亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(53)『芸術新潮』2019年7月号

毎月10日頃までの更新を(一応)目指しているこのブログですが、今月はすっかり遅くなってしまいました。


もうご覧になった方も多いと思いますが現在発売中の『芸術新潮』7月号(新潮社)は萩尾先生の特集です。
「画業50周年記念 大特集萩尾望都 少女マンガの神が語る、作画のひみつ」と銘打って90ページにも及ぶ大特集!
しかも美術雑誌だけに図版もレイアウトも、とても美しいんです。
表紙がこちら。

 

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なんと嬉しい描き下ろし!
表紙なので文字が被っていますが、中にも同じ絵が掲載されていて、じっくり鑑賞できます。
バラのアーチの下に佇むエドガーとアラン。
エドガーの腰に大きな鍵が…と思ったら、タイトルは「バラの門の番人」というのでした。


この絵を見ていると「これが今のエドガーとアランなんだなあ」と、しみじみ思います。
ユニコーン」でも感じていましたが今はアランの方が若干背が低いんですね(昔は同じ位でした)。
似たように見える服や靴にもそれぞれの個性が出ているし、体型は旧作の絵に近くなってきたけれどポージングは新しい。
昔と同じではないものの、よく知っている彼らがここにいて、改めて心の中で「おかえり」と呟きました。


表紙をめくると特集の目次。
1ページ全体に「春の夢」連載再開時のカラー予告だったエドガーの絵が使われています。
この絵は「春の夢」の単行本にも収められていないので嬉しい。


特集は次のような構成になっています。


巻頭グラフ
第1章 アトリエ訪問
第2章 クロッキー帳はイメージの宝石箱
第3章 特別インタビュー
第4章 年代別に見る画風の変遷
第5章 タイプ別キャラクター名鑑
第6章 抄録『斎王夢語』
「Mangaマンガ」展レポート


それでは順を追ってご紹介していきます。


★彡巻頭グラフ(12ページ)


ポーの一族」「トーマの心臓」「王妃マルゴ」などの美しいイラストの数々。
この本はすべての図版にタイトルや出典、制作年、サイズ、コメントが付いています。
さすが美術雑誌!


コメントも専門誌ならではの着眼点で面白いのですが、中には完全にファン目線のものも。
例えば「春の夢」Vol. 2 の扉絵のコメントには「ちらりと覗くエドガーとアランの細い足首に萌える」と書かれていて、思わず笑っちゃいました。


巻頭グラフの中で個人的に一番心を惹かれたのは「トーマの心臓」の最終ページの原画です。
雑誌には載らない周囲の余白まで印刷されていて、ホワイトや修正跡も鮮明に出ているんです。
大好きな一枚絵なので本当に嬉しい。


★彡第1章 アトリエ訪問(6ページ)


表紙のイラストを制作中の先生を撮影しています。
広いアトリエですが資料に埋もれて絵を描くスペースが思いのほか狭いのにびっくりしました。
「筆の持ち方がユニーク」と手をアップにしているのが面白い。
使っている画材の写真もあって、絵を描く人は興味深いだろうなと思います。


★彡第2章 クロッキー帳はイメージの宝石箱(10ページ)


特集で私が一番興味深かったのは、この章です。
なんとクロッキー帳がそのまま印刷されている!
先生によると


「まずはクロッキーブックを持って、思いつくままに、プロットやセリフを書いていきます。」
「ある程度かたちが見えて、地図ができあがってから、ネームを起こします。」


その言葉通りクロッキー帳には構想中のキャラクターのスケッチや名前、断片的なセリフ、ストーリー構成、調べ物などがびっしり書き込まれています。
ほぼそのまま作品に使われたセリフもあれば、使われなかったアイデアも。
ポーの一族」で私が気になったのは


「クリフォード医師、写らない男爵――帰り道のあとをつける」
カスター先生宅に招かれた男爵が鏡に映らないことにクリフォードが気づいて、帰りに後をつけるということでしょうね。
この後は、どんな展開を考えておられたのでしょうか。


バンパネラのイキはゼリーのように やわらかい――」
なんか、なまめかしい…。


そして
「火の塔の……アランの死」
あああ、こんな最初から決まっていたなんて…。


クロッキー帳はだいたい月に1冊使われるので今では膨大な量になっているそうです。
他にももっと沢山見せて頂きたいです。


★彡第3章 特別インタビュー(図版ページを含めて22ページ)


女子美術大学の内山博子先生によるインタビュー。
萩尾先生とは旧知の間柄だけあって、5つのテーマに沿って、さまざまなお話を引き出してくださっています。
特に印象に残ったことを拾ってみます。


先生がインスパイアされた絵画や仏像が作品との関連性とともに紹介されているのが面白い。
今度は作品に出てくる音楽の解説も読みたいです。


創作のプロセスの話で出た言葉
「まず、表現したい気持ちや物語が、映像のように頭の中にザーッと浮かぶんです。」
「表情を描くのはとても難しい。(中略)イメージした表情がうまく指先から表れてくれるのがベスト。頭で考えるというより、指先で考えているような感じです。」


好きなモチーフは植物、風、光、窓、階段。
王妃マルゴ」では場面ごとにバラの種類にもこだわって描き分けている。
風と光は画面の演出に。
窓は「内と外との境界」を象徴するものとして、よく使う。


主人公の暗い気持ちや過去の出来事を表したい時は、背景をスミベタにすることが多いかもしれない。


ポーのキャラクターの話
内山先生「作品に描かれていない間、つまり何もドラマが起きていない時、エドガーたちは、どんなふうに過ごしているのでしょう。」
萩尾先生「アランの日常は『一週間』という短篇で描いたことがあります。エドガーは何をしているんでしょうね。本を読んだり、音楽を聴いたり? 吸血鬼だから食事は必要ないはずですが、白いエプロンをつけて目玉焼きなどを作っているようなイメージもありますね(笑)。」
内山先生「それ、番外篇でどうですか?」
萩尾先生「いいですね、日常生活篇(笑)。」
これ、読みたいです!! ぜひ描いてください!!


