亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(82)「秘密の花園 Vol. 10」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪

 

10回に渡って連載されたポーシリーズ「秘密の花園」が、ついに完結しました。
扉絵はこちら。

 

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小学館『flowers』2021年11月号より。下も同)


完結しましたけど私にはよく分からないところもありまして。
それも含めて順を追って感想を書いていきたいと思います。


冒頭はエドガー、アラン、シルバーの会話から。
シルバーとエドガーが、アーサーにエドガーとアランの後見人になってもらおうと言って、アランが嫌がっているところです。


で、早速ですが


わからないこと①
前の後見人のウィンクル氏は結局何者なのか?


とうとう名前しか出てきませんでしたがウィンクル氏ってやっぱりポーなんでしょうか。
基本的に仲間は呼び捨てなのに「氏」を付けているので、人間なのかな?という気がしないでもないのですが。
でも仲間でも「ポリスター卿」とか「ポラスト先生」(この人の正体も不明ですが)とか言うから、単に弁護士に対する敬称の可能性が高いかな。
ポーならば今後登場するかもしれないので期待しています。


そのウィンクル氏はエドガーの居所をポーの村に逐一報告していました。
それをエドガーが知って激怒したので後見人を交代させることにした訳ですね。
村としてはエドガーに帰ってくるよう再三言ってきたけれど、後見人が連絡役を務めることをエドガーが受け入れて、お互いに譲歩した形でしょうか。
アーサーなら身元も確かだし、エドガーと心が通じ合っているので適任ですね。


ところで私はアランとシルバーは「春の夢」(1944年)が初対面だと思っていたのですが、この時にもう会っていたとは意外でした。


アランがリデルをエサだと言い放ったのも、びっくり。
まあエドガーはメリーベルの小さい頃を思い出して可愛がっていたのでしょうが、アランは小さい子に特に思い入れはないですもんね。


・*・・*・


一方アーサーはセス(セシリア)に先日の非礼を詫び、身の上話を聞きます。
セスにシビルという妹がいたことや、兄のセシル(アーサーより1歳下)がアーサーと同じ大学に在籍していたことは初めて知りました。


しかもセシルがアーサーにいじめられて中退したとは。
アーサーにしてみればセシルは父グローブ氏と浮気相手の間の息子で、母メリッサを自殺に追い込んだ元凶みたいなものなので、許せなかったのも分かりますけど。
セスのセリフで「父が学生になぐられて大ケガ」というのは多分「兄」の誤植じゃないかと思います。


アーサーはロンドンの寄宿学校に入学後、時々グローブ氏に会っていたんですね。
でも父はアーサーの顔をまともに見ず、成績のことしか聞かなかった。
病気のシビルに冷たかったというのも、この人ならそうだろうなと思います。


そんな父に対するアーサーのモノローグ


「父が無残に ぼくと母を捨てたとしても
よけいなものを切り捨てても 憎まれても
幸福になろうとした勇気には敬意を払うよ」


ある点では認めていて、セスと出会って心境が変化したんじゃないでしょうか。
それはセスの母セーラに対しても。
セーラが何不自由ない暮らしをしていたにも関わらず、シビルを亡くしてから離婚覚悟で看護の仕事に戻ったと聞いて


「…きみのお母さんは強い人だね」


この時アーサーは亡くなった自分の母と比べていたのかもしれません。


「生きよう」とアーサーを励ますセス。
セスが看護人として来てくれて良かったなあと思うのですが、アーサーが療養所に入ったことをどうして知ったのかは結局わからずじまいでした。


・*・・*・


風の夜、シルバーがアーサーの枕辺に現れます。
「はるかな時間の旅人です」って、ずいぶんカッコいいじゃないですか。
「人間界とは時間の流れが違うので…」「ほんとに人間の命は短い…」
バンパネラにとっては人間の10年、20年が1年位の感覚なのかな。


アーサーの様子をエドガーとアランに伝えるシルバー。
アーサーが長生きしたがっていないと聞いて2人は


「アーサーは人間として死にたいんだよ」

「人間として生きたいって言ってくれ」


この会話、ツボでした。
もっと好きなのは、アーサーに服がひどく流行遅れだと言われて傷つくシルバー。
「あの………このタイは やはり古いでしょうか?」「ロンドンの紳士服店に行くべきでしょうか?」って、なぜ急にエドガーとアランに丁寧語?
シルバーって「春の夢」に初登場した時からどんどんキャラが変わって面白いですね~。


・*・・*・


パトリシアはマルコからアーサーが療養所にいることを聞き、見舞いに駆けつけます。
「行くんなら二度と家に入れないぞ!」と息巻く夫オリバーを無視して。


オリバーはビクトリア時代中流階級の男性の典型みたいな人ですね。
妻は夫に従属するもの。
良い妻、良い母として家庭を守るべし。
美しく着飾った妻は夫のステータスシンボル。
まさにそういう考えの人で、上流階級のグローブ氏もそれは同じ。


でもパトリシアは夫の浮気に怒って実家に帰ったり、アーサーを愛していると宣言して見舞いに行ったり。
セーラも「妻が働くなんて…恥だ!」とぼやくグローブ氏をよそに、誇りをもって仕事をしている。
2人とも自分の意志を貫く新しい女性で魅力的だなと思います。


パトリシアが療養所に向かってからアーサーと語り合う流れは、とてもドラマチックですね。
アーサーの「ま昼の夢かな…?」という言葉に「ペニー・レイン」を思い出しました。


そこからは2人の姿が1コマごとに次第にアップになり、それが波のように繰り返されて映画を見ているよう。
特に横長のコマだけで構成されているページは向き合う2人が交互に映し出され、臨場感があって引き込まれました。


しかも一連のセリフが宝石のようで、その点は舞台劇を思わせます。
ここですべて引用したいところですが、さすがに長過ぎるのでアーサーが「パトリシア……私と結婚してください」と言った後の最後の部分を書かせて頂きます。


