★前回に引き続き思い切りネタバレしております。バラさないで!という方は作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪
「ユニコーン Vol. 2」の舞台は Vol. 1の2016年ミュンヘンから58年遡り、1958年2月のベネチア。
ヴァンピール仲間が集まったサンタルチアコンサートです。
これには意表を突かれました。
コンサートの話題はVol. 1に出てきたので、いずれ回想場面として描かれるだろうとは思っていましたが、いきなりここに飛ぶとは!
さすがは常に良い意味で読者を裏切ってくださる萩尾先生です。
コンサートはルチオの一族の主催で数百年前から開かれているといいます。
今のホストは「春の夢」でダンを仲間に加えたサルヴァトーレ。
他の一族も招待されています。
では今回も登場人物ごとに感想を書いてみます。
◆◆・* 1.エドガーとアラン *・◆◆
1958年の話なのでアランも登場。
今回、私にとって特に大きなトピックは次の2つでした。
★ 1.アランは狩りをしないとわかった★
前々からそうじゃないかと思っていましたが、本人の口から「ぼくも狩りなんかしないよ エドガーからもらうんだ」と聞けて、はっきりしました。
この時ブランカがいつもファルカに血をもらっていることを恥ずかしそうにしているので、エドガーは「…きみは狩りなんかしなくていいよ その分 人間らしいんだ」と慰めます。
私はもしかしたらエドガーとアランの間にも、かつてこれに似たやりとりがあったかもしれないなと想像してみました。
アランにしろブランカにしろ、エドガーは自分にとって大事な相手には人間に近いままでいてもらいたいんですよね。
メリーベルにも自分の血だけを与えていたのだろうと思います。
★ 2.ついにロビン・カーの名前が出た!★
もう嬉しいの一言です。この時をどんなに待っていたことか!
ファルカが子どもをほしがっているので「ファルカにロビン・カーをやったら?」と言うアラン。
そこから始まる2人の会話で、ロビンが彼らを天使と信じた理由もわかります。
最後の言葉は少し悲しく聞こえました。
「成長すればサンタ・クロースも信じなくなる
子供の魔法は いつか…消えるんだ」
「魔法は消えても ぼくらは消えないけどね」
青い文字がエドガーの言葉です。
この時(1958年)エドガーは、ロビンはもう天使を信じていないだろうと考えていたようですね。
それでも翌年(1959年)「小鳥の巣」で迎えに行ったのは、ファルカのためだったのでしょうか。
でも、この会話の前年(1957年)にロビンは天使を待ち続けたまま死んでしまっているわけですが…。
こうしてロビンの名前が出たので、迎えに行く話にまで繋がることを期待したいです。
今号ではこの2つ以外にも2人の絡みが楽しいです。
特にエドガーが冗談を言うなんて!
しかも本人はそんなつもりがなく淡々と言っているから余計に面白い。
つまらないことを言ったアランを座ったまま押さえ込んだりしているし。
「春の夢」も含めて新シリーズでは2人とも、のびのびしていますよね。
旧作の彼らはもっとお行儀のいい感じで、その世界に浸っていた世代としては「え? エドガーとアランってこんなキャラだっけ?」って面食らったりもするのですが、少年らしいし微笑ましくて私は好きです。
ちょっと話がそれますが、今春出版された『私の少女マンガ講義』(萩尾望都:著 矢内裕子:構成・執筆 新潮社)に「春の夢」連載終了後の萩尾先生へのインタビューが載っています。
P. 207で先生はエドガーとアランについて、こう語っておられます。
「不思議なんですけど、自分の中に部屋があって、そのドアを開けたら、エドガーやアランがいた。私がドアを開けなかっただけで、ずっと彼らはそこで生きていた、というような。」
「私が見ていなくても『勝手にやってたから』みたいな感じ。」
先生が40年ドアを開けずにいた間に彼らが勝手にやっていた結果が、生き生きとした今の姿なのだろうなと思います。
さて、今回のラストシーンでは謝肉祭の仮面をつける2人。
エドガーがオオカミ、アランがネコでイメージに合っていますね。
特に新シリーズのアランはネコみたいだし。
「喰いに行くの?」と聞くアランに「まさか ウッフッフ」とエドガー。
この笑い、何か企んでいるのでしょうか?
