萩尾望都パーフェクトセレクション6 ポーの一族Ⅰ』2007年 小学館より)


ヤマザキさんが「このコマには萩尾漫画の絵の特徴が全て入っている」と、スケッチブックに萩尾風の絵を描いて説明してくださいました。
特徴とは


鼻のライン

点描で表現された「気配」
舞う花びら


この他に目の描き方も従来の少女漫画と違うと言って、描いて見せてくださいました。


獏さんが「この場面は宝塚も良いんですよ」と嬉しそうにおっしゃると、宝塚の映像が流れ、エドガー役の明日海りおさんがVTRでコメントされました。


獏さんはこの作品を「永遠と一瞬の物語」と表現されました。
永遠のエドガーと、一瞬のオービンの物語だと。


そしてエドガーの「創るものもなく生みだすものもなく うつるつぎの世代にたくす遺産もなく 長いときをなぜこうして生きているのか」というモノローグの話になり、中条さんが「70年代の生産至上主義(=男性至上主義)に対するアンチテーゼ」と指摘されました。


萩尾先生のコメントは「社会から異端であるとされている人も心をもっている。そういう立場の人としてエドガーを描きました」とのこと。


インタビュアーが最後に「アランは死んでしまいましたが…」と新シリーズに水を向けると、先生は「これから復活させます」ときっぱり宣言されました。


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番組の最後にカズさんが、こう言って締めくくられました。


「今、若い読者が萩尾作品を読んだら『あ、〇〇みたい』と思うものが沢山あると思う。その『〇〇みたい』を生み出しているのだから、やっぱり神様に間違いないと思う」


この番組をきっかけに萩尾作品を手に取る方が増えるといいですね。


見終わって、萩尾漫画の魅力を多面的に伝えてくれたとても面白い番組だったと思います。
ですが100分ではまだ足りないですね。


第4章の「ポーの一族」に入る前にカズさんが「収録が始まって6時間」とおっしゃっていたので、軽く400分以上あったはず。
1章100分として全4回バージョンをぜひ見てみたいものです。

 

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2021. 8. 16 追記


この番組が『別冊NHK100分de名著 時をつむぐ旅人 萩尾望都』としてNHK出版により書籍化されました。
時間がたってしまいましたが簡単にご紹介を。


番組は4人のゲストが語り合うスタイルだったので、それを文字化して未公開部分を挿入するのかなと思っていたのですが、そうではなくて放送後に各人が執筆された本でした。


そのため考察も番組より詳しく、活字だと自分なりに咀嚼しながら読めるので流れてしまう映像より私は理解しやすかったです。
豊富な注釈や図版も助けになります。


萩尾先生のインタビューは13ページに渡っていて読み応えがありますし、ヤマザキマリさんの描き下ろしイラスト「萩尾望都テルマエ・ロマエのルシウス」も必見。


プロデューサーさんが書かれた序文によるとご本人が萩尾ファンとのことで、熱意が伝わってきました。
番組をご覧になった方も新鮮な気持ちで読める1冊だと思います。

 

 

 

(73)「ポーの一族 番外編 火曜日はダイエット」

2021年が明けました。
世の中は大変な状況が続いていますが、1日も早く平穏な日常に戻れるよう願っております。


さて、そんな中、『flowers』2月号に「ポーの一族」のショート番外編第2弾「火曜日はダイエット」が掲載されました。
第1弾「月曜日はキライ」のホロ苦いテイストから一転して、今回は可笑しくてちょっとシュールで、いろいろ不思議な世界です。


それでは早速感想を。
普段からネタバレしまくっているこのブログですが、今回は4ページしかない上にストーリーがシンプルなので隠しようがなくなっております。
どうぞご了承ください。


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朝起きたら、なぜかぽっちゃり体型になっていたアラン。
でも何も食べていないと言い張るので、エドガーはアランが前日に散歩したコースを一緒に歩いて原因を突き止めようとします。
その間にもアランの体はどんどん膨らんで、もはや別人。


で、エドガーがアランの左耳あたりを思いっきり叩いたら右の耳からドングリが飛び出してきて、空気がシューッと抜けて元に戻る。


これってどういうことーー!?
片耳が塞がっていたから、反対の耳から入った空気の出口がなくて体が風船みたいに膨らんでたってこと?


と、一瞬マジメに考えたんですが、理屈じゃないんですよね、きっと。


古過ぎる話で恐縮なんですが、例えば昔のアメリカのアニメ「トムとジェリー」(トムがネコでジェリーがネズミ)なんかで、体に空気を入れたら風船みたいにパンパンに膨らんで栓を抜くと勢いよく飛んで行っちゃうとかありましたけど、それと同じ?(←飛ばなかったけど)


決してこれがバンパネラ特有の体質ってわけじゃないと思うんですが…。
でもエドガーは、リスが頭の上を歩いていたと聞いたのと、アランが右耳を触っているのを見て原因を察したんですよね。
どうしてわかったんだろう?


それも不思議だけど、もっと根本的な疑問が。


エドガーがアランに「うまそうな人間に会って食った?」「ネコ食った?」「鳥とか」「馬とか?」「リス食った?」と、しつこく問い詰めていますよね。


バンパネラにとって「食う」とはエナジーをもらうこと。
エナジーを摂り過ぎたら太るの?
あ、絞り取られたら干からびるから逆に太ることもあるのか。


以前書いたことがあるのですが、私は旧シリーズを読んでいた頃、バンパネラは人間の血とバラ以外は何も欲しくないのだろうと思っていたんです。
だから「春の夢」でアランがハチミツ好きでビスケットに付けて食べると知って衝撃だったんですよ。


それでバンパネラにも好きな食べ物や飲み物があって、生命維持に必要というわけではなくても食べたり飲んだりするんだなと認識を改めました。


今回、アランが朝起きてすぐにハチミツをなめているので本当に好きなんだな~(おめざ?)と思ったんですが、ハチミツの瓶のそばにお菓子らしき物もあるんですよね。

 

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小学館『flowers』2021年2月号より)


ガラスポットに入っているのはガム?
その横の箱はビスケット?
アラン、お菓子も好きだったのか。
エドガーも食べるのかな。


ここでまた疑問なんですけど、こういうお菓子とか人間と一緒に食事した時とか、食べた物は体の中でどうなるの?
食べ過ぎたらやっぱり太るんですかね?


