★このブログはネタバレを前提にしておりますが、こちらの記事は特にネタバレだらけですのでご注意ください。
待ちに待った「ポーの一族」の新作がついに連載開始となりました。
地元の書店にいそいそと『flowers』7月号を買いに出かけた私。
朝一番で入手した友人から「表紙がヤバイ!」とメールをもらっていたのですが、店頭で見た瞬間クラッとしました。本当にヤバイ…!
家に持ち帰ってからも表紙を眺めてうっとり。
エドガー単独の絵だろうと勝手に思っていたので、まずはアランも一緒で嬉しい。
皆様きっと感じていらっしゃると思いますが、宝塚、入ってますよね。
美しい色彩に「そうそう、やっぱりエドガーはブルー・ピンク・シルバー系、アランはイエローベースのグリーンにオレンジ・ゴールド系のイメージよね」などと喜んだり、ジャケットの大胆な柄に「もしかして東洋が舞台になるのか?」と思ったり。
ジャケットも一見お揃いのようでいて、よく見るとエドガーはオーソドックスなシングル、アランはデザイン性のあるダブルだし、シャツやリボンタイもそれぞれに似合うものを着ていて心憎いです。
表紙絵を存分に堪能してページをめくると、扉絵がまた素敵!
エドガーとファルカだけじゃない。アランもいる! ブランカもいる!
楽しそうに楽器を演奏する姿はブランカの一家を思い出させます。
みんなの幸せそうな顔に、こちらまで幸せな気分になりました。
扉絵も堪能した後は物語の世界へ。
今回は登場人物ごとに感想を書いてみます。
◆◆◆* 1.エドガー *◆◆◆
物語の舞台は2016年のミュンヘン。
エドガーとファルカが40年ぶりに会うところから始まります。
旧作の最終エピソード「エディス」で1976年にエドガーとアランの行方がわからなくなってから、アーサー(クエントン卿=ランプトンの絵を描いた人)達とともにずっと捜していたファルカ。
まるで私達読者のようにエドガーが生きていたことに歓喜し、今までどうしていたのかと尋ねます。
エドガーの話は驚くべきものでした。
●ファルカに教わった「目」を使って「グールの丘」に移動したらしいこと
●コマドリの声で目覚め、誰かが呼ぶ声で自分を取り戻したこと
●そこは昔、大老ポーに血を授けられた館の地下の洞窟だったこと
●自分が「グール」のような怪物に変化していたこと
●小さく炭化したアランを抱きしめ続けていたこと
●ずっと「グール」のままでいいと思っていたけれど、アランの囁きのようなものが聞こえるようになってアーサーの元へ行ったこと
●アーサーが元の姿に戻す手助けをしてくれたこと、指先がまだ戻っていないこと
そう、エドガーはほぼ40年間ずっと地下の洞窟にいたのです。
アランを抱きしめながら。
「エディス」でアランが炎に包まれた時、「もう明日へは行かない」と心の中で言っていたエドガー。
その時の喪失感と、これから永遠の時を1人で生きていかなければならないという絶望はこれほどまでに深いものだったのかと、私は改めて思い知りました。
メリーベルを失った時も同じ喪失感を味わったけれど、まだアランがいたから明日へ行けたのですね。
エディスを浴槽に運んだことを、よく覚えていないとエドガーは言います。
あの時、無我夢中で「目」を使って炎の中からアランを救い出し、エディスをバスルームに運んでから再び「目」を使って「グールの丘」に移動したということでしょうか(先にエディスを運んでから炎の中に飛び込んだのでは間に合いそうにないので)。
長い眠りから目覚めさせてくれたのはコマドリの声。
コマドリはイギリスではポピュラーな小鳥だそうですが、ポーシリーズでコマドリと言えばロビン・カーなので、ロビンが目覚めを運んできてくれたようで嬉しくなりました。
それから聞こえてきた、エドガーの名を呼ぶ声。
それは誰の声だったのでしょう? 私はアランの声だと思いたいです。
気づくとエドガーは「グール」のような怪物に変化していた。
ファルカの言葉によれば「ひどく弱ると…ひからびて…小さくなってしまう時があるよな…そして そのまま消えたり…」ということですが…
うーん、あまり想像したくないんですが、「春の夢」でクロエやゴールドが気を吸い取られて干からびていた、あんな感じ?