「もちろん きみはぼくと結婚できない
人妻だし ぼくは病気だし
これは ぼくの夢の言葉なんだ
でも真実の言葉なんだ」

「おかしいだろ
これだけのことを言うのに
長い時間がかかってしまった!
ほんとに おかしいな!」

「……」

「パトリシア」

「では私も夢の言葉で
お返事をするわ」

「アーサー…
私は すべてを捨てて
あなたの手をとります……」

「パトリシア
きみは今 ぼくに永遠を与えてくれた」

「いいえ
永遠をくれたのは あなたよ」


パトリシアが夫婦喧嘩して帰って来た時にもアーサーはプロポーズしましたけど、あの時は2人とも理性を失っていた感じでした。
でも今度はお互いに覚悟のようなものがあって、現実には結婚できないと分かっているけれど永遠の愛を手に入れたんだなあと思います。


パトリシアは帰宅後子ども達を抱きしめて「あなたたちは お母様の宝物よ 命より大切な」「永遠なの……許して…」と言います。
これは子ども達への愛もまた永遠だから3日も家を空けたことを許して、ということでしょうか。
それとも、お父様以外に永遠に愛する男性がいる私を許して、という意味なのでしょうか。


・*・・*・


その後、今度はエドガーとアランがアーサーの枕辺に現れます。
自分達がバンパネラだと明かし、ポーの一族に加わらないかと誘うエドガー。
この時の表情がバンパネラっぽくて良いな。
去り際のエドガーの言葉


「メリッサに お願いされたんだ あなたのことを」


アーサーが「母に? なんて?」と問うと


「怪物に いったい何を お願いするんだろう?」


はい! 突然ですがここで


わからなこと②
メリッサの願いは何だったのか?


まあ普通に考えると母親として「アーサーを守ってほしい」的なことかなと思っていたのですが、この文脈からすると「永遠の命を与えてほしい」とか?
でも、そんなお願いしますかね?


もしかしたらヒントになるのかなと思うのが、エドガー達が去った後のこちらのコマ。

 

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光のようなスクリーントーンと、リボンのようなもの。
これらは少し前のパトリシアがアーサーを見舞った場面でも描かれています。

 

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光のようなものについては私は前からメリッサの霊を表しているのではないかと思っていて、今号もアーサーがセスや婦長と話す場面に使われています。
リボン状のものの方は初めて描かれたと思うのですが、何の象徴なのでしょうか。


わからないけどエドガーの言葉をメリッサが黙って聞いて頷いているような気がするんですよね。
メリッサはアーサーにポーの一族に加わってもらいたいのかな?


・*・・*・


そして墓地のそばでセスと話していたアーサーが倒れ、物語はクライマックスへ!


シルバーが駆けつけ、セスに人を呼んでくるように言ってアーサーを近くの教会に運びます。
そこにはエドガーとクロエをはじめ、数人の一族が。
ついにアーサーは「きみらの旅に…私も加わろう…」と心を決めます。


あの…これってあれですか?
いよいよアーサーの最期の時が近づいているとみて一族がずっと待機してて、時機を逃さず教会に運び、セスが人を連れて来るまでの間に儀式をすませて速やかに撤収したってことですか?
そして後には仮死状態のアーサーだけが残されたと。(シルバーは、いたかも。)
なんとスリリングな!


そして1か月後に墓地を掘り起こしたら棺が空だったということは、アーサーは仮死状態のまま埋葬されて目覚める頃までに棺から出されたのかな。
それか棺は最初から空で、一族が墓掘りに化けて埋めたとか?


ここで更にもう1つ


わからないこと③
アーサーはなぜ一族に加わろうと決めたのか?


以前のアーサーは絶望のあまり人間をやめてエルフになりたがっていましたけど、今はだいぶ心穏やかになっていますよね。
パトリシアの永遠の愛を得られたし、父の一家に対する憎しみの気持ちも変わったし。
人間として死ぬこともできたのに、なぜ?


メリッサが望んでいると思ったから?
エドガーに惹かれていたので共に旅をしたかった?
これまでの人生が苦しいことばかりだったから、パトリシアの夢の返事を心に抱いてバンパネラとして生き直してみたくなった?


いつか萩尾先生のお答えを聞けると嬉しいです。


それから私は他にも気になることがあるんですよ。
儀式の場にアランがいないのは一族と認められていないからですよね。
何なら、ついでにこの時アランの儀式もやってもらえば良かったのに、と思うんですが…。


やっぱりクロエとしては絶対に認められないんでしょうね。
エドガーと違ってアランは大老の直系じゃないから、仲間にしても何のメリットもない。
それどころか子どもが一緒だと危険にさらされるリスクが高まるので、むしろデメリット。
また、一族の承認なしに勝手に仲間にしても許されるという前例を増やしても困るし。


でもクロエはこの時にアランを消そうと思えば消せたはずなのに、そうしなかったのは大目に見てやったということ?
それと引き換えに例の契約が結ばれたのかな。
あ、もしかしたらクロエが手出し出来ないようにエドガーがアランを隠したのかも。


あと、どうでもいいことですが、人間が一族に加われるのは生きている時だけなんでしょうか?
死亡直後でも、もう無理なのかな。


何にしてもアーサーは無事に目覚めてエドガー、アラン、シルバーと仲良く馬車で旅立ち。
シルバーとアーサーはこの後も連絡を取り合っていくんでしょうね。


・*・・*・


そして物語はまたまた急展開。
一気に2000年へ!


クエントン館にバラのアーチが完成し、華やかなオープニング。
館は10年前からアーサーが借り受けてアーチを造成したとのこと。
大切な思い出の花園のアーチを。


そこへ招かれた車椅子の老人。
「ジョン? 誰だっけ?」と一瞬思ったものの深く考えなかった私ですが、いやー本当にびっくりしましたよ。


オ、オービンさん、生きてたんですか――っっっ
100歳まで!!!
いや、100歳でこの元気さなら、あと16年頑張ってエドガーに再会できるんじゃ?


