「秘密の花園」が1回お休みなので、久しぶりに萩尾先生のデビュー直後の1969年から73年までの作品をご紹介したいと思います。
今回スポットを当てるのは小学生向けの楽しい2作品「クールキャット」と「ケネスおじさんとふたご」です。
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「クールキャット」
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「クールキャット」は「ルルとミミ」「すてきな魔法」に続く3作目で、前2作と同じく『なかよし』70年2月号に掲載された31ページの作品です。
『萩尾望都作品集』に収録されている作品の末尾には「1969年11月」と記されています。
扉絵がこちら。
(『萩尾望都作品集1 ビアンカ』1995年 小学館より。下も同)
凝っていて可愛いですよね。
女の子は主人公のデニス。
題字も先生の手書きなのでしょう。
その左右には英語が書かれています。
「MY HEART
MY LOVE
MY FUNNY
MY BABY
MY PRECIOUS
COOL CAT」
「COOL CAT
COOL CAT
OH OH YEA!」
先生のネコ好きは有名ですが、この頃からネコ愛が溢れているような。
左下の窓辺に本が3冊並んでいて、タイトルが一部隠れているのですが、先生のお好きなモンゴメリのエミリー・ブックス『可愛いエミリー』『エミリーはのぼる』『エミリーの求めるもの』だと思います。
また、1ページ目でデニスが広げている本 ↓ は『星の王子さま』のようです。
さて、お話は…
ある雨の日、デニスが家に帰って来るとネコが一緒に家の中に入ってきました。
ネコ嫌いのお母さんが追い出そうとしてもネコはすばしっこくて捕まりません。
家族総出で追いかけてもダメ。
それもそのはず、実はそっくりのネコが2匹いたのでした。
その日から迷惑な家族をよそにネコ達はクールな顔をして家に居座ってしまいます。
そっくりで見分けがつかないのでデニスはどちらにもクールキャットと名前を付けました。
ある晩、お父さんの友人の音楽家・グレープル氏とお客さんを招いて音楽会が開かれます。
ところが部屋に閉じ込めたはずのクールキャットが抜け出してピアノの伴奏に合わせて鳴き始めたので音楽会は台なし。
けれどグレープル氏はクールキャットを訓練して歌手にすると張り切るのでした…
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分かりやすいストーリーで絵も小さい子向けに可愛く、ドタバタ場面の多い楽しい作品です。
主役とも言えるネコ達はこちら。
ピアノも弾くし窓の鍵も冷蔵庫も瓶の蓋も開けてしまうスーパーネコです。
この作品には音楽家のグレープル氏が登場しますが、73年発表の「キャベツ畑の遺産相続人」にも音楽家でなぜか地質研究をしているグレープル氏という人が出てきます。
「クールキャット」
「キャベツ畑の遺産相続人」
(『萩尾望都作品集10 キャベツ畑の遺産相続人』1995年 小学館より)
絵はかなり変わっていますが似ていますよね。
先生お気に入りのキャラクターだったのでしょうか。
もしかすると身近な人がモデルなのかも?
この「クールキャット」以上にネコが沢山出てくる作品に74年発表の「プシキャット プシキャット」があります。
1969-73年作品のカテゴリーからは外れてしまうのですが、個人的にとても好きな作品なので一緒にご紹介させてください。
「プシキャット プシキャット」は『週刊少女コミック夏の増刊フラワーコミック』に掲載された4ページの短編です。
色々な種類のネコがゾロゾロ出てきます。
ショートショートなので内容は明かせないのですが、ちょっとブラックなオチが効いていて絵がとても可愛くて大好きな作品です。
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「ケネスおじさんとふたご」
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「ケネスおじさんとふたご」は講談社で採用されず『別冊少女コミック』71年9月号に掲載されました。
『萩尾望都作品集』の作品末尾に「1969年8月」とあるので描かれたのは「クールキャット」より早いようです。
32ページの作品で珍しい西部劇。
扉絵はこちら。
(『萩尾望都作品集4 セーラ・ヒルの聖夜』1995年 小学館より。下も同)
この扉絵には西部劇にまつわる英単語が書かれています。
「OH!FRONTIER
THE GREAT PLAINS
COW BOY
BUFFALO
COLT
STAGE COACH
TOMAHAEK
TEN-GALLON HAT
BOOT HILL…」
さて、お話は…
両親を亡くした6歳の双子ミシェル(男の子)とボニー(女の子)は、ネーブルおばさんに連れられてブラボータウンの保安官・ケネスの元へやって来ます。
ケネスは双子の母の弟で、一番近い身内だからと押し付けられたのでした。
いたずらでわんぱくな2人に振り回されながらも可愛がるケネス。
一方で、丘の所有権をめぐるビッグ・ベンとリトル・ベンの長年の争いに頭を悩ませていました。
そんな中、双子からの手紙を読んでケネスには任せていられないと、ネーブルが2人を引き取りにやって来て…
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こちらも小さい子が主人公のテンポのよい作品です。
「クールキャット」に比べると話がやや複雑でロマンス要素もあるので、こちらの方が少し年長の読者を想定しているのかなという気がします。
私が特に好きなのは、ミシェルが酒場で葡萄酒をひと瓶飲んで酔っ払うところ。
そして学校で子ども達にからかわれ、ボニーが「なによ あんたたちミシェルみたいに さあ! ぶどう酒ひとびん飲んで ひっくりかえってみなさいよ!」とタンカを切って黙らせてしまうところです。
ネーブル、ビッグ・ベン、リトル・ベンといった脇役達も個性的で面白い。
また、初期作品には魅力的なおばあさんがよく出てくるのですが、この作品のチャービーばあさんもその1人。
ケネスが「止まった時計が動き出した時が、自分が死ぬ時」と信じていることについてミシェルとボニーに言う言葉が心に残ります。
「だれでも
なにかひとつ
神話を信じてるだろうさ
だれでも…ねえ」
「クールキャット」もですが、この作品にもあちこちにローマ字の書込みがあり、読むのが楽しいです。
ちょっと面白いのがこちら。
インクの染みのところに矢印があり「NEZUNAIKA NO HOUKIBOSI」(ネズナイカの箒星)と書かれています。
私は読んだことがないのですが『ネズナイカのぼうけん』という本の中に出てくる言葉のようです。
そして次のようなハッと胸を突かれる書込みもありました(オリジナルはローマ字)。
「作品が商品としての価値を望まれている時 創作意欲というのは どこへ行くのでしょう たわごとに過ぎません」
当時『なかよし』の読者には向かないという理由でボツになった原稿は他にいくつもあったそうで、先生の心境を想像して辛くなります。
後にそれらは全て小学館で発表されました。
本当に良かったです!
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記事内の作品はこちらで読めます
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●「クールキャット」「ケネスおじさんとふたご」
●「プシキャット プシキャット」
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