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今回、私はエドガーのツッコミ具合がツボでした。
特に最後の「やめんかっ」が最高ですね!
魔夜峰央先生の「パタリロ!」を思い出しましたよ。


パタリロ!」と言えば『花とゆめCOMICS SPECIAL パタリロ!99.9 トリビュート・ファンブック』(2018年 白泉社)に萩尾先生が2ページ寄稿されているのですが、その中でエドガーとアランがクックロビン音頭を踊っているんですよね。
これを見た時は笑劇がジワジワきたんですが、この「火曜日はダイエット」も、その路線だなあと思いました。


それと「11人いる!」の番外編「スペース ストリート」に近い感じもしますね。
あちらも大体4ページでしたし。


ショート番外編はぜひこれからも「水曜日」「木曜日」とシリーズ化して、2人の日常を見せて頂きたいです!
(漫才やってる彼らも好きです。)


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『flowers』2月号には萩尾先生に関するお知らせが色々出ていました。


電子書籍「漫画界のレジェンド 萩尾望都フェア」

1月15日(金)までebook japanなど各電子書店で開催中。無料試し読みできるページを増量


②「デビュー50周年 萩尾望都 ポーの一族展」

鹿児島会場 1月17日(日)まで開催中

福岡会場  4月17日(土)~6月13日(日)

公式サイトはこちら

開催概要:デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展 公式サイト:朝日新聞デジタル


③舞台「ポーの一族

梅田芸術劇場 1月11日(月)~1月26日(火)

東京国際フォーラム 2月3日(水)~2月17日(水)

名古屋 御園座 2月23日(火)~2月28日(日)

公式サイトはこちら

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』|梅田芸術劇場

ライブ配信情報もあります。梅田芸術劇場からの配信は1月16日(土)と23日(土)です)

 

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アランがハチミツ好きと知って仰天した話を書いています。もしよろしければどうぞ

(10)バンパネラの好きなもの - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


「月曜日はキライ」はこちらで読めます 

 
「スペース ストリート」はこちらで読めます

11人いる! (小学館文庫)

11人いる! (小学館文庫)

 

 
クックロビン音頭を踊るエドガーとアランが載っているのはこちら

パタリロ! 99.9 [トリビュート・ファンブック] (花とゆめCOMICS)
 

 

 

(72)フラワーコミックススペシャル『ポーの一族 秘密の花園1』

先月、フラワーコミックススペシャル『ポーの一族 秘密の花園1』が刊行されました。

 

ポーの一族 秘密の花園(1) (フラワーコミックススペシャル)

 

『flowers』に連載されたVol. 1 から5までが収録されています。
扉絵も載っていて嬉しいなあと眺めていたら、あれ?Vol. 4がなんか違う…。
そこで掲載誌の扉絵をもう一度見てみると

 

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小学館『flowers』2020年10月号より)


これがコミックスでは

 

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おお! 白いクジャクの周りが華やかになっている!
これは光でしょうか。
そして回廊の向こう側にスクリーントーンも足されています。
「天国の庭」の幻想的な雰囲気が増しましたね。


他にも絵が変わっているところがあるのかなと探してみると、変わったというか描き加えられたコマがVol. 1 にありました。


こうだったのが

 

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(同2019年7月号より)


このように。

 

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あとはVol. 5で背景にスクリーントーンが貼られたコマもありました。


文字では名前の訂正が2つありました。


1つはエドガー達の後見人の名前です。
Vol. 1 では「ウィンクル」、Vol. 2で「ウインクル」だったのが「ウィンクル」に統一されました。


もう1つはVol. 3で、なぜか「クロード夫人」となっていたところが「グレース夫人」(アーサーの曾祖母)に訂正されています。


セリフではVol. 3でアーサーの「何かの采配だったのだろうか?」が「何かの配剤だったのだろうか?」に変わりました。


実は私、密かに注目していたセリフがあったんですよ。
それがVol. 1 のこちら。

 

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エドガーが「私」と言っていますよね。
ユニコーン」でもエドガーが1度「私」と言ったことがあって、旧シリーズも含めて初めてなので新鮮だったのですが、コミックスでは別の言葉に変更されました。
だからこのコマの「私」も、もしかしたら変わるのかなと思っていたのですが、今回はそのままです。


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改めてVol. 1 から5までを通して読んで私が強く印象に残ったのは、バンパネラとしてまだ一人前になりきれていないエドガーの不安定な心でした。


一族に加わって以来125年を共に過ごし守ってくれていた男爵夫妻とメリーベルが消滅してから、まだ9年。
今になってわかる男爵夫妻のありがたみ。
決して消えることのないメリーベルを失った悲しみ。


シルバーに必死に抵抗するエドガーを見ていると「ペニー・レイン」での不安や心細さに押し潰されそうだった姿が思い出されて、この「秘密の花園」は時系列では「ペニー・レイン」「リデル・森の中」の次に位置する作品なのだと改めて気づかされました。


9年たってもエドガーには自分自身や一族について知らないことが色々あるのに、頼れる者がいない。
それでもアランを仲間にした以上、自分がアランを守らなくては。
そのためには人間の助けも借りよう。
人間と長く一緒にいるのは危険だと、わかってはいるけれど――。


男爵達といた頃、エドガーはずっと人間に戻りたくて孤独でした。
最愛のメリーベルに対しては、人間でいた方が幸せだったのに自分が仲間に加えてしまったという罪の意識が大きかった。


アランと2人になってからは孤独ではなくなったけれど、人間に戻りたいという気持ちを知らず知らずのうちに閉じ込めていたのではないかと思います。


でもクエントン館で過ごすうちにエドガーはアーサーに惹かれていきます。
それはエドガー自身のせいとはいえ大切な人を失った悲しみに共感しただけでなく、アーサーがとても寂しい人に思えて、どこか懐かしさを覚えたからかもしれません。


