亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(39)「ユニコーン Vol. 2 ホフマンの舟歌(バルカロール)後編」

今回も激しくネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになった後で、ぜひまたいらしてくださいね ♪

 

ユニコーン」も第3回。ベネチアでのサンタルチアコンサートの続きです。
今号も盛り沢山の内容でした。
回を追うごとにどんどん話が広がってきて、感想も「一体何から書いたらいいの!?」という状態に。
そしてどんどん長くなる(汗)


でも、まずは一言言わせてください。
今号はアランの絵がどのコマもきれいで、ものすご~く嬉しいです!
中でも一番好きなのが、こちらの扉絵。エドガーも素敵です♪

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小学館『flowers』2018年9月号より)


エドガーは普通にエドガーなんですが、アランが柚香アランに見えてしまうのは私の目のせい?
まあ、それは置いといて。
ピアノに向かうエドガーとピアノに寄りかかるアランが、キーの高さの話をしている。
何気ないポーズや表情がとても自然で穏やかで、何だか久々に2人きりの平和な日常風景を見るような気がして、しみじみ嬉しくなってしまいました。


画面上部の音符と光は前ページから次ページの見開きまで流れるように続いていて、ジュリエッタの心と重なり合っていますよね。
逃げ出したいほど緊張していたジュリエッタがバルカロールの調べに誘われて部屋を覗くと、ネコとオオカミの仮面の少年達が歌っている。
ジュリエッタの目にそれはきっと、ホッとできる光景に映ったことでしょう。
そして思わず歌い出す。
前ページの寄せては返す波が扉絵と繋がって消え、心がどんどん明るくなっていく。
見事だなあと思います。


でもエドガー達はどうしてバルカロールを歌っていたのでしょう?
前号のラストでエドガーが仮面をつけて「ウッフッフ」と笑っていたので、私はジュリエッタの緊張をほぐそうと計画したのかなと思ったのですが、読み返してみたらエドガーはジュリエッタに会っていませんでした。
サルヴァトーレとバルカロールの話をして、ちょうどピアノと楽譜もあるし、時間潰しに歌ってみようとアランを誘ったのかな。


アランがエドガーより高い声を出せるというのは新事実でしたね。
いや、何となくそんなイメージはありましたけど。
エドガーもエルゼリに「あなたはテノールね いい声だわ」と言われていましたが、アランの方がもっと高いんですね。


4ページ目の2人が並んで立っているコマでは、エドガーの方がかなり背が高い…と言うよりアランの方が低くなっていて、あれれ?っていう感じです。
旧作でも「春の夢」でもほぼ同じ背格好だったのに、前号のラストでアランの方が若干低くなってるかなあと思ったら、いきなりこの身長差。
新シリーズのアランはピュア&イノセント路線なので小柄な方がイメージに合うからかな。
でも次にはまた元に戻っているかも。

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(同 P. 82より)


さて、この後の物語には3つの山があります。


エドガーがルチオ一族の始祖と対面する
アランが「ダイモン」の本名を知る
サルヴァトーレとエステルの愛が蘇る


ここからは、これらの感想を順番に書いていきたいと思います。


・* 1.エドガーがルチオ一族の始祖と対面する *・


始祖の名はシスター ベルナドット。
男ばかりのルチオ一族の始祖が女性なのも驚きなら、紀元前から生きていて大老ポーと関わりがあったことにも驚きです!


2人はギリシャの出身で、ベルナドットは巫女、大老ポーは神官。
国が滅び、ナポリやローマに逃れて神殿の神職に就くもローマ皇帝キリスト教を国教としたため追われ、ポーは北へ逃れるがルチオはベネチアに留まった――。
そういえば大老ポーは「春の夢」で「オットマーはナポリギリシャ系の別の一族だ」と言い、「メリーベルと銀のばら」では「わたしたちはローマの灯を見 フィレンツェの水を渡り ともに咲けるばらを追った」と言っていましたっけ。


ルチオの起源を知ることはポーの起源を知ることにもなって面白いのですが、まだわからないこともあります。
例えばエドガーとベルナドットはこんな会話を交わしています。


「ルチオは… “眠れない一族” から派生した…?」

「そうだ 我が家系の病の変異が もとらしいからな
…発病した者を選んで仲間に加えている…」


えーと、つまりベルナドットはオットマー家の “眠れない病” の変異によってヴァンピールになった…ということ?
いや、“眠れない病” は男性だけがかかる病気で、ベルナドットは女性だから発病しないはず。
もしや実は男だったとか? 今も見た目、男っぽいし。
いやそっちじゃなくて、ベルナドットの変化と病とを切り離して考えるべき?


そして大老ポーは同じ病だったとは思えませんが、どうして変化したのでしょうか。
まさか神話の領域にまで踏み込んで、“アポロン神の為せる業” なんてことはないですよねえ?
あっ、でも大老エナジーはローレル(月桂樹)の花の香り。
月桂樹はアポロン神の霊木だそうですが…えっ、まさか!?


