亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(82)「秘密の花園 Vol. 10」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪

 

10回に渡って連載されたポーシリーズ「秘密の花園」が、ついに完結しました。
扉絵はこちら。

 

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小学館『flowers』2021年11月号より。下も同)


完結しましたけど私にはよく分からないところもありまして。
それも含めて順を追って感想を書いていきたいと思います。


冒頭はエドガー、アラン、シルバーの会話から。
シルバーとエドガーが、アーサーにエドガーとアランの後見人になってもらおうと言って、アランが嫌がっているところです。


で、早速ですが


わからないこと①
前の後見人のウィンクル氏は結局何者なのか?


とうとう名前しか出てきませんでしたがウィンクル氏ってやっぱりポーなんでしょうか。
基本的に仲間は呼び捨てなのに「氏」を付けているので、人間なのかな?という気がしないでもないのですが。
でも仲間でも「ポリスター卿」とか「ポラスト先生」(この人の正体も不明ですが)とか言うから、単に弁護士に対する敬称の可能性が高いかな。
ポーならば今後登場するかもしれないので期待しています。


そのウィンクル氏はエドガーの居所をポーの村に逐一報告していました。
それをエドガーが知って激怒したので後見人を交代させることにした訳ですね。
村としてはエドガーに帰ってくるよう再三言ってきたけれど、後見人が連絡役を務めることをエドガーが受け入れて、お互いに譲歩した形でしょうか。
アーサーなら身元も確かだし、エドガーと心が通じ合っているので適任ですね。


ところで私はアランとシルバーは「春の夢」(1944年)が初対面だと思っていたのですが、この時にもう会っていたとは意外でした。


アランがリデルをエサだと言い放ったのも、びっくり。
まあエドガーはメリーベルの小さい頃を思い出して可愛がっていたのでしょうが、アランは小さい子に特に思い入れはないですもんね。


・*・・*・


一方アーサーはセス(セシリア)に先日の非礼を詫び、身の上話を聞きます。
セスにシビルという妹がいたことや、兄のセシル(アーサーより1歳下)がアーサーと同じ大学に在籍していたことは初めて知りました。


しかもセシルがアーサーにいじめられて中退したとは。
アーサーにしてみればセシルは父グローブ氏と浮気相手の間の息子で、母メリッサを自殺に追い込んだ元凶みたいなものなので、許せなかったのも分かりますけど。
セスのセリフで「父が学生になぐられて大ケガ」というのは多分「兄」の誤植じゃないかと思います。


アーサーはロンドンの寄宿学校に入学後、時々グローブ氏に会っていたんですね。
でも父はアーサーの顔をまともに見ず、成績のことしか聞かなかった。
病気のシビルに冷たかったというのも、この人ならそうだろうなと思います。


そんな父に対するアーサーのモノローグ


「父が無残に ぼくと母を捨てたとしても
よけいなものを切り捨てても 憎まれても
幸福になろうとした勇気には敬意を払うよ」


ある点では認めていて、セスと出会って心境が変化したんじゃないでしょうか。
それはセスの母セーラに対しても。
セーラが何不自由ない暮らしをしていたにも関わらず、シビルを亡くしてから離婚覚悟で看護の仕事に戻ったと聞いて


「…きみのお母さんは強い人だね」


この時アーサーは亡くなった自分の母と比べていたのかもしれません。


「生きよう」とアーサーを励ますセス。
セスが看護人として来てくれて良かったなあと思うのですが、アーサーが療養所に入ったことをどうして知ったのかは結局わからずじまいでした。


・*・・*・


風の夜、シルバーがアーサーの枕辺に現れます。
「はるかな時間の旅人です」って、ずいぶんカッコいいじゃないですか。
「人間界とは時間の流れが違うので…」「ほんとに人間の命は短い…」
バンパネラにとっては人間の10年、20年が1年位の感覚なのかな。


アーサーの様子をエドガーとアランに伝えるシルバー。
アーサーが長生きしたがっていないと聞いて2人は


「アーサーは人間として死にたいんだよ」

「人間として生きたいって言ってくれ」


この会話、ツボでした。
もっと好きなのは、アーサーに服がひどく流行遅れだと言われて傷つくシルバー。
「あの………このタイは やはり古いでしょうか?」「ロンドンの紳士服店に行くべきでしょうか?」って、なぜ急にエドガーとアランに丁寧語?
シルバーって「春の夢」に初登場した時からどんどんキャラが変わって面白いですね~。