けれど人間に惹かれれば、人間に戻りたかった気持ちを思い出してしまうことになるでしょう。


眠っているアランに「アラン…やっぱり人間のところに長くいるのは よくない… どんどん人間に……ひかれてしまう…」と語りかけるエドガー。
その顔は揺れる心を映して切なそうに見えました。

 

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秘密の花園」の連載が再開されるのは来年の春。
ここまでで気になる点が沢山あるので、備忘録を兼ねてまとめてみました。


①ブラザー・ガブリエルの謎

本当に普通の人間なのか。

なぜフィレンツェで死んだと思われていたのか。

なぜ15年ぶりに館を訪れたのか。

エドガーとメリッサの話をしていた時に言い淀んだことは何か。

館に出る幽霊がメリッサの霊と知っていたのか。

エドガーがブラザーのエナジーを奪った時、記憶が入り込んだのはなぜか。


②メリッサの謎

最後にブラザーと会話してから亡くなるまでに何があったのか。同じ服を着ている意味は? 本当に自殺か。

エドガーに囁いた「ひとつだけ お願い」とは何か。


③眠り病の謎

アランの眠り病は、ポーの村の住人のそれと同じなのか(アランは気のヒフが薄いため?)

眠っている間の意識はどうなのか。

眠っている間のエナジーはどうなのか。目覚める時は、どういう状態か。

ルチオの眠れない病と関連があるのか。


④その他

エドガーの催眠術は今後どんな役割を果たすのか。他にも特別な能力があるのか。

エドガー達の後見人ウィンクル氏とは何者か。

ロンドンにいる主治医とは何者か。そもそも実在するのか。

犬のフォルテがアランの眠っている小屋までついて来たのは何かの伏線か。

パトリシアがランプトンの絵を「思い出の絵」と言うのはなぜか。

切り裂きジャックは物語にどう絡んでくるのか。


ざっと書き出しただけでも、こんなにありました。
秘密の花園」は長編になるのかな。
早く続きが読みた~い!


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この『ポーの一族 秘密の花園1』には「ポーの一族」のショート番外編「月曜日はキライ」(4ページ)と、「大英博物館 マンガ展 探訪記」(3ページ)も収録されています。


「月曜日はキライ」は、やっぱりアランが「秘密の花園」で眠りっぱなしなのでファンサービスで描いてくださったのでしょうか。
大英博物館 マンガ展 探訪記」は2019年に大英博物館で開催されたマンガ展のレポートです。


そして番外編と言えば、12月28日(月)頃に発売予定の『flowers』2月号にも「火曜日はダイエット」という番外編が掲載されるそうですよ ♪
わーい嬉しい! 楽しみ!
誰がダイエットするんだろう?
何かと慌しい年末ですが、忘れないようにしなきゃですね。


そうそう、コミックスの発売日に合わせて今回もCMが流れましたね。
皆様、ご覧になりましたでしょうか。
前回の『ユニコーン』のCMのナレーションが宝塚版シーラ役の仙名彩世さんだったので、今回は明日海りおさんかもと期待していたら、やっぱりそうでした。
エドガーの声にいざなわれる「秘密の花園」、素敵でした~♪


小学館様、ありがとうございました!
次回も期待しております。
できれば可憐で儚げながらも芯の強いメリーベルそのものだった、華優希さんにお願いして頂けると嬉しいです ♪

 

 

 

(71)『萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界~女子美での講義より~』

先日、ビジネス社より『萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界~女子美での講義より~』が刊行されました。

 

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カバーイラストは「エディス」後編扉絵より
背の部分にもエドガーが!


女子美術大学教授の内山博子先生による「あとがき」によれば、萩尾先生は内山先生に請われて2011年に同大学メディア表現領域の客員教授に就任され、年に2回特別講義を行っているそうです。
特別講義は萩尾先生のお話の時とゲストを招いて対談の時とがあり、内山先生も司会として同席されています。


この本は過去の講義から次の5回分を採録したものです。


第1章 宇宙飛行士・山崎直子さんとの対談

第2章 トランスジェンダーのキャラクターは、どこから生まれてくるのか

第3章 美術史家・中野京子さんとの対談

第4章 萩尾望都さんへ10の質問

第5章 シンガーソングライター・イルカさんとの対談


ここからは章ごとに見出しを挙げて、感想を交えながら簡単に内容をご紹介していきます。


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第1章 ★彡
宇宙飛行士・山崎直子さんとの対談
~宇宙・女性・漫画~
2014年7月21日
44ページ
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「11人いる!」の試験は実際の宇宙飛行士の試験にもある!

宇宙服にもお国柄がある!?

宇宙空間で生命は生まれるのか? 火星を舞台にした「スター・レッド

宇宙観光をして宇宙ホテルに泊まる時代が来る

宇宙飛行士・山崎さんの宇宙での実体験

人類が火星に住む日は来るか?

ISSの中で宇宙飛行士は何をしている?

身近になる宇宙空間

女性が仕事をすることについて

女性漫画家の活躍する場が少年雑誌にも広がる

宇宙では女性らしさが有利に働く場面もある!?

会場からの質問コーナー


SF好きの萩尾先生は本物の宇宙飛行士の方との対談に興奮を隠せないご様子。


前半は「11人いる!」と「スター・レッド」に絡めて山崎さんがご自身の興味深い体験を沢山話してくださっています。


萩尾ファン的に驚いたのは、宇宙飛行士の選抜試験で大型バス1台分位の空間に最終候補の8人が閉じ込められて1週間ほど過ごしたというエピソード。
まさに「11人いる!」ですね。
その試験はその時が初めてだったそうですが、もしかしてこの作品をヒントに考えられた?


