亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(86)「キャベツ畑の遺産相続人」~初期コメディの決定版

萩尾先生の初期作品をご紹介するシリーズ、今回は「キャベツ畑の遺産相続人」。
私の中では「3月ウサギが集団で」と並ぶ初期コメディの決定版です!

 

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(『萩尾望都作品集10 キャベツ畑の遺産相続人』1995年 小学館より。以下同)


「キャベツ畑の遺産相続人」は『週刊少女コミック』1973年15号に「創刊3周年記念特別企画40ページジャンボよみきり」と銘打って掲載されました。
当時先生のお住まいの周辺にはキャベツ畑が広がっていて、アシスタントをなさっていた佐藤史生先生のアイデアから生まれた作品だそうです。


そういえば「3月ウサギが集団で」も「カリフラワー畑と住宅地のどまん中に美月中学はある」というフレーズから始まっていましたっけ。
「3月ウサギが集団で」は記事(47)でご紹介しましたが、あちらが日本の学園コメディだったのに対して、こちらは架空の町を舞台にしたファンタジックコメディです。


さて、お話は… ♪


ここはグリン・グリン町の、はずれ番地。
キャベツ畑とカリフラワー畑の真ん中にポツンと建つ一軒家に、男の子がネコを連れてやってきます。


男の子はター・ブー。
育ての親のグレープルが行方不明になり、この家に住む3人のおばさんのところに遺産として送られて来たのでした。


ところが、おばさん達は実は魔女。
名前はジョージィにポージィにプリン。
3人が魔女だということは、すぐにター・ブーに知られてしまいます。


ター・ブーはポージィの変な魔法のせいで学校では罰をくらうし、家では実験台にされたりキャベツの大群の襲来を受けたりと、さんざんな目に。
おまけにクラスメイトのミミィの父である校長先生がウサギに変身する現場まで目撃します。


その校長先生がプリンに一目惚れしたことが、町じゅうを危機に陥れる騒動に発展!
あわやという時、ター・ブーは秘密の力の封印を解いて…。


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私はこの「キャベツ畑の遺産相続人」と「3月ウサギが集団で」が大好きで何度も読んだものでした。
どちらもとても楽しいですが、こちらの方がファンタジーだけにハチャメチャ度が高いかな。


でも作品の魅力は共通している気がします。
それは突き抜けたキャラクターと弾むようなテンポ。


まずは個性豊かな登場人物をご覧ください。


ター・ブー ジョージィ ポージィ プリン

 

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手前がター・ブー。
バッグからのぞいているのはネコの尻尾です。


3人のおばさんは真ん中がジョージィ、左がポージィ、右がプリン。
姓がパイ・シュトラッタなので3人合わせるとジョージィ・ポージィ・プリンにパイ。
「一週間」でアランが歌っていたマザー・グースです。
また、ポージィは佐藤史生先生がモデルだそうです。


ミミィ 校長先生

 

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ミミィはター・ブーが気になるけれど気持ちを素直に言えません。
校長先生は驚くと筋肉が縮んでウサギになります。
亡くなった妻だけをずっと想い続けてきましたが、異変が…。


グレープル

 

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ター・ブーの育ての親。
楽家なのに、なぜか地質研究に出かけて行方不明に。
ちなみに「クールキャット」にも、顔が似ている音楽家のグレープル氏が登場します。


ごさくどん はっつあん

 

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左がごさくどん、右がはっつあん。
広い畑の主で、キャベツとカリフラワーの出来さえよければ文句はない人達。

 

これらのキャラクターが自由自在に動き回って畳みかけるようにドタバタが続き、最後には亜空間が発生!
死んだと思われていたグレープルや宇宙人まで現れてハッピーエンド。
途中ちゃんと息をつける場面もあってメリハリがきいています。


萩尾先生の漫画って1コマもムダがないなあといつも思うんですけど、この作品も話があっちこっちの方向へ行くものの最後にうま~くまとまっちゃう。
今の「ポーの一族」新シリーズを読んでいると膨らんだエピソードが最後に見事に収束する様に驚きますが、デビュー間もない頃の作品からすでにそうだったなんて恐れ入りました。


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でも、ちょっと不思議に思うこともあるんです。


おばさん達の中でポージィは魔法書を見ながら実験しては失敗を繰り返していますが、ジョージィとプリンは魔法らしいことを何もしていないような?
空は飛んだけど、あれは事故みたいなものだし…。


あっ分かった。
教室で傘が開いたのがプリンの魔法なんですね!←自己完結


ター・ブーは超能力の持ち主です。
ター・ブーのお父さんは亡くなる間際にター・ブーの力を封じ込めました。
ということは、お父さんも超能力者?


おばさん達はター・ブーのお父さんの血縁なのかな?
このあたりの関係が特に説明されてないんですよ。
グレープルは普通の人間みたいだからお父さんの友人だったのかなと思うんですけど、どうでしょうか。


ところで前の記事(85)で『萩尾望都 SFアートワークス』(2016年 河出書房新社)に載っている「あそび玉」についての先生のコメントを引用させて頂きました。
「あそび玉」はジョン・ウィンダムの『ソンブレロ』を読み、超能力者が差別され迫害されるというテーマの話を描きたいと思って描いた作品とのことでした。


『一度きりの大泉の話』(2021年 河出書房新社)には、その話がもう少し詳しく書かれています。
それによると超能力を持った新人類は排斥されるという設定で色々な話を考え、「キャベツ畑の遺産相続人」や「精霊狩り」シリーズもそのバージョンだそうです。


最後にこの作品の個人的なツボを。



ター・ブーが可愛い。
「とってもしあわせモトちゃん」のジョニーウォーカーくんもそうですけど、この頃の小さい男の子の絵が可愛くて大好きなんです。



ポージィが畑からキャベツを1個呼び寄せるたびに畑じゅうのキャベツが押し寄せて来るところ。
そして、おとなしく帰るところ。



ごさくどんと、はっつあん。
全てがツボ。


もし共感してくださるお仲間がいらっしゃいましたら嬉しいです。


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「キャベツ畑の遺産相続人」

 

 

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