しかもオービンさん、あの「エディス」のラストで執筆し始めた本を出版していました。
ジョン・オービンの吸血鬼伝説『はるかなる一族』という本を!(あるいは「ジョン・オービンの吸血鬼伝説」もタイトルに含まれるのかも。)
オービンが2016年まで生きられなくても、この本を読んだ誰かが新たなバンパネラハンターになるかもしれないですね。


オービンは一度だけアーサーをチラッと見たことがありますが、今度はアーサーが顔の傷を隠しているので気づきません。
もし傷を見たら怪しんだでしょうか。
この2人がエドガーの話をしているのを見るのは感慨深いものがあります。


ラストはファルカとブランカも登場。
アーサーはいずれ館をホテルにする計画だそう。
では今後、そのホテルが新たなエピソードの舞台になるのかも。


次のエピソードは、いつの時代の話になるのでしょう?
いよいよ2016年以降に繋がるのでしょうか。
早く読みたくてワクワクします!


・*・・*・

 

秘密の花園」は単行本の第2巻が11月10日頃に発売予定とのこと。
まとめて読めば新たな気づきや感想が生まれるかもしれません。


発売日にはきっとまたCMが流れますね。
ナレーションがどなたなのか楽しみです。


その前に10月28日頃発売の『flowers』12月号には、ショートよみきり「満月」が掲載!
ショート番外編の「〇曜日シリーズ」とは違うんですよね?
じゃあページ数も4ページより多いのかな。
こちらもとても楽しみです ♪


~2021. 12. 21 追記~


記事の中でセスのセリフの「父」が「兄」の誤植ではないかと書きましたが、単行本で変更されなかったので正しかったようです。
大変申し訳ありませんでした。

 

・*・・*・


秘密の花園」これまでの感想はカテゴリー一覧からご覧いただけます。よろしければどうぞ。

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(81)「秘密の花園 Vol. 9」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


1回お休みを挟んで「秘密の花園」再開です。


1ページ目のエドガーとアラン、いいな、いいなと喜びながらページをめくると、扉絵がまた素敵でした。

 

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小学館『flowers』2021年10月号より。下も同)


シルバーが宿泊しているホテルでしょうか。
バラに彩られたバルコニーで言葉少なに昼の月を見上げる2人。
この絵、個人的にすごく好きです。
何だか懐かしいエドガーとアランが帰って来たみたいでホッとするんですよ。


・*・・*・


さて、物語の方は。
お休みの間、先が気になりつつも「予想したってどうせ当たらないんだから無駄だよね~」と思っていましたが…。


やはり萩尾先生、想像の斜め上を行く展開でした。
思いがけない人物が次々に登場するし。


まずはダイアナの件ですね。
私は弟のダニーが金銭目的でダイアナをそそのかしてアーサーに接近させたのかと思っていたのですが、ダイアナ自身が計画したとは驚きでした。


ダイアナはアーサーに近づいた時、すでに妊娠していた。
相手については触れられていませんが、結婚も養育費も望めない人だったんでしょうね。
過去に別の男にだまされて子どもを堕ろしていたので、今度は産みたくてアーサーに目を付けた。
準男爵の跡取りなら、もし結婚できれば万々歳だし、結婚できなくても手切れ金をもらえると踏んだのでしょう。
努力して独学でピアノ教師になった程なので、意志が強い女性だったのかなと思います。


ダニーは「姉はあなたを愛していた! 打算だったけど愛していた!」と言いましたが、もしダイアナがそう言ったのならそうなのかもしれません。
一方アーサーにしてみれば容貌に対するコンプレックスが大きかったし親の愛を知らず孤独だったので、お世辞でも心地良かったんだろうなと思います。


アーサーとダニーは同時に重大な告白をした訳ですが、動機が似ているようで反対なのがちょっと面白いです。


アーサーはパトリシアからの愛の手紙がいつも手に入らないのはダイアナを死なせた罰だと思い、自分は幸福になってはいけない、もっと罰を受けるべきだと告白する。
ダニーは自分が幽霊に窓から突き落とされたのはアーサーをだました罰だと思って、赦しを請うために告白する。


私がアーサーの告白の中で「おっ」と思ったのは「ダイアナに薬草の入ったお茶を飲ませた」というところ。
Vol. 7 を読んだ時はワライダケの毒かと思って、ワライダケで死ぬのかなと不思議だったのですが、薬草だったんですね。
わかってスッキリです。


結局ダニーはアーサーの言葉に耳を貸しませんでした。
衝撃の事実を知ったアーサーがどういう心境だったのか想像してみると、


ダイアナが死んだ時は後悔したし罪悪感に苦しんだが、だまされていたなんて!
裏切られた、ハメられた、というショックと怒り。
何のためにダイアナまで死なせてしまったのだろう。
子どもだって殺す必要はなかったのに。
今までの後悔や苦しみは何だったのか。
しかし恨んでもどうにもならない。
これもすべて罰なのだろうか。


こういう気持ちでしょうか。
誰かに慰めてもらいたくても、エドガーもフォルテもいない。
「ランプトンのいない部屋」が、こんなに辛い虚ろな絵だったとは。


「エルフになりたい
エルフになれば
後悔や苦痛から逃れられるだろう」


この言葉が切実に響きます。


・*・・*・


病気が結核と分かり療養所に入ったアーサー。
そこに現れた2人の人物にも、びっくりでした。。


1人目、ドミニクの母ドロシー。


私はこの人が再登場するとは思っていませんでしたし、ましてパトリシアからの手紙を持ち去ったのがこの人だったなんて考えてもみませんでしたよ!
でも話を聞くと「そうかぁ」と納得してしまいました。


17年の時を経て手紙を読むアーサー。
もし17年前に受け取っていたらパトリシアと結婚していたかもしれないのに…。


「きみの恋を笑った 私への復讐か!? ドミニク」


ダイアナやダニーのみならずドミニクにも裏切られた思い。
少し前までドミニクとの思い出は優しく懐かしいものだったからこその、怒りと絶望。
断ち切ったはずのパトリシアへの未練が再び押し寄せても、どうにもならない。


アーサーが人間をやめたいと思う気持ち、もう十分伝わってきますよね。
アランが人間やめたいと思った時の10倍くらい強いのでは?
でも、まだこれだけじゃ終わらないんですよね。


・*・・*・


思いがけない人物の2人目、看護人のセシリア(セス)。


グローブ氏の再婚相手セーラの娘。
アーサーの6歳下の異母妹。
5歳上のセシルという兄もいます。
母のセーラが看護士だったので看護の道を志したのかな。


グローブ氏に頼まれて来た訳ではないけれど、グローブ氏はセシリアと婦長に「昔アーサーに殺されかけた」と話したという。
どういう経緯でアーサーの看護人になったんでしょうか?