また、山崎さんの「宇宙はSFのほうが先行していて、私たち現実が追いかけているようなところがあります」という言葉が印象的でした。


後半は「女性」がテーマ。


萩尾先生が「女の人のほうが感情を汲み取る部分が広いのかなと思いますが…(中略)…一概には言えないですね」とおっしゃり、そこからチームで仕事をする時はコミュニケーションで運営していくのが一番長続きするのではないか、という話になったのが面白かったです。


最後に会場からの質問コーナー。


個人的に興味深かったのは萩尾先生への「最先端のSF的世界と古代世界が入り交じった作品をよく描かれていますが、両者の関係性は?」という趣旨の質問でした。
先生のお答えを一部引用させて頂くと


「実は私の描くSFと古代には決められたパターンがあって、この今発展している人間文明は、いつか息づまるという危機感があるんですね。その危機を乗り越えるためには、一回、原始に回帰しないといけないんじゃないか。古代の精霊の力が、それを救ってくれるんじゃないかというイマジネーションがあるんです。」


ということです。


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第2章 ★彡
トランスジェンダーのキャラクターは、どこから生まれてくるのか
2018年11月26日
38ページ
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かわいい少女漫画から男子ばかりの「11月のギムナジウム」へ

無意識の抑圧を 作品を描くことで意識

「11人いる!」は男ばかりの中に両性具有が1人

SF小説「蟻に習いて」に触発された「マージナル」

女性は命を育むために闘争心が薄く 男性は妊娠しないから物が欲しくなる

“伝わらない感情”を描きたかった「A-A´」

クローンをはじめて取り上げた作品

女性らしいしぐさがなくて描きやすかった「X+Y」

BLが人気なのは純粋な恋愛が描かれるから

会場からの質問コーナー


萩尾先生の作品にはトランスジェンダーを扱ったものが多いですが、きっかけになったのは「11月のギムナジウム」(1971年)だそうです。
描くのがとても楽だったので理由を考えたところ、無意識のうちに「女はこうしなさい」という抑圧を受けていたのだと気づいた。
だから男子生徒が描きやすかったのだろうと思い、それからトランスジェンダーの話を描くようになったということです。


お話は「11人いる!」「マージナル」「A-A´」「X+Y」から多方面に広がっています。
個人的に印象深かったことを挙げてみます。


女性は命を育む子宮があるために、男性ほどには戦争に対する意欲や闘争心がないのではないか。


男性は妊娠しないので、それをカバーするために色々な物が必要なのではないか。宗教も最初は男性のためにつくられた。それは子宮がないので存在の不安さが神様を欲したのではないか。


萩尾先生の「男子校を描いていると楽なのは、世間に期待される女のふりをしなくてもすむことが、根底にあるんじゃないか」という発言に対して、「人間としての解放じゃないでしょうか」と内山先生。ハッとしました。


会場から「初期は可愛い女の子が活躍する短編を描かれていますが当時のお気持ちは?」という質問があり、「少女を描くのも、私の憧れの部分ですごい好きなんです。こんな子になりたいけれど、自分はなれないような女の子を描くのが非常に好き(以下略)」と答えられていました。私は初期の短編の女の子が好きなので嬉しかったです。


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第3章 ★彡
美術史家・中野京子さんとの対談
~美術と漫画 歴史と漫画~
2015年11月30日
46ページ
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意味を知って見ると 絵画の見方が変わる

阿修羅像の眉に惚れて描いた「百億の昼と千億の夜

美しい自画像にこめられたヴァン・ダイクの意図

初の歴史もの「王妃マルゴ」が誕生したきっかけ

絵画を見るとファッションの流行がわかる

興味深いスコットランド女王メアリ・スチュアートの人物像

世界一不幸な王妃ゾフィア・ドロテア

歴史は繰り返す? ゾフィアのひ孫のマチルデ

会場からの質問コーナー


美術史家の中野京子さんとの対談では「百億の昼と千億の夜」「王妃マルゴ」から芸術・歴史・宗教・ファッションの話が縦横無尽に語られていて、お2人とも博識なので大変読み応えがあります。


個人的に面白かったのは最初の方の芸術とお金の話。


中野さんが「日本人は芸術をビジネスにするというと非常に嫌がります。でも、芸術家だって霞を食べては生きていけません。『売れなくてもいい』と言うのは、それはまったくプロではなく、アマチュアです。プロになろうと思うなら、戦略は必要。(中略)今の日本はそういうことを言った瞬間に、『汚れている』というような思われ方をしますが、これは間違いだと思います」と力説。


萩尾先生は「時々、お金のためにこの仕事をやっているんでしょと聞かれることがあるんですが……。お金は欲しいよ、でもこの仕事が好きだから続けているのよという、その兼ね合いがなかなかわかってもらえなくて、戸惑うことがあります」と。


どちらも実感がこもっていて、その通りだなあと思いました。


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第4章 ★彡
萩尾望都さんへ10の質問
2016年7月17日
30ページ
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資料を調べ上げて緻密な舞台設定ができあがる

トーマの遺書の一文が変更されたのはなぜ?

どういったタイミングで新しい作品が生まれるのか?

長年、描くのを迷っていた「ポーの一族」の続編

「春の夢」はシューベルトの「冬の旅」がヒントに

ソビエトで交通事故に遭い死生観が劇的に変化

NHK「漫勉」の撮影秘話

会場からの質問コーナー


この回は事前にホームページで質問を募り、その中から選んだ10問を内山先生が萩尾先生にお聞きするというスタイルでした。
質問は次の通りです。


①発想の源はどこにあるのか。例えば「銀の三角」の創作のきっかけは?

②「トーマの心臓」の頃は外国の資料が少なかったが、どのように情報収集したのか

③「トーマの心臓」のトーマの遺書の最終行が変更されたのはなぜか

④「トーマの心臓」に関係する作品を今後発表する予定はあるか

⑤漫画のアイデアを常に100位持っていると本で読んだが、作品として発表する順番はどのように決めるのか

⑥萩尾先生が原作を提供した波多野裕先生の「天使かもしれない」について

⑦「ポーの一族」の続編「春の夢」を描いたきっかけは?

⑧「春の夢」にバラがなかったのはなぜか。「エディス」の後、エドガーはアランの後を追ったと捉えていたのだが?

⑨先生の死生観をお聞かせください

⑩3つの質問

ユニコーンの夢」はスクリーントーンを使っていないのか

「AWAY」の一紀は「11人いる!」のフロルとキャラクターが似ているのではないか

猫ちゃんはお元気ですか


バラエティーに富んだ質問ですね。
その中で「トーマの心臓」関係が3つもあります。


トーマの遺書の「そうしてぼくはずっと生きている 彼の目の上に」の「目の上に生きる」とは「思い出として生きる」という意味だそうです。
これを聞けたのが個人的に一番嬉しい。


また、萩尾先生に漫画のアイデアが常時100位あるというのも驚きだったのですが、美内すずえ先生はかつて(今も?)500位あるとおっしゃったとか。
す、すごい!


