1969-73年作品、今回はとにかく楽しい!学園コメディ「3月ウサギが集団で」。
『週刊少女コミック』1972年16号に掲載された40ページの作品です。
(『萩尾望都作品集5 3月ウサギが集団で』1995年 小学館より。下も同)
まずタイトルの「3月ウサギ」って何?ってことですが、お察しの通り『不思議の国のアリス』で帽子屋やヤマネと狂ったお茶会を開いている、あのウサギです。
ディズニーのアニメでご存じの方も多いことでしょう。
この「3月ウサギ」、そもそもは繁殖期のウサギが狂ったように飛び跳ねることに由来する「3月のウサギのように気が狂った(頭の変な、気まぐれな)」という英語の成句から生まれたそうです。
そこで「3月ウサギが集団で」は、こんなふうに始まります。
「カリフラワー畑と住宅地の
どまん中に美月中学はある
これでも東京都区内だ
すぐとなりが埼玉県だっちゅう
えらい はずれだけど」
「美月中学
人よんで三月中学
生徒のことを三月ウサギ」
「三月は狂い月
狂い月のキマグレウサギども あはっ」
そう、これは美月中学2年3組の生徒達がドタバタ大騒ぎする漫画なんですよ。
では見事にキャラ立ちしている生徒達をご紹介!
●マーク(左)と一丸(右)
マークはもちろん愛称で、マーク・レスターに似ているからマーク。
あ、マーク・レスターをご存じない方もいらっしゃるでしょうね。
マーク・レスターは映画「オリバー!」や「小さな恋のメロディ」などで有名なイギリスの子役です。
とても可愛い男の子で当時日本でも大人気でした。
この作品のマークも女子に大人気。
でも中身は至って普通の男子です。
一丸はマークの親友。
IQ160の天才と言われています。
●のんの
本名・鈴木乃々。
男子に大人気のキュートな女の子。
●松本
自転車を愛する男。
ガレージの許可証を失くしたからと言って教室まで乗り付けるほど。
●委員長
真面目なクラス委員。
のんのが好きなのに女子から「あんたとじゃ似合わない」と言われて傷つく一面も。
生徒だけでなく先生達もキャラ立ちしています。
筆頭はこの人。
●高尾先生
理科の教師。
左上のモップ頭が Before、下の坊主頭が Afterです。
こうなったのもマークと一丸のせい。
・・♪・・♪・・♪・・♪・・
ストーリーの発端は、マークがのんのの靴箱に入れたラブレター。
のんのは女子のアイドルであるマークが自分にラブレターをくれたことに戸惑い、生活指導担当の担任に届けてしまいます。
そして怒ったマークにふられて、自分もマークを好きだという気持ちに気づきます。
この1件は一丸が学級日誌に書いたためにたちまちクラス中に知れ渡り、皆は2人をくっつけようと盛り上がります。
でも一丸は親友が女の子に、うつつを抜かしているのが面白くない。
マークの靴箱に入っていたのんのからの手紙を失敬し、高尾先生も巻き込んで事態はとんでもない方向へ――。
・・♪・・♪・・♪・・♪・・
この作品が楽しい理由は何と言ってもテンポが速いこと!
理科の解剖用のヒヨコを焼いて食べただの、
高尾先生が思わぬことから坊主頭にされるだの、
松本がのんのに告白されたと勝手に思い込むだの、
委員長がリコールされそうになるだの、
いろんな話がまるでウサギが跳ねるみたいに飛び出してくるんです。
例えば下は、給食の時間にマークと一丸の言い合いからスープ合戦になる場面。
弾むようなテンポですよね。
ところどころセリフが横書きなのも臨場感があって。
こんなスープ合戦、「トーマの心臓」にもありましたね。
私はこの作品を中学生の時に初めて読んで、その時からこのテンポの良さと笑いが大好きでした。
今読み返しても楽しいし、当時の教室の騒々しさを思い出したりします。
今の中学生の方が読んだら、どう感じるのでしょうか。
現実離れしていると思うかもしれないですね。
そうしたらファンタジーとして読んで頂きたいなと思います。
この作品にも初期特有の萩尾先生の書き込みがあります。
1つは、
「脱線 脱線 ばっかし!」
これはわかりますね。
もう1つは、
「半分は事実をもとに つくってある
ざまァみろ」
え? 半分事実って、どのあたりが?
