亜樹の萩尾望都作品感想ブログ

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(95)「青のパンドラ Vol. 4 影の道」

激しくネタバレしております。ネタバレNGの方は申し訳ありませんが作品をお読みになってから、ぜひまたいらしてくださいね ♪

 

ポーの一族 青のパンドラ」の連載が2回のお休みをはさんで『flowers』2023年1月号から再開されました。
欄外の「花だより」によれば萩尾先生は体調不良でいらしたそうで、「休載してすみません。またがんばります。」とコメントがありました。
先生、くれぐれもお身体をお大事になさってください~!


それでは早速Vol. 4 の扉絵をどうぞ。

 

小学館『flowers』2023年1月号より。2つ下も同)


大老ポーの仕事場のあるイングランドのヨークへと影の道を走る馬車。
前のページから続く物語の一場面になっています。


ふと思ったんですけど、この絵、何となく「ポーの一族」第1話の扉絵に似ていませんか?

 

(『萩尾望都パーフェクトセレクション6 ポーの一族Ⅰ』2007年 小学館より)


右ページに馬車、左ページに2人のアップ、周囲に木立。
偶然でしょうけどワクワクします。


それはそうと、上の「青のパンドラ」の扉絵で舞っている紙片のようなものは何でしょうか?
数ページ先で大老が指でピンて弾いてるんですけど。
これが「影の姿」?
1か所だけ手が描かれているところがありますね。


◆◆◆◆◆◆


さて、Vol. 4 はヨークに着くまでの間に大老が語った自身の話がメインでした。
長くなりますが、まとめてみます。


時は紀元前2000年頃、青銅器時代
ミノア文明が栄えるエーゲ海に浮かぶ、住民200人ほどの「ポーの島」。
後に大老ポーとなる少年イオンは、そこで両親と祖母と暮らしていた。


島の岩山にはアルゴスという男がいて「不死人(ふしじん)」と言われていた。
アルゴスは毒蜂の作る赤蜜で村人の病気や傷を治し、礼として干魚や干肉を受け取っていた。


村人が岩山の上まで無理に登ろうとすると突然息絶える。
しかしイオンが赤蜜をもらいに行くと上まで登ることができた。


16歳の時、イオンは胸の骨を折り死にかける。
するとアルゴスが現れて火のように熱い手をイオンの胸に当て、「動けるようになったら蜂の岩山に来い」と告げて去った。


イオンが奇跡的に回復して岩山へ行くと、アルゴスはイオンを祠(ほこら)へ連れて行き、青みがかった壺を見せて言った。
「これは“血の神”だ」
「何千年も昔に海の淵から引き上げられた神だ」
「私はその守り人」
「おまえは私の弟子として“血の神”の世話をするのだ」


実は岩山に入れるのは、血の神に選ばれた人間だけだったのだ。
選ばれなかった者は死んで血の神の贄となる。
死体は祠に運ばれ、翌日には消えて壺の周りに血だまりができていた。


ある大潮の満月の晩、イオンは血の神にしきりに呼ばれる気がして祠に行った。
すると壺から青い霧が吹き出してきてイオンの体内に入った。


イオンは血の神に操られ、島々を巡った。
目は遠くまで見渡せ、耳はあらゆる音を聞き取り、疲れず空腹も感じない。
海に落ちても苦しくない。
怪我をしても傷はみるみる塞がる。


傷の血をなめると突然渇きに襲われ、体が血の味を求めた。
それこそ壺が「血の神」と呼ばれるゆえんだったのだ。


イオンは毎晩人を喰い、次の満月の夜にポーの島に帰った。
祠に着くと口から青い霧が出ていき、再び壺の中に入っていった。


イオンは人間に戻ったが甘美な血の味を忘れられず、岩山へ行っては「神」になって人を喰い、人間に戻ることを繰り返した。
青い霧が体内に入っている間は時間が止まり年をとらなかった。
そして100年ほどして、遂に不死人として完成した。


長い時が過ぎ、イオンは山羊の神の夢占いをする姉妹と出会う。
姉のハンナは14歳位の少女。
ポーの島が沈む夢を何度も見るために村人から「悪魔」「殺せ」と追われ、逃げ込んで来た岩山でイオンと共に暮らし始める。


いつしかハンナも年をとり、イオンが不死人だと気付く。
イオンはハンナに自分の体験を話した。


ある日、ハンナは島が沈むから逃げるよう村人に言いに行くが袋叩きにされ、自分を不死人にしてくれるようイオンに頼む。
自分は嘘つきではない。
島の最後を見届けたいのだと。


それまでイオンはアルゴスから教わった方法で仲間をつくろうと試みても、うまくいかなかった。
自分以外に怪物を増やすことはないと思っていたが、ハンナの願いを聞き入れ、初めて人間を不死人として完成させることができた。


数年後、近くの海底火山の爆発に巻き込まれてポーの島は海中に沈んだ。
後の研究によると紀元前1628年頃の出来事だったらしい。


◆◆◆◆◆◆


いやあ、遂に一族の歴史の始まりが明らかになりましたね!
今回、新たに3つの年が出てきましたよ。


大老が変化したのは紀元前2000年頃

②血の神はそれより更に何千年も昔に海の淵から引き上げられた

③ハンナが変化したのは紀元前1628年頃の数年前


アルゴスって、いつから生きてるんですかね?
もし血の神が引き上げられた頃からだとすると、かれこれ軽く6000年は生きてる?
ひえ~。


それにしてもポーの始祖である大老が変化したのは神の成せる業じゃないかと思ってはいましたが、こんな神様だったとは。
前回、サルバトーレが壺を見て怯えていたのも納得です。


大老が特別な力を持っているのも、血の神が直に体内に入ったからなんでしょうね。
でもエドガーが触れた時にぬくもりを感じたのは、どうしてだろう?
大老の直系だから血の神に気に入られたとか?