絵柄の変化について
「絵も一種の『生もの』ですから、実った時が旬だと思うんです。
時が経てば季節も変わるし、土壌も変わる。
同じものを植えたつもりでも、違う花が咲いたりする。
言い換えれば、今の時代にしか描けないものがあるんです。」
この記事のはじめに表紙のエドガーとアランのことを少し書きましたが、今の時代だからこそ、あの2人なんですね。


スマホタブレットで読むことを前提とした作品が増えてきたことについて
「過去の短篇を縦読みに構成し直してみたら、それはそれで面白くなるかもしれないとも思うんです。」
読者の目線を意識したコマ割りを大切にされてきた萩尾先生が、この言葉!
変化を恐れず新しいものに興味を持ち続けることが、ずっと第一線で活躍されている秘訣なのかなと思いました。


★彡第4章 年代別に見る画風の変遷(12ページ)


「図書の家」さんの構成・文による章で、これもとても面白かったです。
70年代、80年代、90年代、2000年代以降と、図版を豊富に使って画風の変遷を解説してくれています。


描写は次第に変化して写実的になり、表現は二次元から映像的に、更に舞台劇のような視覚効果へと進化。
現在は一部にデジタル処理も。


絵柄、ペンタッチ、画面構成といった絵の面だけでなくテーマの変遷も論じていて、とても読み応えがありました。
もっと詳しく多角的に見ていくと1冊の本ができるのではないでしょうか。


★彡第5章 タイプ別キャラクター名鑑(6ページ)


萩尾望都作品目録」の管理人・永井祐子さんの選と文によるキャラクター名鑑。
これがまた楽しいです!
「少年」「大人の男」「両性具有」「少女」「番外編」にカテゴライズして、それぞれをタイプ別に分類し、代表的なキャラクターを数人ずつ紹介するというスタイルです。


例えば私が好きなキャラクターなら、アランは「ちょっとわがままマイペース」タイプで、このタイプは「やや身勝手で周囲を振りまわしつつ、救いも与える重要な役まわり。」うんうん。
ユーリは「生真面目な努力家」タイプで「実直でしっかり者だが不器用な面も。友人たちに愛され、支えられている。」なるほど。


1つひとつのタイプの説明文に愛を感じます。
ちなみにエドガーは「孤高の美少年」として1人だけ別格扱い。
さまざまなタイプがあって面白く、キャラクターやカットのセレクトもさすがです。


★彡第6章 抄録『斎王夢語』(4ページ)


1994年に新潮社から刊行された『斎王夢語』が復刊されるとのことで、その告知を兼ねたページ。
これは萩尾先生が伊勢神宮式年遷宮を記念する舞台用に執筆された戯曲だそうです。


5人の皇女(ひめみこ)が挿絵とともに紹介され、旧版のカバーイラストと口絵も掲載。
古代日本の人物の絵は珍しいので新鮮でした。


★彡「Mangaマンガ」展レポート(4ページ)


大英博物館で開催中の大規模な「Mangaマンガ」展には萩尾先生の原画も展示されています。
ゲストとして招かれた先生が、さまざまなイベントに出席された様子をレポートした記事。


写真が沢山あってわかりやすいです。
現在発売中の『flowers』8月号(小学館)に先生の「大英博物館マンガ展 探訪記」が掲載されているので、併せて読むと更に楽しめそうです。


★彡★彡★彡

 

他にも先生が語る「忘れがたき編集者(山本順也氏)との出会い」、年表、小野不由美さんの特別寄稿、海外版も含めた美しい装丁の書籍の紹介と盛り沢山。
全体として美しく読みやすく充実した特集でした。
特集以外のページは当然ながらほとんどが専門的な美術の記事です。
萩尾漫画は、もはやアートなんですね。

 

芸術新潮 2019年 07月号

芸術新潮 2019年 07月号

 

 

 

記事(21)に追記しました

ヨハンナスピリッツの正体についてコメントを頂きましたので追記しました。
「オスカーが注文したヨハンナスピリッツのパイって、どんなパイ?」と気になる方はぜひどうぞ!

(21)ヨハンナスピリッツのパイの謎 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

(52)「秘密の花園 Vol. 1」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪


それは『flowers』2019年7月号の発売日のこと。
「さあ、今日は『ユニコーン』の続きが読めるぞ~ ♪」と足取りも軽く書店に行って、表紙を見るなり目に飛び込んできた文字は


ポーの一族 秘密の花園
新章突入!


えっえっえ~っ?
ユニコーン」は前号で終わりだったの!?
予告にも「ユニコーン」って書いてありましたけど??