アーサーにとってセシリアは母メリッサを自殺に追い込んだ憎い女の娘。
でもセシリアはいい娘で献身的に看護してくれるし、メリッサやアーサーに罪の意識を感じている。
セーラがバラの実から作ったというハーブティーを淹れてくれますが、もしかしたらセーラもアーサーのために何かしたくて持たせたのかもしれません。


今まで一方的に憎んでいた相手も苦しんでいたと知ってハッとするアーサー。


「怒りが私を醜くする
やはり私は醜い鬼だ
助けてくれ……
ランプトン……」


遂に自分自身にも絶望してしまいましたね…。


ところでセシリアの周りに例の光のようなスクリーントーンが何箇所も貼られているのですが、もしかしてメリッサが見ている?


・*・・*・


さてさて、お待ちかねのエドガーとアランです!


出番はあまり多くありませんが、一緒に行動しているのを見るのは久しぶり。
それがとても2人らしいと言うかいつもの彼らで、「そうそう、これこれ、この感じ!」と嬉しかったです。


1ページ目で昼の月を見上げながら「ねえ…ぼくはずいぶん眠ってしまっていたんだね? エドガー」と言うアランに「うん 眠ってたよアラン 月に行って帰ってくるぐらい長く」と返すエドガー。
そんなに長く感じていたのかと思ったら、「心配した?」「少しね」。
彼らが帰って来た~!と思いましたよ。


エドガーとマルコの会話に割り込んだアランに、エドガーが「ちょっと黙って」と言うのも個人的にツボでした。


アランの髪が「ポーの一族」の頃に近いのも嬉しくて。
(前回まではちょっと違う気がしていたので…どうもすみません。)


面白かったのは池のほとりで2人が会話しているコマ。

 

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アランが食べかけのビスケットみたいなものを持ってるんですよね。
立ち食いしてるのかと思ったけど、すぐ後のコマではもう持ってない。
で、前に戻ると水中に頭を突っ込んでいるカモのアップが。
あ、カモにやってたのか!
萩尾先生の遊び心が楽しいです。


ところで2人がクエントン館に戻った直接のきっかけは、アランがランプトンの絵を見たがったからなんですね。


そして療養所のアーサーの前に現れたエドガー。
喜び、意識を失ったアーサー。
エドガーはこの後、どうしたのでしょうか。
次に現れるのは、いつどんな時?


グローブ氏やセーラやセシルも登場するのか。
メリッサの霊は?
パトリシアもアーサーへの未練が残っているようだし、続きが楽しみです!
(もしや次回ですべて片付いて完結なんてことは…ありますかね?)


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(80)「クールキャット」「ケネスおじさんとふたご」~可愛いドタバタ劇/「プシキャット プシキャット」

秘密の花園」が1回お休みなので、久しぶりに萩尾先生のデビュー直後の1969年から73年までの作品をご紹介したいと思います。
今回スポットを当てるのは小学生向けの楽しい2作品「クールキャット」と「ケネスおじさんとふたご」です。


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「クールキャット」

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「クールキャット」は「ルルとミミ」「すてきな魔法」に続く3作目で、前2作と同じく『なかよし』70年2月号に掲載された31ページの作品です。
萩尾望都作品集』に収録されている作品の末尾には「1969年11月」と記されています。
扉絵がこちら。

 

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(『萩尾望都作品集1 ビアンカ』1995年 小学館より。下も同)


凝っていて可愛いですよね。
女の子は主人公のデニス。
題字も先生の手書きなのでしょう。
その左右には英語が書かれています。


「MY HEART
MY LOVE
MY FUNNY
MY BABY
MY PRECIOUS
COOL CAT」

「COOL CAT
COOL CAT
OH OH YEA!」


先生のネコ好きは有名ですが、この頃からネコ愛が溢れているような。
左下の窓辺に本が3冊並んでいて、タイトルが一部隠れているのですが、先生のお好きなモンゴメリのエミリー・ブックス『可愛いエミリー』『エミリーはのぼる』『エミリーの求めるもの』だと思います。
また、1ページ目でデニスが広げている本 ↓ は『星の王子さま』のようです。

 

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さて、お話は…


ある雨の日、デニスが家に帰って来るとネコが一緒に家の中に入ってきました。
ネコ嫌いのお母さんが追い出そうとしてもネコはすばしっこくて捕まりません。
家族総出で追いかけてもダメ。
それもそのはず、実はそっくりのネコが2匹いたのでした。


その日から迷惑な家族をよそにネコ達はクールな顔をして家に居座ってしまいます。
そっくりで見分けがつかないのでデニスはどちらにもクールキャットと名前を付けました。


ある晩、お父さんの友人の音楽家・グレープル氏とお客さんを招いて音楽会が開かれます。
ところが部屋に閉じ込めたはずのクールキャットが抜け出してピアノの伴奏に合わせて鳴き始めたので音楽会は台なし。
けれどグレープル氏はクールキャットを訓練して歌手にすると張り切るのでした…


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分かりやすいストーリーで絵も小さい子向けに可愛く、ドタバタ場面の多い楽しい作品です。


主役とも言えるネコ達はこちら。
ピアノも弾くし窓の鍵も冷蔵庫も瓶の蓋も開けてしまうスーパーネコです。

 

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この作品には音楽家のグレープル氏が登場しますが、73年発表の「キャベツ畑の遺産相続人」にも音楽家でなぜか地質研究をしているグレープル氏という人が出てきます。

 

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「クールキャット」

 

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「キャベツ畑の遺産相続人」
(『萩尾望都作品集10 キャベツ畑の遺産相続人』1995年 小学館より)


絵はかなり変わっていますが似ていますよね。
先生お気に入りのキャラクターだったのでしょうか。
もしかすると身近な人がモデルなのかも?


