亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(81)「秘密の花園 Vol. 9」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


1回お休みを挟んで「秘密の花園」再開です。


1ページ目のエドガーとアラン、いいな、いいなと喜びながらページをめくると、扉絵がまた素敵でした。

 

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小学館『flowers』2021年10月号より。下も同)


シルバーが宿泊しているホテルでしょうか。
バラに彩られたバルコニーで言葉少なに昼の月を見上げる2人。
この絵、個人的にすごく好きです。
何だか懐かしいエドガーとアランが帰って来たみたいでホッとするんですよ。


・*・・*・


さて、物語の方は。
お休みの間、先が気になりつつも「予想したってどうせ当たらないんだから無駄だよね~」と思っていましたが…。


やはり萩尾先生、想像の斜め上を行く展開でした。
思いがけない人物が次々に登場するし。


まずはダイアナの件ですね。
私は弟のダニーが金銭目的でダイアナをそそのかしてアーサーに接近させたのかと思っていたのですが、ダイアナ自身が計画したとは驚きでした。


ダイアナはアーサーに近づいた時、すでに妊娠していた。
相手については触れられていませんが、結婚も養育費も望めない人だったんでしょうね。
過去に別の男にだまされて子どもを堕ろしていたので、今度は産みたくてアーサーに目を付けた。
準男爵の跡取りなら、もし結婚できれば万々歳だし、結婚できなくても手切れ金をもらえると踏んだのでしょう。
努力して独学でピアノ教師になった程なので、意志が強い女性だったのかなと思います。


ダニーは「姉はあなたを愛していた! 打算だったけど愛していた!」と言いましたが、もしダイアナがそう言ったのならそうなのかもしれません。
一方アーサーにしてみれば容貌に対するコンプレックスが大きかったし親の愛を知らず孤独だったので、お世辞でも心地良かったんだろうなと思います。


アーサーとダニーは同時に重大な告白をした訳ですが、動機が似ているようで反対なのがちょっと面白いです。


アーサーはパトリシアからの愛の手紙がいつも手に入らないのはダイアナを死なせた罰だと思い、自分は幸福になってはいけない、もっと罰を受けるべきだと告白する。
ダニーは自分が幽霊に窓から突き落とされたのはアーサーをだました罰だと思って、赦しを請うために告白する。


私がアーサーの告白の中で「おっ」と思ったのは「ダイアナに薬草の入ったお茶を飲ませた」というところ。
Vol. 7 を読んだ時はワライダケの毒かと思って、ワライダケで死ぬのかなと不思議だったのですが、薬草だったんですね。
わかってスッキリです。


結局ダニーはアーサーの言葉に耳を貸しませんでした。
衝撃の事実を知ったアーサーがどういう心境だったのか想像してみると、


ダイアナが死んだ時は後悔したし罪悪感に苦しんだが、だまされていたなんて!
裏切られた、ハメられた、というショックと怒り。
何のためにダイアナまで死なせてしまったのだろう。
子どもだって殺す必要はなかったのに。
今までの後悔や苦しみは何だったのか。
しかし恨んでもどうにもならない。
これもすべて罰なのだろうか。


こういう気持ちでしょうか。
誰かに慰めてもらいたくても、エドガーもフォルテもいない。
「ランプトンのいない部屋」が、こんなに辛い虚ろな絵だったとは。


「エルフになりたい
エルフになれば
後悔や苦痛から逃れられるだろう」


この言葉が切実に響きます。


・*・・*・


病気が結核と分かり療養所に入ったアーサー。
そこに現れた2人の人物にも、びっくりでした。。


1人目、ドミニクの母ドロシー。


私はこの人が再登場するとは思っていませんでしたし、ましてパトリシアからの手紙を持ち去ったのがこの人だったなんて考えてもみませんでしたよ!
でも話を聞くと「そうかぁ」と納得してしまいました。


17年の時を経て手紙を読むアーサー。
もし17年前に受け取っていたらパトリシアと結婚していたかもしれないのに…。


「きみの恋を笑った 私への復讐か!? ドミニク」


ダイアナやダニーのみならずドミニクにも裏切られた思い。
少し前までドミニクとの思い出は優しく懐かしいものだったからこその、怒りと絶望。
断ち切ったはずのパトリシアへの未練が再び押し寄せても、どうにもならない。


アーサーが人間をやめたいと思う気持ち、もう十分伝わってきますよね。
アランが人間やめたいと思った時の10倍くらい強いのでは?
でも、まだこれだけじゃ終わらないんですよね。


・*・・*・


思いがけない人物の2人目、看護人のセシリア(セス)。


グローブ氏の再婚相手セーラの娘。
アーサーの6歳下の異母妹。
5歳上のセシルという兄もいます。
母のセーラが看護士だったので看護の道を志したのかな。


グローブ氏に頼まれて来た訳ではないけれど、グローブ氏はセシリアと婦長に「昔アーサーに殺されかけた」と話したという。
どういう経緯でアーサーの看護人になったんでしょうか?


アーサーにとってセシリアは母メリッサを自殺に追い込んだ憎い女の娘。
でもセシリアはいい娘で献身的に看護してくれるし、メリッサやアーサーに罪の意識を感じている。
セーラがバラの実から作ったというハーブティーを淹れてくれますが、もしかしたらセーラもアーサーのために何かしたくて持たせたのかもしれません。


今まで一方的に憎んでいた相手も苦しんでいたと知ってハッとするアーサー。


「怒りが私を醜くする
やはり私は醜い鬼だ
助けてくれ……
ランプトン……」


遂に自分自身にも絶望してしまいましたね…。


ところでセシリアの周りに例の光のようなスクリーントーンが何箇所も貼られているのですが、もしかしてメリッサが見ている?


・*・・*・


さてさて、お待ちかねのエドガーとアランです!


出番はあまり多くありませんが、一緒に行動しているのを見るのは久しぶり。
それがとても2人らしいと言うかいつもの彼らで、「そうそう、これこれ、この感じ!」と嬉しかったです。


1ページ目で昼の月を見上げながら「ねえ…ぼくはずいぶん眠ってしまっていたんだね? エドガー」と言うアランに「うん 眠ってたよアラン 月に行って帰ってくるぐらい長く」と返すエドガー。
そんなに長く感じていたのかと思ったら、「心配した?」「少しね」。
彼らが帰って来た~!と思いましたよ。


エドガーとマルコの会話に割り込んだアランに、エドガーが「ちょっと黙って」と言うのも個人的にツボでした。


アランの髪が「ポーの一族」の頃に近いのも嬉しくて。
(前回まではちょっと違う気がしていたので…どうもすみません。)


面白かったのは池のほとりで2人が会話しているコマ。

 

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アランが食べかけのビスケットみたいなものを持ってるんですよね。
立ち食いしてるのかと思ったけど、すぐ後のコマではもう持ってない。
で、前に戻ると水中に頭を突っ込んでいるカモのアップが。
あ、カモにやってたのか!
萩尾先生の遊び心が楽しいです。


ところで2人がクエントン館に戻った直接のきっかけは、アランがランプトンの絵を見たがったからなんですね。


そして療養所のアーサーの前に現れたエドガー。
喜び、意識を失ったアーサー。
エドガーはこの後、どうしたのでしょうか。
次に現れるのは、いつどんな時?


グローブ氏やセーラやセシルも登場するのか。
メリッサの霊は?
パトリシアもアーサーへの未練が残っているようだし、続きが楽しみです!
(もしや次回ですべて片付いて完結なんてことは…ありますかね?)


・*・・*・


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