亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(65)『萩尾望都 作画のひみつ』

このたび新潮社より『萩尾望都 作画のひみつ』が刊行されました。
カバーはこちら。

 

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表側のイラストから察せられるように、この本は昨年の『芸術新潮』7月号の特集を増補・再編集して1冊に仕立てたものです。
(『芸術新潮』については別の記事にまとめていますので、よろしければどうぞ ↓)

(53)『芸術新潮』2019年7月号 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


今回、本の大きさは雑誌サイズから小ぶりになり、手に取りやすくなりました。
ページ数は70ページ増えて全160ページに。
ゆとりあるレイアウトで一層見やすくなっています。


本の構成は


1 巻頭(6ページ)
2 グラフ(22ページ)
3 インタビュー(34ページ)
4 アトリエ訪問(4ページ)
5 ライフ・ストーリー(5ページ)
6 忘れがたき編集者との出会い(1ページ)
7 クロッキー帳はイメージの宝石箱(16ページ)
8 小野不由美さんの寄稿(6ページ)
9 年代別に見る画風の変遷(28ページ)
10 美しい物語は美しい本で(5ページ)
11 愛とこだわりのコスチューム(13ページ)
12 ヨーロッパ聖地巡礼Map(8ページ)
13 タイプ別キャラクター名鑑(6ページ)


芸術新潮』から「抄録『斎王夢語』」と「『Manga マンガ』展レポート」がなくなり、代わりに2つのコラム「愛とこだわりのコスチューム」「ヨーロッパ聖地巡礼Map」が追加されました。
また、掲載場所が移動した図版が多数あります。


それでは『芸術新潮』からどのように変わったのか、感想を交えながらご紹介していきましょう。


1 巻頭(6ページ)


表カバーのイラスト「バラの門の番人」制作中の写真4枚。
内3枚は『芸術新潮』で「アトリエ訪問」に掲載されていたもので、先生の写真は別アングルに変わっています。
そしてエドガーの髪を彩色している写真が追加。
まず緑色から塗るんですね!


2 グラフ(22ページ)


芸術新潮』で「巻頭グラフ」として掲載されていたイラスト。
他の章からの移動を含めて8点追加されています。
全くの新規は「トーマの心臓」1ページ目、「恐るべき子どもたち」、「モザイク・ラセン」最終話扉絵の3点。
反対に「春の夢」扉絵は削除され、「ゴシックなふたり」はコスチュームのページに移りました。


3 インタビュー(34ページ)


本文は同じですが「Art」のセクションに参考写真が追加されました。


4 アトリエ訪問(4ページ)


本文は同じですが、先生ご本人や愛猫マイマイちゃん、資料などの写真が増えました。
参考図書や映画ビデオの写真が興味深いです。


5 ライフ・ストーリー(5ページ)


年表から文章形式に変わり、前よりも詳細になりました。
読書歴や旅行歴も書かれています。


6 忘れがたき編集者との出会い(1ページ)


山本順也氏の思い出にまつわる談話。
芸術新潮』のままです。


7 クロッキー帳はイメージの宝石箱(16ページ)


先生のクロッキー帳の一部が公開されています。
乗馬用の鞭を持つエドガーのスケッチが裏カバーに移動し、以下の7点が新たに掲載されました。


① マントを着た最初期のエドガー
エドガーとメリーベル
③ トーマ、ユーリ、エーリク
④「銀の三角」の物語の構造を図式化したスケッチ
⑤「ラーギニー」シグル
⑥ マルゴの表情
⑦ マルゴの全身


この中で②のエドガーとメリーベルは「ポーの一族展」図録に付属のクロッキー帳に収載されていますが、他は載っていません。
個人的には③のトーマとユーリの絵のところに書かれている「トーマの上にユーリの存在が成り立つ」という言葉にハッとしました。


8 小野不由美さんの寄稿(6ページ)


「神域」と題された寄稿。
芸術新潮』のままです。


9 年代別に見る画風の変遷(28ページ)


マルゴの絵がインタビューページから移ってきた以外は同じ内容ですが、レイアウトが整理されたことと作品ごとに番号が振られたことにより、すっきりと見やすくなりました。


10 美しい物語は美しい本で(5ページ)


海外版を含めた美しい装丁の本を紹介するコーナー。
新たに撮影し直されています。
『新装版 斎王夢語』も、ここに入りました。


11 愛とこだわりのコスチューム(13ページ)


新しく企画されたコラムで、これがとっても素敵です!


