亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(100)「青のパンドラ Vol. 6 アラン目覚める」

激しくネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪

 

こんにちは。
「青のパンドラ」の連載が再開されましたね!
今月号は表紙イラストも巻頭カラーも ♪

 

小学館『flowers』2023年6月号より。以下同)


何だか爽やかですね。
お揃いのセーラー服、髪に花。
バカンスなのかな。

 

 

こちらは扉絵です。
とてもきれいですね!
エドガーがいつもと違う感じで可愛い。
アランは「はるかな国の花や小鳥」を思い出しました。
草の上で昼寝していたらエドガーにバラの花束で起こされる、あの素敵な場面みたい。(分かります?)


さて、前回のVol. 5 は、遂にアランが復活したところで終わったんでしたね。
ただし血の神が体内に吸い込まれてしまったため爪だけが青い状態で。


今回のVol. 6 は3つの場面から成っています。


1 アーサーの家
2 ファルカとブランカの家
3 再びアーサーの家


では早速、この順番に感想を書いていきたいと思います。
今回も長文です。毎度すみません。


◆◆ 1 アーサーの家 ◆◆


40年ぶりに奇跡のように蘇ったアラン。
でもエドガーは手放しでは喜べない。
なんせ40年間も炭状態だったし、血の神が中にいるし。


気分はどうか、体は元通りか、ちゃんと動くか、痛いところはないか、過去の記憶はあるか。
心配でたまらないながらも万感胸に迫ってアランをギュッと抱きしめるのを見て、初めてこちらも「良かったねー!!!」となりました。


どうやら血の神はアランの体の奥深くにおとなしく潜んでいる様子。
で、エドガーが名付けた爪の色が「青のパンドラ」。
章のタイトルはこれでしたか!
でもこの血の神、いつ暴れだすのかと不安です。


一方、エドガーの態度に戸惑いつつ、次第に現実を理解していくアラン。
自分が40年間眠っていたと知った時の衝撃たるや、もう…!
それまで「眠りの時季」で長く眠ったことはあっても、せいぜい1、2年でしょうからショックが大き過ぎますよ。


でも40年と知ってすぐに「エドガーきみは? その間 何をしていたの?」と尋ねるところが可愛いな。


その前にエドガーは、アランから「あの火事のせいで…ぼくは眠っていたの?」と聞かれて「そうだよ……眠っていた」と答えるんですが、その時の顔が個人的にたまりません。

 

 

優しい嘘をついている複雑な表情に見えるんです。
本当は眠っていたというよりグール化して炭状態だったんですけど、いきなりそんなこと言ったら可哀想ですもんね。


でも後でエドガーが「きみも目覚めて もとにもどった……」と言った時、アランの中にも「ただ眠っていただけじゃないのか?」と訝しむ気持ちが生まれたようです。


-・-・-・-・-・-


この場面では、アランが火事のことを思い出し、真っ先にエディスを心配して号泣するのを見て「ああ、本当にアランが蘇ったんだ」と思えたし、ここでちゃんと旧シリーズの最後と繋がった気がして嬉しかったです。


更に嬉しかったのは、エディスのその後が分かったこと。
アーサーは気にかけて見てくれていたんですね。


エディスはイタリア人の青年アランと結婚し、古物商の跡地に「エディスとアラン」というレストランを開店。
現在は長女が店を継ぎ、エディスは引退して孫(双子?)の子守り。


エディスがアランという青年に惹かれたのは、もしかしたら最初は名前からだったのかなあ。
2016年には54歳のはずなので引退にはちょっと早い気もするんですが、きっと幸せなんでしょうね。
時折アランのことを思い出してくれているといいな。


そしてアランは、遠くからエディスの幸せそうな姿を見られるといいですね。


-・-・-・-・-・-


この場面には印象的なセリフが2つありました。


1つは1958年にミュンヘンのマリエン広場からアーサー宛に出した絵葉書を見て、アランが言った言葉です。


「覚えてるよ
…この頃 ぼくら
ロビン・カーをさがしてたんだ」


そ、そうだったのか!
マリエン広場に行ったのは、ロビンを探す旅の途中だったのか――!