◆◆・* 2.「ダイモン(悪魔)」 *・◆◆
前号の「ダイモン」は得体のしれない人物でしたが、今号は私にはとても魅力的に見えました。
1ページから次の扉絵にかけては「ダイモン」が兄に語りかけるモノローグになっていて、引き込まれてしまいました。
(小学館『flowers』2018年8月号より扉絵)
「ダイモン」の兄とは何者なのか。ヴァンピール? 生きているのか死んでいるのか?
「ホフマンの舟歌(バルカロール)」は兄との思い出の歌なのか。
大老ポーを恨む理由に兄が関わっているのか。
「ダイモン」の過去にとても興味をそそられます。
前の記事で私は、誰も知らない「ダイモン」の本名をアランが知っていたことが物語の鍵になるのではないかと書きました。
今号1ページ目の「ダイモン」のモノローグに「兄さんがいなくなってからオレの名を呼んでくれる者は誰もいない」という言葉があります。
「ダイモン」がアランに本名を明かしたのはアランを余程気に入ったからに違いなく、その理由にも兄が絡んでいるのでしょうか。
今号では人間っぽいアランが気になったようですが、次号で本名を教える場面が描かれると思うので楽しみです。
でも名前そのものは、ぼかされてしまうかもしれませんね。
はっ まさかそれが「ユニコーン」なんてことは…!?(いや、似合わないし違うから!)
また、前の記事に「ダイモン」はコンサートに呼ばれていないのに勝手に来たのかと書きましたが、ちゃんと招待されていたのですね。失礼しました。
でも前に参加した時はサルヴァトーレに好印象を与えていたようですが、今回本性を現しました。
サルヴァトーレを利用して何をするつもりなのか。
そしてそれは大老ポーを殺すことと、どう繋がるのか。
今のところ私には全く先が読めません。
ところで前号で「ダイモン」がシルバーに「ずいぶんと久しぶりに会ったのに よくわかったなァ」と言い、シルバーが「…おまえの においは変わらない…!」と返していましたね。
ということは「ダイモン」の外見はシルバーが前に会った時と全然違っていたのですよね?
これは何を意味するのでしょうか。
さらに「ダイモン」はタイミングよくカフェに現れたり、エドガーがアランを蘇らせようとしていたことやブランカ一家がナチスに迫害されたことを知っていたりします。
まるで皆の動向を把握しているかのようですが、なぜわかるのでしょうか。
カフェの時計を進ませたことと併せて、この2つも覚えておきたい謎です。
◆◆・* 3.ファルカとブランカ *・◆◆
今号はブランカも元気な姿を見せてくれました。
エドガーとアランがブランカに会うのは終戦の時(1945年)にパリで会って以来――つまり「春の夢」のラストでパリに行って以来ということですね。(※下に追記があります)
私はブランカが意識を失っている間にヴァンピールにされてしまったのでエドガーやファルカを恨んでいるのではないかと心配だったのですが、そんなことはなくてホッとしました。
ファルカとブランカが仲良さそうなのも嬉しかったです。
ファルカはブランカを気遣っているし、ブランカはファルカを信頼し、「ダイモン」の出現に怯える彼を守ろうとする(ブランカは「ダイモン」と初対面で恐ろしさを知らないのですが)。
お互いに良いパートナーなんですね。
「春の夢」のブランカは辛い環境の中で弟を守るため、決して泣くまいと張り詰めて生きていました。
でも今はファルカに「すぐ泣く」と言われるし、「涙なんざ弱者のグチだぜ!」と言う「ダイモン」に「涙は…祈りよ」「泣けないって かわいそうだわ」と言えるまでに変わっています。
素直に涙を流せるようになり、強さと可愛らしさを併せもった今の姿こそ本来のブランカなのだろうなと思います。
でも2016年にファルカと一緒にエドガーに会いに来られなかったのは、どうしてなのでしょう? 気になっています。
◆◆・* 4.ルチオの一族 *・◆◆
今号はサルヴァトーレとダンが登場。
ダンはブランカに「オットマーおじ様」と呼ばれていますが、ダン・オットマーという名前です。
私はてっきりサルヴァトーレの名字もオットマーだとばかり思っていたのですが、サルヴァトーレ・ルチオなんですね。
前に「オットマー家の…先祖…です」と名乗っていましたけど、本家と分家の関係なんでしょうか?
サルヴァトーレは普段は「ボロい修道院に生息してる」そうです。
これって修道士に化けているってことでしょうかね?
それとも修道院の墓地に隠れ棲んでいるとか?