混乱しながら帰宅して本を開く。
多分、ほとんどの皆様は似たような状態だったのではないでしょうか。


1ページ目、雨の中を馬車で行くエドガーとアラン。
何となく「ペニー・レイン」を思わせるオープニング?
アランが「ねえ 馬 曳かせてよ エドガー」。
このセリフ、「一週間」にもあったよね。
ここはどこ? いつの話?
と思っていると


1888年9月1日 レスター郊外」


えっ、1888年と言ったらアランが仲間になってわずか9年後じゃないですか。
リデルをおばあ様の元に帰した直後頃。
わ~、そんな昔まで遡っちゃうんだ!


まだ混乱したままページをめくると、見開きの扉絵が。

 

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この扉絵、前号のモノクロ予告( ↓ )とよく似ていますね。

 

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はっきり違うのは、予告ではアランの目が閉じていたのが開いていること。
でもこのアランの表情、何だか人形みたいで生きているようにも死んでいるようにも見えます。


再び物語に戻ると、馬車が揺れて放り出されたアランが川の中に。
今度は「エヴァンズの遺書」を思い出してしまう。
どうなることかと思っているうちにアーサー登場!
ここでやっと気づきました。


1888年、レスター!
秘密の花園」ってエドガー達とアーサーの出会いの話なんだ!
アーサーがどうしてエドガーをモデルにランプトンの絵を描いたのか、どうして仲間に加わったのか、そのいきさつが語られようとしているんだ!


そう気づいてからは興奮してページをめくる手が止まらない(まあ、いつものことですけど)。
そしてアーサーがエドガーに絵のモデルになってくれるよう頼むところでラスト。
あああ、ここで休載か~!


・*・・*・


旧作をお読みの方はご存じのように、アーサーは「ランプトンは語る」で初登場した人物です。
本人が出てきたのではなく、エドガーを追うジョン・オービンによって語られました。
オービンの言葉を書き写してみます。


「アーサー・トマス・クエントン卿は
幼年時代の事故で左耳がなく
アゴにかけて裂傷がありました
そのため長く髪をのばしていた」

「彼は がんこで無口で
画商にも あいそなしで
親族も村人も そばによせず
結婚もせず
ずっと この館にひとりで住んでいた
年とった下男に身辺のせわをさせるほかは…」


アーサーはエドガーをモデルにして11枚のランプトンの絵を描きました。
1枚目の日付は1888年9月30日。
10枚目が1889年の春。
そして最後が1889年5月20日付の「ランプトンのいない部屋」というタイトルがついた無人の部屋の絵です。
オービンによると


「この後 クエントン卿は絵を描かず
3か月後の8月末に33歳でなくなっています
たくさん血をはいて
後年は病気だったらしい」


今号でエドガー達がアーサーの館に来たのが9月1日なので、1か月後に最初の絵が完成し、エドガーは(多分アランも)少なくとも翌年の春まで滞在することになるんですね。
約80年後の1966年にこの館で集会が開かれ、エドガーの放火によってシャーロッテが死んでしまう…と考えると感慨深いものがあります。


オービンが言っていた「年とった下男」というのがマルコなんでしょうね。
パトリシアがわざわざ「老けたこと…」なんて言っていますし。
他の使用人は別の場所に住んでいたのか…なるほど。
マルコはインド人なのかな。なかなか面白い人ですね。


アーサーがなぜエドガーをモデルにランプトンの絵を描いたのかは、ファンが前から知りたかったことの1つですよね。
その話が何の前触れもなく始まるなんて、嬉しい驚きとしか言えません。
アーサーは自宅にあった古いランプトンの模写を見て子ども時代の初めての友達の面影を重ね、友達に似ていたエドガーをモデルに自分なりのランプトンを描こうとしたんですね。
その子に会って許しを乞いたいけれど、もういない…。
アーサーが大けがを負った幼年時代の事故が、その子と関わっていそうな気がします。

 

・*・・*・


エドガーとアランに関する新事実も出てきましたね。


まずはアランの眠り病。
旧作にはなかったけれど、変化した直後からの病気のようです。
実は私、以前から、エドガーがモデルを務めている間アランはどうしていたんだろうと思っていたのです。
だってそんなに長い間放っておかれたら、絶対に拗ねて出て行きたがるに決まってますもん。


だから「春の夢」で眠り病が出てきた時、眠っていたのかなと思ったのですが、やっぱりそうでした。
このまま春までずっと眠り続けるのでしょうか。
扉絵のアランの表情が人形のようなのは眠り病を表しているのかな。


そして新たに名前が出てきたウィンクル氏。
2人の後見人の弁護士。
エドガーが後見人の存在を何度も口にしていましたが、ついに登場するようですね。
この人は名前に「ポ」がつかないけれどポーの一族なんでしょうか。
それとも人間の協力者?


どちらにしても男爵が生きていた頃からの知り合いではないでしょうか。
私はリデルのおばあ様を捜し出したのも、このウィンクル氏じゃないかと思っています。
この人の登場によって、もしかしたらエドガー達の財源の謎も明かされるかもしれないですね。


それからアランの主治医もロンドンにいるという話ですが…
この人は本当にいるのかな?