いや、きっと全然違う姿形の怪物ですよね?
できれば見たくないけど、萩尾先生、しっかり描写してくださるかも。
「春の夢」でもバンパネラの本性を現した姿をリアルに表現なさいましたから。
エドガーを元の姿に戻す手助けをしたのはアーサーということですが、どういう風にしたのでしょうね?
グール化したポーを元に戻すって、時々あることなのでしょうか。
エドガーは大事そうに抱えたカバンを示して「アランは ここにいるよ」とファルカに言います。
「アランを もとにもどしてほしい そのために会いにきたんだ」と。
ファルカに「それはもうアランじゃない」と言われても「アランだ!」と譲らない。
「アランは ぼくより人間っぽくてピュアだった」「無垢(イノセント)なものがほしい」とも。
この時の思いつめたような表情、必死の形相には胸がつぶれる思いがします。
「春の夢」でエドガーは言っていました。
「アランの感情は ぼくよりずっと人間に近い」「アランがいないと ぼくは幽霊になってしまう」。
この言葉を聞いたからこそ、40年間抱きしめ続けた気持ちや、アランはまだいる、再生させたいという強い願いが響いてきます。
「春の夢」には他にも人物や設定など「ユニコーン」に繋がる情報がぎっしり詰まっていて、本作の序章となる重要な作品だったのだなと思いました。
ここで「ユニコーン」のモノクロ予告を思い出してみると、エドガーが持っていたカバンはとても大切な物だったのですね(前の記事(36)に画像があります)。
(36)ユニコーンを待ちながら - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記
「春の夢」最終話の扉絵(同上)のカバンと外見はそっくりでも、同じ物ではなかったわけです。
それから靴。前の記事で2つの絵の靴のデザインが違うと書きましたが、「ユニコーン」の予告の方はアランの好きなデザインだったのですね。
では外見がそっくりなカバンを選んだのも、アランの好きなデザインだったからでしょうか。
何だか泣けてきます…。
こういうディテールにも深い意味があったとは、さすが萩尾先生!
◆◆◆* 2.アラン *◆◆◆
今回エドガーに「…焼けたワラを抱きしめてるのかと思ってたら その塊が…アランだった」「見る? ほとんど炭だよ」と表現されているアラン。
一体どんな状態なのか…?
カバンの中を見るのが怖いのですが、いずれ目にすることになるのでしょうね。早ければ次回にも。
でも私としてはチリになって完全に消えたわけではなく、実体が残っていただけで救われたような気分です。
アランの囁きのようなものが聞こえるようになったのは、エドガーが長い間抱きしめていたからなのでしょう。
エドガーは自分の名を呼ぶ声を聞いて自分が誰なのか思い出したと言います。
それならアランもエドガーの呼びかけに自分が誰か思い出してくれるのでしょうか。
◆◆◆* 3.「バリー/ダイモン」 *◆◆◆
初登場の「バリー」はヴァンピール界の嫌われ者。
「バリー」の他に「ダイモン(悪魔)」などいくつもの名前を持ち、「疫病神」「怪物」などと呼ばれています。
驚くべきことに大老ポーに血を授けられてヴァンピールとなり、ポーの村を追放された、元ポーの一族。
しかもファルカをヴァンピールにした「親」。
ん? ということはファルカも元をたどればポーの一族?
ヴァンピール界って意外とルーツは繋がっているのでしょうか。
「バリー」はポーの村を追放されたのは、皆が自分を怖がったからだと言います。
そして大老ポーを殺すことが生きがいだと。
もしかするとクロエと手を組んでいるのかも。
そんな「バリー」は、エドガーがアランを蘇らせるために何をしたか知っている、とも言います。
エドガーは何をしたのか?
更に「バリー」はアランを再生させる方法を知っているようです。
「アランを取りもどせるなら ぼくは悪魔とだって契約する」と「バリー」に付いて行くエドガー。
この「バリー」、信用できないのは誰の目にも明らか。
果たしてどういう魂胆なのか?
ポーの村の者達は、なぜ彼を恐れたのか?