この「クールキャット」以上にネコが沢山出てくる作品に74年発表の「プシキャット プシキャット」があります。
1969-73年作品のカテゴリーからは外れてしまうのですが、個人的にとても好きな作品なので一緒にご紹介させてください。

 

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(『萩尾望都作品集2 塔のある家』1995年 小学館より)


「プシキャット プシキャット」は『週刊少女コミック夏の増刊フラワーコミック』に掲載された4ページの短編です。
色々な種類のネコがゾロゾロ出てきます。
ショートショートなので内容は明かせないのですが、ちょっとブラックなオチが効いていて絵がとても可愛くて大好きな作品です。


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「ケネスおじさんとふたご」

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「ケネスおじさんとふたご」は講談社で採用されず『別冊少女コミック』71年9月号に掲載されました。
萩尾望都作品集』の作品末尾に「1969年8月」とあるので描かれたのは「クールキャット」より早いようです。
32ページの作品で珍しい西部劇。
扉絵はこちら。

 

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(『萩尾望都作品集4 セーラ・ヒルの聖夜』1995年 小学館より。下も同)


この扉絵には西部劇にまつわる英単語が書かれています。


「OH!FRONTIER
THE GREAT PLAINS
 COW BOY
 BUFFALO
 COLT
STAGE COACH
TOMAHAEK
TEN-GALLON HAT
BOOT HILL…」


さて、お話は…


両親を亡くした6歳の双子ミシェル(男の子)とボニー(女の子)は、ネーブルおばさんに連れられてブラボータウンの保安官・ケネスの元へやって来ます。
ケネスは双子の母の弟で、一番近い身内だからと押し付けられたのでした。


いたずらでわんぱくな2人に振り回されながらも可愛がるケネス。
一方で、丘の所有権をめぐるビッグ・ベンとリトル・ベンの長年の争いに頭を悩ませていました。


そんな中、双子からの手紙を読んでケネスには任せていられないと、ネーブルが2人を引き取りにやって来て…


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こちらも小さい子が主人公のテンポのよい作品です。
「クールキャット」に比べると話がやや複雑でロマンス要素もあるので、こちらの方が少し年長の読者を想定しているのかなという気がします。


私が特に好きなのは、ミシェルが酒場で葡萄酒をひと瓶飲んで酔っ払うところ。
そして学校で子ども達にからかわれ、ボニーが「なによ あんたたちミシェルみたいに さあ! ぶどう酒ひとびん飲んで ひっくりかえってみなさいよ!」とタンカを切って黙らせてしまうところです。


ネーブルビッグ・ベン、リトル・ベンといった脇役達も個性的で面白い。


また、初期作品には魅力的なおばあさんがよく出てくるのですが、この作品のチャービーばあさんもその1人。
ケネスが「止まった時計が動き出した時が、自分が死ぬ時」と信じていることについてミシェルとボニーに言う言葉が心に残ります。


「だれでも
なにかひとつ
神話を信じてるだろうさ
だれでも…ねえ」


「クールキャット」もですが、この作品にもあちこちにローマ字の書込みがあり、読むのが楽しいです。
ちょっと面白いのがこちら。

 

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インクの染みのところに矢印があり「NEZUNAIKA NO HOUKIBOSI」(ネズナイカ箒星)と書かれています。
私は読んだことがないのですが『ネズナイカのぼうけん』という本の中に出てくる言葉のようです。


そして次のようなハッと胸を突かれる書込みもありました(オリジナルはローマ字)。


「作品が商品としての価値を望まれている時 創作意欲というのは どこへ行くのでしょう たわごとに過ぎません」


当時『なかよし』の読者には向かないという理由でボツになった原稿は他にいくつもあったそうで、先生の心境を想像して辛くなります。
後にそれらは全て小学館で発表されました。
本当に良かったです!


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記事内の作品はこちらで読めます

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「クールキャット」「ケネスおじさんとふたご」

 

 

「プシキャット プシキャット」

 

 

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1969-73年作品をご紹介する過去記事はカテゴリー一覧からご覧いただけます。よろしければどうぞ。

1969-73年作品 カテゴリーの記事一覧 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

(79)「秘密の花園 Vol. 8」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


前回、アランがホラー映画のように目を開けるという衝撃的なコマで終わった「秘密の花園」。


ど、どうなる!?
もしや珍しい狩りの場面が展開されるのか!?
おののきつつも、いやいや「花の中のランプトン」の絵はまだ仕上がっていないようだからアランはまた眠ってしまうだろうとタカをくくっていた私ですが…


甘かったです。
まさか絵が前日に完成していたとは。


という訳で(?)今号の扉絵はこちら。

 

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小学館『flowers』2021年8月号より)


物語の中にタイトルが組み込まれたスタイルです。
緊迫感が途切れなくて良いですね。


・*・・*・


で、アランですよ。
私の予想を上回る迫力で、ひえ~っと驚きながらも、目が光っているコマとかフォルテに噛まれて流血する首を両手で押さえている正面向きのコマとか、いいなあと思って見てしまいました。


狩りの場面というと旧シリーズでは美しい印象が強かったのですが、新シリーズは違いますよね。
特に「春の夢」のエドガーと今回のアランは怖い。


勝手な想像なのですが「春の夢」のエドガーはブランカの視点で、今回のアランはポールとポーラの視点で見たリアルなモンスターとして描かれているからかもしれません。
それに比べるとパトリシアの祖父母やブラザー・ガブリエルを襲う場面は読者目線なのでモンスターになっていないのかも。