ポーの一族」のキリアンのその後については先生ご自身もよくわからないとのこと。
でも、この講義からすでに数年たっているので何かアイデアが浮かんでいるかも。
先生、ひとつよろしくお願いいたします!


質問の答えから発展してNHK「漫勉」の撮影話もあり、面白かったです。


会場からの質問に答えて、様々なジャンルの表現の中で「漫画に特に優位性があるのは、キャラクターとその心情描写じゃないでしょうか」という言葉に深く納得しました。


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第5章 ★彡
シンガーソングライター・イルカさんとの対談
~好きなことを一生やり続ける力~
2016年12月19日
30ページ
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思い出深い「トーマの心臓」 その理由とは!?

ビートルズに胸を熱くした少女時代

萩尾望都の子ども時代

女子美への入学がその後の人生を変える

漫画を描くことを認めない両親との葛藤

第一線で走り続けて女性の社会進出をリアルに実感

世界の若者に支持される日本のカルチャー

還暦を過ぎて着物作家に


イルカさんは女子美術大学のご出身で、萩尾先生と同時期に客員教授に就任されたそうです。


お2人はほぼ同い年とのことで、子ども時代から青春時代のお話が写真と共に楽しく語られています。
家庭環境が真逆なのが面白い。
最後は現在のお話になりました。


お2人はこの時が初対面だったそうですが、何だかお友達同士の会話のようで、本の中でこの章が一番リラックスした雰囲気です。


★彡★彡★彡


女子美の講義が書籍化されないかなと思っていたので、こうして読めたのは嬉しかったです。
他の回もまとめて頂けるといいですね。
聴講を楽しみにしている方も多いと思いますので、早くコロナが収束して再び特別講義が行われる日が来るよう願っています。


★彡★彡★彡


私も一度だけ聴講しました。
その時のレポートです。よろしければどうぞ。

(54)2019年7月の女子美術大学特別講演に行ってきました - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界 ~女子美での講義より~

萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界 ~女子美での講義より~

  • 作者:萩尾 望都
  • 発売日: 2020/08/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

(70)「秘密の花園 Vol. 5」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


さあ、「秘密の花園 Vol. 5」です。
いやいや、今回も驚きの展開でしたよね~!
まさかブラザー・ガブリエルがエドガーに食われるとは。


感想に行く前に扉絵をどうぞ ♪

 

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小学館『flowers』2020年11月号より。以下同)


2人がそれぞれ蝶のように、あるいは2人で1匹の蝶のように見えます。
Vol. 2 でも背景にこのようなモチーフがありましたが神秘的で素敵ですね。


さて、物語はエドガーを中心に急展開。
今回は大きく3つに分けて感想を書いていきたいと思います。


1 エドガー自身のこと
2 エドガーとブラザー・ガブリエル
3 エドガーとアーサー


・* 1 エドガー自身のこと *・


前回カウスリップのワインを初めて飲んで体質に合わず、危機に陥ったエドガー。
バンパネラとしての自分自身についても一族についても知らないことが多く、男爵夫妻と一緒だった頃は守られていたのだと実感します。


ポーツネル一家の絵が嬉しい。
シーラが若くて可愛いです。
旧シリーズでは大人っぽかったけど20歳ですもんね。


エドガーがそれまで飲んだことのないカウスリップのワインを飲んだのは、館の人間達の中に長く1人でいたから。


「だからアランが必要だ
アランがいたらもっと用心した」

「人間の中に長くいるのは危険だ
つい人間のやることに染まってしまう
…気をつけないと…!」


このモノローグ、ハッとさせられました。


エドガーにとってアランが精神的に何ものにも代え難いほど大切で必要な存在だということはわかっていましたが、アランを守るために自然と慎重になれるから傍にいてほしいという側面もあったんですね。


それで今更ながら気づいたのですが、旧シリーズのエドガーは男爵達と一緒にいた間はずっと「人間に戻りたい」と願い続け運命を呪って孤独だったけれど、アランと2人になってからは違うんですよね。
いつもメリーベルのことを考えていても、自分の運命を呪っている感じはあまりしない。


それは「人間に戻りたい」と思わなくなった訳ではなく、男爵夫妻が自分とメリーベルを守ってくれたようにこれからは自分がアランを守らなくてはという使命感の方が強くて、バンパネラとして生きざるを得なくなったからではないでしょうか。


アランを仲間にした時点で無意識にでも運命を受け入れていたのかもしれません。
だからこそアランには自分にない人間らしさを求めるのかも。


それからこれはエドガー自身のことではないのですが、今月号には「(アランが)目覚めた時は飢えているだろう 食事を用意しておかないといけない…」というモノローグもありました。


前から思っていたんですが、長い眠りから覚める時ってどんな状態なんでしょうね?
変化した直後は本能的に血を求めて人間を襲ったりしますけど、あんな感じになるのかな。


・* 2 エドガーとブラザー・ガブリエル *・


アランが眠っている小屋に入ろうとしたためにエドガーの餌食になってしまったブラザー・ガブリエル。
やっぱりポーではなくて人間だったみたいですね。


この展開にもびっくりでしたが、もっと衝撃だったのはブラザーのエナジーを奪うと同時に、ブラザーのメリッサとの記憶がエドガーの中に入ってきたこと。
こんなことがあるんだ~!


エドガーは「……こんなに生々しく… 記憶が入りこんで来たのは はじめてだ」と焦っていて、記憶が入り込むこと自体が初めてなのか、入り込むことはあったけどここまで生々しいのが初めてなのか、はっきりわからないのですが。


どちらにしても、なぜ今回に限って?
ブラザーのメリッサへの想いがあまりにも強かったから?
それとも、もしやブラザーが普通の人間ではなかったから?