●「バリー」はカフェの時計の針を一斉に進ませて見せましたが、時間を支配できるのか。
●「一緒に来たら本名を教えてやる」とエドガーに言いますが、誰も知らないその本名をアランは知っていた。
●そしてエドガーは指先がまだ元に戻っていない――。
どうもこのあたりが今後の鍵になるような気がします。
◆◆◆* 4.ヴァンピール達 *◆◆◆
今号にはファルカ、アーサー、シルバーが登場し、ブランカが元気でいることもわかって嬉しいです。
シルバーは味のあるキャラクターとなって再登場で、今後の活躍(?)が楽しみ。
アーサーについては、私は「エディス」後のエドガーは彼と一緒にいるのではないかと思っていたので、当たらずといえども遠からずというところでしょうか。
アーサーとファルカが火事で焼けたエディスの家を見に行った回想場面では、「ああ、あの時から話が続いているんだなあ」と感動してしまいました。
エディスが生きていれば2016年には54歳。登場はないのでしょうか。
ところで1958年(「小鳥の巣」の前年)2月に仲間が集まったという、ベニスでのサンタルチアコンサート。
「春の夢」でヴァンピール同士が助け合っているというのを読んで、ヴァンピール界にも互助会みたいなものがあるのかと思いましたが、親睦会もやっているんですかね?
それともコンサートを装った情報交換会?
扉絵の合奏する4人は、この時のイメージではないでしょうか。
嫌われ者の「バリー」も参加したというのは、招待されていないのに勝手に来たのかも。
コンサートはオットマー家が所有するサンタルチア・ホテルで開かれたのかなと思うので、ブランカはダンおじさんと会ったのかもしれません。
お互いにヴァンピールになったと知った時は驚愕だったでしょうね。
◆◆◆・*・◆◆◆・*・◆◆◆
今号はマリエン広場のカフェが舞台になっていました。
広場には有名な仕掛け時計があり、カフェの店内にも時計がいっぱい。
ポーシリーズに欠かせない時計ですが、この「ユニコーン」では特に重要な役割を持つのかもしれません。
それにしてもヴァンピール界の話をカフェであんなに大声で話して大丈夫だったのでしょうか。
英語で話していたとしても、観光地なので英語がわかる人は大勢いたと思うんですが…。
ウェイトレスさん達のリアクションには笑っちゃいましたけど。
タイトルの「ユニコーン」の意味は、まだわかりません。
当てずっぽうですが、もしかすると宝塚で一族の紋章にユニコーンがあしらわれていたのと関係あるかもしれないと、私はちょっと思っています(DVD・ブルーレイをお持ちの方は、婚約式の場面で大老ポーの棺の紋章を確認できます。フィナーレのパレードで出演者が持っているシャンシャンも紋章をかたどったものです)。
つまりユニコーン=一族ですが、まあ99%違うでしょうね。
◆◆◆・*・◆◆◆・*・◆◆◆
前の記事に書きましたが、「ユニコーン」の予告が出て2016年の話だと知った当初、私は不安でいっぱいでした。
アランはもういないのだという悲しみを蒸し返されるのが怖かったからです。
でもその後、萩尾先生がエドガーとアランをとても愛していらっしゃることを思い出して、「先生がファンを悲しませるような作品を絶対に描くはずがない!」と明るい気持ちになりました。
そして「ユニコーン」か別のエピソードかはわからないものの、エドガーがアランを取り戻そうとする話があるのではないかと想像していたのです。
このVol. 1がまさにそんな展開になったことは嬉しい驚きですし、たとえアランが蘇らなくても(蘇ってくれると期待していますが)、先生はファンが納得できる結末を用意してくださるでしょう。
エドガーの時が1976年で止まっていたことを取っても、読者の気持ちを考えてくださっているなあと思います。
すっかり現代人になったエドガーがいきなり現れても戸惑ってしまいそうですが、これなら「エディス」の続きとしてすんなりと作品に入っていけますから。
最初に見た扉絵に話を戻すと、アオリに「全コミック界注目の最新作!!」と書かれています。
今作はまさしくコミック界の事件と言えるのではないでしょうか。
そして4人の背後には悪魔と死神が。
次回も波乱の展開になるのは必至ですが、希望のある結末を信じて楽しみたいと思います。