まず扉絵が『別冊少女コミック』1976年3月号の綴じ込み付録に描かれていた女の子なんですけど、当時から私、この絵が大好きだったんです。

 

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白いレースのつば広帽子にドレス、手袋、そしてクラシカルな白い靴。
ファッションも可愛いし、少女の表情や風と戯れているような姿から物語が浮かんでくるようで。
あ、ちなみに『テレビランド増刊イラストアルバム⑥ 萩尾望都の世界』(1978年 徳間書店)にも載っています。


先生は服飾デザインを学ばれただけに「作品を作るときはいつも、キャラクターに何を着せようかと考えるのが楽しみなんです」とのこと。


そこでこのコラムでは「華麗にして優美な宮廷ファッション」「作品でたどるファッション史 男性編」「同 女性編」「エスニック&オリエンタル」「制服に心ときめく」という5つのカテゴリーに分けて作品中のコスチュームを解説しています。


史実に基づきながらも先生のイマジネーションが加えられた数々のコスチュームは、細かな部分まで丁寧に描き込まれていて見入ってしまいます。
まるで繊細な手仕事の妙を見るような…。


最後の「制服に心ときめく」は「トーマ」や「ポー」の制服好きにはたまりません。


12 ヨーロッパ聖地巡礼Map(8ページ)


こちらも新企画のコラムで、とっても楽しいんですよ!
構成と文は「図書の家」さん。
作品の舞台になったヨーロッパ各地を絵や写真とともに解説するマップです。
コメントは詳しく、まさに聖地巡礼にぴったり!
私も昔、萩尾漫画を通してヨーロッパに出合ったことを思い出しました。


13 タイプ別キャラクター名鑑(6ページ)


芸術新潮』とほぼ同じですが、最後の「猫」の中に「レオくん」のタマ姫が加わりました。

 


…ということで、『萩尾望都 作画のひみつ』は『芸術新潮』を読んだ方にとっても新たな魅力のある1冊です。
帯に「永久保存版!」と謳われていますが、雑誌よりも作りがしっかりしていますしね(決して回し者ではありません)。


個人的には「愛とこだわりのコスチューム」がとても楽しいので、もっと沢山の図版を解説付きで見たいです。
できれば大きなサイズで!
それと「年代別に見る画風の変遷」も大変興味深いので、この2つを統合・拡充した本を作って頂きたいと思うのですが、贅沢過ぎるでしょうか。
新潮社様、ぜひご検討頂けませんか?


★彡 ★彡 ★彡


ところで記事(53)でもご紹介したのですが、インタビューの中に萩尾先生と内山博子先生の次のようなやりとりがあります。


内山先生「作品に描かれていない間、つまり何もドラマが起きていない時、エドガーたちは、どんなふうに過ごしているのでしょう。」
萩尾先生「アランの日常は『一週間』という短篇で描いたことがあります。エドガーは何をしているんでしょうね。本を読んだり、音楽を聴いたり? 吸血鬼だから食事は必要ないはずですが、白いエプロンをつけて目玉焼きなどを作っているようなイメージもありますね(笑)。」
内山先生「それ、番外篇でどうですか?」
萩尾先生「いいですね、日常生活篇(笑)。」


私はここを『芸術新潮』で読んだ時、わー読みたい!!と思ったんですよね。
だって見たいじゃないですか、白いエプロンをつけて目玉焼きを作るエドガーを。
アランは焼き加減にうるさそうだから大変だなー。


なんて思っていると、今月末発売の『flowers』7月号にショート番外編が載るという情報が。
これはきっと日常生活編!


わくわくしながら6月号に掲載された予告カットを見ると、それは期待にたがわぬものでした。

 

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あの、アランが釣られてるんですけど(笑)
友人は「アラン、黒猫のエサ?」などと申しております。


で、よく見ると単に「ポーの一族 番外編」ではなくて「ポーの一族 秘密の花園 番外編」なんですね。
ということは、クエントン館が舞台なのでしょうか。
アーサーのために目玉焼き(←こだわっている)を作るエドガー?
いや、先生は「目玉焼きなど」とおっしゃっていますし、何でもいいんですけど。
彼らの日常ってどんな風なのか、とても楽しみです。


8月号からは、いよいよ連載が再開されます。
秘密の花園 Vol. 2」だと思いますが、まさかの変則技で別のストーリーなんてこともあるのかな?


少し先に楽しみが待っているというのは、とても嬉しいことですね。
先生がお元気で続きを描いてくださいますように。
皆様もお元気で、ご一緒に待ちましょう。

 

萩尾望都 作画のひみつ (とんぼの本)

萩尾望都 作画のひみつ (とんぼの本)

  • 作者:萩尾 望都
  • 発売日: 2020/04/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)