・*・・*・


パトリシアはマルコからアーサーが療養所にいることを聞き、見舞いに駆けつけます。
「行くんなら二度と家に入れないぞ!」と息巻く夫オリバーを無視して。


オリバーはビクトリア時代中流階級の男性の典型みたいな人ですね。
妻は夫に従属するもの。
良い妻、良い母として家庭を守るべし。
美しく着飾った妻は夫のステータスシンボル。
まさにそういう考えの人で、上流階級のグローブ氏もそれは同じ。


でもパトリシアは夫の浮気に怒って実家に帰ったり、アーサーを愛していると宣言して見舞いに行ったり。
セーラも「妻が働くなんて…恥だ!」とぼやくグローブ氏をよそに、誇りをもって仕事をしている。
2人とも自分の意志を貫く新しい女性で魅力的だなと思います。


パトリシアが療養所に向かってからアーサーと語り合う流れは、とてもドラマチックですね。
アーサーの「ま昼の夢かな…?」という言葉に「ペニー・レイン」を思い出しました。


そこからは2人の姿が1コマごとに次第にアップになり、それが波のように繰り返されて映画を見ているよう。
特に横長のコマだけで構成されているページは向き合う2人が交互に映し出され、臨場感があって引き込まれました。


しかも一連のセリフが宝石のようで、その点は舞台劇を思わせます。
ここですべて引用したいところですが、さすがに長過ぎるのでアーサーが「パトリシア……私と結婚してください」と言った後の最後の部分を書かせて頂きます。


「もちろん きみはぼくと結婚できない
人妻だし ぼくは病気だし
これは ぼくの夢の言葉なんだ
でも真実の言葉なんだ」

「おかしいだろ
これだけのことを言うのに
長い時間がかかってしまった!
ほんとに おかしいな!」

「……」

「パトリシア」

「では私も夢の言葉で
お返事をするわ」

「アーサー…
私は すべてを捨てて
あなたの手をとります……」

「パトリシア
きみは今 ぼくに永遠を与えてくれた」

「いいえ
永遠をくれたのは あなたよ」


パトリシアが夫婦喧嘩して帰って来た時にもアーサーはプロポーズしましたけど、あの時は2人とも理性を失っていた感じでした。
でも今度はお互いに覚悟のようなものがあって、現実には結婚できないと分かっているけれど永遠の愛を手に入れたんだなあと思います。


パトリシアは帰宅後子ども達を抱きしめて「あなたたちは お母様の宝物よ 命より大切な」「永遠なの……許して…」と言います。
これは子ども達への愛もまた永遠だから3日も家を空けたことを許して、ということでしょうか。
それとも、お父様以外に永遠に愛する男性がいる私を許して、という意味なのでしょうか。


・*・・*・


その後、今度はエドガーとアランがアーサーの枕辺に現れます。
自分達がバンパネラだと明かし、ポーの一族に加わらないかと誘うエドガー。
この時の表情がバンパネラっぽくて良いな。
去り際のエドガーの言葉


「メリッサに お願いされたんだ あなたのことを」


アーサーが「母に? なんて?」と問うと


「怪物に いったい何を お願いするんだろう?」


はい! 突然ですがここで


わからなこと②
メリッサの願いは何だったのか?


まあ普通に考えると母親として「アーサーを守ってほしい」的なことかなと思っていたのですが、この文脈からすると「永遠の命を与えてほしい」とか?
でも、そんなお願いしますかね?


もしかしたらヒントになるのかなと思うのが、エドガー達が去った後のこちらのコマ。

 

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光のようなスクリーントーンと、リボンのようなもの。
これらは少し前のパトリシアがアーサーを見舞った場面でも描かれています。

 

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光のようなものについては私は前からメリッサの霊を表しているのではないかと思っていて、今号もアーサーがセスや婦長と話す場面に使われています。
リボン状のものの方は初めて描かれたと思うのですが、何の象徴なのでしょうか。


わからないけどエドガーの言葉をメリッサが黙って聞いて頷いているような気がするんですよね。
メリッサはアーサーにポーの一族に加わってもらいたいのかな?


・*・・*・


そして墓地のそばでセスと話していたアーサーが倒れ、物語はクライマックスへ!


シルバーが駆けつけ、セスに人を呼んでくるように言ってアーサーを近くの教会に運びます。
そこにはエドガーとクロエをはじめ、数人の一族が。
ついにアーサーは「きみらの旅に…私も加わろう…」と心を決めます。


あの…これってあれですか?
いよいよアーサーの最期の時が近づいているとみて一族がずっと待機してて、時機を逃さず教会に運び、セスが人を連れて来るまでの間に儀式をすませて速やかに撤収したってことですか?
そして後には仮死状態のアーサーだけが残されたと。(シルバーは、いたかも。)
なんとスリリングな!


