亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(44)初期作品の魅力

今回のテーマは「初期作品の魅力」。
だけど1969年のデビュー以来コンスタントに作品を発表され続け、来年には画業50周年を迎えようとしておられる萩尾先生の作品群のどこまでを初期と呼ぶのか?という話ですよね。
70年代の作品をひとまとめに初期と括ってもいいのかもしれませんが、それではあまりにも数が多過ぎるので、この記事では73年までの最初期の作品を取り上げてみたいと思います。


手元にある図録『デビュー40周年記念 萩尾望都原画展』(2009年 「萩尾望都原画展」実行委員会/トラフィックプロモーション:発行・販売)に年表が載っているので作品名と掲載誌を下に書き写してみます。
掲載誌の次に私が独断で分けたジャンルを加えました。
ちょっと強引なところもあり、SFとファンタジーの境目が曖昧だったりしていますが、ご容赦ください(汗)


ジャンルの文字は次のように色分けしています。

赤:ラブストーリー オレンジ:コメディ・ギャグ 緑:文芸 青:SF・ファンタジー 黒:その他


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【1969年】

1 「ルルとミミ」なかよし夏休み増刊号 コメディ

2 「すてきな魔法」なかよし9月号増刊 ラブストーリー


【1970年】

3 「クールキャット」なかよし2月号 コメディ

4 「爆発会社」別冊なかよし 虹色のマリ特集号 コメディ ラブストーリー

5 「ビアンカ」週刊少女フレンド増刊 サインはV!特集号第7集 文学

6 「ケーキ ケーキ ケーキ」なかよし9~10月号別冊付録 青春物語


【1971年】

7 「ポーチで少女が小犬と」COM 1月号 SF

8 「ベルとマイクのお話」週刊少女コミック3・4合併号 ラブストーリー

9 「雪の子」別冊少女コミック3月号 文学

10 「塔のある家」週刊少女コミック12号 おとぎ話 ファンタジー

11 「花嫁をひろった男」週刊少女コミック春の増刊号 サスペンス コメディ ラブストーリー

12 「ジェニファの恋のお相手は」なかよし4月号 コメディ ラブストーリー

13 「かたっぽのふるぐつ」なかよし4月号増刊 社会派 学園物

14 「かわいそうなママ」別冊少女コミック5月号 文学 サスペンス

15 「精霊狩り」(精霊狩りシリーズ)別冊少女コミック7月号 SF コメディ

16 「モードリン」週刊少女コミック29号 サスペンス

17 「小夜の縫うゆかた」週刊少女コミック夏の増刊号 少女の日常

18 「ケネスおじさんとふたご」別冊少女コミック9月号 コメディ 西部劇

19 「もうひとつの恋」週刊少女コミック39号 コメディ

20 「10月の少女たち」COM 10月号 オムニバス形式ラブストーリー

21 「秋の旅」別冊少女コミック10月号 文学

22 「白き森 白き少年の笛」週刊少女コミック45号 文学 ファンタジー

23 「11月のギムナジウム別冊少女コミック11月号 文学 学園物

24 「白い鳥になった少女」別冊少女コミック12月号 アンデルセン童話

25 「セーラ・ヒルの聖夜」週刊少女コミック冬の増刊号 文学


【1972年】

26 「あそび玉」別冊少女コミック1月号 SF

27 「みつくにの娘」週刊少女コミックお正月増刊フラワーコミック 日本の民話

28 「毛糸玉にじゃれないで」週刊少女コミック2号 少女の日常

29 「すきとおった銀の髪」(ポーシリーズ)別冊少女コミック3月号 ファンタジー

30 「ごめんあそばせ!」週刊少女コミック12号 コメディ 学園物

31 「ドアの中のわたしの息子」(精霊狩りシリーズ)別冊少女コミック4月号 SF コメディ

32 「3月ウサギが集団で」週刊少女コミック16号 コメディ 学園物

33 「妖精の子もり」別冊少女コミック5月号 ラブストーリー

34 「6月の声」別冊少女コミック6月号 SF

35 「ママレードちゃん」週刊少女コミック23号 ラブストーリー

36 「ポーの村」(ポーシリーズ)別冊少女コミック7月号 ファンタジー

37 「グレンスミスの日記」(ポーシリーズ)別冊少女コミック8月号 ファンタジー