「小鳥の巣」に、エドガーと同級生の次のような会話があります。
(青い文字がエドガーです)


「(ロビンは)転入生? イギリス人だね?」

「そう でもミュンヘンからきたんだよ」


更にエドガーはキリアンにこう言っています。


「でも彼が7つの時
彼の両親は離婚して
彼は母親とリバプールへ行ってしまった
2年まえ大きくなったロビンを迎えに
リバプールを訪れると
――彼はいない
父親がスイスへ つれていったと聞いた
ぼくたちは追って
アルプスをくだりラインをくだり
結局父親はロビンを学校に残して
再婚しイタリアへ――」


「小鳥の巣」は1959年の話なので、セリフの中の「2年前」とは1957年です。
そして「ユニコーンVol. 2」に、1958年2月のベネチアのコンサートでエドガーとアランがロビンの話をする場面があります。


これらを整理すると次のようになるかと思います。

 

1957 リバプールにロビンを迎えに行くが、父親がスイスに連れて行ったと聞く

1957. 5 ロビン、死亡

1958. 2 ベネチアのコンサートで「ロビンをファルカにやったら?」などと話をする

1958 スイスにロビンを迎えに行くが、いなかったので探し始める。ミュンヘンでマリエン広場に立ち寄る

1959 ドイツのガブリエル・スイス・ギムナジウムに迎えに行く


どうでしょうか?
もし間違いがあればご指摘頂きたいのですが、とりあえず一本筋が通ってスッキリした気分です。


-・-・-・-・-・-


もう1つ印象に残ったセリフは、場面の最後のエドガーとアランの会話です。
(緑の文字がアランです)


「アーサーの庭は変わらないね…」

「人間は時に運ばれていく
でも ぼくらは変わらない」


ここを読んで、先ほど書いた「ユニコーンVol. 2」の会話の続きを思い出したんですよ。


「成長すればサンタ・クロースも信じなくなる
子供の魔法はいつか…消えるんだ」

「魔法は消えても ぼくらは消えないけどね」


ニュアンスが似ている2つの会話、どちらも心に響きました。


◆◆ 2 ファルカとブランカの家 ◆◆


一方、ファルカとブランカの家。
ファルカがヨークの旅から帰るとすぐにバリーが現れます。
ファルカにとっては疫病神のような男が。


悲願だった炎の剣を手に入れたにもかかわらず、ここへ来てフォンティーンを解放すべきか悩み、ファルカの意見を聞きたいと言うバリー。
なぜなら大老ポーの言葉が気になるから。


「千年しばられていた者を解放するのが
その者にとって よいことかどうか 
よく考えろ 私は保証しない」


大老は、なぜこう言ったのか。
それは大老自身が迷いの中にいたからではないでしょうか。


かつて大老は一族の掟に従わず暴虐を行うフォンティーンを地下に閉じ込め、愛していたアドリアや他の仲間を消しました。
でも、それでよかったのか、どうすればよかったのかと悩んでいる。
長い時がたち、自分のやり方や自分の作った掟はもう役に立たないのかもしれないと揺らいでいる。


バリーは最愛の兄を閉じ込められたことで復讐の鬼と化しました。
でも今、兄にとって何がよいことなのかと揺らいでいる。


ファルカは愛する家族を殺した者達に復讐できたからヴァンピールになってよかったと言う。
しかし家族の命が奪われた日のことを思い出すと今でも狂おしい。


こうしたことを私はまだ上手くまとめることができません。
ただ、この場面には萩尾先生のメッセージが込められているように感じています。


今号の扉絵のアオリは


「“はるかなる一族”が この世紀に問いかける!!」


私達が問いかけられていることは何なのでしょうか。


-・-・-・-・-・-


バリーはフォンティーンとアドリアに育ててもらったという意識が強く、兄の望みは何でも叶えたい、再び王国をつくってやりたいと思っています(ファルカに言わせるとブラコン)。


