1969-73年作品の感想シリーズ、今回は萩尾先生のデビュー作「ルルとミミ」と2作目の「すてきな魔法」です。
「ルルとミミ」は『なかよし』69年夏休み増刊号に、「すてきな魔法」は同69年9月号増刊に掲載されました。
2010年に出版された『文藝別冊 総特集 萩尾望都』(河出書房新社)のロングインタビューの中で、先生はデビューのいきさつを次のように語っておられます。
「(同郷の漫画家の)平田(真貴子)さんは『なかよし』に描いていたので『なかよしの編集さんだったら紹介できますよ』と言ってくださって。」
「(投稿して)返却されていた原稿を持って『なかよし』の編集さんに会いに行って。それが専門学校の冬休みだったかな。その担当の人が『絵がかわいいから、かわいい話を描いていらっしゃい。いつまでに送れます?』って聞くので。その時すでに1月の15日だったんですけど『今月中に送ります』と言って。急いで描いて。」
「すごく急いで描いたから線が荒れて。これはちょっと向こうが失望するかもしれないと思って、『次はちゃんと描きますから』とか言い訳いっぱい書いたら『これでデビューさせたいと思うけど、一作しかないと後がないから描きためてください』って言われたので『すてきな魔法』を描いて……。」
当時、先生は20歳のデザイン専門学校生。
こうしてデビューしたものの、その時は嬉しさよりも先行きの不安の方が大きかったそうです。
それでは作品をご紹介 ♪
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「ルルとミミ」
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(『萩尾望都作品集1 ビアンカ』1995年 小学館より。下も同)
デビュー作は20ページでした。
お話は…
土曜日の朝、双子のルルとミミが目を覚ますとママがケーキを焼いていました。
教会でケーキのコンクールがあると聞いて、2人もケーキ作りに初挑戦。
張り切って作ったものの失敗続きで、結局できそこないのケーキをコンクールに持って行きます。
ところが怪しげなキーロックス一行が審査員として現れ、会場は大混乱に!
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先生は双子が大好きで双子が出てくる作品を多数発表されていますが、デビュー作からすでに双子が主役ですね。
『なかよし』の読者年齢に合わせて絵もお話も小学生向けに可愛く、コマ割りもオーソドックスです。
絵は服の柄や背景まで細かく描き込まれていて、とても半月で仕上げたとは思えません。
服飾デザインを勉強されていただけあって、ルルとミミの服もおしゃれで可愛いです。
60年代はテレビで日常的にアメリカのホームドラマが放送されていて、日本人がアメリカ文化を知る1つの窓になっていたものでした。
この作品の舞台は特定されていませんし私が読んだのはすでに70年代半ばだったのですが、田舎の中学生の目には同じように新鮮な異文化として映りました。
例えば、こちらは1ページ目。
最初のコマで新聞配達員が新聞を庭に投げ入れているのを見て「外国ではポストに入れないんだ」とか、「土曜日は学校がお休みなのか。いいなあ」とか、「ナッツケーキってどんな味がするんだろう」とか。
今改めて考えると、きちんと考証されていたのだなと思います。
ところで、この作品にはキーロックスという4人組が登場しますが、72年発表の「ごめんあそばせ!」にもキーロックスというバンドが出てきます。
「ルルとミミ」
「ごめんあそばせ!」
(『萩尾望都作品集5 3月ウサギが集団で』1995年 小学館より)
キャラクターがほとんど同じですね!
記事(47)の「ごめんあそばせ!」の感想にも書いたのですが、「キーロックス」とは先生がデビュー前に参加していた同人誌の名前で、もともとはメンバーの方が活動されていたロックバンドの名前だったそうです。
もしかしたらキャラクターにもモデルがいたのでしょうか。
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「すてきな魔法」
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(『萩尾望都作品集1 ビアンカ』1995年 小学館より。下も同)
こちらは32ページの作品です。
お話は…
アンは奇術が得意な女の子。
ある日、同じクラスにジョーイという男の子が転校してきます。
ジョーイはアンよりも奇術が上手く、自分のは魔法だからタネなんてないと言います。
反発するアンでしたが、ジョーイから「魔法の旅」に招待され、彼の家を訪ねることに。
そこで待っていたものは…。
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こちらも「ルルとミミ」と同様に児童向けの可愛い作品です。
ヒロインの名前はアン・マシュー。
「赤毛のアン」をお好きな方はピンときますよね?
先生も「赤毛のアン」がお好きなのでアンとマシューの名前を借りたのではないでしょうか。
この作品の見所は8ページに渡って繰り広げられる、ジョーイの家での「魔法の旅」でしょう。
テーブルの上に置かれていたトランプにアンが触れた瞬間に不思議な世界への扉が開きます。
それはさながらアニメと実写を織り交ぜたファンタジックなミュージカル映画のようです。
私は先生の初期作品のミュージカル場面が好きなのですが、2作目で早くもメインになっていたことに驚きます。
特に気に入っているのは人形劇仕立ての場面のブラックな詩。
「花嫁さんが おこったので
花婿さんは逃げ出したとさ
だけど牧師さんは聖書をひらいて たってた」
「二人はなかなか もどってこなかった
それでも牧師さんは聖書をもって まってた」
「そしたら花嫁さんからジャムがとどいた
そのジャムは花婿さんを
おさとうで煮て つくってあった
それで牧師さんは
聖書をとじて かえってしまった」
「かわいそうな かわいそうな
ぼくしさんの お話」
絵が可愛いのでギャップが面白い。
マザーグースかな?と思ったのですが、先生のオリジナルなのでしょうか。
「すてきな魔法」は先生の初のファンタジー作品と言えるかもしれません。
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記事内の作品はこちらで読めます
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●「ルルとミミ」「すてきな魔法」
●「ルルとミミ」