38 「ポーの一族」(ポーシリーズ)別冊少女コミック9~12月号 ファンタジー

39 「とってもしあわせモトちゃん」別冊少女コミック・週刊少女コミック・ちゃお・おひさま ~76年まで不定期掲載 ギャグ

40 「ミーア」週刊少女コミック35号 コメディ ラブストーリー


【1973年】

41 「メリーベルと銀のばら」(ポーシリーズ)別冊少女コミック1~3月号 ファンタジー

42 「千本めのピン」週刊少女コミックお正月増刊フラワーコミック おとぎ話

43 「小鳥の巣」(ポーシリーズ)別冊少女コミック4~7月号 ファンタジー

44 「キャベツ畑の遺産相続人」週刊少女コミック15号 ファンタジー コメディ

45 「オーマイ ケセィラ セラ」週刊少女コミック21号 ラブストーリー コメディ


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なんと5年間で45作品も!
71年に急に数が増えているのは講談社でボツになった原稿が小学館の雑誌に掲載されたからで、描かれた順番と発表された順番は同じではありません。


ではここからは私が個人的に初期作品のココが魅力!と思うポイントを挙げてみます。


1 幅広いジャンル

年表を見て頂ければわかるように、とにかくジャンルが幅広い!
ラブストーリーありコメディありサスペンスあり、文学の薫り高い作品があるかと思えば本格的なSFファンタジーも。
しかも同じジャンルでも作品ごとに味わいが違うんです。


2 みずみずしい少女達

ジャンルが幅広いだけにヒロインのタイプも様々です。
まず印象的なのは明るく前向きで行動的な少女達。
「爆発会社」のディビーはスターになって世界征服するのが夢。
「ごめんあそばせ!」のエマはハイスクールのクラブを渡り歩いて男の子たちを翻弄。
少しタイプは違いますが「ケーキ ケーキ ケーキ」のカナはパティシエになる夢に向かって一直線。


少女漫画の王道、恋に胸をときめかせる女の子ももちろん登場します。
初恋に戸惑う「ベルとマイクのお話」のベルやママレードちゃん」のジョー。
「ミーア」のトレミィは手違いからサマーキャンプの男子部屋に入れられ「オーマイ ケセィラ セラ」のセィラはプレイガールを気取りつつファーストキスを奪った年下の男の子が気になる。
「10月の少女たち」は3つの短編からなるオムニバス形式の作品です。
キスに興味津々のトウラ、突然居候し始めた男子に反発しながらも惹かれる真知子、恋人にプロポーズされて揺れるフライシー。
ヒロインの年齢が少しずつ上がり、その年頃の女の子らしいドキドキが描かれます。


日本を舞台にした等身大のヒロインも。
受験勉強に疲れて悩む「毛糸玉にじゃれないで」の、むつき。
夏休みの宿題のゆかたを縫いながら亡き母の思い出をたどる「小夜の縫うゆかた」の小夜。


タイプは違ってもヒロインは皆、みずみずしい少女です。
初期作品では少女の小さな心の揺れが丁寧にすくい上げられています。

 

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「爆発会社」ディビー
(記事内の画像はすべて小学館萩尾望都作品集』より)

 

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「ミーア」トレミィ

 

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「毛糸玉にじゃれないで」むつき


3 少女漫画なのに少年が主人公

今では少女漫画の主人公が少年なのは普通になっていますが、70年頃の主人公は少女と相場が決まっていました。
そんな中、萩尾先生ら女性作家の方々が少年を主人公にした作品を次々に発表して読者の心をとらえ、常識を変えていかれたのです。


萩尾作品の少年主人公で最初に世に出たのは71年の「かたっぽのふるぐつ」のシロウとユウかなと思います。
これは当時深刻だった公害問題をテーマにした作品です。
その前に「雪の子」のエミールと「花嫁をひろった男」のオスカーがいますが、エミールは少年のふりをした少女だしオスカーは青年なのでちょっと違うかな、と。
でも少年にこだわらず男性の主人公ならオスカーが初ということになりますね。