 

・*・・*・


他に気になったこと&気に入ったこと。


「一週間」でアランが「ね 馬ひかせて」と言ってエドガーに「だめだ ヘタだもの」とニベもなく断られていますが、今号を読んで「本当にヘタじゃん」と思われた方が多いのではないでしょうか。


アランファンの1人として弁解したいのですが、アランは人間時代(9年前)には乗馬が得意でした。
今回は眠り病を発症していたのと、苦手な雨で暗かったせいだと思うんですよ。
暗いところでは目がよく見えないと前号にありましたからね。
でも「一週間」の時、エドガーの頭には今回のことが浮かんだんでしょう。


つまり言いたいのは、アランはトロいんじゃなくて体調に波があるんです~、元気な時は木登りや崖下りが得意だし水面に突き出た杭の上もヒョイヒョイ渡っちゃう敏捷な子ですよ~、ということなんです。


それからアランの髪形!
旧作ではこの時代はセンター分けでゆるいウェーブですよね。
今号も1ページ目と扉絵ではちゃんとセンター分けになっています。
その後は濡れていたり寝ていたりして、はっきりわからないコマが多いですが。
ウェーブじゃないのはちょっと残念だけど、こんな些細なことが嬉しいです。


アランの話が続きましたが、今号のエドガーで私が一番好きなのは、アーサーに「私もあなたを夜中に喰ったりしませんよ」と言うところ。
ちらっとバンパネラモードを感じさせるところがいいなあ、と。
「私」と言うのを聞くのはシスター・ベルナドットとの会話に続いて2回目です。


別の意味で好きなのは「赤の他人のエドガー・ポーツネルです」。
エドガー、新シリーズではマジメに面白いこと言うようになりましたよね。

 

・*・・*・

 

さて、続きが読めるのが来年の春だなんて待ち遠し過ぎますね。
これから何が起きるのでしょうか。
パトリシアも古い模写を「思い出の絵」と言っているので、絵と関わってくるのかな。
アーサーがポーになるきっかけを作るのかも。


「春の夢」「ユニコーン」「秘密の花園 Vol. 1」と新シリーズを読んできて、萩尾先生が旧作との整合性を保ちながら、隙間を縫うようにして全く新しい世界を巧みに創造されていることに感嘆するばかりです。
そして、「そうだったんだ!」という驚きと「どうなるんだろう?」というドキドキをリアルタイムで感じられることが本当に嬉しいです。


「エディス」後のエドガーとアラン、ポーの歴史、アーサーの話など、読者が知りたかったことを次々に描いてくださるのも嬉しい。
もしかしたら先生はファンの長年の疑問すべてに何らかの答えなりサジェスチョンなりを示してくださるのではないか、とさえ思ってしまいます。


もしそうならキリアンやエディスのその後もわかるのかも!
男爵がいつ頃ポーになったのか、老ハンナの館が村人に襲撃されてレダはどうなったのか、仲間同士でどうやって連絡を取り合うのか(「エヴァンズの遺書」の頃は集会があったようですが)、そんなことも知りたいな。


紀元前から21世紀までの長い歳月に亘るいくつものエピソードが1つに繋がる時、そこにはどんな物語が現れるのでしょうか。
先の先まで楽しみでなりません。
春よ早く来い!

 

 

 

記事(32)に追記しました

宝塚「ポーの一族」のブルーレイとライビュの演技の違いについて追記しました。
原作の「おぼえてるよ 魔法使い」と「だれにものを言ってるんだ え?」の場面の画像も載せました。
ご興味のある方はどうぞ。

(32)宝塚「ポーの一族」ライブビューイングを観てきました~原作ファンの初ライビュ - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

(51)「ユニコーン Vol. 4 カタコンベ」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪


ユニコーン Vol. 4」、今号は私にとって「やっぱりそうか!」と「こう来たか!」の回でした。
まずはいつものように扉絵からどうぞ!

 

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小学館『flowers』2019年6月号より)

 

なっ 何でしょうかっ このシュールな絵は!?
でも、どこかで見た覚えが…


と思ったら、ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」だとわかりました。
「快楽の園」は3枚のパネルからなる祭壇画です。
中央のパネルに「快楽の園」が、左に「エデンの園」が、そして右に「地獄」が描かれていて、この扉絵は「地獄」の一部がアレンジされています。


前の記事で私は「天国」と「地獄」が新しいキーワードになるかもしれないと書きましたが、さっそく出ましたね。


◆◆・*・◆◆・*・◆◆


さて、Vol. 2 では1958年にベニス(ベネチア)のコンサートでバリー=ダイモンと出会ったアラン。
Vol. 3 では1975年のロンドンで再会。
そしてこのVol. 4 の舞台は1963年のロンドン郊外。
ここでまたバリー=ダイモンと再会…と言うより時系列でいくとベニス以来、初めての再会です。


やっぱりそうでしたか!
実は後付けみたいになってしまうんですが、75年の2人のやり取りが58年のベニス以来にしては不自然な感じがしていまして。
そうしたら友人が、75年にアランがバリー=ダイモンを1度「バリー」と呼んでいることを指摘してくれて、58年の時点では「バリー」という名前を知らなかったはずなので間に1回は会っていたんじゃないかなと思っていたんです。


それにしても今回のバリー=ダイモンの登場の仕方、怖くないですか?
池のボートでうたた寝しているアランをいきなり覗き込むなんて。
しかもアランがベニスで付けていたネコの仮面を付けて!
これって、その仮面を5年間大切に持っていたということですよね。
まるっきりストーカーじゃないですか。


そんなバリー=ダイモンに対して警戒しながらも話し相手になるアラン、素直ですね。
でも、その素直さが裏目に出たようです。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


バリー=ダイモンに手を取られてアランが「移動」した先はローマのカタコンベ(地下墓地)。
そこはバリー=ダイモンが誰にも見せたことのない秘密の場所。
何百年もかけて1人で塔を造り続けている。
人骨と石を石膏で固め、蛍光塗料を加えた白いペンキを塗った塔を――。


やっぱり!
前号のモノクロ予告の人骨から何となく雰囲気は予想していたんです。
でも、こんな塔を造っているとは想像していませんでした。
こう来たか!