エドガーが妹思いのポールを脅すところは、「メリーベルと銀のばら」で儀式を目撃したエドガーを一族がメリーベルを人質にして脅していたのを思い出しました。


・*・・*・


ケイトリンの過去もびっくりでしたね!
前号で登場した時、普通の人間と違う感じがして始めは「もしやポー?」と疑ったのですが「村から逃がしてもらったのだからそんなはずはない」と、これまたタカをくくってしまい…甘かったです。


そういえばVol. 4 の予告に「そして訪れる村からの使者。」という一文があって「ブラザー・ガブリエルが登場したけど村からの使者じゃないよね~?」と不思議に思っていたのですが、あれはもしやケイトリン登場のフライングだったんでしょうか。


それからシルバー。
9月からずっとレスター駅の近くのホテルに滞在していたんでしょうかね?
そこでエドガーを見張りつつケイトリンを看護助手としてクラウディア先生のもとに送り込み、パトリシア一家に近づけて里帰りに同行させたと?


何と手の込んだことを!
さすが古参のポー。


そうなるとつい気になってしまうのがホテルの高額な宿泊費と諸々の経費。
これ旧シリーズからの謎なんですけど、もしかして錬金術でも使えるのかな。
それかエドガーも使っていた催眠術?


まあ、それはさておきシルバーは犬を使うんですね!
新事実。


そして吠える犬に怯えるアラン。
ああ~、やっぱり!
ユニコーン Vol. 3」でアランが犬を怖がっていたのがずっと引っかかっていたのですが、フォルテに噛まれたせいだったんですね。


このこととシルバーが犬を使うことは今後別のエピソードにも関わってきそうなので覚えておかないと。
ユニコーン Vol. 1」で2016年(正確には2015年の暮れ)のアーサーはフォルテ位の大きさの犬を飼っているので、何かあるかもしれません。


なぜか何度も出てきたオオアラセイトウの花も、ついでに覚えておきます。


エドガーとアランがこれからどうなるのか、とても気になりますね。
例の「契約」が結ばれて2人は自由になるのでしょうか。


ケイトリンが村との連絡役になるのかも。
いや、そうすると「春の夢」でのエドガーとクロエの会話がおかしくなるから、それはないのか。


・*・・*・


ポールとポーラは運が悪かったとしか言いようがありませんね。


ポーラは本当に何ともないのかな。
「小鳥の巣」のキリアンみたいな単なる貧血状態だったなら大丈夫でしょうけど。


ポールは「春の夢」のアダムに続いて、またも少年の目撃者。
これがトラウマにならなければいいのですが。
アーサーは上手く収めたなと思います。


そういえばアダムは、あの後も誰にも話していないのかな。
後にキーパーソンとして登場するのではないかと密かに気になっています。


・*・・*・


さて、問題はアーサーですよね。
パトリシアとはお互いに何も言わず心の中で別れを告げました。
これで人間界への未練にひとつ終止符が打たれた、ということでしょうか。


エドガーとアランが人間でないことはすでに感じ取っていましたが、今回の件でバンパネラだと察したのか?


次回ダニーを訪ねてまた話が動きそうですが、今後どのようにエドガー達と再会して一族に加わるのか?


可能性として、後見人の弁護士・ウィンクル氏が村と通じていたと知ったエドガーが、代わりにアーサーに後見人になってもらうべく戻って来るというのもありそう。
しっかりした大人が付いていなければ少年2人で人間界を生きていくのは壁が多過ぎますから。
でもウィンクル氏との関係は続くかもしれないし、分かりませんけど。


アーサーがよく咳をしているのも気になります。
「ランプトンは語る」では「8月末に33歳でなくなっています たくさん血をはいて 後年は病気だったらしい」と言われているので、もしかして不治の病とか?


いろいろ気になりますが来月は休載で続きは10月号だそうです。
萩尾先生、楽しみにお待ちしております!


・*・・*・


秘密の花園」これまでの感想はカテゴリー一覧からご覧いただけます。よろしければどうぞ。

ポーの一族 カテゴリーの記事一覧 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

(78)「秘密の花園 Vol. 7」

今回も思い切りネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪


今月は遅くなってしまいましたが、皆様もうとっくに読まれましたよね?
秘密の花園 Vol. 7」。


ラストシーン、私は本当にドキッとしました!
気を落ち着けて、まずは扉絵から。

 

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小学館『flowers』2021年7月号より)


エドガーはランプトンの服を着ています。
アランが目覚めた~!
と思ったら、物語の中でもそろそろ目覚めるようですね。


それでは今回は人物ごとに5つに分けて感想を書いてみます。


1 ダニー
2 エドガーとアーサー
3 パトリシア
4 新キャラ
5 アラン


・* 1 ダニー *・


前号でメリッサの霊に遭遇して2階の窓から転落したダニー。
てっきり死んでしまったのかと思ったのですが早合点でした。
どうもすみません。


病室にいる医師はVol. 1 に登場したドクター・ベイリーと、Vol. 6 に登場したアーサーの主治医と思われるドクター・ローソンですね。


急を聞いてダニーの妻のディジーと息子のディックが駆けつけました。


ディジーって健気な奥さんだなあと思います。
はじめはダニーが誰かに突き落とされたのかとアーサーの好意(と言うか罪滅ぼし)を無下にしますが、夫が回復して事情を知ると礼に訪れ、アーサーのために毎日祈るとまで言って。
貧しくてもプライドがあり純真で。


ディジーは多分、夫がアーサーをゆすろうとしていたことを知らないんでしょうね。
もし知ったら叱りつけそう。
妻としてのふるまいがパトリシアと対照的で、これは階級の違いなのかなと面白く読みました。


ダニーはロンドンの病院に転院することになりましたが、また登場するのでしょうか。


そもそも10年前にダニーの姉のダイアナがアーサーの子を身ごもったのは、姉が準男爵の息子にピアノを教えていると知ったダニーが、うまいこと玉の輿に乗せて恩恵にあずかろうとダイアナをそそのかしたんじゃないか…。