「ダイモン」は5年前、つまり1953年にもコンサートに来たと言っています。
「春の夢」のラストでダンの母がベニスに行ったとありますが、時期的に見て同じコンサートに招待されたのかもしれません。
◆◆・* 5.新キャラ *・◆◆
初登場のフランス人、エステルと娘のジュリエッタ、そしてエステルの兄の娘カルメン。
エステルはダンの母と似ていて、一瞬同一人物かと思ってしまいました。
かつてエステルがサルヴァトーレに見初められ、そのためにジュリエッタがカルメンともどもヴァンピールの群れの中に放り込まれる羽目になってしまったのは不運としか言えませんね。
ジュリエッタとカルメンが無事にフランスに帰れるよう祈ります。
ところで、巻き毛で内気なジュリエッタとストレートの黒髪で活発なカルメン、どこかで見たような気がするなあと思ったら「一週間」のカレンとジューンみたいじゃありませんか?
名前も似ているし(ジュリエッタとカルメンはオペラから採られたのでしょうが)、いとこ同士というところも同じですね。
もう1組、忘れてはいけない初登場キャラが「タバタバとマリマリ」(byエドガー)ことタバサとマリサ。
やせている方がタバサで、黒髪のちょっとコロンとしている方がマリサです。
2人はアーサーがエドガーとアランを心配して付けた、旅のお供。
まあ確かに少年だけでロンドンからベネチアまで旅すれば、あちこちで呼び止められて面倒そうなのでカムフラージュの意味もあるのでしょうが、この2人、とにかく頼りない。
そもそもアーサーとはどういう関係なんでしょうね?
私は人間だと思うのですが友人はポーだと言っています。どっち?
でも、どうも私には彼女達が単なるチョイ役で終わる気がしないのですよ。
「春の夢」のゴールドが最終話でクロエを逃がしてエナジーを吸い取られたように、何らかの役目を負っているのではないかと。
例えば観光中に迷子になってエドガー達の行動に支障をきたすとか。
コンサートに潜り込んで想定外のことをやらかすとか。
あくまで予感ですが、さてどうなるでしょうか?
◆◆・*・◆◆・*・◆◆
このほか気づいたこと&気になったこと。
ロンドンでアランが「なんで こんな寒いときにベネチアなんて行くんだよ!」と文句を言っていますよね。
私はバンパネラは暑さ寒さに影響されないと思っていたのです。
なにしろ「息をしているふり…脈のあるふり…鏡に映るふり ドアに指をはさまれたら痛がるふり…」をしている人達ですから。
味覚がある位だから暑さ寒さも感じるだろうけど、それによって体調が左右されることはなく、服は単に周囲の人間に合わせて選んでいるだけなのかな、と。
でもアランやメリーベルのような虚弱体質のバンパネラは、寒いのも苦手なのでしょうかね?
だけどアラン、2月のロンドンよりはベネチアの方がずっと暖かいはずですよ。
もしかして単純に家から出たくなかっただけ?
自分で狩りができないブランカにエドガーはバラを勧めています。
バラはポー以外のヴァンピールのエナジー補給にも有効らしいですね。
もう1つ小さなことですが、コンサートでアランはちゃんと好きなデザインの靴を履いていますね。
◆◆・*・◆◆・*・◆◆
さて、次回は後編ですので今回の続きが描かれるはず。
ただ予告のアオリが「アランと共にあるために…エドガーがした選択とは…」となっていて、もしかして2016年の話と同時進行したりするのでしょうか?
前回の Vol. 1を読んだ時、「ユニコーン」はアラン再生の話と、ヴァンピール界全体を巻き込む大老ポーvs.「ダイモン」の話が絡み合いながら進んでいくのかなと思ったのですが、まだわかりませんね。
次号は7月27日(金)ごろ発売で、普段より1日早く読めます。嬉しい。楽しみです!
◆◆・*・◆◆・*・◆◆
記事内でふれた『私の少女マンガ講義』はこちらです。
萩尾先生が2009年にイタリアで行った「戦後少女マンガ史」の講演をベースに、インタビューがたっぷり収録されています。
先生によって語られる少女マンガ史や創作にまつわる話が興味深く、読み応えのある1冊です。
~2019. 10. 8 追記~
上で「エドガーとアランがブランカに会うのは終戦の時(1945年)にパリで会って以来――つまり『春の夢』のラストでパリに行って以来ということです」と書いたのですが、フラワーコミックススペシャル版を読んで2つの出来事は別々だったことがわかりました。
「春の夢」のラストで2人がパリに向かったのは1944年で、その時はブランカに会ったかどうかわかりません。
でも翌年彼らはまたパリに行って会っていたのでした。