骨を美しいと言うバリー=ダイモン。
人間のように裏切らず、文句を言わず、嘘もつかないと。
人間? そう言えばファルカがバリー=ダイモンは「バチカンからも人間からも仲間からも嫌われてる」と言っていましたが、誰のことでしょう?
その相手に余程苦い思いを味わわされたのでしょうか。


バリー=ダイモンにとって骨でできた美しい塔のあるカタコンベは、やすらげる「天国」。
でもアランにしてみれば「地獄」ですよね。
扉絵は、バリー=ダイモンの「天国」がアランの目にはああいうシュールな「地獄」に映るというイメージなのでしょうか。


75年に会った時にバリー=ダイモンが「オレはただ…あの…地下を見せようと…きみが面白がるだろうって思ったんだ オレの作った天国を」と言い、アランが「天国? 地獄だろっ」と言っていますが、これは行ったことがあるから出た言葉なんですね。


でもアランが嫌がることを知っているのに「きみが面白がるだろうって思ったんだ」って、ちょっと変?
それにアランは「エドガーに知らない人からモノをもらっちゃいけないって言われてるんだ」とも言っているし、もしかしたら2人は63年から75年の間にも会っていたのかな?

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


バリー=ダイモンは大老ポーを「敵」と呼んで、兄を助けるために自分は戦い続けるのだと語ります。
戦っては負け、干からびてカタコンベに放り込まれるが、100年ほどで回復し、また戦いを挑む。
それでも兄を助けるには敵を滅ぼすしかないし、絶対に平伏しないと。


けれどアランに不毛な戦いだと図星をさされると、姿を消してしまう。
ベニスでブランカに「泣けないって かわいそうだわ」と言われた時もそうでしたけど、言い返せないと逃げる人なんですね。


不気味なカタコンベに置き去りにされてアランは叫びます。


「ユニコ―――ン!!」


ついに出ました!
作品タイトルにしてバリー=ダイモンの本名が!
似合わないからまさかと思っていたけれど、やっぱりそうか!
異母兄フォンティーンが名付けた、フォンティーンだけが知る名前。
んー? そうすると一緒に暮らしていたローマ人の継母と異母姉妹(?)は「ユニコーン」という名を知らなかったんですよね?
なのに「本名」でいいのかな。


ま、何か事情があるのかもしれないので、それはひとまず置いといて。
ベニスでバリー=ダイモンは、やはり言葉にして名前を教えていたんですね。
で、すぐに忘れる暗示をかけていたのにアランは思い出した、と。
それはなぜ?
しかもバリー=ダイモンはその名で呼ばれると逆らえない。
それもなぜ?
もしかするとフォンティーンが、「ユニコーン」と呼ぶ相手に逆らえないように暗示をかけていたのか?
でもバリー=ダイモンはフォンティーンの行き過ぎた行動を止めようとしていたというから、違うかな。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


とりあえずアランが無事に戻ってこられて、よかったよかった。
けどバリー=ダイモンのアランに対する執着は気になりますね。
「友達になりたい」と再三言っていますが、単にアランを気に入ったから本気で友達になりたいのか、兄を助けるためにアラン(またはエドガー)を利用しようとして近づいているのか、よくわからないところがあります。


ベニスで名前を教えたのは、歌を褒められて嬉しかったのと気に入ったからのような気がするし。
ネコの仮面をずっと持っていたのも、純粋に会いたかったからのように思えるし。
でもやっぱり、すべて下心あってのことかもしれない。


前の記事で私は気に入った理由を「兄と同じ金髪の、ピュアでイノセントな同族だから?」と適当に書きましたが、「子どもだから」っていうのもありますよね、きっと。
兄を助けるには「子どものポー」が必要なんでしょうか。


そしてバリー=ダイモンは塔を造って何をしようとしているのか。
何かの儀式?
予想通り「目」を使って移動できるとわかりましたが、アランやエドガーの行動をどうやって把握するのか。
他にどんな能力があって、皆が彼を恐れるのか。
カフェの時計を進ませたのは時間を支配できるということなのか。
カラカラに干からびた状態から、どのようにして回復するのか――それがアラン再生に繋がるはず。
まだまだ謎だらけですね。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


今号は最後にやっとエドガー登場。
2人が修道院に住んでいるというのは初めてですね。
神父も同族?
ルチオに滞在先をお世話してもらったのでしょうか。


エドガーの秘密主義は前からわかっていましたけど、アランもエドガーに言わないことが結構あるんですね。
じゃあベニスでの一件も詳しく話していないのかもしれません。
2人のこの距離感、いいな。
「タマに ひとりでいるのは楽だ」で「一週間」を思い出しました。


今回はアランの出番が多くて絵もきれいで嬉しい私です。
個人的に一番嬉しかったのが、特に何ということのないこちらのコマ。

 

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「エディス」の頃の顔に似てるなあと思うんですよ。
旧作と似ている絵を見つけると喜んじゃうって、オールドファンの、さがですかね。


今月も予告がカラー・モノクロ共に描き下ろしで、それもとても嬉しいです!