そんな気がしてるんですけど、さすがに考え過ぎですかね。
それにダイアナの死の真相について何か知っているのかも気になるところです。


・* 2 エドガーとアーサー *・


前回の記事で私は「アーサーがダイアナを直接手にかけたとは思わない」と書きましたが、どうやら間違っていたようです。


アーサーの衝撃の告白。


水仙…イチイ…
スズラン…ベニテングダケ……
ブラザーから教わった
毒のある植物やキノコのこと
笑いダケなんかすごいぞ!
笑いが止まらなくなる
笑って笑って死んじまうんだ!」


「子供なんか ほしくなかった
結婚なんか したくなかった
……ダイアナのアパートで お茶を入れた」


「…ただ赤ン坊だけが流れるはずだった
彼女まで…彼女まで……
それは………」


えーと、エドガーの言葉も合わせて素直に読むと、アーサーはワライダケを食べてダイアナの家に行き、お茶に毒を入れて飲ませたということですか?
その毒とはワライダケの粉末?


気になったので調べてみると、ワライダケ中毒の症状は主に幻覚作用で、他にしびれや嘔気などがあるものの死ぬことはないらしいです。
で、可能性としては


①妊娠していたので重症化して死に至った(実際にそういう例があるかどうかは置いといて)

②幻覚による事故死

③ワライダケではなくベニテングダケなどのもっと強い毒を使った


この中のどれかということでしょうか。


死因はお茶じゃなかった説も一応考えてみたのですが、傍目には流産で亡くなったように見える状況だったなら、やっぱりお茶の毒が原因のように思えます。
つまり、アーサーが殺したことに間違いない。


前号を読んだ時、私はダイアナの一件はアーサーにとって大した出来事ではなかったのではないかと思いました。
でも今は、アーサーはダイアナとの過去を決して忘れることはできなかっただろうと思います。
忘れようと努めて生きてきたかもしれませんが。
自分を「鬼」と言う所以は、ここにあるのかも。


ダイアナはパトリシアのような「心に住む」存在からは遠かったけれど、愛情が全くなかったとも言えず、だからこそ罪滅ぼしにディジーに経済的援助を申し出たのでしょう。
でもディジーはダイアナを愛していたから援助してくれると信じているので、アーサーはいたたまれない気持ちなんでしょうね。


そしてそんなアーサーが嫌がると分かっていて「毒キノコ」としつこく言うエドガー、大好きです(笑)。


エドガーがアーサーの告白に対して言った言葉が私にはとても印象的でした。


「エルフだって人を殺すことがあるんですよ…
ぼくには めずらしくも恐ろしくもありません
でもね…
エルフは殺しても後悔しません
人間と…違ってね」


そう、バンパネラにとって人間は生命の糧、麦と同じですから。


これを聞いてアーサーは眠っているアランが死体ではないかと疑い、2人で様子を見に行きます。
と、一瞬ぱちっと目を開け、また眠るアラン。


彼らは本当にエルフかもしれないと思い始めるアーサー。


「きみは見た目よりは長く生きてるのだろうね」

「きみはナマイキな少年でもあるだろうが
なまじな大人より
…長い経験を重ねている…
そんなふうに思えるよ…」


春の花が咲き始めた庭を歩きながらアーサーは言いました。


「次のランプトンは
花に埋もれてるのを描こう…
春の庭だ…」


いよいよエドガーが最後にモデルを務めた10枚目のランプトンですね!
ということは、この時すでに9枚目に取りかかっているんですね。


「ランプトンは語る」の中で4枚目から10枚目までの日付は言われていないのですが、オービンの「およそ20日に1枚の速いペースで描かれた」という言葉から20日ずつ数えてみると、9枚目は3月5日頃、10枚目は3月25日頃になります。
でも20日以上かかった時もあるだろうし、11枚目の「ランプトンのいない部屋」は5月20日で間が空き過ぎてしまうので、実際はもっと後なのだろうと思います。


エドガーが人間でないと分かっても受け入れるアーサー。
最後のランプトンの絵。
エドガーとアランがクエントン館を去る日、そしてアーサーが一族に加わる日が近づいているのを感じます。


・* 3  パトリシア *・


今回はパトリシアの家庭の様子が描かれました。
夫オリバー、12歳になったばかりの息子ポール、もうすぐ10歳になる娘ポーラ。
使用人も数人いる裕福な家です。


前号でパトリシアはオリバーの浮気が原因で家出していましたが、今号で母に連れられて家に戻りました。
でも夫に対しては常に敬語で無表情。


オリバーは小犬の一件からして相当な頑固者かと思っていたのですが、意外にも家庭を大事にしようと努力し始めています。
きっとパトリシアのお母さんが娘の代わりにお詫びして、うまく取りなしたんじゃないでしょうかね?
オリバーも妻に出て行かれてかなり焦ったと思うし。


アーサーにだまされたと嘆いていたパトリシアですが、偶然クラウディア先生に会って心がほどけていきます。


クラウディア先生、アーサーの祖母・グロリア夫人の絵の先生、名前だけは何度も出てきたけれど、やっと登場!
私は「月曜日はキライ」のマダムを思い出しました。


クラウディア先生がアーサーの話を始めた時、パトリシアは名前を聞くだけでも辛いのに傷口に塩を塗られたようで涙がこぼれます。
でもアーサーが母親に愛された思い出のない孤独な人だと分かり、自分をだましたひどい人という気持ちが薄れていく。
追ってきた彼を振り払ったことを申し訳なく思う。
この時、辛い涙は苦く温かい涙に変わったのではないでしょうか。


その夜は一家でポールの誕生祝い。
慣れない家族サービスに努めるオリバーが、ぎこちなくて何だか可愛い。


その後、アーサーが描いたレスターの絵を居間に飾るパトリシア。
オリバーが田舎くさいと言うのでしまっていたけれど、自分の好きな故郷の絵だからと。
この行動はアーサーに対する心の変化と、オリバーに対する自己主張を表しているのかな。


