「一週間」の年代を考える時にまず頭に浮かぶのは、用事をすませて帰ってきたエドガーの言葉でしょう。
「段取りつけてきたよ 明日たつ」
「リトル・ヘヴンまで行って
ドーバーをこえるよ
ポラスト先生が待ってて
パスポートをくれる手はずだ」
偽造パスポートを入手して大陸に渡るということですね。
すると、この後2人は西ドイツへ行って「小鳥の巣」に続くのかなと思ってしまいますが、1959年の「小鳥の巣」と比べると「一週間」はもっと古い時代のように感じられます。
「小鳥の巣」でエドガーはこう言っています。
「まえにきた時は東西に別れてなかったのにな」
そう、少なくともエドガーは「小鳥の巣」の前にもドイツに行ったことがあるのですね。
アランも「小鳥の巣」でエドガーと同じくらい流暢なドイツ語を話しているところを見ると、一緒に行ったのでしょう。
ドイツが東西に分裂したのは第2次世界大戦末期の1945年ですから、それよりも前です。
ただ、「一週間」の後で大陸に渡った2人が必ずしもドイツに行ったとは限りません。
ですからエドガーの言葉は参考に留めておく方がよさそうです。
そこで今回もこれまでと同じ方法でアプローチしてみましょう。
①アランの髪
「一週間」のアランの髪は、横分けでサラサラとした後期のスタイル。
「はるかな国の花や小鳥」(1910~13年頃)より後のように見えます。
(『萩尾望都パーフェクトセレクション7 ポーの一族Ⅱ』2007年 小学館より。下も同)
②室内の照明
作品中に照明器具は3回登場しています。
アランのベッドサイド、ピアノの上、エドガーが帰宅した場面の玄関で、ピアノの上のはオイルランプ、あとの2つは蝋燭です。
2人が勝手に空き家に住み着いて電気が止まっているだけという可能性もなくはないですが、ここはひとまず電気がまだ引かれていない頃、1930年代より前と考えてみましょう。
ここまでで1910年代中期から1920年代にかけてではないかと考えられます。
けれど1910年代には、忘れてはならない大きな出来事がありました。
③戦争
1914年に第1次世界大戦が勃発し、1918年までヨーロッパは戦火に包まれました。
「一週間」は地方を舞台にしているとはいえ、戦争の影が全く感じられません。
それに2人が戦時下にわざわざ危険な大陸に渡るとは思えませんから、この期間は除く方がよいでしょう。
となると、大ざっぱに言って1920年代ではないでしょうか。
では1920年代という仮説に無理がないか、ファッションの面から見てみましょう。
今回はカレンもジューンも14歳の少女なので、大人の服の流行を当てはめることはできません。
④カレンのドロワーズ
アランにスカートをめくられたカレン。
スカートの下にドロワーズ(ズロース、パンタロン)をはいています。
女性の下着としてパンティが登場したのは1928年。
ただ、女性達がすぐにパンティを身に着けたわけではなく、しばらくの間はドロワーズをはく人も多かったようです。
ドロワーズから言えるのは、1930年頃までということでしょう。
⑤ジューンの乗馬ズボン
活発なジューンはズボンをはいて颯爽と馬にまたがっています。
乗馬は上流階級の女性のたしなみでしたが、昔は馬にまたがることは認められず、ズボンの上から長いスカートをはいて横乗りをしていました。
横乗りがほとんど見られなくなったのは1930年代末だそうです。
そう聞くと1920年代では早いかなとも思えますが、シャネルは第1次世界大戦の頃から乗馬ズボン姿で男性と一緒に乗馬を楽しんでいたとか。
また、同じスポーツであるスキーでは、女性は1920年代後半になるとスカートからパンツ姿に変わったそうです。
ジューンは上流階級の娘ではなく普通の女の子ですし、1920年代にズボン姿で馬にまたがっていても不自然ではないと思われます。
⑥アランの寝間着
アランの寝間着はワンピース型で、「はるかな国の花や小鳥」でもこのタイプのものを着ていました。
これが1944年の「春の夢」になると、1話ではワンピース型ですが、2話・3話ではパジャマに変わっています。
もしかすると萩尾先生が1944年にワンピース型の寝間着は古いと思って、パジャマに変更なさったのかもしれません。
寝間着から年代を特定することはできませんが、「はるかな国の花や小鳥」に近い時代のように思えるので、20年代は範囲内と言えるでしょう。
このようにファッションの面でも特に反証は出てきませんでした。そこで――
-・-・-・-・-・-・-
★仮説★
「一週間」=1920年代頃
-・-・-・-・-・-・-
ひょっとすると、この後2人はパリ万博に行ってファルカと出会ったのかもしれませんね。
もしそうなら1925年でしょうか。
次のページで作品を年代順に並べてみます。
(初投稿日:2017. 4. 4)
~~~*~~~*~~~*~~~
2017. 8. 16 追記
「春の夢」の5話でアランの寝間着は再びワンピース型になっています。
1944年頃はどちらも一般的だったのかもしれません。
ちなみに1959年の「小鳥の巣」では生徒たちの寝間着はパジャマでした。