2人以外にも変化した巫女や神官がいるのか、それぞれの一族は根本で繋がっているのかなど、謎は今後解明されていくのでしょうか。
それとも謎のままにしておかれるのでしょうか。


ルチオ一族は20~25人で、古代の予言書などの管理をしているそうで。
前号でサルヴァトーレが「リド島のボロい修道院に生息してる」と言っていましたが、そこを根城に皆で古書の整理をしているのでしょうか。
とすると、ベネチアやチェスターにあるホテルのスタッフは普通の人間?
支配人クラスが一族か、一族に通じた人間なんですかね?


更にルチオ一族は15世紀から連絡係を通じてバチカンと取引しているという衝撃の事実!
Vol. 1でファルカが「ダイモン」のことを「バチカンからも人間からも仲間からも嫌われてる」と言っていて、なんでバチカンが出てくるんだろう?と思っていたのですが、ここに繋がったわけですね。


連絡係は60歳で交代し、望めばルチオ一族に加わることができる。
じゃあ望まなかった者はどうなるのか。
加わらない選択をしたペペ神父がずっと泣き続けているので思わず物騒なことを想像してしまいましたが、30年も秘密を守り続けてきたのですから危害を加えられることなく平穏な余生を送れますよね、きっと。


ペペ神父の涙は、不老不死となった元連絡係の旧友・ガロ神父と再会して、懐かしさと同時に畏怖の念に打たれたからかな、と思います。
一族に加わるかどうか多分直前まで逡巡していたのだろうと思うのですが、ガロ神父の変わらない姿を目の当たりにして、この人は本当にもう人間ではなくなってしまったのだと実感し、わが身に置き換えて自分は限りある生を全うしようと決断したのではないでしょうか。


新しい連絡係になるであろうアマティ神父が、今後の物語にどんな影響を及ぼすのかにも注目したいです。

 

ベルナドットがエドガーを呼び出したのは、エドガーが子どもでありながら200年も生きている希少な存在なので一度会ってみたかったからでしょうか。
大老ポーの直系だから、というのも理由かもしれません。
でもルチオ一族に引き取ってもいいと言うのは、私には単なる親切心とは思えません。
エドガーが去った後で「……あの方は…来た?」と聞いていますが、「あの方」とは大老ポー?
エドガーとの会話の中では普通に「大老」と呼んでいたので別の誰かかもしれないですね。
もしかすると、その相手こそが大老やベルナドットを変化させた者、ということはないでしょうか。


それにしてもベルナドットと対峙するエドガーは、いかにもエドガーらしかったですね!
初対面の威圧的な相手にも堂々として、はじめこそ自分を「私」と言って(エドガーが「私」と言うのを初めて聞いた気がします)敬語を使ったけれど、すぐに普通の言葉遣いに戻って言うべきことを言う。
「神父が悪魔の手の内に落ちる…」と言う時の表情なんて実に決まっています。
今号はクールでカッコいいエドガーと素直で可愛いアラン、対照的な個性が際立っていますね。


・* 2.アランが「ダイモン」の本名を知る *・


コンサートの最後に「ダイモン」とジュリエッタが歌うバルカロール。
私もYouTubeで聴きましたが、とても甘美な歌でした。


「愛しいあなたを腕にだきしめて
船出の時は来た
月は昇り
願うものは永遠の愛
麗しき愛 愛の夜よ」


歌声が流れる中、ヴァンピールとなった息子・ダンとの別れを惜しむ母、涙を流し続けるペペ神父。
それぞれに歌は特別な意味をもって聴こえたことでしょう。


ダンの母はコンサートのたびに招待されているのでしょうね。
ミックが一緒でしたが、ダンは仮面をつけているからバレません。
ブランカは仮面をつけていない!と一瞬焦りましたが、ダンの母はダンから話を聞いているはずだし、ミックはブランカが死んだと思い込んでいる上に髪が白くなっているので「似てる人だなあ」と思うくらいなんでしょうね。


ミックが「パパに叱られます」と言っているということは、ミックの父のドナルドはまだ発病していない様子。
でも、そろそろ危ない年代ですよね。ルチオ一族、1名増員か。


アランはバルカロールに感動し、「ダイモン」とジュリエッタに「ステキだった…ぼく……こんな美しい歌を聞いたのは…生まれて初めてだよ」と素直な感想を伝えます。
前号でスネて「美しい音楽なんかキライだ」と言っていたのを思い出すと何だか微笑ましいです。
そしてアランが次に贈った賛辞は「ダイモン」の心を動かしました。


「ぼくね この美しい歌は
波も聞いて
海も聞いて
風も聞いてて
世界の遠くまで響いていくと思うよ…」


きっと「ダイモン」は歌が兄に届いたと言ってもらえたようで嬉しかったのではないでしょうか。
そして秘密の名前を教えてあげると言ってアランの額に手を当てる。
エドガーがアランを見つけた時、アランはぼうっとしていて額が角のように光っている――。


タイトルの「ユニコーン」のヒントがやっと出てきましたね!
この時アランは「ダイモン」からエナジーを授かったのでしょうか。
エドガーは少し焦っているように見えますが大丈夫なのでしょうか。
ラストのコマでアランの寝顔を見守るエドガーの表情から察すると心配するほどのことはないのかな。


「ダイモン」は名前を言葉にして言ったのか。
言ったとすればアランは朦朧としているけれど、その名を覚えているのか。
言わなかったのなら、そのユニコーンの角のような光こそが名前の象徴なのか。


いずれにしてもアラン再生の鍵になってくるのでしょうね。
一部始終を見ていたジュリエッタもまた、何か関わってくるのでしょうか?


