亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(103)「青のパンドラ Vol. 8 フォンティーンは歌う」

激しくネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪

 

こんにちは。
1か月の休載を挟んで「青のパンドラ」Vol. 8 が『flowers』9月号に掲載されました。
今回は20ページと短めですが、内容は濃かったなあと思います。


では早速、扉絵をどうぞ!

 

小学館『flowers』2023年9月号より。2つ下も同)


優雅に楽器を奏でるフォンティーン。
いつも持っている竪琴とは違いますが、古代の楽器でしょうか(ご存じの方、ご教示くださいませ)。
レースのような波は、血の神の壺が引き上げられた海のイメージ?


◆◆◆◆◆◆


物語は、そのフォンティーンを解放するため、バリーがポーの村に現れた続きから。


大老から与えられた炎の剣を振るい、塔の地下で兄の体を縛りつけていた固いバラの根を焼き切っていくバリー。
燃える地上のバラ。
ついに自由の身になるフォンティーン。


フォンティーンは意識がないのかなと思っていましたが、ちゃんとありました。
1000年の間、バラの根を通して風の声を聞き、季節を知っていたのだとか。
ということは、クロエが自分に恋して時々会いに来たことも知っていたのかな。


アレッポの城が燃え、母アドリアが消えた時の記憶も鮮明でした。
大老が温情から自分を殺さなかったことも。


大老が、愛していたアドリアではなく息子の方を生かしたのは、ちょっと不思議です。
本当は2人とも消すつもりだったけど土壇場で気が変わったのでしょうか。
まあ、だからこそ大老も、いまだに引きずっているのでしょうが。


地上のバラが燃え盛る中、フォンティーンは村人達を前にして言います。


「…私の気を吸って咲き続けたバラを
おまえたちは食って安穏と過ごしてきたわけだな」


1000年間バラにエナジーを吸い取られていたのに、なぜフォンティーンの体が少しも衰えないのか謎ですが、それはとりあえず置いといて。


フォンティーンに駆け寄って言うシルバー。


「あなたが村長(むらおさ)となり
この村を治められるのなら従います!」


さすが一族の古参!
シルバーは老ハンナがポーの村を造った頃からの仲間で、フォンティーンの蛮行をさんざん見てきたし、大老が城を燃やしたいきさつも直に知っているんですよね。
だから村を守るためには従うしかないと判断したんでしょう。
でも大多数の村人はフォンティーンの本当の恐ろしさを知らないから、たてついて消されちゃう。


しかし炎の剣で全てのバラを燃やそうとするフォンティーン。


「おまえたちに これ以上
私のバラを与える気はない!」

「こんな村 チリとなって
みんな消えてしまえ!」


ああ、バリーの封印が解かれると聞いた時のクロエの言葉が思い出されます。


「村はまた大混乱になるわよ!
バリーはまたバラを枯らして逃げ出す!
そうね!
大老は村を壊滅させるつもりね!
そうよ 世界の終わりが来るのよ!」


この言葉が現実になるんでしょうか。
バリーとフォンティーンによって。


そしてフォンティーンは、バリーが用意した住みかへ。
その住みかって、例のローマのカタコンベ(地下墓地)…ですよね?
バリーが何百年もかけて人骨と石で造った塔のあるカタコンベ


あの塔のことは、ずっと気になってたんですよ。
フォンティーンを解放するために必要なのかなと思っていたんですけど、帰って来た時に迎えるためだったのか。
そこを拠点に新たな王国を造るつもりなんでしょうか。


◆◆◆◆◆◆


この場面で気になったことと驚いたこと。


①かつてフォンティーンが大やけどを負って死にかけた時、壺から青い霧が出て全身を覆った


フォンティーンは大老によってポーになったようだけど、血の神に新たな命を吹き込まれたということでしょうか。
バリーは「もしかしたら あの大老と同じぐらい強いかも…!」と言っていますが、どうなのか。


城が燃えた時、フォンティーンは大老の力によって体を動かせなかったのだから、やはり大老の方が強いのだろうと思うんですが。
でももしかしたら血の神に何か特別な力を授かったかもしれないですね。


②ポーの村は議会制だった


なんと、村には評議会があったんですね!
そうか、クロエやシルバーが独断で物事を決めるわけじゃなかったんだ。


じゃあ例えば、「今年はどの人間をエサにしようか」とか、エドガーが村と契約を結んでいた期間は「今年は誰がエナジーをもらいに行くか」とか相談してたんですかね。
それにしても出てくるなり一瞬で消されたジェーンって可哀想すぎる…。


③ゴールドの再登場


今号で何が一番驚いたかというと、これですよ!
いや、前回、村人の中にロリータファッションの若い娘がいるなあとは思っていたんですが。


ゴールド。
「春の夢」でシルバーと一緒にエドガーのエナジーをもらいに来て、2コマ描かれただけでその後全く登場せず、「何のためのキャラだったんだろう?」と思っていたら最後の最後にクロエにエナジーを絞り取られてミイラ化。


「この子の存在理由って干からびることだったのか。なんと不憫な…(涙)」と思い切り同情していたら。
まさかの再登場!
しかも前より可愛くなってる!