その気持ちは分かるんですけど、ちょっと疑問。
バリーはフォンティーンによって「ユニコーン」と名付けられ、誰もその「本名」を知りません。
唯一、本人から教えられたアランが「ユニコーン」と呼ぶと、バリーは逆らえませんでした。


これって「ユニコーン」と呼ばれると逆らえない暗示がかかっているのでは?
もしそうならバリーのフォンティーンに対する忠誠心にも似た兄弟愛は、半分は作られたものなんでしょうか。


そしてブランカが炙り出したバリーが本当に望むもの。
それは決して取り戻せない、人間だった頃の幸せな家族の時間。
ファルカもブランカも想いは同じ。
そしてエドガーも。
「メリーベルと銀のばら」を思い出して、ちょっと切なくなりました。


-・-・-・-・-・-


この場面での他の新事実。


①バリーはカラスを使う。


ファルカが鳥を使うので当然と言えば当然なんですけど、今まで考えたことがなかったです。
だから他の人の居場所が分かるんですね。


エナジーから生い立ちも読み取れる。


「春の夢」でアランはエドガーからエナジーをもらいながら「きみの考えが伝わってくる」と言っていました。
秘密の花園」でエドガーがブラザーのエナジーを奪った時には、ブラザーの記憶が入り込んできました。

 

そして今回、赤毛の男はフォンティーンからエナジーを送り込まれ、フォンティーンの生い立ちを読み取りました。
フォンティーンの記憶が入り込んできて、それを辿ったということでしょうか。
なるほど、面白いです!


あれ、じゃあアルゴスにカミラの家や話し方が分かったのも、エナジーから情報を得たのかな。


◆◆ 3 再びアーサーの家 ◆◆


ここではアランがポーの村について言ったことに、ちょっと驚きました。
エドガーがアランに「いつかポーの村に連れて行く」と約束していて、村の入口を2人で探したけれど見つからないのだと。


え、2人の間ではそんな話になってたの?


秘密の花園」で彼らがアーサーの館に辿り着いた時は村の入口を探した帰りだった、というのは本当なんでしょう。
エドガーがアランを仲間に加えて9年後の1888年の話です。


すぐにシルバーが館にやってきて、アランを一族として受け入れることはできないと通告し、エドガーだけ村に帰ってくるよう説得したんですよね。
それをエドガーは突っぱねた。


「春の夢」では、1944年にクロエがエドガーに同様のことを言って、エドガーはまた突っぱねています。


だからエドガーがアランに、いつかポーの村に連れて行くと約束していたなんて意外でした。
エドガーとしては、いつかアランを受け入れてもらえる日が来るかもしれないと希望を持っていたんでしょうか。


でもエドガーはずっとアーサーやシルバーと繋がりを持っていたはずなので、村の場所は知っていたんじゃないの?
入口を探していたのはアランに対するポーズ?


いや、でも「ピカデリー7時」では実際に探していたんですよね。
(「ピカデリー7時」は年代が不明なのですが、私は1900年代前半頃ではないかと思っています。)


あの時期はアーサーやシルバーと疎遠だったのかな。
もしや村の入口って実は移動するとか?


そもそもエドガーはなぜアランを村に連れて行こうとしたんだろう?
ポリスター卿がリリアを一族に加える承認を得るのに乗じて、アランも許してもらえるよう頼むつもりだったんでしょうか。


よく分かりませんが、アランも何か秘密があることに気付いてしまいましたね。


そして最後に現れたオリオン、怖かったです!
アランに何するつもり!?


エドガーも、「何もハサミで!」と思ったけど、それだけ必死なんですね。
飛び散る血はオリオンの?
アランの?
血の神が動き出す?


次回もまた急展開しそうで目が離せません!


◆◆◆◆◆◆


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