ブラザーの記憶はメリッサが亡くなる前日から発見されるまで。
メリッサは同じ服を着ているので、ブラザーとの会話からあまり時間を置かずに亡くなったようですね。
この断片的な記憶の合間に何があったのか、とても気になるところです。


更にブラザーのエナジーと共に「夢」まで吸い込んでしまったらしいエドガーの枕元に現れた、メリッサの霊。
「ひとつだけ お願い」とは一体何なのか?
気になりますね~。


ところで先ほどブラザーがポーではなくて人間だったようだと書きましたが、まだ 100% そうとは言い切れない気がします。
だって謎が多いから。
どうしてエドガーの中に記憶が入り込んだのかということ以外にも、


なぜフィレンツェで死んだと思われていたのか。
なぜ15年ぶりに館を訪れたのか。
メリッサの話をしている時に言い淀んだことは何だったのか。
それはメリッサの死と関係があるのか。


これらの謎が先々どんなピースとなって物語に嵌め込まれることになるのか楽しみです。


今回、画商のホルバインも「ブラザーがフィレンツェで亡くなったとグロリアに聞いた」と証言したわけですが、グロリアがなぜそう言ったのか、エドガーの容赦ない一言が面白かったですね。
で、ブラザーがお香でお清めをしながら「少年のそういう無邪気さこそ邪悪なものだ」と仕返しみたいに言うのが可笑しい。


この時ブラザーが清めていたのは幽霊の魂ですよね?
それがメリッサの霊だとブラザーは知っていたのかな。


・* 3 エドガーとアーサー *・


今号でエドガーとアーサーの心の距離は、ぐっと近づいたような気がします。


アーサーの体調が悪い時やブラザーを偲んでいる時にエドガーが寄り添い、アーサーは幼少期の思い出を語ったりエドガーの言葉に慰められたりする。
心が落ち着いていく。


ブラザーの遺品の『カンタベリー物語』を前にエドガーがアーサーを支えている場面は、2人の心が通じ合っていて胸に沁みてきます。


エドガーも危険だということを忘れて人間の心を取り戻したよう。
アランに「やっぱり人間のところに長くいるのはよくない…どんどん人間に……ひかれてしまう…」と語りかける姿が少し切ないです。


エドガーがアーサーに「迷惑ならアランをつれて出ていきます」と言ったのは、これ以上アーサーに惹かれるのが怖かったからでしょうか。
でもアーサーの方もエドガーに惹かれていて、まだ手放したくない。


いずれアーサーは自らの意志で一族に加わることになるのかな、という気がします。


・*・・*・


その他にはブラザーが探していた「天国の庭」。
エドガーはアーサーに、それはメリッサのいた中庭だったのだろうと言いました。
ブラザーは最期に帰って来られたのだから可哀想ではないのだと。


秘密の花園」というタイトルには、アランが秘かに眠る花園、アーサーとドミニクが幼い頃に遊んだ思い出の庭という意味があるのかなと思っていたのですが、ブラザーの秘めた想いという意味も込められているのかもしれません。


最後に、今号で私が一番好きだった絵はこちらの小さなコマ ↓
何だかすごく「『ポーの一族』を読んでるぞ」っていう気がするんですよ。
わかって頂けます?

 

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・*・・*・


4枚目のランプトンの絵の制作が始まろうとするところで連載は休止。
続きは来年の春だそうです。
また待ち遠しい日々が始まりますね。


でも11月10日頃に Vol. 5 までを収めたフラワーコミックススペシャルが発売!
これにはショート番外編も収録されるんでしょうね。
今思えばショート番外編は、「秘密の花園」でアランがほとんど眠っているのでアランファンに向けたサービスだったのかも。
先生、お心遣いありがとうございます。


それに先立って10月28日頃に発売される『flowers』12月号には、コミックスに掛け替えられるカバーと栞が綴じ込み付録で付いてくるそうですよ ♪

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(69)「秘密の花園 Vol. 4」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


秘密の花園 Vol. 4」、いやぁ今回も面白かったですね~ ♪
予告通りの新展開!


今回の話はアーサーが3枚目のランプトンの絵を制作中なので1888年10月15日から11月5日までの間の出来事になると思います。
始めにいつものように扉絵からどうぞ。

 

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小学館『flowers』2020年10月号より。下も同)


わ ♪ 何だか「小鳥の巣」みたい~!って思わず興奮したのは私だけ?
2人の少年らしいしなやかな肢体、制服を思わせるリボンタイ付きの黒い服、アランのサラサラの髪。
しかも天使までいる!
エンジェールカミング アイムヒア!


…はい、わかってます。
この絵はブラザー・ガブリエルが探している「天国の庭」ですね。


では、この人の話から参りましょう。


・*・・*・


新キャラのブラザー・ガブリエルは、アーサーが13歳で寄宿学校に入るまでラテン語やフェンシングを教えていた修道士。
その後も館に引き留められてアーサーの祖母グロリアや母メリッサの相談相手になり、アーサーが18歳で大学に行く年にフィレンツェに帰った。
同行して1年間フィレンツェを旅行したグロリアの話では、そこで亡くなり立派な葬式が営まれたという。


そんな人が実は生きていて15年ぶりに館に現れた!
これまで世界を旅していたと言いますが…


この人いったい何者なんですかね!?
人間?
それとも予告にあったポーの村からの使者?


死んだと思われていたのに生きていたとか、地上の「天国の庭」を探して旅しているとか、「ポーなんじゃないの?」と思わせるフシが多いですよね。
それに人間なら、なぜ15年ぶりに突然帰って来たのかわからない。
旅のついでに寄ったのかもしれないけど何の説明もないし。


でも、もしポーの村からの使者だとしたら、エドガーを見てあんな驚き方をするかな?というところが引っかかります。
エドガーを投げ飛ばした時の反応も人間っぽい。
一方で、フィレンツェ出身の修道士ということでルチオか?とも思えたり。


まあ、その正体はいずれわかるでしょうが、ともかく面白いキャラですよね。
修道士だけど即物的で、マルコと張り合うのが可笑しいし、エドガーを「少年」と呼び続けるのも面白い。
もしポーなら今までいなかったタイプです。


そしてブラザーはメリッサに思いを寄せていたんですね。
「優しい方」と崇拝して。


メリッサのことをエドガーと話していた時、「私も…あの方に強く生きてほしかったんだ だから…」と言った後で話をごまかし、エドガーが「なんだか はぐらかされたような…」と怪訝な顔をしていますが、本当は何を言おうとしたんでしょうか。