 

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「運命の相手を求める、人ならざる者たちの想いは――」

 

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「永遠を生きるゆえに、切実なエドガーの想いは――!?」


ユニコーン」、まだまだ先は読めません。
次号も本当に楽しみです!

 

 

記事(24)(30)(43)に画像を追加しました

ポーの一族」イラスト集に画像を追加しました。どうぞご覧くださいませ ♪


(24)綴じ込み付録①
リーベルの暑中見舞
クリスマスカード

(24)「ポーの一族」イラスト集~綴じ込み付録① - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


(30)予告・表紙・合同扉絵④
「小鳥の巣」第3話予告カット
「小鳥の巣」第4話予告カット(萩尾先生のメッセージ付)

(30)「ポーの一族」イラスト集~予告・表紙・合同扉絵④ - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記


(43)その他
まんが家コーナーのイラスト

(43)「ポーの一族」イラスト集~その他 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

(50)「ユニコーン Vol. 3 バリー・ツイストが逃げた」

思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪


8か月ぶりに連載が再開された「ポーの一族 ユニコーン」、皆様もう読まれましたでしょうか。
私、いつも以上に興奮してしまいましたよ。


だって、あの「エディス」が再現されている!
ポーの歴史も語られている!
これがこうで、あれがああで、実はそうだったのか!
その上、新たな謎も次々に。
今回も長い感想になってしまいますが、その前に表紙&扉絵を。

 

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小学館『flowers』2019年5月号より)


なんて美しいんでしょうか。
特に扉の一面のバラ!
2人の服がオシャレというか大胆。
今回初めて表紙と扉で同じ服、しかも本編も同じスタイルです。
エドガーのポーズ、特に手のあたりが、どちらも宝塚っぽいなあと思うんですが…
このままカンカン帽を持って踊り出しそう。
ディズニーの「メリー・ポピンズ」という声もあったりして…どうもすみません。
この2人の絵は次号のカラー予告まで続いています。

 

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画像が粗かったら申し訳ありません。
ポップで可愛いですねえ!
ポーでこういう感じの絵は初めて。
足元が文字で半分隠れていますが、よく見るとスニーカーなんですよね。
本編では革靴なんですけど、これも可愛い。
夏の「ポーの一族展」でこの絵のグッズがあったら思わず買ってしまうかも ♪


◆◆・*・◆◆・*・◆◆


絵の話だけで長くなってしまいました。
そろそろ本題に入らなくては。
今回は全体をざっくり3つに分けてみました。


1 1975年のエドガーとクロエの話
2 1975年のアランとバリー=ダイモンの話
3 1976年の話


バリーにはいくつもの名前がありVol. 2 ではダイモンと呼ばれていましたが、このVol. 3 ではポーからバリーと呼ばれています。
感想の中で呼び名をコロコロ変えるのもいかがなものかと思うので、当面はバリー=ダイモンでいきたいと思います。
では3つの話を順番に。


・* 1 1975年のエドガーとクロエの話 *・


1975年6月、つまり「エディス」のちょうど1年前のロンドン。


エドガーがシスターの格好をしたクロエを偶然見かけて後をつけると、クロエは病院で老衰患者からエナジーを頂こうとしているところ。
Vol. 2 でブランカも「老人のいる病院に行ってみて……でも できなくて…!」と言っていましたが、現代のヴァンピールにとっては病院がメインの狩り場なんですかね。


私はクロエがエドガーに再会したらもっと修羅場になるかと想像していたのですが、それほどでもありませんでしたね。
クロエがポーの村の秘密を話してくれたおかげで一族の歴史がまた少し明らかになりました。


クロエは1000年以上前(830年頃)にヨークシャーに住んでいたブリトン人で、老ハンナによって一族に加えられた。

一族は大老ポーと老ハンナの他に、大老とともにローマから旅してきた8人のローマ人などがいた。

老ハンナはブリトン人の仲間を少しずつ増やし、ポーの村をつくり始めた。

一方、大老と8人のローマ人はトリッポの城に住み始めた。

ローマ人の中心はフォンティーン。金色の髪、金茶色の瞳、魔をも魅了する天使のような美しさをもつ男。異母弟のバリー=ダイモンを可愛がっている。

フォンティーンは城主の亡き後、自分が城主となり、いつも若い娘に囲まれていた。城は悪魔の城と呼ばれた。

城に教会から征伐隊が来た。大老征伐隊を助け、フォンティーンを棺に入れてポーの村に運んだ。バリー=ダイモンだけが逃げ、他のポーは全員死んだ。

フォンティーンの体は密かに村のバラの地下深くに置かれていた。死んではいない。バラの根が絡みつき、大輪の花を咲かせ続けた。

バリー=ダイモンが村に帰ってきた。兄の分も償うと言っていたが、ある日、村中のバラを枯らして逃げた。大老は村に結界を張って彼を締め出した。

100年後、バラが再生すると大老と老ハンナはポーの村を出てスコッティの村に移った。

 