「かたっぽのふるぐつ」の後は「かわいそうなママ」「秋の旅」などが続き、ついにギムナジウムを舞台に少年達の心を繊細に表現した「11月のギムナジウムが登場!
そして72年にはポーシリーズが始まりエドガーとアランが姿を現します。


「少女漫画で主役を張り始めた少年達」という視点で読むのも面白いです。

 

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「かたっぽのふるぐつ」シロウ(右)とユウ(左)
吹出しに「 」が付いているのは劇のセリフを練習しているからです


4 異端者の存在

先生は自分自身が感じる違和感から物語が生まれるとおっしゃっています。
萩尾漫画には周囲になじめなくて息苦しかったり孤独だったりする人々がよく登場しますが、そういう異端者はデビュー直後の作品からすでに現れています。


SFファンタジーのジャンルではポーシリーズを筆頭に精霊狩りシリーズの精霊達「あそび玉」の超能力を持った少年ティモシー、他の人間と感じ方が違うために異端視される「ポーチで少女が小犬と」の少女。
文芸作品ではビアンカの心を閉ざして森で踊る少女ビアンカや、「雪の子」の少年のふりをして生きるエミールらもまた異端者と言えるかもしれません。


私達読者が萩尾漫画に惹かれる理由の1つは、こうした異端の人々の心に共感を覚えるからではないでしょうか。
初期作品を読み直すと改めてそう感じます。

 

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「ポーチで少女が小犬と」より


5 学園ドラマ

この当時は先生の中にもまだ学生気分の名残があったようで学校を舞台にした作品を沢山描かれています。
シリアスなものもありますが明るく楽しい作品が多く、「3月ウサギが集団で」などは極め付き!
学園ドラマが楽しめるのも初期作品ならではです。

 

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「3月ウサギが集団で」より


6 軽快なテンポ

キャラクターが元気だとセリフも動きもテンポがよくて軽快です。
先生お得意のミュージカル仕立ての場面も楽しい ♪
もちろん読者の目線を意識してコマ割りなどを緻密に計算されているからこそですが、読んでいてとても小気味よいです。


7 リアルな外国の描写

70年頃はインターネットはもちろん家庭用ビデオもないし資料も限られていたので、外国を舞台にした漫画は風景や建物などが適当に描写されていました。
けれど萩尾漫画は風景・建物だけでなくインテリアや小物まで、まるで洋画を見るように本物らしく見えました。
リアリティーのある絵にも注目です。


8 手描きの楽しさ

初期作品はあちこちに手描きの模様や文字が溢れています。
絵の面ではスクリーントーンの種類が少なかったことも理由だと思いますが、服や布の柄や背景に細かい模様が描き込まれていて温かみを感じます。
文字では先生の独り言のような言葉がローマ字で書かれていたり、本の表紙にご自分の好きな本のタイトルや作家名が書かれていたり。
それを読むのもとても楽しいです。

 

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「セーラ・ヒルの聖夜」より(下の2つも同)
背景も服の柄も手描きです

 

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右のコマ/壁の貼紙に「S. 24  5. 12 生まれ」とご自身の生年月日が。服の柄も手描き
左上のコマ/貼紙にローマ字で「これは去年の作品なのだ ホント!!」
本の背表紙に「ボディ」「アルジャーノン」。もう1つもSF小説のタイトルだと思うのですがわかりません。どなたかおわかりになる方、お願いします!

 

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背表紙に自作のタイトルがずらり。他に「ハインライン」「アシモフ」「ヴォークト」など


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ここまで初期作品の魅力を思いつくままに挙げてみました。
次回から私が特に好きな1969-73年作品の感想を書いていきたいと思います。
萩尾ファンの皆様の中にはデビュー直後の作品を読んだことがない方もいらっしゃると思うのですが、大変僭越ながら、もし「読んでみたい」と思うきっかけになってくれればとても嬉しいです。