そして1か月後に墓地を掘り起こしたら棺が空だったということは、アーサーは仮死状態のまま埋葬されて目覚める頃までに棺から出されたのかな。
それか棺は最初から空で、一族が墓掘りに化けて埋めたとか?


ここで更にもう1つ


わからないこと③
アーサーはなぜ一族に加わろうと決めたのか?


以前のアーサーは絶望のあまり人間をやめてエルフになりたがっていましたけど、今はだいぶ心穏やかになっていますよね。
パトリシアの永遠の愛を得られたし、父の一家に対する憎しみの気持ちも変わったし。
人間として死ぬこともできたのに、なぜ?


メリッサが望んでいると思ったから?
エドガーに惹かれていたので共に旅をしたかった?
これまでの人生が苦しいことばかりだったから、パトリシアの夢の返事を心に抱いてバンパネラとして生き直してみたくなった?


いつか萩尾先生のお答えを聞けると嬉しいです。


それから私は他にも気になることがあるんですよ。
儀式の場にアランがいないのは一族と認められていないからですよね。
何なら、ついでにこの時アランの儀式もやってもらえば良かったのに、と思うんですが…。


やっぱりクロエとしては絶対に認められないんでしょうね。
エドガーと違ってアランは大老の直系じゃないから、仲間にしても何のメリットもない。
それどころか子どもが一緒だと危険にさらされるリスクが高まるので、むしろデメリット。
また、一族の承認なしに勝手に仲間にしても許されるという前例を増やしても困るし。


でもクロエはこの時にアランを消そうと思えば消せたはずなのに、そうしなかったのは大目に見てやったということ?
それと引き換えに例の契約が結ばれたのかな。
あ、もしかしたらクロエが手出し出来ないようにエドガーがアランを隠したのかも。


あと、どうでもいいことですが、人間が一族に加われるのは生きている時だけなんでしょうか?
死亡直後でも、もう無理なのかな。


何にしてもアーサーは無事に目覚めてエドガー、アラン、シルバーと仲良く馬車で旅立ち。
シルバーとアーサーはこの後も連絡を取り合っていくんでしょうね。


・*・・*・


そして物語はまたまた急展開。
一気に2000年へ!


クエントン館にバラのアーチが完成し、華やかなオープニング。
館は10年前からアーサーが借り受けてアーチを造成したとのこと。
大切な思い出の花園のアーチを。


そこへ招かれた車椅子の老人。
「ジョン? 誰だっけ?」と一瞬思ったものの深く考えなかった私ですが、いやー本当にびっくりしましたよ。


オ、オービンさん、生きてたんですか――っっっ
100歳まで!!!
いや、100歳でこの元気さなら、あと16年頑張ってエドガーに再会できるんじゃ?


しかもオービンさん、あの「エディス」のラストで執筆し始めた本を出版していました。
ジョン・オービンの吸血鬼伝説『はるかなる一族』という本を!(あるいは「ジョン・オービンの吸血鬼伝説」もタイトルに含まれるのかも。)
オービンが2016年まで生きられなくても、この本を読んだ誰かが新たなバンパネラハンターになるかもしれないですね。


オービンは一度だけアーサーをチラッと見たことがありますが、今度はアーサーが顔の傷を隠しているので気づきません。
もし傷を見たら怪しんだでしょうか。
この2人がエドガーの話をしているのを見るのは感慨深いものがあります。


ラストはファルカとブランカも登場。
アーサーはいずれ館をホテルにする計画だそう。
では今後、そのホテルが新たなエピソードの舞台になるのかも。


次のエピソードは、いつの時代の話になるのでしょう?
いよいよ2016年以降に繋がるのでしょうか。
早く読みたくてワクワクします!


・*・・*・

 

秘密の花園」は単行本の第2巻が11月10日頃に発売予定とのこと。
まとめて読めば新たな気づきや感想が生まれるかもしれません。


発売日にはきっとまたCMが流れますね。
ナレーションがどなたなのか楽しみです。


その前に10月28日頃発売の『flowers』12月号には、ショートよみきり「満月」が掲載!
ショート番外編の「〇曜日シリーズ」とは違うんですよね?
じゃあページ数も4ページより多いのかな。
こちらもとても楽しみです ♪


~2021. 12. 21 追記~


記事の中でセスのセリフの「父」が「兄」の誤植ではないかと書きましたが、単行本で変更されなかったので正しかったようです。
大変申し訳ありませんでした。

 

・*・・*・


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