もう驚きですよね。
何よりもバリー=ダイモンの兄がついに登場です。
私は記事(39)で兄の正体について推測を書きましたが、やっぱり見事に外れました。あはは。
読んで何となく萩尾先生の「月蝕」と「温室」を思い出しました。
「月蝕」は若い城主を城の地下室で殺してなり代わり、美しい乙女と結婚した金毛の狼の話。
「温室」は原作付きですが、美しい少年が温室の精霊に魅入られて姿を消し、後に真っ赤なバラが狂ったように咲く話です。


フォンティーンは死んではいないけれどバラに自分のエナジーを与え続けているのですよね?
それなのにずっと美しいまま変わらないのは、なぜなのでしょうか。


バリー=ダイモンはフォンティーンと一緒に埋めてもらいたがるほど兄を慕っていた。
最初は兄の分まで償うと言っていたのにバラを枯らして逃げたのは、大老ポーに復讐を誓ったからでしょうか。
Vol. 1 でポーの村を追放されたという話でしたが、こういうことだったんですね。
でもシルバーは久しぶりに会ったバリー=ダイモンをひどく恐れていたので、まだ描かれていないことがあるのかもしれません。


シルバーと言えば1000年も前から生きていた古株だったとは、ちょっと驚きでした。
見かけによらず要領のいいヤツなのかも。
クロエはフォンティーンに恋する乙女ですね。
あれほど若返りたがっていたのは、フォンティーンに釣り合うように若く美しくなりたかったのかな。


クロエに皮肉交じりにポーの村の話をするエドガー、好きです。
サラッと「ウェールズのスコッティの村」と言っちゃってますけど、スコッティの村がウェールズにあるって前に出てきましたっけ?
これも新事実ですよね?

 

少し引っかかっているのは、エドガーは老ハンナをギリシャからローマ、イギリスへと来た人だと思っていたけれど、老ハンナ自身はクロエに元々イギリスに住んでいたブリトン人だと言っていたこと。
ギリシャまで遡るかどうかはわかりませんが、「メリーベルと銀のばら」で大老ポーが「わたしたちはローマの灯を見 フィレンツェの水を渡り ともに咲けるばらを追った」と言っているので、少なくともローマでは大老と一緒だったと思うのですが?


そしてエドガーがバリー=ダイモンの苗字「ツイスト」を気にしていたことも。
これは何か意味があるのか、それとも忘れていいようなことなのか、よくわかりません。


・* 2 1975年のアランとバリー=ダイモンの話 *・


ロンドンの公園で偶然出会ったアランとバリー=ダイモン。


アランは面と向かって「あんたは信用できない!」と言ったりして、かなり冷淡ですね。
まあベネチアのコンサートでは、ジュリエッタに賛辞を贈ったら隣にいたバリー=ダイモンにいきなりエナジーを送り込まれて災難でしたもんね。
エドガーに知らない人からモノをもらっちゃいけないって言われてるんだ」って、あの後エドガーからきつく言われたのかなと思うと笑えます。
でも公園でバリー=ダイモンに会ってから急にふらついたり彼の歌を聞きながら眠ってしまったりしたのは、何かの力のせいなのでしょうか。


バリー=ダイモンの方はアランをずいぶん気に入っている様子。
とても会いたかったようだし、自分の作った地下の天国を見せたがったり遊びに行こうと熱心に誘ったり。
なぜこれほどまでに好意をもっているのでしょうか?


コンサートの時は歌が兄に届いたと言ってもらえたようで単純に嬉しかったのだろうと思いましたが、どうもそれだけではないような気がします。
アランが兄と同じ金髪の、ピュアでイノセントな同族だから?
意外とファルカを仲間にしたのも金髪が理由の1つだったりして。


金髪と言えば、Vol. 2 にはなかったアランの金髪線が今回はちゃんと入っていてとても嬉しいです。
金髪線がないとどうも寂しくて、先生はお忙しくて時間が足りなかったのかなと残念に思っていました。
突然復活したのは時間に余裕があったか、ファンからの強い要望に応えてくださったのだろうと思うのですが、もしやフォンティーンの登場と何か関係あるのでしょうか。
いや、ないだろうな…。
ちなみにファルカはVol. 1 で髪を染めていて今回も金髪線なしでした。


もう1つ気になったのはアランが吠える犬にビクついていること。
犬が怖いの?
今までこんな描写はなかったのに、急にどうしたんだろう。


アランとの別れ際にバリー=ダイモンはエドガーの姿を見ます。
多分この時に初めてエドガーを認識したんですね。
コンサートの時、エドガーはオオカミの仮面をつけていて、バリー=ダイモンが歌い始める前に席を立っていますから。
エドガーにとっては2016年にカフェで会ったのが、ほぼ初対面。
そしてアランはまだ一度もクロエを見たことがないですね。


・* 3 1976年の話 *・


1976年6月。「エディス」のラストのあの日!
旧作では特に6月とは書かれていなかったので、これも新事実(って言うほどでもないか)。


とにかくあの日が今ここに再現されている!
もう本当に感動です。
あの時と同じエドガー、アラン、エディス。
ヘンリーも服が全く同じ。
違うのはバリー=ダイモンがすぐ近くにいたこと。

 

アランが落ちてすぐにダイブするエドガー。
ちょうどブランカが塔から落ちた時のように。
そうだよね!
エドガー、やっぱりそうするよね!