2016年に「ダイモン」はエドガーに、一緒に来れば本名を教えてやると言いました。
それは多分エドガーにもアランと同じことをするという意味ですよね。
…やっぱり色々心配になってきました。


・* 3.サルヴァトーレとエステルの愛が蘇る *・


かつてエステルがコンサートに招かれてバルカロールを歌っていた頃、サルヴァトーレは彼女を心から愛していた。
深く愛するがゆえに彼女の手を取ることができず、ずっと想いを胸の内に秘めてきた。


エステルもサルヴァトーレを愛していたけれど自分からは言い出せず、やがて諦めて他の人と結婚した。
それでもサルヴァトーレを忘れることができなかったから、バルカロールの「ジュリエッタ」の名を娘に付けたのでしょう。
サルヴァトーレと33年ぶりに会い、彼の本当の気持ちを知るとともに全く年をとっていなくても本人だと確信して、狼狽しながらも激しい恋心を思い出す。


「愛しいあなたを腕にだきしめて」
「願うものは永遠の愛」


この歌に嵐のように揺さぶられて、蘇った愛はどこへ向かうのでしょうか。
2人の――というよりもサルヴァトーレの熱情的な行動は、「ダイモン」の思惑通りに事が運んでいるということですよね。
エステルがサルヴァトーレを追いかけて階段を駆け下りていく姿が心に残りましたが、これからどうなるのか、こちらも心配です。


◆◆・*・◆◆・*・◆◆


ラストページは1人ゴンドラに乗る「ダイモン」。
アランのネコの仮面を手にしています。
アランが朦朧として落としたものを持ってきたのでしょうか。


「ダイモン」の謎は依然として謎のままです。
上に書いたファルカのセリフ「バチカンからも人間からも仲間からも嫌われてる」。
これに引っかかるのですが、バチカンとはこれから何かトラブルがありそうですね。
わざわざ「人間」と言っているのは特定の人間を指していると思うのですが、それは誰?


そして「ダイモン」が語りかける兄は「ダイモン」にとってとても大切な存在のようですが、どこでどうしているのでしょう? もう死んでいるのでしょうか?
全くの見当違いかもしれませんが、私は「もしかして?」と思うものが2つあるのです。


1つは「春の夢」でファルカがエドガーに「目」を教える時に「手を放すな 迷子になるぞ 以前行方不明になったヤツもいた」と言っていた、その「行方不明になったヤツ」ではないか?
「ダイモン」はファルカの「親」なので、多分「目」を使えるだろうと思います。
一緒に移動していた時に手を放してしまったのかも。
もしくは大老ポーによって「目」の中に閉じ込められたとか。


もう1つは「ユニコーン」Vol. 1でやはりファルカが、長く眠って目覚めた時は名前を呼ぶ声が聞こえるから自分を忘れず見失わずにすむけれど、「見失ったヤツを知ってる」と言っていました。
その「見失ったヤツ」ではないか?
ユニコーン」では名前がキーワードのようですし。
ルチオ一族も目覚めた時に名前を呼んで落ち着かせるために母親や妻が付き添っているんですものね。


まあ、あくまで可能性の話ですので、違ったら笑ってください。

 

◆◆・*・◆◆・*・◆◆


さてさて、こんなに話が広がって謎だらけなのに春までお休みなんて長いですね。
でも続きをあれこれ想像しながら気長に待つことにしましょう。
次の舞台はいつどこになるのでしょうか。
いったん2016年に戻るのか、コンサートの後日談が描かれるのか、全然違う年代と場所に飛ぶのか。


記事(11)に最近追記したことですが、私は『flowers』2017年3月号の年表で「すきとおった銀の髪」の年代が従来と変わって、わざわざ「著者に確認」と注まで付いているのが気になっています。
もしかしたら1800年前後の話が描かれる?
ユニコーン」ではなく別のエピソードかもしれませんけど。


今月号には来年の萩尾先生デビュー50周年企画のお知らせも載っていましたね。
50周年には絶対に大々的な記念企画があるはず!と秘かに期待していたのですが、その第1弾です。
ポーの一族」のプレミアム本も「11人いる!」のムック本も魅力ですね ♪
私が前から騒いでいる画集やフレーズ集も出してもらいたいし、大規模な原画展をぜひ開催してほしい~!
と思ったら、今月号のアンケート葉書に企画の希望を書けるようになっていますね。
皆様、書いて出しましょう ♪

 

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