亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(19)「1ページ劇場――ポーの伝説によせて――」

「(12)この作品は、いつ頃のお話?~②ピカデリー7時」で「1ページ劇場――ポーの伝説によせて――」に少しふれましたので、今回はこれについて詳しく書いてみます。


「1ページ劇場」というのは、かつて『別冊少女コミック』(別コミ)に掲載されていた文字通り1ページのモノクロページです。別コミの作家さん方が毎月1人ずつ思い思いの絵と言葉で独自の世界を表現されていました。


このページに萩尾先生が初めて登場されたのは、おそらく1972年2月号の「1971年12月10日のひとりごと」だと思います。デビュー40周年記念原画展に出品されて図録にも収められているので、ご存じの方も多いことでしょう。
「青いぼくたちの世界へおいで」で始まる詩とともにエドガーとメリーベルが描かれ、左下の隅に自画像があって「筆者は吸血鬼(バンパイア)の兄妹のお話をかきたくて うずうずしてるのです。12. 10」と吹き出しが付いています。
ポーシリーズ第1作「すきとおった銀の髪」が別コミに掲載されたのは翌月の3月号。
この「1971年12月10日のひとりごと」がエドガーとメリーベルの読者への初お目見えでした。


次が1973年8月号で、当時構想中のSF作品のキャラクター達を描いたもの。
これは文字の入っていないイラストのみの原画が「萩尾望都SF原画展」に出品され、『萩尾望都SFアートワークス』(2016年 河出書房新社)に収録されています。
文章にタイトルはありませんが「サイバネチック・オーガニズムってなあに」と始まってSF漫画が少女読者に受け入れてもらえないことを嘆きつつ、「――このロマンが いったい少女まんが以外の なんでありましょうや……」と結ばれています。
今でこそSF漫画の第一人者である萩尾先生も、少女漫画界のSF黎明期にはご苦労が多かったようですね。


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そしてその次が1974年12月号の「ポーの伝説によせて」で、私の知る限りでは萩尾先生の「1ページ劇場」はこれが最後でした。


1974年12月号はポー第2シリーズの第1作となる「エヴァンズの遺書」前編掲載号の前号に当たります。
「ポーの伝説によせて」はページの上半分に縦書きで、第2シリーズの各作品のさわりが詩のように書かれています。以下に全文を引用させて頂きます。


「――ポーの伝説によせて――

――昔むかし オオカミの出る山中に 金毛の兄弟が住んでいました
――明るい五月に少女は 青い目の少年に プロポーズしました
――シャーロック・ホームズふうの 帽子をかぶった紳士は バスのなかで 彼にほほえむ少年を 見ました
――戦争のすこしまえ ロンドンで殺人事件が起こりましたが 死体が見つかりませんでした
――オズワルド・エヴァンズは きみょうな遺書を残しました
――アランは エドガーが出かけたので 雨の日の一週間 ひとりでるす番をしなければ なりませんでした
――古城の城主は 川を流されてきた少年の死体が 生きかえるのを見ました
――幸福な婦人は バラの庭で 恋人の帰りを待っていました
――炎のなかで ひとりの少年が 燃えて消滅しました

          萩尾望都


この詩のうち最初の2つは作品化されませんでしたが、1番目は後に「月蝕」になったと言われているようです。3番目以下に該当する作品は次のとおりです。


「ホームズの帽子」「ピカデリー7時」「エヴァンズの遺書/ランプトンは語る」「一週間」「エヴァンズの遺書」「はるかな国の花や小鳥」「エディス」


不思議なことに「ペニー・レイン」と「リデル・森の中」は含まれていません。この2つは後から挿入された話なのかもしれません。
読んで驚くのは、この時点で「エディス」までの構成がきっちりと出来上がっていたことです。
アランが消えてしまうことも最初から決まっていたのかと思うと悲しいです。


ページの下半分がイラストで、画面右に片手を腰に当ててポーズを取るエドガー。「トーマの心臓」の連載後のためか、どことなく「トーマ」を思わせる優しい顔です。
中央に帽子を持つ可愛いメリーベルのアップ。
左下に「ポーの一族」の髪形のグラスを持つアラン。


そして注目したいのが左上。少し開いた門の向こうに少女の姿があるのです。
リデルには見えないし、エディスでもシャーロッテでもない。エルゼリでもなければカレンやジューンとも違う。
この娘はいったい誰? もしや作品化されなかった2番目の「青い目の少年にプロポーズした少女」でしょうか。それはどういうエピソードになる予定だったのでしょうか。
私はとても気になっていて、もし機会があればぜひ萩尾先生にお聞きしてみたいです。
もっともそんな昔の話、先生はもう覚えていらっしゃらないかもしれませんけど…。


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このように「ポーの伝説によせて」は第2シリーズの発表前から全体の構想が固まっていたことを示す貴重な資料であるとともに謎もはらんでいて、ファンには見逃せないものです。
それなのに、まだ一度も再録されていないのですよね…。


「(8)幻のカレンダー」の追記に「ポーの一族」のイラスト集出版の要望書を『flowers』編集部宛に送ったと書きましたが、実はその時、この「ポーの伝説によせて」も載せてほしいとお願いしました。
ついでに言うと、フレーズ集の出版も併せて要望しました。
ここでもう一度叫びます(こんなところで叫んでもどうにもならないとわかっちゃいるけど、何もしないよりマシかもしれないので)。


小学館様!
…がムリなら 他の出版者様!
どうかポーの一族」のイラスト集とフレーズ集を出版してください!
イラスト集には「1ページ劇場――ポーの伝説によせて――」とカレンダーのイラストをぜひ収録してください!
カレンダーの再製作もして頂きたいです!
何と言っても “不朽の名作” なのですから、これくらいはあって然るべきですよね。
絶対に売れると思いますし(責任は負えませんが)。
どうぞよろしくお願いいたします~!!

 

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2017. 10. 4 追記


SFの「1ページ劇場」は『萩尾望都対談集1970年代編 マンガのあなたSFのわたし』(2012年 河出書房新社)と『少女マンガの宇宙 SF&ファンタジー1970-80年代』(2017年 立東舎)にも掲載されていました。どちらも文章入りです。

マンガのあなた SFのわたし 萩尾望都・対談集 1970年代編

マンガのあなた SFのわたし 萩尾望都・対談集 1970年代編

 

 

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2018. 9. 3 追記


記事(40)に「1971年12月10日のひとりごと」と「ポーの伝説によせて」の画像を載せました。
ぜひご覧くださいませ。

(40)「ポーの一族」イラスト集~「1ページ劇場」 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

また、「ポーの伝説によせて」の1番目の詩はコメント欄にみっしさんが書いてくださったように「ペニー・レイン」だと思います。