こちら初登場時(1944年)↓

 

(フラワーコミックススペシャル『ポーの一族 春の夢』2017年 小学館より)


こちら現在(2016年)↓

ね、可愛くなっていますでしょ?
そういえばケイトリンも再登場時にはキレイになってましたっけ。
こうして出てきたからには何か役割があるはずで、どんな活躍をするのかケイトリンともども楽しみです。


ついでと言っては何ですが、こうして見るとシルバーも初登場時は今と違って渋かったですねー。


◆◆◆◆◆◆

 

さて、アーサーの家では人間になってしまったアランをどうするか会議中。


アーサー→人間界に戻す方がいいのではないか

マリアとアイザック→一族の秘密を知り過ぎているから殺すしかない

オリオン→血の神が行き場を失うから殺してはダメ

アイザック→記憶を消して放り出そう


え、ちょっと待って。
記憶操作?
ニセの記憶を植え付ける?


そんなことが出来るんだ!
いやあ、いろんな能力を持つ人達がいるんだなあ。


それにしても皆勝手なことを言っていますが、アランと一緒に暮らすという選択肢は誰にもないわけですね。
なぜなら人間は「食料」だから。


だけどエドガーの気持ちはどうなんだろう?
前回「無理だ」ときっぱり言っていたけれど、アランと暮らしたいはずだと思うんですが。


で、思い出したのですが、「秘密の花園」Vol. 10 でシルバー、エドガー、アランがリデルの話をしていましたよね。


あ、もしかしたら「リデル・森の中」を未読の方もいらっしゃるかもしれないので補足すると、リデルは人間の小さい女の子です。
エドガーがやむをえずリデルの両親を殺してしまったので見捨てておけず、数年間育てて祖母の元に帰しました。


エドガーは始めからリデルを家に帰すつもりだったんでしょうが、「秘密の花園」でアランはこう言い放ちましたからね。


「あれはエサだもん」

「『赤ずきんちゃん』みたいに太らせて
エドガーが喰うと思ってた」

「でも逃がしちゃうし」


そこに「それを言うなら『ヘンゼルとグレーテル』だろ」とツッコミを入れるエドガー。
この会話が面白くて好きなんですけど、これって要するに特別な情を寄せている相手でない限り、バンパネラにとって人間は等しく「食料」としか見なされないってことですよね。


つまりアランはエドガーとなら一緒に暮らせるかもしれない。
でもエドガーの目の届かないところで誰か他のバンパネラに喰われてしまうかもしれない。
うーん…。


「人間のアランをどうするか」という議論はまだ続きそうですが、個人的にはそれよりも「どうしたらアランをもう一度バンパネラにできるか」を考えてもらいたいです。


だって人間に戻ったその日からアランは年をとり始めているんですよ。
11月30日の誕生日が来たら15歳になっちゃうじゃないですか!
私にとって「ポーの一族」は「永遠の14歳のエドガーとアランの物語」なので、アランがエドガーより年上になったら、もう「ポーの一族」じゃないんですよ――!(←必死)


えーっと、今は何月?
ファルカがアーサーから「エドガーが現れた」と聞いたのが2016年5月(「ユニコーン」Vol. 1)。
ミュンヘンで会ったのは5月? 6月?
それからエドガーはアーサーの家に帰って来て、すぐにベニスへ行き、影の馬車でヨークまで行って帰って…
まだ6月頃?


6月だとしても11月30日まで5か月しかないんですよ。
その間にアランをポーに戻さないと!


ふと思ったんですが、この「青のパンドラ」でアランの誕生日が公表されたのは、もしかしてタイムリミットを設けるためだったんでしょうか?
エドガーの誕生日は萩尾先生がご自身と同じ5月12日と決めておられますが、作品中で言及されたことはありません。


アランは何の情報もなかったのにどうして突然誕生日が出てきたんだろうと、実は前から引っかかっているんです。
マーク・トウェインの誕生日と同じ」ということにばかり気を取られていましたが、むしろ日付の方が重要なのかも。


ちなみにマーク・トウェインハレー彗星が現れた年に生まれて次に再来した年に亡くなったという話から、彗星が何か関係するのかなと思ってちょっと調べてみましたが、2016年に特別なことはなかったようでした。
ただ『ハックルベリー・フィンの冒険』は、のちのち出てくるんじゃないかなという気がしています。


皆が議論する一方で、当のアランはベッドで泣きじゃくっていたり、息を止める練習をしたりと可愛いです。
マリアとアイザックに生意気な口をきくのも可愛い。
でも人間の体にはなかなか慣れないようで苦労していますが、一体どうなるんでしょうか。
早くポーに戻れますように!


「青のパンドラ」は来月は再びお休みで、Vol. 9 は9月末発売の11月号とのこと。
発売を楽しみに待ちたいと思います。
なお10月号は田村由美先生のデビュー40周年記念号で、萩尾先生と田村先生のプレミアムトークが掲載されるそうです。


◆◆◆◆◆◆


「青のパンドラ」Vol. 1~7 の感想はポーの一族カテゴリー一覧からご覧頂けます。よろしければどうぞ。

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~2023. 8. 12 追記~


扉絵の楽器について家族が教えてくれました。
モンゴルの馬頭琴だそうです。
確かに馬の頭の飾りが付いていますね。