スープ合戦も事実なんでしょうか。
それに「ざまァみろ」って誰に言っているんでしょうね?
ちょっと気になります。
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他にもあります * 学園コメディ
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まずは『週刊少女コミック』1972年12号に掲載された「ごめんあそばせ!」から。
(『萩尾望都作品集5 3月ウサギが集団で』1995年 小学館より。下も同)
ハイスクールのバンド、キーロックスは市のコンクールを間近に控えてドラムがケガで入院し、「ドラマー募集」のポスターを学校中に貼ります。
1人だけやってきたエマは小学生に間違えられるほど小柄な女の子。
でもドラムの腕は抜群!
さっそくメンバーに加わり練習を始めますが、サッカー部がエマを返せとやってきます。
実はエマ、クラブを変えるのが趣味で、これまで34ものクラブを渡り歩いてきたのでした。
どこでもモテモテだったエマにキーロックスのメンバーもすっかり夢中。
ところがコンクール当日、エマが出番直前に酔っ払ってしまって…。
・・♪・・♪・・♪・・♪・・
エマは小さいけれど威勢がよくて何でもできてチャーミング。
作品はメンバーが持ち歌に乗せてエマとのデートを妄想する場面もあったりして楽しいです。
でも上の扉絵は中の絵より古い感じがするのですよね。
中の絵はこんなです。
『テレビランド増刊イラストアルバム⑥萩尾望都の世界』(1978年 徳間書店)にデビュー前の「ごめんあそばせ!」のオリジナル原稿が一部掲載されているのですが、扉絵はその絵に近いので、もしかするとオリジナル原稿がそのまま使われたのかもしれません。
そしてこの作品には手書きで「ここは あしべつ 北国の町のササヤナナエターンのおうちで しこしこ おしごと してんの…」などと書かれています。
北海道のささやななえこ先生のお宅に滞在中に描かれたのですね。
「キーロックス」とは先生がデビュー前に参加していた同人誌の名前で、もともとはメンバーの方が活動されていたロックバンドの名前だったそうです(『文藝別冊 総特集 萩尾望都』2010年 河出書房新社 p. 19より)。
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もう1作、『なかよし』1971年4月号掲載の「ジェニファの恋のお相手は」も!
こちらは少し変わった学園コメディです。
ヒロインはアリスおばあちゃんと17歳の姪・ジェニファ。
ある朝、アリスの元に死神が来て言うことには、「手違いで13日後に死ぬことになったから、それまで望みを叶えます」と。
恋愛経験のないアリスはもう一度青春時代を生きて恋をしたいと、ジェニファと魂を入れ替えてもらいます。
色気ゼロの秀才だったジェニファがいきなりおしゃれをして可愛くなって、学校は大騒ぎに。
ジェニファになったアリスは「青春はあたしの恋のためにあるの」「恋愛はゲームよ」と言い放ち、最高の男の子とのカップリングをめざします。
男の子達がアリスに熱を上げる中、プレイボーイのロンリーまでが本気でアリスを好きになり、ついにアリスはファーストキスの瞬間を迎えますが…。
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こちらもテンポがよくて楽しい作品です。
アリスがジェニファになって青春を謳歌している姿は爽快だし、それを見た本物のジェニファが乙女心に目覚めるところも可愛い。
ロンリーが校内のパーラーでカッコつけて注文するのがクリームソーダというのも、何だか笑ってしまいます。
この作品に出てくる死神は「もうひとつの恋」にも登場するのですが、愛嬌があって私のお気に入りです。
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記事内の作品はこちらで読めます
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●「3月ウサギが集団で」
●「ごめんあそばせ!」
●「ジェニファの恋のお相手は」
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1969-73年作品の感想は、しばらくお休みした後に再開する予定です。