亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(68)「秘密の花園 Vol. 3」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


前回アーサーの協力のもと、眠り続けるアランを無事に秘密の小部屋に寝かせたエドガー。
翌日、パトリシアが兄と一緒にアーサーを訪ねて来て…というところからの「秘密の花園 Vol. 3」です。


扉絵はこちら!

 

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小学館『flowers』2020年9月号より。下も同)


妖しい夜の森をさまようエドガーとアラン。
実は私、幼少期から蛾が苦手でして、背景は極力見ないようにしています(笑)
エドガーの服は前号から引き続き今号でも着ているアーサーが子どもの頃の服ですね。
アランもジャケットがお揃い。
半分眠りながら手を引かれていますが、扉絵だけでも目が開いててよかった。


Vol. 3では主にアーサーとパトリシア、アーサーとドミニクの関係が語られました。
そこで始めにこの2つを簡単にまとめたいと思います。


・* アーサーとパトリシア *・


アーサーとパトリシアは同い年のまたいとこで、祖母同士が姉妹であるとわかりました。
親族の名前が多くて混乱してきたので、ちょっと整理してみます。


【アーサーのクエントン家(準男爵家)】


グレース(曾祖母)

チャールズという息子を1831年コレラで亡くす

1850年頃、チャールズの顔に似せてランプトンの模写を描かせる


グロリア(祖母/Vol. 1 ではグローリア)

チャールズの妹。アリスと姉妹

庭のバラ園に手を入れた人


メリッサ(母)

グロリアと共にバラ園に丹精を込める

夫のグローブ氏に愛人がいることが発覚して離婚。1年後に自殺

グローブ氏は離婚後ロンドンに住む


アーサー

13歳からロンドンの寄宿学校に入る

パトリシアが16歳で結婚するまで帰省の折に会う。将来はプロポーズしようと思っていた

在学中に両親が離婚

1年後に母が自殺。当時17歳(Vol. 1 では18歳)

1879年ケンブリッジ大学を卒業後ロンドンで偶然パトリシアに会い、小犬のダ・カーポとフォルテを引き取る

1888年9月、館を訪ねて来たパトリシアと9年ぶりに再会


【パトリシアのバンクス家(メリッサから「農民」と言われる家)】


アリス(祖母)

アーサーの祖母の姉妹

孫のパトリシアが16歳の時、夫のバンクス氏と共にクエントン家にアーサーとパトリシアの縁談を持って行くがメリッサに拒絶される。このことはアーサーもパトリシアも知らなかった


パメラ(母)


パトリシア

アーサーと同い年

パトリックという兄がいる

アーサーが好きだったが16歳で結婚しロンドンに住む

1879年にロンドンでアーサーに再会した時、子どもが2人いた


パトリシアは外見が華やかで美しいだけでなく、ドミニクの詩を笑って傷つけたことを後悔したり、小犬の貰い手を探して奔走したりと優しい人ですね。


・* アーサーとドミニク *・


ドミニクはクエントン家の庭師夫婦の息子でした。
年齢ははっきりわかりませんがアーサーと同じか少し下のように見えます。
吃音があり、読み書きが好きな優しい子。


アーサーは小さい頃、毎日のように庭でドミニクと遊んでいました。
一度ランプトンの絵を見せるために居間に連れて行き、母に説教されます。


ドミニクもまたパトリシアに恋していました。
アーサーが14歳の頃、ドミニクがパトリシアに捧げる詩を作ります。
それが気に入らないアーサーはパトリシアの前で読むようにけしかけ、結果的にドミニクをひどく傷つけてしまいます。


その後ドミニクは14歳で病気で亡くなり、アーサーはドミニクの母から形見のノートを譲り受けました。


・*・・*・


パトリシアとドミニクを通してアーサーの人物像も、より鮮明になってきました。


ドミニクと遊んでいた幼少期は弱くて泣き虫。
ビクトリア時代の話だし、お母さん厳しそうですもんね。
でも、それだけが理由じゃないような気もする。
顔に大けがを負った事故のことはまだ語られていませんが何があったのでしょうか。


13歳で寄宿学校に入ってからアーサーは変わっていきます。


「ぼくは弱く小さかった
子供時代を卒業するんだ」

「強い男になって
いずれパトリシアにプロポーズするんだ」

「ぼくは いずれ準男爵(バロネット)だ
…左耳はないけど…
館も土地もある!」


もうアーサーにとってドミニクは友達ではなく使用人の息子。
だからドミニクがパトリシアに恋すること自体が許せないし、ドミニクが泣いてもみっともないと思うだけ。
階級社会とはいえ、仲良しで親切にしてもらっていたのに。


パトリシアに対しては早いうちに「好き」と伝えておけば良かったのにな、と思いますが。
顔の傷がコンプレックスで言えなかったのでしょうか。


その後、父の愛人問題、両親の離婚、母の自殺。
大学時代は狂暴かつ非情で「鬼のアーサー」と呼ばれていたといいますが、容貌を恐れられたことに加えて好きだった女性の結婚や家族のゴタゴタで自暴自棄になっていたのかなと思います。
世の中に見捨てられたという気持ち?


卒業後、行き詰まって父を殺して自分も死のうとロンドンへ行き、パトリシアと偶然再会。
引き取った犬と暮らすうちに死ぬことを考えなくなった。


そして現在に至るようですが、まだ語られていないことが色々ありそうです。
事故のこともあるし、Vol. 1 でパトリシアがランプトンの絵を「思い出の絵」と言っていたのも気になります。


エドガーが絵のモデルを務めながらカウンセラーのように言葉を投げかけ、アーサーは自分の子ども時代と向き合っていきました。


ランプトンの絵は1枚ごとに少しずつ室内から外へ移動していき、10枚目は春の庭なんですよね。
アーサーがドミニクと遊んだ思い出の庭。
この絵を描き上げた時、アーサーは心に区切りをつけることが出来たのでしょうか。


そして11枚目の「ランプトンのいない部屋」。
この最後の絵はどのような状況で描かれたのでしょうか。


・*・・*・


さて、今回はアーサーの話だけで終わるのかと思われましたが、そうはいきませんでしたね。
最後にドーンと来ましたよ。


狩りをするエドガーを久しぶりに見た気がします。
あのマフラー、きっと自分で隠したんでしょうね。


それでふと疑問が湧いたのですが。
前の記事に「眠りの時季で眠っている間の意識はどうなっているのか」と書きましたが、眠っている間のエナジーはどうなのでしょうか。


エドガーは眠っているアランにせっせとバラを運んでいますし、狩りもアランのためですよね。
アランは“気”のヒフが薄いためにエナジーが漏れて眠ってしまうらしいので、放っておくとだんだん弱っていく。
だからエナジーを送り込まなければいけないし、エナジーが新鮮なほど早く回復する、と考えていいのかな。


もっとも「アランの“気”のヒフが薄い」というのは後にファルカが言ったことなので、この時のエドガーは知らないのですが。
それにポーの村で眠っている人々はアランとは少し事情が違うような気がするんですが、どうなんでしょう。


そして最後のコマでエドガーがアランに「少しずつ獲物がやってくるよ」と語りかける「獲物」とは誰のこと?
アーサーの親族?


切り裂きジャック」の話まで出てきて何だか血なまぐさくなってきたなあと思ったら、予告のアオリはこうでした(絵は8月号の表紙と同じです)。

 

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「眠り続けるアラン。
そして訪れる村からの使者。
エドガーの周囲で運命が回り続ける――!!
必見 新展開!!」


おおっ これは必見ですね!
皆様、猛暑やコロナなどで大変ですが続きを楽しみに元気に過ごしましょう~。