これは完全な私の妄想なので本気にしないで読み流して頂きたいのですが…。


もしやブラザーはポーの一族で、メリッサを仲間にして一緒に旅をしたかったのでは?
苦しみから解き放してあげたい気持ちもあっただろうし。
でもメリッサが拒否したので、正体を知られた以上は生かしておけず自殺に見せかけて殺したとか。


うーん、違うだろうな…。


ところでブラザーの「地上の天国の庭」で思い出したのは、バリー=ダイモンの「地下の天国」。
それぞれに大切な場所ですが実に真逆ですね。


・*・・*・


メリッサは Vol. 3 ではかなり厳しい人、キツイ人という印象でしたが、ずいぶんイメージが変わりましたね。


息子のアーサーが5歳の時にロンドンで馬車の事故に遭い半死半生の状態になってから一緒にレスターに移り、ロンドンとレスターを行き来する生活。
ロンドンでは準男爵の妻として頑張っていたのに、夫の口から別家庭の存在を告げられ離婚を切り出されるとは。


きっと元々はブラザーの言うように優しく献身的な女性なんでしょうけど、息子まで誰かに取られると思えば、そりゃヒステリックにもなろうというものです。


夫のグローブ氏は今号で初登場。


結婚直後から浮気していたというのは当時の貴族としてありそうだとしても、息子が事故で「いずれ死ぬ」と宣告されたらあっさり諦め、レスターに移った後は一度も会わないなんて冷たすぎませんか?


はじめから情が薄かったのかなと思います。
アーサーが父を殺して自分も死のうと考えたのも、わかる気がしますね。


今回アーサーが顔に傷を負った理由が明らかになりましたが、想像以上にひどい状態だったようで驚きました。
おまけに父親に見捨てられるし、小さい頃は弱くて泣き虫だったのもわかります。
ブラザーに鍛えられて回復できて本当によかった。


・*・・*・


さてさて、エドガーの話もしないと!


3枚目のランプトンの絵で読んでいた本は『カンタベリー物語』だったんですね。


面白かったのはブラザーにいきなり投げられて身軽に着地するところ。
私はこのエドガー ↓ が可愛くて好きです。

 

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でもそれよりも大事件が!
アーサーの神経の薬としてマルコが作ったカウスリップのワインを飲んで、まさかの中毒症状に!


個人差があるのかもしれませんがバンパネラの体質に合わない飲食物があること自体驚きでしたし、エナジーが減って命に関わるなんて本当にびっくりでした。


私は最初、誰かがグラスに何か入れたのかなと思ったのですが、エドガーが何に弱いか人間が知るはずはないし第一動機がないし、ブラザーがエドガーを殺す目的で来たとは思えないし、偶発事故なんですよね?
想定外にパトリシアの祖母を殺す結果になりましたが、このことが何か問題を引き起こすのでしょうか。


ちなみにカウスリップは薬用にも食用にも使われるハーブで、花から作ったシロップを発酵させてワインにするそうです。


・*・・*・


そのほか次号以降に関係しそうなことのメモ。


切り裂きジャック


1888年8月末から11月にかけてロンドンで発生した娼婦ばかりを狙った連続猟奇殺人事件。
この「秘密の花園」が1888年9月から89年春頃までの話になると思われるので、時期的にドンピシャです。
現在も未解決なのでパトリシアの夫が関わっていることはないでしょうが、面白い一致ですよね。


でもパトリシアの夫の顔の引っかき傷はどうしたんだろう?
女性かネコにやられたのかな。


クエントン館の幽霊


メリッサの死後に館に出るようになったという幽霊。
絵ではメリッサのような女性の姿をしています。
マルコ以外の使用人が館に住まなくなった理由がわかって、なるほどでした。


画商のホルベイン氏からの手紙


毎年この時季に届くらしい手紙。
どのように物語と関わってくるのでしょうか。


・*・・*・


秘密の花園」も次回で Vol. 5。
「春の夢」が連載6回、「ユニコーン」が5回だったことを考えると、そろそろ終盤に差しかかってくるのでしょうか。
でも、まだまだ読んでいたい~!
萩尾先生、一気にまとめなくて結構ですので1回でも長く続けて頂きたいです!


なんて思っていたら、小学館のサイトにフラワーコミックス『秘密の花園 1』が11月10日発売という告知が出ました。
これって Vol. 5 か 6 までを第1巻として、続きの第2巻も出るということですよね?
わ~、長編になるのかな ♪


言い換えれば Vol. 5 か 6 で一旦休止になるのかもしれませんが…。
とにかく次回も楽しみです!

 

 

(68)「秘密の花園 Vol. 3」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


前回アーサーの協力のもと、眠り続けるアランを無事に秘密の小部屋に寝かせたエドガー。
翌日、パトリシアが兄と一緒にアーサーを訪ねて来て…というところからの「秘密の花園 Vol. 3」です。


扉絵はこちら!

 

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小学館『flowers』2020年9月号より。下も同)


妖しい夜の森をさまようエドガーとアラン。
実は私、幼少期から蛾が苦手でして、背景は極力見ないようにしています(笑)
エドガーの服は前号から引き続き今号でも着ているアーサーが子どもの頃の服ですね。
アランもジャケットがお揃い。
半分眠りながら手を引かれていますが、扉絵だけでも目が開いててよかった。


Vol. 3では主にアーサーとパトリシア、アーサーとドミニクの関係が語られました。
そこで始めにこの2つを簡単にまとめたいと思います。


・* アーサーとパトリシア *・


アーサーとパトリシアは同い年のまたいとこで、祖母同士が姉妹であるとわかりました。
親族の名前が多くて混乱してきたので、ちょっと整理してみます。


【アーサーのクエントン家(準男爵家)】


グレース(曾祖母)

チャールズという息子を1831年コレラで亡くす

1850年頃、チャールズの顔に似せてランプトンの模写を描かせる


グロリア(祖母/Vol. 1 ではグローリア)

チャールズの妹。アリスと姉妹

庭のバラ園に手を入れた人


メリッサ(母)

