亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(66)「ポーの一族 番外編 月曜日はキライ」

先日発売された『flowers』7月号に「ポーの一族」の4ページの番外編「月曜日はキライ」が掲載されました。
番外編とはいえ「秘密の花園 Vol. 1」から1年ぶり。
それにポーシリーズの番外編は初めてで(「はるかな国の花や小鳥」は番外編ではないと思うので)、もう「待ってました!」という感じです。


このブログではポー新シリーズの感想は特にネタバレ満載なのでショート番外編くらいはネタバレせずに書きたいと思ったのですが、やっぱり無理でした。
そんな訳で未読の方はご注意くださいね。


前の記事(65)にも載せましたが予告カットはこちらでした。

 

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小学館『flowers』2020年6月号より)


予告が「ポーの一族 秘密の花園 番外編」なのでてっきり1888~89年のクエントン館が舞台かと思ったのですが、全然関係なかったですね。
今月号の表紙にも「秘密の花園」と書かれているものの、作品ページは「ポーの一族 番外編」となっていて、もっと後の時代のお話でした。
いつ頃かはっきりとはわかりませんが1960年代か70年代でしょうか。


そして私は予告カットと『芸術新潮』のインタビューからエドガーが料理したりするコメディータッチの内容を想像していたのですが、またまた良い意味で裏切られました。
まさかアランがメインの話とは!


アランファンとしては、それだけで嬉しい。
それに、きれいな絵が多くて嬉しい × 2。
特に髪がいい感じで、こういう横分けで外にハネていなくて流れるようなスタイルが個人的には一番しっくりくるんですよね。
更に「アランってやっぱり、いい子」と思えて、嬉しい × 3でございます。


さ、前置きはこれくらいにして本題に参りましょう。


・・・・・・・・・・・・


見知らぬマダムから宝石のついた指輪をもらったアラン。
「ぼく誰かに売っちゃいますよ」と言うと、マダムは言います。


「いいえ 声でわかるわ
育ちのいい わがままな男の子ね
家に帰って そこらの引き出しにしまって忘れちゃうのよ
でも10年後に引き出しのスミに転がってるのを見つけて
あれ なんだっけ これ?と考えるんだわ
ね? そういうのステキじゃない?」


マダムは当然アランを普通の少年だと思っているので10年後の姿をイメージしています。
その絵を見ると、あ、24歳のアランてこんな感じかも、と思います。
もしかしたらアランも一瞬だけ24歳の自分を想像したかもしれません。


それから数か月後にアランが再会した時、幸せそうな有閑マダムに見えた人は、実は少し違っていたのだとわかります。


マダムはもう自分のことを忘れている。
勧めたローズヒップティーを気に入ってくれたけれど、彼女の中に10年後の自分はもういない。


家に帰ってアランはエドガーに言います。


「…もう月曜はキライだ…」


その後、アランは指輪をどうしたのでしょうか。
月曜日にはマダムを思い出したりしたのでしょうか。


こんな風に彼らは時々ゆきずりの人から言葉や気持ちや物を受け取ったり、あるいは与えたりしながら変わらぬ日々を生きているのだろうと思いました。


「彼らのはたを時はゆく
彼らにとって時はそのまま止まっている
かわってゆくのは周囲であり
わたしたちのほうなのだ」
(「ランプトンは語る」より ジョン・オービン)


・・・・・・・・・・・・


今回エドガーは出番が少ないですが、相変わらずのエドガーです。
少ないセリフの中で私のベストは


「ふん きみは自分が
かわいいって自信があるから
世の中に甘えているんだ」


これねー!
萩尾先生はエドガーとアランのおしゃべりを聞きながら作品を描くとおっしゃっていますが、先生の妄想の中でエドガーはこれを何度もブツブツ言ってるんじゃないかという気がします。


アランは本当に可愛い。
ただ、旧シリーズでは「小鳥の巣」で小悪魔的だったとはいえ「可愛い」と形容されたことはなくて、新シリーズになってから急に強く前面に出てきた気がするんですよね。


宝塚版でエドガーがアランを選んだ理由に「生意気だが純粋で汚れていない」というセリフがあり、先生はこのセリフに感激して作品に使っていらっしゃるそうです。
(情報源は「萩尾望都作品目録」様の2020年2月9日付ニュース。「『ポーの一族』と萩尾望都の世界」と題された講演の詳細なレポートです ↓ )
https://www.hagiomoto.net/news/2020/02/post-338.html


ユニコーン」でエドガーはアランを「ピュア」「無垢(イノセント)」と言っていますよね。
それとセットで「可愛い」も新シリーズの既定路線になり、同時にストーリー上のポイントにもなっているのかなと思います。


「可愛いって自信があるから世の中に甘えてる」。
まさにその通り!
本人は無自覚みたいですけどね。


・・・・・・・・・・・・


他に気になること。


まず、この作品の舞台はどこ?
下のコマの背景がヒントだと思うのですが…

 

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(同7月号より。以下同)


もし実際にあるとしたら、旅行好きの方ならパッと見てわかるような有名な場所でしょうか?
おわかりになる方がいらっしゃいましたら、ご教示頂けると嬉しいです。


それからエドガーの机にある、この置物なんですが…

 

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右のブタは何か意味がある物なのでしょうか。
左の方は何なのでしょう?


そして服。
アランはずっとシンプルなシャツと大きく開いたVネックの無地のセーターを着ていますね。
「春の夢」と「ユニコーン」でも着ていたので、これが新シリーズの定番なのかな。
…と思ったら、今回エドガーも着てる。
え? ペアルック?
スーツと制服以外でペアって初めてじゃないですか?


しかも最後のコマではアランがさりげなくエドガーの膝枕。
これが日常なら、2人は空白の40年間に前より仲良くなってたってことですかね。


・・・・・・・・・・・・


私はこの作品を読み終わった時、8ページ位あったような気がしたのですが、実際にはたった4ページしかなくて驚いてしまいました。
ディテールで楽しませつつ、アランの心情、マダムの人生、エドガーとアランの日常など多くを想像させてくれた素敵な番外編でした。


さて、来月号はいよいよ「秘密の花園」連載再開!
予告はこちら。

 

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「アランの復活を願うエドガー。
その運命の旅の行く先は――!?」


う、美しい!
青いセーラー服姿のエドガーは「春の夢」の表紙にも描かれましたけど、また感じが違いますね。

 

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「アランを求めるエドガーの彷徨。
秘められた物語がふたたび語られる――!!」


エドガーの手の光はエナジーでしょうか。


1年ぶりにどんな話が展開するのかとても楽しみですね!
あ、Vol. 1 を復習しておかなくちゃ。


それで思い出したのですが、この記事のはじめに載せた番外編のモノクロ予告、アランが釣り上げられてますけどVol. 1 で川に落ちてエドガーに救助されたのと関係あるんでしょうかね?


最後に一言。
先生、来月号の予告の絵が明日海さんと柚香さんに見え過ぎるんですが。
ありがとうございます ♪


~2020. 6. 11 追記~

 

作品の舞台についてsatokoさんからご教示を頂きました。
アランの背景に見えるのはロンドンのケンジントン・ガーデンズにあるアルバート・メモリアル(アルバート公記念碑)とのこと!


検索してみましたら、とても大きくて立派な記念碑なんですね。
ヴィクトリア女王の夫、アルバート公の功績を称えるモニュメントなのだそうです。
satokoさん、どうもありがとうございました!!
アランとマダムが出会ったカフェのあるホテルは、その近くかもしれないですね。