ところでVol. 6 の感想の中で、メリッサの霊の場面には必ず光のようなスクリーントーンが貼られていると書いたのですが、誕生祝いと居間の場面にも同じものが使われています。
でもこれはメリッサとは関係なさそうですね。


話を戻して、久しぶりに同じ部屋で休む夫婦。
1ページちょっとのパトリシアのモノローグが揺れる心を伝えています。
が、私は読解力不足で特に前半をちゃんと理解できているのか自信がないんですよ。
とりあえず、こんな風に解釈しましたというのを書いてみます。


「オリバーは変わると言った
私も……変わるのだろう
まだ夫に心も肌も許せないけれど
私も…夢の中に逃げてしまってたんだわ
初恋の少年がそのまま大人になるはずはないわ……
女もいれば生まれなかった子供もいる」

 ↓

「オリバーは変わると言ったし実際に努力している
そんな夫を自分もだんだん受け入れていくだろう
これまで夫婦の間に愛はなく、夫は逃げて愛人をつくった
自分もまた逃げていたのだ
初恋の少年がそのまま大人になっているという夢の中に
でもそんなはずはない
彼は私が知らない現実を生きてきた」


「かわいそうなアーサー
私の出した手紙を
あの時アーサーが読んでいたら
アーサーが読んでいたら……
あの時……
あの時に…
もう遅い
あの時は…
…過ぎてしまった…」

 ↓

「ずっと孤独で可哀想なアーサー
もし『あなたを愛している 結婚したい』という私の手紙を
あの時に読んでくれていたら
私達は結ばれたかもしれないのに
今もやっぱりあなたが好きだけれど時は戻らない」


こういう気持ちかな~と思うのですが果たして合っているのでしょうか。


さて、オリバーの努力は本気だったようで、神経痛を押してパトリシアの実家に一家で里帰り。
パトリシアはアーサーと顔を合わせることになるのか。
また一波乱あるのか。


私はこのまま夫のそばにいる気がするのですが、アーサーが一族に加わろうと決意するにはパトリシアとの関係も影響していくんじゃないでしょうか。


・* 4 新キャラ *・


上に書いた人々の他にも新キャラが登場しましたね。


私が気になるのは、何と言っても看護助手のケイトリン!
エドガーも名前を聞いて反応していますけど、ケイトリンて「春の夢」にチラッと出てきた、あのケイトリン!?
ポーの村にエサとして連れて来られ、メリーベルに助けを求めてエドガーに逃がしてもらった、あのケイトリンですか~~!?


えっと、ポーツネル一家はポーの村に20年もいなかった(by クロエ)。
村を出て割とすぐに男爵夫妻とメリーベルが消滅したのが1879年。
そして今は10年後の1889年。


ということは、このケイトリンがあのケイトリンと同一人物だという可能性は大いにあるわけですね!
まさか、こんなところに繋がるとは…。


で、仮に同一人物だとしたらケイトリンはエドガーを見てどう反応するのでしょうか。
バンパネラに再び遭遇した恐怖でエドガーに危機をもたらす?
命を助けてもらった恩返しをする?


見た目も普通の人とちょっと違う感じがするし、とにかく気になります!


もう一組、気になるというより笑っちゃう新キャラはパトリックの4人の子ども達。
見事に3人、パトリックと同じ顔。
祖父母とも同じ顔。
何と強烈な遺伝子だ。


ブルックリンだけ可愛いのはパトリシアに似たんでしょうか。
「妖精のとりかえっ子?」と聞くエドガーも好きです。


・* 5 アラン *・


春になり、いよいよアランの目覚めも近いようです。


2月にエドガーとアーサーが見に行った時、一瞬ぱちっと目を開けました。
その時アーサーが「死体ではないのか……やっぱり彼らはエルフなのか」と考えるコマでバックに描かれているアラン、バンパネラっぽくて「わ~素敵!」と思っちゃいました。
バンパネラモードのアランの絵って意外と少ないんですよね。
自分で狩りをしないから。


そしてラストシーン。
犬のフォルテを追いかけて、ポールとポーラがアランの眠る小屋へやって来ます。
戸板をクンクンするフォルテ。
ああ、やっぱりアランをここに寝かせた時にフォルテがついて来たのは、この伏線だったんですね!


戸板をこじ開けるポール。
パッと目を開けるアラン。
こっ 怖っ。
同じバンパネラモードでもこれは怖い!
「春の夢」で棺の中で目を開けてゆら~っと上体を起こし、ノアやアダムを恐怖に陥れたダン・オットマーみたいに怖い。


前にも書いたのですが、アランが眠っている間のエナジーがどうなっているのか私は気になっていまして。
エドガーがせっせとバラを運んでいましたが冬の間はバラもないし、このところ人間も襲っていないようだし。


変化した直後は飢餓状態で本能的に山賊を襲ったアランですが、眠りの時季から覚める時も同じ状態になるのでしょうか。
もしや珍しい狩りの場面が見られるのか?


でも花の中のランプトンの絵はまだ仕上がっていないようなので、エドガーはもうしばらく館に留まるはず。
それならアランはまた眠りにつくのかな。


・*・・*・


ということで、とても内容の濃いVol. 7 でした。
だんだん終わりが近づいてくるのを感じますね。
続きを読みたいけれどまだまだ終わってほしくない複雑な気分ですが、もうあと2週間ほどで次号が発売されます。
一体どうなるのでしょうか~!?


・*・・*・


秘密の花園」これまでの感想はカテゴリー一覧からご覧いただけます。よろしければどうぞ。

ポーの一族 カテゴリーの記事一覧 - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記

 

 

記事(61)に追記しました

徳間書店の『テレビランド増刊』に掲載されていた「トーマの心臓」のカットの出典について貴重な情報と画像をご提供頂きましたので追記しました。

(61)「トーマの心臓」イラスト集② - 亜樹の 萩尾望都作品 感想日記