グロリアと共にバラ園に丹精を込める

夫のグローブ氏に愛人がいることが発覚して離婚。1年後に自殺

グローブ氏は離婚後ロンドンに住む


アーサー

13歳からロンドンの寄宿学校に入る

パトリシアが16歳で結婚するまで帰省の折に会う。将来はプロポーズしようと思っていた

在学中に両親が離婚

1年後に母が自殺。当時17歳(Vol. 1 では18歳)

1879年ケンブリッジ大学を卒業後ロンドンで偶然パトリシアに会い、小犬のダ・カーポとフォルテを引き取る

1888年9月、館を訪ねて来たパトリシアと9年ぶりに再会


【パトリシアのバンクス家(メリッサから「農民」と言われる家)】


アリス(祖母)

アーサーの祖母の姉妹

孫のパトリシアが16歳の時、夫のバンクス氏と共にクエントン家にアーサーとパトリシアの縁談を持って行くがメリッサに拒絶される。このことはアーサーもパトリシアも知らなかった


パメラ(母)


パトリシア

アーサーと同い年

パトリックという兄がいる

アーサーが好きだったが16歳で結婚しロンドンに住む

1879年にロンドンでアーサーに再会した時、子どもが2人いた


パトリシアは外見が華やかで美しいだけでなく、ドミニクの詩を笑って傷つけたことを後悔したり、小犬の貰い手を探して奔走したりと優しい人ですね。


・* アーサーとドミニク *・


ドミニクはクエントン家の庭師夫婦の息子でした。
年齢ははっきりわかりませんがアーサーと同じか少し下のように見えます。
吃音があり、読み書きが好きな優しい子。


アーサーは小さい頃、毎日のように庭でドミニクと遊んでいました。
一度ランプトンの絵を見せるために居間に連れて行き、母に説教されます。


ドミニクもまたパトリシアに恋していました。
アーサーが14歳の頃、ドミニクがパトリシアに捧げる詩を作ります。
それが気に入らないアーサーはパトリシアの前で読むようにけしかけ、結果的にドミニクをひどく傷つけてしまいます。


その後ドミニクは14歳で病気で亡くなり、アーサーはドミニクの母から形見のノートを譲り受けました。


・*・・*・


パトリシアとドミニクを通してアーサーの人物像も、より鮮明になってきました。


ドミニクと遊んでいた幼少期は弱くて泣き虫。
ビクトリア時代の話だし、お母さん厳しそうですもんね。
でも、それだけが理由じゃないような気もする。
顔に大けがを負った事故のことはまだ語られていませんが何があったのでしょうか。


13歳で寄宿学校に入ってからアーサーは変わっていきます。


「ぼくは弱く小さかった
子供時代を卒業するんだ」

「強い男になって
いずれパトリシアにプロポーズするんだ」

「ぼくは いずれ準男爵(バロネット)だ
…左耳はないけど…
館も土地もある!」


もうアーサーにとってドミニクは友達ではなく使用人の息子。
だからドミニクがパトリシアに恋すること自体が許せないし、ドミニクが泣いてもみっともないと思うだけ。
階級社会とはいえ、仲良しで親切にしてもらっていたのに。


パトリシアに対しては早いうちに「好き」と伝えておけば良かったのにな、と思いますが。
顔の傷がコンプレックスで言えなかったのでしょうか。


その後、父の愛人問題、両親の離婚、母の自殺。
大学時代は狂暴かつ非情で「鬼のアーサー」と呼ばれていたといいますが、容貌を恐れられたことに加えて好きだった女性の結婚や家族のゴタゴタで自暴自棄になっていたのかなと思います。
世の中に見捨てられたという気持ち?


卒業後、行き詰まって父を殺して自分も死のうとロンドンへ行き、パトリシアと偶然再会。
引き取った犬と暮らすうちに死ぬことを考えなくなった。


そして現在に至るようですが、まだ語られていないことが色々ありそうです。
事故のこともあるし、Vol. 1 でパトリシアがランプトンの絵を「思い出の絵」と言っていたのも気になります。


エドガーが絵のモデルを務めながらカウンセラーのように言葉を投げかけ、アーサーは自分の子ども時代と向き合っていきました。


ランプトンの絵は1枚ごとに少しずつ室内から外へ移動していき、10枚目は春の庭なんですよね。
アーサーがドミニクと遊んだ思い出の庭。
この絵を描き上げた時、アーサーは心に区切りをつけることが出来たのでしょうか。


そして11枚目の「ランプトンのいない部屋」。
この最後の絵はどのような状況で描かれたのでしょうか。


・*・・*・


さて、今回はアーサーの話だけで終わるのかと思われましたが、そうはいきませんでしたね。
最後にドーンと来ましたよ。


狩りをするエドガーを久しぶりに見た気がします。
あのマフラー、きっと自分で隠したんでしょうね。


それでふと疑問が湧いたのですが。
前の記事に「眠りの時季で眠っている間の意識はどうなっているのか」と書きましたが、眠っている間のエナジーはどうなのでしょうか。


エドガーは眠っているアランにせっせとバラを運んでいますし、狩りもアランのためですよね。
アランは“気”のヒフが薄いためにエナジーが漏れて眠ってしまうらしいので、放っておくとだんだん弱っていく。
だからエナジーを送り込まなければいけないし、エナジーが新鮮なほど早く回復する、と考えていいのかな。


もっとも「アランの“気”のヒフが薄い」というのは後にファルカが言ったことなので、この時のエドガーは知らないのですが。
それにポーの村で眠っている人々はアランとは少し事情が違うような気がするんですが、どうなんでしょう。


そして最後のコマでエドガーがアランに「少しずつ獲物がやってくるよ」と語りかける「獲物」とは誰のこと?
アーサーの親族?


切り裂きジャック」の話まで出てきて何だか血なまぐさくなってきたなあと思ったら、予告のアオリはこうでした(絵は8月号の表紙と同じです)。

 

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「眠り続けるアラン。
そして訪れる村からの使者。
エドガーの周囲で運命が回り続ける――!!
必見 新展開!!」


おおっ これは必見ですね!
皆様、猛暑やコロナなどで大変ですが続きを楽しみに元気に過ごしましょう~。