エディスをバスルームに運んだのはバリー=ダイモンでした。
これまではエドガーだと思われていたので、よく理性を失わなかったなあという感じでしたが、これで納得です。


じゃあエドガーはアランを救い上げて、そのまま「目」を使ってグールの丘に移動したのですね。
あの「もう明日へは行かない…」というモノローグは地下の洞窟でアランを抱きしめながら想っていたのでしょう。


焼け跡に佇むアーサー、ファルカ、ブランカ
旧作と新作がきれいに繋がったなあと感じます。
そして虚ろなバリー=ダイモンの姿からは、これから物語がどう展開していくのだろうと期待と不安が広がります。


・* 特に気になること *・


ここまで書いてきたこと以外に私が特に気になっていることは2つあります。
1つは「天国」と「地獄」、もう1つは「オルフェオとエウリディーチェ」です。


①「天国」と「地獄」


クロエはポーの村は永遠の楽園で、その楽園のために永遠の地獄があると言いました。
バリー=ダイモンも、地獄が地上に永遠の王国を作っている、と。
「地獄」とは地下で永遠にバラを咲かせ続けるフォンティーンのことですよね。


バリー=ダイモンはアランに自分が地下に作った「天国」を見せたがっていました。
「きみが面白がるだろうって思ったんだ」と言って。
地下の天国って一体どんな所なんでしょうか?
地下にバラの花畑を作っている?
それなら本当にパラダイスですが、あまりそんな気はしないんですよね。


で、ここから妄想なんですが、もしかしてバラの花畑の下に秘密基地を作っているとか。
そこはフォンティーンがいる地下のような場所で、そこにアランを連れて行って…
なんて考えると、どんどん怖い方向に行ってしまうんですよ。
2016年にカフェを出た後、エドガーをそこに連れて行くんじゃないか、とか。


バリー=ダイモンは兄を取り戻して再生させたいのでしょうか。
エドガーがアランを再生させたがっているように。
そのためにエドガーとアランが必要なのでしょうか。
「天国」と「地獄」も新しいキーワードになるのかもしれません。


②「オルフェオとエウリディーチェ


バリー=ダイモンが口ずさんだ「オルフェウス」の歌はオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」の中の曲です。
Vol. 2 でバルカロールが物語に関わっていたので、この曲もちょっと調べてみました。
そうしたら気になる言葉が色々出てきてしまったんですよ。


まずオペラの基になっているのはギリシャ神話のオルフェウスの物語。
神話なので諸説あるのですが、オルフェウスは伝説的な詩人であり音楽家
アポロン神の子という説もあるそうです。
竪琴の名手で、これを奏でながら美しい声で歌うと野獣や山川草木まで魅了したとか。


大老ポーは元々ギリシャの神官ですよね。
そして大老に血を授けられたフォンティーンは魔をも魅了するほど美しい男。
竪琴を持つ姿が多く描かれていて、地下でも胸に抱いているので名手なのだろうと思います。


オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」は、すごく簡単に書いてしまうと次のようなストーリーです。


オルフェオは妻エウリディーチェを亡くして悲嘆に暮れる。

絶望のあまり連れ戻しに冥界に下ると神々に言い、何があっても決してエウリディーチェを振り返って見ないことを条件に許される。

冥界の洞窟の入口には復讐の女神や死霊達がいたが、オルフェオが竪琴を奏でて歌うと消えていく。

オルフェオはエリゼの園でエウリディーチェを見つけ、手を引いて地上に向かう。

エウリディーチェは夫が自分の方を見ようとせず、その理由も言わないことを次第に怪しみ、ついて行こうとしない。

オルフェオが耐え切れず振り向くと妻は息絶える。

オルフェオは自分も死のうとするが、愛の神が現れてエウリディーチェを生き返らせる。

2人は喜んで抱き合う」


これを更に乱暴にまとめると、


「最愛の者を失う→絶望→冥界に連れ戻しに行く→失敗→神の力で最愛の者が蘇る」


何だかね、シチュエーションが似ているし、冥界=地獄だし、地下の洞窟はフォンティーンのいる場所のようでもあり、エドガーがいたグールの丘のようでもあり…。


ちなみに神話をパロディ化したオペレッタもあって、原題は「地獄のオルフェ」ですが日本では「天国と地獄」として定着しています。
ほら、やっぱり「天国」と「地獄」なんですよ。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


他にはクロエとバリー=ダイモンの関係も気になります。
いつも行動を共にしているのかどうかはわかりませんが、単に昔からの仲間だから一緒にいるのでしょうか。
クロエはなぜエドガーにバリー=ダイモンの行方を知らないふりをするのでしょうか。


そして次号のモノクロ予告も気になりますね。

 

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人骨と人体解剖書ですよ!
アオリは


「炎の中に失われたアランの復活を求めるエドガーの旅は――!?」


本当に怖い方向に行ったらどうしよう。
ドキドキしますけど次回も絶対に面白いのは間違いないですよね。


ところでVol. 1 の予告に「連作形式」と書かれていたのを私は「ユニコーン」の後に別のエピソードが連なると解釈していたのですが、そうではなくて「ユニコーン」自体が連作形式という意味だったようです。
前の記事でわかったようなことを書いていまして、申し訳ありません。


さて、次回はいつの話なのでしょうか。
とても楽しみです!