アルゴス大老が完全な不死人になる前から仲間のつくり方を教えていて、それは青い霧を吹きこむという方法でした。


ハンナもその方法で仲間になったのだと思いますが、首筋からエナジーを送り込むのとは少し違うようですね。
より直接的というか。
一族は永い年月をかけて、指先からエナジーを送り込んだり逆に奪ったりできるように進化したのかもしれません。


そして大老とハンナはそもそも恋愛関係ではなかったことも分かりましたね(ハンナが変化してからのことは分かりませんが)。
大老は自身が不死人として完成したからハンナを仲間にすることができたのかな。


◆◆◆◆◆◆


大老の話が一区切りした頃、馬車はヨークに到着。
そのまま地下の仕事場に下りて、早速始まる儀式。


エドガーの両手…というのはつまり、まだグールのままで元に戻っていなかった部分ですね。
そこは最後までアランを抱いていたために炎が残っていて、その炎を剣に吸い込ませる。
次にアランの炎も剣に移すと炎の剣が完成…するのでしょうか?
まだ他にもすべきことがあるのか?


なぜ炎が発生するのかは、よく分かりません。
グールになると体内に炎を宿すのか?
それともアランが火災で炎に包まれたから?
今後分かるかもしれないので先を待ちたいと思います。


◆◆◆◆◆◆


では最後に毎度おなじみ、今回の気になる面々を。


まずはこの人、クロエ。
すっかり有閑マダムみたいになっていて、びっくりでした。


ユニコーン」では1975年にシスターの振りをして病院で老人からエナジーを頂戴していましたよね。
76年の火災現場でもシスターの格好だったのに。
40年の間に何があったんだ?


金持ちのアメリカ紳士のパトロン(?)を得て優雅に暮らしているようなので、そりゃポーの村もフォンティーンもどうでもよくなりますわね。


ただ、「バリーが封印を解かれたらポーの村は壊滅し、世界の終わりが来る」という言葉は予言めいていて、この先の物語の波乱を感じさせます。


そのクロエの世話をしているらしいケイトリン。
どういう立場なのか分かりませんが現代的でカッコいい。


クロエに大老のメッセージを伝えに来たシルバー。
いつの時代もファッションセンスをイジられる人。


そして思わず笑ってしまったポーの島の住民。

 

 

髭がちょっと違うけど「秘密の花園」のパトリックとそっくりでゲスト出演かと思いました。


ゲスト出演といえば、影の馬車がヨークに着いた時に居合わせた不倫カップルのカミラとライナー。
ゲストにしては情報量が多過ぎる気がするんですけど、また登場したりするんですかね?


私は「ポーの一族」の新シリーズが始まるまで結構長く萩尾作品とご無沙汰していたので最近の傾向を知らなかったのですが、読んでいるうちに1つ分かってきたことがありまして。
それは


ギャグタッチのサブキャラは単なるモブで、シリアスタッチだとストーリーに絡みがち。


それでいくとカミラとライナーはシリアスタッチなので、また出てくるんじゃないかなあと。
ここから先は完全に妄想なので読み流して頂きたいのですが――。


以前から私は、この新シリーズはアランの復活と並行してポー以外の一族を巻き込んだヴァンピール界全体のバトルが描かれると思っていまして、そこに人間も絡んでくるんじゃないかと予想しているんです。


で、「春の夢」でクロエがポーの村の入口近くでレイラインの研究者を殺したことが、いまだにしつこく気になっている訳です。


ポーの村はヨークシャーにあるんですよね。
ライナー(カミラも?)の職場はヨークの大学…
ということは、もしや彼(彼ら?)も研究者で、殺された人物と繋がりがあるのでは?


なんて考えたりしているのですが、はい、あくまで個人の妄想です。
外れるに決まってますから本気にしないでくださいね。


◆◆◆◆◆◆


さあ、次回は一体どうなるんでしょうね。
バリーはおとなしくトランクを渡すのか。


実は私、今号の扉絵 ↑ のアオリにも不穏なものを感じるんですよ。


大老ポーの駆る馬車は“影の道”をひた疾る。
アランを切望するエドガーを乗せ、
生贄を求める『血の神』を乗せて。」


最後の「生贄を求める『血の神』を乗せて」のところ。
生贄って誰…!?
分からないけど、アランがうまく復活しても「めでたしめでたし」とはいかない気がします。


扉絵に書かれている速報によると、「青のパンドラ」は2月9日(木)頃に単行本の1巻が発売されます。
1巻ということは続巻も出るんですよね!
連載は次号かその次の号で一旦休止なのかなと思います。


そして2月9日は「トーマの心臓」プレミアムエディションも同時発売!
「訪問者」「湖畔にて」それに予告カットなども収録されるそうです。
あの繊細な絵を雑誌サイズで見られるんですね!


ポーの一族」も「トーマの心臓」も楽しみです ♪


◆◆◆◆◆◆


「青のパンドラ」Vol. 1~3 の感想です。よろしければどうぞ。

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